第169話 抹消

 二人分の足音と共に、会議室に入ってきたのはギルマスとサブマス。


 「どれ位持っているんだ?」


 「それぞれが持っているので正確には判らないが、ベア類が25~30頭とタイガー類は15~20頭じゃないかな。それとは別に、奥地の珍しい奴も10数頭いるはずだよ」


 「取り合えず幾つか見せてくれ」


 ギルマス達と共に解体場へ向かい、スネークの解体で手狭な一角に獲物を並べる。


 ゴールデンベア 3頭。

 ホーンボア 2頭。

 キングタイガー 1頭。

 メインタイガー 1頭。

 ビッグウルフ 2頭。

 ビッグホーン 2頭。

 ゴールデンタイガー 4頭。

 レッドベア 5頭


 「ちょっと待ってくれ。こんな大きな奴ばかりなのか?」


 「デェルゴ村から西へ4、5日奥へ行った所で狩ったものだよ。ドラゴンの居る周辺なので、奥の奴がドラゴンと共に出てきたのだと思うな」


 「メインタイガーなんて久々に見るな。お前と行動を共にするだけあって、中々に良い腕をしているな。お前達ギルドカードを見せてくれ」


 ん、嫌な予感がするぞ。


 五人のカードを見て頷いているが、全員シルバーカードでCランクになっている。


 「魔法使い達のランクは?」


 「全員Bランクに昇格しているけど、何か?」


 「此処でドラゴンを出してくれたらAランクにしてやれるのに・・・無理か。シンヤ、お前のも出せ!」


 「ギルマス、昇級はお断りって言ったよな」


 ギルドカードを取り出して指を置くと、冒険者登録時に聞いた言葉を思い出し「我が名はシンヤ、冒険者登録を抹消する」と呟き魔力を流す。


 〈アーッ・・・おまっ・・・何て事をするんだ!〉


 「ん、冒険者廃業だな。ギルドに所属しなくても十分稼げるし、面倒なランクに縛られない方が楽だから」


 登録情報の消えたカードをギルマスの手に乗せてやる。


 「あ~あ、やっちまったな」

 「シンヤらしいっちゃらしいけど」

 「自分で登録情報消した奴を初めて見たな」

 「俺なんか完全に忘れていた」


 「なんてこったい。Sランクになれたのに。プラチナランカーなら貴族並みの待遇を受けられるのに」


 冒険者登録した時に、テイマーで能力1魔力10ってのが記載されたからな。

 新たなギルドカードに変わった時、授かった魔法名や魔力が表示される恐れがある。

 そうなると大騒ぎになるのは確実で、授けの儀以外で魔法が使える様になったと判れば教会が黙っていないだろう。

 面倒事に巻き込まれるよりも、冒険者を廃業した方が良いに決まっている。


 「何て事をしてくれるんだ・・・」


 サブマスの嘆きを無視して、代金の受け取りは五人に均等にと告げて後は彼等に任せる。

 王妃様の身分証は王都以外では使い辛いので、ミレーネ様かブライトン宰相にお願いして、気楽に使える身分証を用意してもらおうかな。


 * * * * * * *


 別枠で王家に渡した、ドラゴンとスネークの代金を振り込んだと知らせが来た。

 テラノドラゴン金貨5,500枚、アーマードラゴン金貨5,500枚、グリーンスネーク金貨8,500枚、クリムゾンスネーク金貨8,500枚。

 合計金貨28,000枚、2,800,000,000ダーラ。


 オークション価格は、テラノドラゴン金貨5,421枚、アーマードラゴン金貨5,147枚で、クリムゾンスネークは金貨8,372枚なので全て高値で買ってくれている。


 夕食時王家買い取り価格金貨2,800,000,000ダーラ、立て替え分1,450,000,000を引くと1,350,000,000ダーラ。

 30名で割るので、一人45,000,000ダーラだと告げる。


 「つまり一人当たり95,000,000ダーラの稼ぎになったのか」


 「気が早いよ。まだ残っている方が多いんだから」


 「王家の取り分はどうなっているんだ?」


 「ドラゴン二頭とスネーク二匹は別枠になると思う。残っている、此からオークションに掛かる1/3が王家の取り分だけど・・・」


 「何よ、意味深ね」


 「言っただろう。此からもドラゴンのオークションが続けば値が下がるって」


 「それって・・・」

 「今までオークションで競り落とした奴等は、高値で買ったって事だよ」


 「王家もだな。タンザのオークション価格に、色を付けて買ってくれたからね。ドラゴンのオークション価格は、もっともっと下がると思うよ。ヒュルザスとクリュンザでもドラゴンが討伐された様だし」


 「でもシンヤほどの空間収納持ちがいないと、持ち帰るのが大変よ」

 「解体して持ち帰るのか」

 「大幅に値下がりしそうだな」

 「あの頑丈な奴を解体するのは大変だろうな」


 「明日各自の口座に45,000,000ダーラの振り込みに行くよ。これ以後は全て終わってからになるので、1、2年以上先になると思う。終わったら均等に各自の口座に振り込む事になる」


