第18話 尾行
後はサブマスが何やら伝えると、顔色の悪くなったギルマスに一礼して部屋を後にして、ギルドの表でサブマス達とお別れする。
「まあ、大丈夫だとは思うが死ぬなよ。俺達はジャイロン通りのヘルベンス・ホテルにいるので、引っ掛かったら知らせてくれ」
「お芝居は終わったので、此処でお別れの筈ですよね」
「勿論だ。しかし襲われて捕らえた奴を、ザンドラのギルドに連れ込む訳には行かないだろう。街の警備兵にも渡さない方が良いぞ」
「俺達はお買い物が済んだら街から逃げ出します。町の外で野営をするので、襲って来る様に祈っていた方が良いですよ」
「加護持ちでも、此処まで度胸の据わっている奴は初めてだよ」
「その点は、蜂を遣わしてくれたテイマー神ティナ様に感謝しています。俺達は買い物が済んだら街を出ますが、二日したら北門から出てください」
「判った、死ぬなよ」
お優しい事で。
* * * * * * *
「お呼びですか」
「さっきの奴等の中にガキが二人居ただろう」
「へい、ド新人と聞いてますが」
「チビの方がテイマーで蜂を使っているらしい」
「蜂・・・ですか?」
「そうだ、数十匹のキラービーだ。身代金をもぎ取る前に邪魔をしたのがさっきのガキ共だ。それに、そのガキ共の拐かしに失敗した奴の中に、気になる事を喋った奴がいるようだ」
「まさか俺達の事が?」
「消えた奴等と、仲のよかった者達を調べてくれと調査を依頼された」
「と言う事は、俺達の事には気づいていないって事ですか」
「判らん。消えた奴等の死体や荷物は見つかったか」
「何カ所か食い荒らされた死体を見つけましたが、荷物や手掛かりになる物は何もありませんでした。他の奴等に襲われたのでは?」
「消えた奴等はさっきのガキ共と関係がある筈なので、そいつ等の持ち物を何処かに隠したのかもしれん。死人の荷物を剥ぎ取るのは冒険者ならやりかねないが・・・それと、ホルムのサブマスが多数の冒険者を連れて来ている」
「万が一、荷物を剥ぎ取って隠されていたら不味いですね」
「ガキ共の後を付けさせている」
「では口封じをしておきます」
「ああ、街の外に出たら、後を追う奴等とは別に弓の上手い者と二組を使え」
* * * * * * *
「気付いてます?」
「何となくね。ギルドを出てサブマス達と別れてからだね」
「殺気は有りませんが、何となく粘り着く様な感じです」
「へえ~、俺は誰かに見られているとは思うけど。ビーちゃんに聞いてみるよ」
目と目が合った後で、目線を外しても未だ見られていると感じた事は何度もあったが、それより強い感覚だな。
《1号ちゃん、俺達の後をついてきている奴っている?》
《マスターの、歩く後をですか?》
《そう、俺達を見ている奴はいる?》
《マスターと同じ様なのが沢山いるから判りません。周りにいる奴等を刺してみますか》
《駄目だよ。俺達が襲われなければ襲っちゃ駄目ね。刺すのは足だけで5回までだよ》
「人が多すぎて、ビーちゃん達には判らない様だよ。取り敢えず服とブーツに武器だな」
「シンヤさんは武器なんて要らないでしょう」
「なに言ってんの、野獣相手じゃビーちゃん達は追い払うのが精々だろう」
「まあ、流石に毛むくじゃらには毒針も届きませんからね」
「で、ビーちゃん達が顔の周りなんかを飛んで邪魔をしている隙に、後ろから槍でぷすりとね。野営用結界はゴブリンの魔石じゃ3日しか持たない様なので、オークの魔石が欲しいんだよ。それと野営用のベッドも」
「あ~、俺もブーツと野営用ベッドは欲しいです」
「奴等から剥ぎ取った金が260,000ダーラ程有るからそれで買おうか」
「あれだけの人間がいて、260,000ダーラとは少ないですねぇ」
「まぁ、開けられなかったマジックポーチも多いし、その分後の楽しみが有るからさ。取り敢えず商業ギルドに行って金を預けてからだな」
「商業ギルドなんて初めてですよ」
「俺もさ、奥様に聞いた様にすれば大丈夫だろう」
「流石にマジックポーチに入れているとはいえ、金貨100枚は不用心ですからね」
マラント通りに建つ重厚な石造りの四階建てが商業ギルトで、お約束通り警備の者が立っている。
「お前達、ここは商業ギルドだが何の用だ?」
「金を預けに来たんですよ」
そう言ってマジックポーチから金貨を掴み出して見せると、一瞬怪訝な顔をしたが金貨は本物と見定めて扉を開けてくれた。
礼を言って中へ入ると、またもや「何か御用でしょうか」と声を掛けられる。
小汚い小僧が二人なので、態度があからさますぎて笑える。
「両替と8,000,000ダーラ程預けたいのですよ」
「それは・・・」
「預け入れ係の所へ案内して貰えないかな」
にっこり笑ってお願いする。
金を寄越せなんて言ってないし、預けるのだから文句はあるまい。
