第17話 ギルマスに面会
お食事の終わった蜂たちが三々五々窓から飛び去ると、漸く息を吹き返したギルマスが額の汗を拭う。
《マスター・・・蜂はいなくなった?》
《んー、仲間のビーちゃん達だけだよ。どうした?》
《お腹すいたし、退屈です》
《御免ねぇ~、今は出せないからもう少し辛抱してね》
バッグの中の巣で、一日じっとしてるのだから退屈にもなるよな。
だからと言って、バッグから出して遊ばせてやる訳にもいかないからなぁ。
これが終わったら、お仲間を増やして薬草採取を頑張ってもらうので、もう暫く辛抱してもらおう。
「おい、本当はお前が操っているんじゃないのか?」
「ギルマス、さっきの数をみました? 数百匹じゃすまない数ですよ。あんな数をテイムして操れると思いますか」
「ふむ~、テイマーと言えば普通牛馬やエルク等を使って荷運びなどをしているし、冒険者でも精々ウルフ程度を使役して獲物を狩るものだからな。蜂を使う奴なんて初めて見たぞ」
しつこいオヤジだな! ここはあくまでもティナの加護で納得してもらわねば。
「使役なんて無理ですよ。テイマー神ティナ様の加護がなければ守ってもらえませんよ。お礼にお肉は進呈していますけどね」
「とっ、とにかくだな、役目を全うし関係者の一人でも拘束出来れば、褒美として金貨10枚をとらすぞ」
思わずフランと目を見交わしてしまったが、一人50万ダーラの報酬とは伯爵なのにしみったれだな。
「伯爵様は金貨10枚って言ってますが、ギルマスからの報酬は?」
「お前達が賊から取り上げた物全てだ」
「あれっ、盗賊を捕らえたら、そいつ等の持ち物は捕らえた者が貰えるんじゃなかったっけ」
「所有者が判らない物はだ、まだ盗賊と証明されていない。死体の一つすら無いのだからな。お前がモーラン商会で賊の物だと言って差し出しただけだ」
屁理屈と言うか詭弁と言うか、ごねるより条件付きで受けるか。
「では、サブマスと共にザンドラのギルマスに会う条件として、渡したマジックポーチの中から上物を二つ先に下さい。中の物と残りのマジックポーチはギルドで処分して、報酬とともに俺達の口座に均等に振り込んでください。もう一つ、サブマスも伯爵様の配下の方も俺達に何も要求や命令しないって事でどうです。此処へ来て、報告しろなんてのも御免です」
「誰が賊を捕らえるんだ?」
「そりゃーサブマス達か伯爵様の護衛かな。あの数のキラービーが襲い掛かれば助かりませんよ。俺達が賊に襲われて助かっているのはその為ですよ。運が良ければ刺さない様にお願い出来ますが・・・」
「あー、判った! 襲われたら殺さない様にお願いしろ! 生きて捕らえることが出来たらギルドからも金貨10枚を出してやる!」
この辺が手の打ち所かな、フランも頷いているし奥様もほっとしている。
俺達を連れて来て交渉決裂じゃ面子が潰れるからな。
「万が一にも刺客がいては困りますので、出発までは私共が二人を預かりましょう」
話は決まったが、あの時襲われてからどんどん話が大きくなっていくので疲れる。
しかし前回の時に思ったけど、キラービーの支配がこれほど強力とはね。
対人戦では多少条件がつくが、不意打ちの遠距離魔法攻撃や夜襲で無ければほぼ無敵だな。
* * * * * * *
ホルムの冒険者ギルドの馬車に乗せられ、護衛の冒険者達20人とともにザンドラに向かった。
迎えに来たバンドラと名乗るサブマスから、二つのマジックポーチを投げ与えられ「乗れ」の一言で馬車の客人となった。
俺達一行は宿に泊まらず野営となるが、俺達二人はフランの造るシェルター泊まりなので気楽だ。
サブマスからもらったマジックポーチは、ランク4-30と3-60の物でクジ引きでフランがランク4-30のマジックバッグを、俺がランク3のマジックポーチを引き当てた。
「しかし、ランク5のマジックバッグが手に入ったと思ったら、今度はランク4ですか」
「修行が終わったら村に戻るんだろう。その時の為に多い方が良いんじゃないの。それに食料以外はランク4に入れておけば、ランク5の事を知られずに済むし」
「でもマジックバッグとマジックポーチが三つですよ」
「ランク1の中へ入れておけば良いじゃないの、ランク5の奴は上着の裏にでも隠せる様にすればいいよ。俺も落ち着いたら服とブーツを新調するつもりだから、その時に細工をしてもらうよ」
「でも、奥様は太っ腹ですよね」
「ああ、ランク5のマジックバッグを貰えたうえに、今回も食料をたっぷり用意してくれて有り難いよ。しかし、伯爵様ともあろう者が金貨10枚って笑いそうになったよ」
「あの話は本当なんですか?」
「ああ、推測だけどな。伯爵様もそう思うから国王に報告したと言ったんだよ。ギルマスの背後に子爵がいたとなったら、貴族の権威どころか王家の威信にも関わるからな。俺達の話だけですんなり事が進んでいるって事は、以前から噂にでもなっていたんじゃないかな」