 「此で冒険者を廃業しても安泰だな」


 「ホーキン、95,000,000ダーラじゃ、家を買ったら大して残らないぞ」

 「隠居するには早すぎて、途中で手持ちが無くなりそうだな」

 「無理をしないで気楽に稼ぎ、身体が動かなくなったら引退するさ」

 「シンヤさんみたいに、エールの樽をマジックバッグに入れて討伐に向かうぞ」

 「酔どれ冒険者が出来上がりそうだな」


 * * * * * * *


 野獣の処分が終わり王都での買い物を済ませると、皆それぞれ拠点の街に戻って行った。

 俺は腹に抱えたドラゴンが足枷になり、食料備蓄やエールと酒の貯蔵の為に、王都内をうろうろする日々が続いた。


 そして聞こえて来たのが、六人のデェルゴ男爵の話。

 タンザの西、森の奥に現れたドラゴンを、冒険者達と力を合わせて討伐する物語。

 俺の存在は綺麗に消えているし、他のパーティーと護衛についた冒険者達を上手くぼかして伝えている。

 それも酒場か市場の噂話の様にしているし、王家と貴族達が冒険者ギルドと力を合わせて、ドラゴンを討伐した事になっている。


 その中心的役割を果たしたのが、六人のデェルゴ男爵。

 魔法部隊に所属する六人は、ドラゴン討伐の功績により一代限りの男爵位を賜り、家名をデェルゴと陛下より賜ったそうだ。

 王家が噂をばら撒いてくれたので、冒険者達の噂はギルド止まりとなり好奇の目に晒されずに済んだ。

 そのうち両方の噂が混じり合い、益々訳の判らない話になるだろう。


 笑ったのは、栄誉を称えて与えられた家名が被る為に、通常はフルネームか名前に男爵を付けて呼ぶそうな。

 為に、デェルゴの六人なんて別称が出来上がり、デェルゴの六人とはドラゴン討伐者の代名詞になっている様だ


 それもこれも、隣国バジスカル王国で貴族と冒険者ギルドの醜聞が広がり、何とかドラゴンは討伐したが領民の見る目は冷たい。

 バジスカル王国では貴族と冒険者ギルドに対する信頼が揺らぎ、ウィランドール王国はそのとばっちりを受けない様にと必死だ。


 その為には英雄が必要で、多数のドラゴンが討伐されているし表に出して良い討伐者もいる。

 後は適当なお話しをでっち上げて、噂話として流す。

 公式発表ではないので、事実と違っても責任を取る必要はない。

 公式発表はタンザ冒険者ギルドと王国魔法部隊が協力し、多数のドラゴンを討伐したというものだ。

 そして、ドラゴンを討伐した魔法部隊の勇者の名は公表されている。

 事実に嘘が混じっているだけの話だ。


 * * * * * * *


 ミレーネ様の所へ花蜜やゴールドマッシュを納めに行くと、何時もの様にソファーに埋もれてお茶を楽しむバルロット殿下がいた。


 「ん、なんで此処に居るんですか?」


 「あなたのせいですよ。ドラゴンをホイホイ討伐してくるものだから」


 「意味が判りませんね」


 「それがね、ドラゴン現れるの一報が王城に届いた時に、モリスン殿下は、野獣討伐如きは不浄な冒険者に任せておけば良いと陛下に進言したの。他の殿下や大臣にも賛同する物が多いなか、バルロット殿下が隣国の惨状を訴え王国の魔法部隊派遣を強く要求したの。陛下は既に魔法部隊派遣命令を出していたのですが、王太子殿下や他の殿下達の考えの甘さに怒り、モリスン様を王太子から外されたの」


 「魔法部隊は派遣されて結果を出した。それが何で俺のせいに?」


 「貴方と貴方のお仲間の指導を受けて、王家にドラゴン討伐者が誕生し領民の信頼も篤いわ。陛下は隣国の惨状や王家や貴族に対する不満を良く知っていらっしゃる。王城の中でぬくぬくと暮らして、領民や街を守る冒険者達を軽んじる者より・・・」


 ソファーに沈み込むバルロットを見やる。


 「空席を埋めるのは世相を良く知り、危機に際し的確な要請をしたバルロット王子だと、殿下を推す声が上がり始めているのよ」


 「それで此処に逃げ込んでいるのですか」


 「貴方の実力を知る者として、王国の危機に際し、余りにも脳天気な兄上達に腹が立ちましてね」


 「脳天気な奴が国政を司れば、国が傾き領民が不幸になりますよ。頑張って下さいな」


 「それだけじゃないのですよ。余計な事を言い出す者がいればその反動がキツいのです」


 「実力行使ですか」


 「椅子は一つ、座りたい者は一人や二人ではないし繋がる者はもっと多い。こんな事ならもっと早く逃げ出すべきでした」


 「今からでも遅くはないでしょう」


 「父上に釘を刺されてしまい、逃げ出すのは不可能です。以前お願いした事ですが、身を守る為にも必要なんのでご指導願えませんか」


 「そこまで危険なんですか?」


 「表沙汰にはなっていませんが、身近な者で不審死と姿が消えた者がいます。私は第八王子なので、それ程厳重な警備や身辺に人を配してもらえていませんでしたからね」


 「魔法では直接的な防御しか出来ませんよ」


 「氷結魔法使いの方が、見事な障壁と攻撃力をお持ちとか」


 「魔法の手引き書を読んでいますか」


 「勿論です。ですが、伝え聞く氷結魔法には程遠く、魔法部隊の者も頼みにはなりません」


 仕方がないか、障壁と身を守る秘密兵器でも教えてやるか。

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