第19話 確保
俺達が北門へ直行するので慌てているが、そんなに慌てたら転ぶぞと言ってやりたい。
中には俺達の横を走り抜けて北門へ向かう奴までいる。
街を出る人々の列に並び順番を待つが、先に並んだ奴等がギルドカードを示して、チラリと振り向いてからそそくさと出て行く。
その頃には列の最後尾に駆けつけて来た男達が並んだのが判った。
「ドタバタと賑やかだねぇ」
「呑気ですねぇ。後ろには7、8人居ますよ」
「前に4人か、弓を持っている奴は?」
「見当たりませんけどマジックポーチを持っていたら判りませんよ」
「こうなると軽鎧も買っておくべきだったかな」
「戦にでも行く気ですか。軽鎧を身につけている人は野獣討伐が専門ですよ」
「それより、先に出た奴等が別れて街道の先と東の草原に一人ずつ行ったな」
「西の森へは二人ですか。見晴らしの良い草原か、姿を隠しやすい森に逃げるか」
「そりやー草原でしょう。門を出たら全力で走り、見通しの悪い場所でフランのシェルターを作るのさ」
「ついてくる奴は?」
「そいつにはビーちゃんを10匹ばかり付けているよ。俺が合図したら周囲を飛び回って邪魔をしてと頼んである」
「刺さずにですか」
「後で俺達の所へ来てもらわないとならないからね。ある程度離れたらビーちゃん達を呼び戻すよ」
* * * * * * *
北門を出ると即座に走り出した。
クーちゃんの収まった背負子が邪魔で走りづらいが、ビーちゃん達が見張りの男の周囲を飛び交い、尾行の妨害をしてくれているので助かる。
「街道からは見づらいが、俺達からは遠くまで見える様な場所だぞ!」
先を走るフランに怒鳴り後ろを振り返ると、草原で待ち伏せの男が必死で追いかけてくるのが見える。
フランの後を追うと、少し開けた所に野営用結界程度のシェルターを作っていた。
俺はそこを通り過ぎ、少し離れた所へフランを呼び寄せる。
「中へ入らないのですか?」
「ここにもう一つ、俺達二人が入れる小さい奴を作ってくれ。最初の奴は囮用だ!」
俺の言った事が判ったのか、ニヤリと笑って「判り易くしておきます」と言い、態とらしい作りにする。
駆け戻ってくると少し地面を掘り、二人並んで座ると周囲の地面を持ち上げる。
「これなら判りづらいでしょう」
「こんな物も作れるんだ」
「土魔法を覚え始めた頃は大したものは作れませんでした。その為に、強度が無くても自分一人潜むだけの場所を作る必要があったのです。上に草が生えていれば、獣に見つかりにくいですからね」
「確かにね。姿が見えなければ、草の陰でも大丈夫だからな」
「来ましたよ。随分お疲れの様ですが、ちゃんと見つけてくれるのかな。あれより、シンヤさんの野営用結界の方が良かったんじゃないですか」
「それね、知っている奴が居るかどうか、それとオークより攻撃力の有る奴には通用しないって欠点があるんだよ。その点、フランのシェルターは魔力を込めれば幾らでも強く出来るだろう」
「この騒ぎが収まったら、シンヤさんの知っている魔法の使い方を教えてくださいよ」
「まあ、聞き覚えで良ければ教えるよ」
呑気に話をしていたら、ビーちゃん達に邪魔されて遅れた奴が、ふらふらになりながら横を通り過ぎて行くではないか。
「あれれれ、通り過ぎましたよ。後の奴等が来なかったらどうします?」
「また引き摺るのは大変だろうと思って、シェルターを作って貰ったのになぁ」
「あれを又やるんですか。何か最初に襲われた時に似ていませんか」
「思い出したくもないよ。あれのお陰で金儲けが出来たけど、下手すりゃ犯罪奴隷落ちだったからな」
「ですよねー。伯爵様と聞いた時には思わず跪いちゃいました」
「本隊が到着した様だけど」
「キョロキョロしてさっきの奴を探してますよ。あっ・・・シェルターに気がついた様です♪」
「よーし良し、後続が揃ったらビーちゃん達に任せよう」
「森の方に行った奴等も合流した様ですね」
《1号ちゃん、もういないかな》
《はなれた所に少しいます。マスター》
《離れた所って、何をしているの?》
《マスターの近くに集まったのを見ています》
見張り役かバックアップか、何方にしても邪魔者からかたづけるか。
《1号から20号までは、離れた奴らを五回まで刺しても良いよ。逃げたら足にも刺してね》
《はーい、行きます!》
《それいけー!》
《21号から50号は固まっている奴等を攻撃開始! 刺すのは五回までだよー》
《マスターの仇、思い知れー》
ちょっ、俺は未だ生きてるぞ!