「明日ギルマスに会うけど、大丈夫でしょうね。ビーちゃん達は部屋の中へ入れませんよ」
「なに、バッグの中に10匹くらい忍ばせていくよ。ナイフを投げて窓を割れば応援も来るから大丈夫さ。問題なのはギルドを出てからだな」
「脅かさないでくださいよ。ビーちゃん達にお肉をあげておこうかな」
* * * * * * *
陽が高くなり、冒険者達が街の外へ稼ぎに向かうのとすれ違いにザンドラの街に入る。
サブマスの乗った馬車に護衛の冒険者が20名従っているのは目立つし、貴族専用通路をリンガン伯爵の騎士達が通り抜けていく。
伯爵の騎士達はラムゼイ・オルコット子爵の館へ向かい、俺達はザンドラ冒険者ギルドの前で止まる。
「行くぞ、腹を括って抜かるなよ」
「殺されない様に祈っててくださいね」
「まぁ、お前の度胸なら大丈夫か」
ゾロゾロとギルドに入り、受付カウンターへ直行する。
「ホルム冒険者ギルドでサブマスをしているバンドラだ。当ギルドのギルマスに重要な話が有って来たので、取り次いでくれ」
受付に身分証を提示して面会を要求する。
〈おい、ホルムのサブマスだってよ〉
〈おー、ゾロゾロ来たかと思ったらサブマスかよ〉
〈何の用だ?〉
〈知るかよ。知りたきゃ聞いてみろ〉
〈お前じゃ相手にされないな〉
〈おい、後ろにいる奴って見たことがあるぞ〉
〈そりゃそうだ。この間登録したばかりの新人で、能力1の外れテイマーだぞ〉
〈そうだった、俺達のパーティーに入れようかと思ったけど、役立たずに用は無いからな〉
〈もう一人、背の高い方は?〉
〈さぁ~、知らねえなぁ~〉
「影が薄いねぇ、フラン」
「シンヤさんは、しっかり覚えられてますよ」
「何をブツブツ言っている。行くぞ!」
二階に上がり、ギルマスの執務室に案内した受付係が下がると、サブマスが口を開く。
「ホルムでサブマスをしていますバンドラです。突然来て申し訳ないが、直接会って伝えたい事がありまして」
「ザンドラのギルマスをしているオーウェンだ。話を聞く前に、後ろの二人は?」
「これから話す事の証人です。ザンドラ周辺に、奴隷狩りと身代金誘拐目的の組織があるようです。ホルムの豪商モーラン商会の子供が拉致されていましたが、その子を助けたのがこの二人です。この二人も奴隷狩りに合ったのだが、賊を返り討ちにして逃げたが、逃げた先にも賊の仲間がいた。まっ、そいつ等も返り討ちにしたのだが、そこに問題の子供が捕らえられていたのです」
「ちょっと待ってくれ、お前達新人だな」
「そうです」
「そんな新人が、奴隷狩りの賊を返り討ちにしたとな・・・賊は何人居た?」
「最初に俺達を襲ってきたのが11人で、逃げた先で出会ったのが8人です」
「ホルムのサブマスと言ったな。そんな寝言を聞かせる為に態々来たのか!」
「お疑いはご尤もですが、この二人、と言うかシンヤにはそれが出来るのです」
「お前、ギルドカードを見せろ」
黙ってギルマスにギルドカードを渡す。
「テイマーで能力1だぁ~、しかも、18になって冒険者登録しただと。こんな糞ガキに、奴隷狩りの連中を返り討ちにする腕が有るとも思えん」
「まぁ、信じられ無いでしょうな。我々だって信じられませんでした。証拠をお見せしますので、ちょっと窓を開けさせてもらいますよ」
サブマスがそう言って窓の所へ行き、窓を全開にする。
《みんな、入っておいで》
《はーい、行くぞ!》
《オー、突撃だー》
《あっ、刺しちゃダメだよ》
《え~、又なの》
《マスターの命には従います》
《んだんだ》
「おい! 何だこれは!」
「動かないで! 追い払ったり攻撃したら刺されますよ。じっとしていれば何もしません・・・多分」
「見ての通り、キラービーです。このシンヤの護衛みたいな物です」
「キラービーが・・・護衛?」
「ギルマス、テイマーの能力は1ですが、テイマー神ティナ様の加護を授かっています。その為だと思いますが、俺が攻撃を受けると蜂たちが相手を刺し殺すんです。常に周辺には数十匹がいるようで、助けられています」
「・・・信じられん」
「それで俺達を襲った奴が死ぬ間際に、ザンドラに仲間が多数いて、必ず仕返しをすると言い残しました。それと子供の乳母も捕らわれていましたが、6人の仲間が彼女達の身代金要求の書状を送る為に、エムデンの街に向かったと話してくれました」
「奴隷狩りと身代金目的の誘拐、背後に奴隷売買の組織があると思われます。違法奴隷を街に連れ込むには相応の組織があるはずです。その組織を探って欲しいとの、ホルムのギルマスからの依頼です。これは王家も動いている様で、御当地の領主殿も対策の為に王都に呼ばれています」
「そんな事になっていたのか」
「19人もの破落戸や冒険者が消えたのです。誰が消えたのか、仲のよかった者達はどうしているのかを調べて貰えませんか」
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