入り口を通過しているのだから無一文では無いのは判っているので、渋々カウンターの一つに案内してくれた。
事務的に微笑むお姉さんの前に金貨の袋を置き、10枚を銀貨に両替を頼みもう10枚は腰のマジックポーチに入れ、残りを預けたいと伝える。
薄汚い小僧が革袋から金貨を掴み出したのでぎょっとしたが、両替と預け入れを伝えるが営業スマイルが凍りついたままだ。
何を考えていたのか判るが、完全に予想外な事に表情の切り替えが出来なかった様である。
冒険者ギルドのカードを示し使えるか確認すると「商業ギルドのカードも作れます」とご親切なお言葉に従い、商業ギルドのカードを作って貰った。
ラノベ情報だけど、これさえあれば問題なく商業ギルドに入れるはず。
両替手数料2%を引かれて、金貨を取り出した袋に98枚の銀貨を入れてもらった。
フランはと見ると、俺に習って金貨10枚の両替と金貨10枚をマジックポーチに入れて、残りは預けますと緊張気味に伝えている。
金を預け終わったので、俺の買い物に付き合ってもらう事にする。
冒険者ギルド隣の御用達の店に行き、野営用簡易ベッドと短弓に矢を20本と練習用の矢20本を買う。
短弓220,000ダーラに矢20本で32,000ダーラ、練習用の矢が20本で24,000ダーラ。
簡易ベッドが46,000ダーラに、ブーツが65,000ダーラ。
冒険者用の衣服上下で87,000ダーラ。
合計474,000ダーラ、金貨4枚に銀貨7枚と銅貨4枚でお支払い。
店のおやじはほくほくで愛想が良いが何か忘れていると考えていると、フランも簡易ベッドやブーツを抱えてやって来る。
「シンヤさん、短槍は買わないのですか」と言われて思いだした。
「お前達景気が良さそうだな」
「ああ、ホルムの街で、お大尽の仕事でたっぷり稼がせてもらったよ。買える時に買わなくっちゃね、短槍も欲しいんだけど見せてもらえるかな」
「奥に武器類を置いてるぞ。それと弓の練習をするのなら弓がけが無いと指を痛めるぞ」
そう言って出してくれたのは三本指の手袋で、矢をつがえた時に弦を支える物だそうで、たっぷり買ってくれたのでサービスだとくれた。
フランが支払いをしている間に店の奥へ行くと、ロングソードからショートソードの棚や、各種ナイフ類に色々な長さの棒が立てかけてある。
短槍は俺が持っている物と大差ない物で悩んで居ると、どうしたとおやじが尋ねてきた。
マジックポーチから取り出した短槍を見せ、もっと槍先の長い切れ味の良い物が欲しいと伝える。
「お前、ランク2を持っているのか?」
「これは3だよ。盗賊の物を証拠品として差し出したらくれたんだ」
「何と、盗賊退治をしていたのか!」
「成り行きでね。後で登録者制限を頼めるかな」
「ランク3なら銀貨6枚になるぞ」
「えっ・・・お高くない」
「ランク1以外は、ランクの2倍が相場だ、どうする」
「後でお願い。それより短槍は?」
「お前の好みに合わせれば、槍先と柄を組み合わすことになるな」
そう言って指差した先に槍の穂先がズラリと並んでいた。
両刃の見慣れた物から十字槍や鎌付き等様々な種類と長さで、片隅には直刀の様な物まで有る。
何か時代劇の小道具置き場に来た様な気分になったが、日本人も強制召喚されて多いのだろうと気付き、身震いが出る。
あの腐れ外道なアマデウスなら、喧嘩をしている様な奴を闘気があるとか言って召喚していそうだ。
50cm程の片刃の物を選び、身長ほどの柄を選んで取り付けてもらったが、短槍1本320,000ダーラときた。
大散財だが、これで当分は何も買う必要は無いし、しみったれ伯爵様とホルムのギルドから10枚ずつの金貨がもらえるので足は出ない。
ランク3のマジックポーチに全て放り込んで店を出ると、そのまま北門へ向かう。
「店の中に三人ほど居たが、俺達狙いかな」
「後から入って来てあれこれ見ていましたけど、俺達をチラチラ見ていたので間違いないでしょう。店の向かいの角にも居ましたよ」
「四人ほど居たけど、目線が俺達から外れないので丸わかりだよな。買い物を済ませて直ぐに街を出るとは思っていないだろうから、魔法使いの待ち伏せはなしだな」
「弓を買ってましたけど、使えるのですか?」
「いんや、ビーちゃん頼みじゃ情けないので、練習してウルフやオーク程度は倒せればと思っている。ビーちゃんが鼻や目を攻撃している隙に、近寄って矢を射ち込むつもりだよ」
「結局ビーちゃん頼りですか」
「フラン、今から剣を振り回して練習しても、物になるのに何年掛かると思う」
胸を張って言うと呆れていたが、そのうちショートソードの練習くらいはするさ。
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