《きゃはははは、痛いぞー》
《チクチクしちゃうぞー》
《噛みつくのは駄目かな?》
おいおい、遊び始めたよ。
「あ~、あれを見ると、ビーちゃん達って凶暴なんだと思いますねぇ」
「まぁね。お肉を食べる蜂だもの」
肉団子を作って巣に持ち帰り、幼虫に食べさせるとかなんとかだったと覚えている。
ミツバチが蜜や花粉で育つのとは大違いの種だからな。
「キラービーって死肉にも集りますからね。私の村では、毒を集めるのに木の蜜を吸いに来たキラービーを獲ってましたけど、絶対に一撃で殺していましたよ」
「毒を集めて矢に塗るの?」
「そのままではさらさらの毒ですから、ゆっくり煮詰めた物を矢に塗って使っていました」
「クーちゃんの毒を使えば強力な毒矢が出来そうだな」
「普段の薬草採取でも、ポイズンスパイダーは恐れられていますからね」
のんびり話している間に、立っている者がいなくなった。
「誰も動かなくなったから、そろそろ良いかな」
「一人くらい生きてますよね」
「五回しか刺しちゃ駄目って言ってるから、多分死んだ奴はいないと思うよ」
フランのシェルター周辺に倒れていた奴らは、俺達が違う場所から現れたのでビックリしていたが、毒が回っているので動きが鈍い。
「手足を縛ったら、武器とマジックポーチだけ取り上げよう、隠しナイフも忘れるなよ」
「任せてください。なんか人を縛るのにも慣れちゃいましたよ」
7人を縛り上げ、離れている奴らの所へ向かっていると〈ドン〉といった感じに衝撃を受けてひっくり返った。
《マスターが刺された!》
《良くもマスターを刺したな!》
《お前も刺してやる!!!》
《許さない!》
「シンヤさん! シンヤさん! 大丈夫ですか?」
「痛ってぇぇぇ、何だ?」
「弓で射たれたんですよ。じっとしていて下さい、ポーションを出しますから」
衝撃を受けて倒れた痛みはあるが、肩から生えた棒の痛みはまだ無い。
弓って、周囲の奴等はビーちゃん達が制圧している筈なのに何処から?
顔を上げると、数十メートル先に蚊柱の如き蜂の群れが舞っている。
《マスターの仇は取ります!》
《もっと刺せ!》
《大きな針を刺したんだ、いっぱい刺してやる!》
《あ~ビーちゃん達、俺は未だ生きているからね》
《マスター!》
《大丈夫ですか?》
《大きな針を飛ばした奴は動かなくなったよ》
「フラン、矢を見てきてくれ。返しがついてなきゃ良いんだけどな」
「ちょっと・・・あそこへは恐くて行けません」
キラービーが蚊柱の如く舞っているので尻込みしている。
《みんなーそこから離れて。誰も刺しちゃ駄目だよー》
《はーい》
《マスター、遠くに行った奴が戻ってきたよ》
《俺達が刺した奴の所へ行ったよ》
《いかん! そいつも5回程刺しても良いよ》
《ウオー、刺しちゃるぞー》
フランが一本の矢を持って戻って来ると見せてくれたが、返しが無いのでホッとする。
「フラン、中級ポーションを使って矢を抜いてよ」
「ちょっと辛抱してくださいよ」
そう言ったかと思うと肩に膝を乗せて押さえられ、一気に矢を引き抜かれた。
痛いってもんじゃない、射たれた時よりも痛いと呻いていたら何かを振り掛けられ「飲んでください」と小瓶を渡されたがゲロマズ。
青臭い匂いと舌に纏わり付く味には、ゲロマズ以外の表現方法を思いつかない。
「フラン、最初の奴が引き返して来ているので縛っておいて。多分動けないと思うけど気を付けてな」
《1号~10号まではフランの護衛を頼むよ》
《任せて~》
《守ってみせるよ》
《刺しても良いんだよね》
《フランは刺しちゃ駄目だよ》
《はーい》
一応傷は塞がったが痛みが残り、倒れている奴らを引き摺るのは無理なので、剣を突きつけて歩かせてシェルターの中へ詰め込んだ。
一人死んで残り10名、無理矢理詰め込んだが一晩泊まりなので死ぬこともあるまい。
久方ぶりに野営用結界に籠もり、痛みを忘れる為にミーナ達を助けた時に集めた革袋の金を計算をする。
マジックポーチは渡したが、金の入った革袋は俺のマジックポーチの中に収まったままで、何も言われなかったからな。
一番重いのは熊さんの物でずっしりしていたが、後は似たり寄ったり。
熊さんの革袋からは金貨13枚に銀貨62枚と多数の銅貨と鉄貨。
それ以外は全部纏めて銀貨47枚と銅貨と鉄貨が多数。
金貨1,300,000ダーラと銀貨が1,090,000ダーラで合計2,390,000ダーラ。
銅貨10枚を加えて折半すると、一人1,200,000ダーラになった。
残りは纏めて食料買い出しなどの資金にすることにした。
「結構ありましたね。街で使ったより多いですよ」
「使用者登録を外せなかったマジックポーチが10個、19人のうち9人からしか徴収出来なかったのでこんなものかな」
「熊さんはリーダー格だったんですかね」
「渡したマジックポーチと中の物を処分した代金に、依頼料の金貨20枚が振り込まれるのでもっと増えるぞ」
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