第20話 フランの魔法
夜明けを待って北門近くに半地下のシェルターを作ってもらい、サブマスのお出ましを待つ。
街へ出入りする混雑が収まった頃に、ギルドの馬車と冒険者達を従えたサブマス登場。
まるでホルムへ帰る様な雰囲気で出て来るのを、街道脇に立って待つ。
「よう、何人確保できた?」
「一人死んだので10人です、縛り上げて閉じ込めていますよ」
「うむ、流石は俺が見込んだだけはあるな」
「良く言うよ。俺達は盗賊をおびき出す餌なんだろう。報酬を決めてなかったけど、奴等とギルマスの持っているマジックポーチと中の物が報酬で良いよ」
「10人捕らえて金貨20枚の褒賞だ。良い稼ぎになったじゃないか」
「あ~、俺の肩を見てよ。矢を射ち込まれて、危うくあの世行きになる寸前だったんだよ。命を賭けてまで稼ぎたいとは思わないよ。奴らの所へ案内したら、お別れだからね」
ちろりと俺の指差す肩を見て「大して血も出ていないし、軽傷だな。ポーションを飲めば治る」と軽く流されてしまった。
本当に、人をただの囮として見ていないのがよく判る。
サブマス一行をフランの作ったシェルターまで案内して、マジックポーチ3個と共に全員を引き渡してお役御免と、ならない。
フランが呼ばれて、野営用のドームーを三つばかり作ってくれと頼まれてドーム作りをする。
「こんな所にドームを作ってどうするんですか」
「こいつ等をザンドラの街へ連れて行ったら、奴が逃げ出すだろうが。此処で締め上げて自白させてから、奴を捕獲するんだよ」
「?・・・子爵様の所はどうなったの」
「大きな声じゃ言えないが、お前は感ずいているとギルマスも言っていたから教えるが、子爵殿は王都に呼び出されて足止めされている。ザンドラには、国王陛下の使者が来ていて、子爵殿の配下にギルマスの悪事を暴く手助けを命じているよ」
「て事は、ギルマスが捕まると子爵様も・・・」
それ以上は何も言わず、肩を竦めて終わり。
出来上がったドームの中で荒事が始まったので、サブマスに手を振ってお別れする。
去り際に、フランにドームの魔力を抜かせて長持ちしないように細工をさせておく。
* * * * * * *
「やーっと、終わりましたね」
「後は報酬を振り込んでもらうだけ。食料はたっぷりあるし、暫くフランの魔法を強化する練習をしようか」
「お願いします」
「その代わり、俺には冒険者の事や槍の使い方を教えてよ」
「今更ですか」
「あのなぁ~、野営用結界の中から突くだけじゃ上達しないだろう。ゴブリンの魔石を抜き取る事しか教えてもらってないし、せめてオークを倒して魔石を抜く事くらいは出来る様になりたいからね」
「ビーちゃん抜きで?」
「馬鹿言っちゃいけない。俺一人でゴブリンにすら勝てないのに、オークと遣り合ったら即死だよ」
ビーちゃんが鼻面を攻撃している間に、俺がゴブリンやオークの背後に回ってプスリだ。
巻き込まれて此の地に来たのに、命を賭けて野獣討伐なんてやってられるかっての。
野獣討伐なんてのは、キャンプ場で揉めた馬鹿共に任せておけばいいのさ。
金と食料の有るうちに、冒険者の基本と最低限の能力を身に付け、後はなるべく楽をして生きて行く道を考えるのが俺の予定だ
* * * * * * *
周囲を丈高い草や灌木の多い場所を選び、野営用結界とフランのドームをくっつけたキャンプ地を作ると、フランに魔力のことから質問だ。
「魔力切れまで魔法を使ったことはあるの」
「それをやると気を失って無防備になるので、やるなと言われてます」
「魔力は増やせるの」
「魔力切れを幾度となく起こせば増えるそうですけど、人に依るそうです。と言うか殆どの人は増えないようですよ。それこそ加護持ちで無ければ無理なんじゃないかな」
「ストーンアローを一本作るのに、どれ位の魔力を使っているのか判る?」
「どれ位と言われても・・・シェルターを作るよりは少ないと思いますね」
「魔力を練るって判る?」
「魔力溜りから魔力を引き出すことでしょう。それが出来なければ、魔法は発動しませんから」
ラノベと少々違うけど、此処でも加護が絡んで来るのか。
案外加護ってチートに繋がるものかもだが、それなら俺は二柱の神の加護持ちなので何とかなるかも。
ティナの言葉を思いだせば、相手は意図せずして加護を授けたという事になる。
フランにストーンアローを作って貰い、改めてじっくりと眺める。
全長60cm程で太さは約1cm、ご丁寧に鏃や矢羽根に似た物まで付いている。
「フラン、鏃や矢羽根は必要無いと思うぞ、それと長さはいいとして太さをもう少し太くしなよ」
両端が尖った棒の絵を地面に描いて、イメージしやすく説明する。
「こんなので真っ直ぐ飛びますかねぇ」
「飛ぶよ、手槍を投げても真っ直ぐ飛ぶだろう」
「まぁ~、山なりにですけど、左右にふらふらしませんね」
試しに何度か作らせてから、短弓の矢と並べてこれならと思う一本を見本に作らせる事にした。
「これからは、此れを見本にストーンアローを作る練習だな。アローと思ったときに無意識にこれと同じ物が作れるまで続けなよ」
俺がそう言うと、あからさまにげっそりした顔になる。
「どうしたの?」
「シンヤさんは魔法を使えないから判らないだろうけど、矢を一本を作るのでも詠唱してからなのですよ。それを何十本もって、延々と詠唱しては矢を作るのって地獄ですよ」
「それね。俺の聞いた限り詠唱は必要無いよ、と言うか短縮詠唱だな」
「まさか・・・そんな事で魔法が発動するなんて、聞いたこともないですよ」
「この間ストーンアローを硬くしてもらったけれど、あんな事が出来ると思っていなかったじゃないか。俺の知る人は口内詠唱と教えてくれたけど、必要な事だけしか呟いてないって言ってたよ。その人はアイスアローだけど、アイスも面倒だと言って、アローとかランスとかそれだけを呟いて、連続射撃をしていたからね。試しに、細い矢に石の様に硬くなれと思って魔力を流しなよ。硬く出来るのなら、俺の言った様に矢作りをするんだね。いきなりが無理なら、創造神様か土魔法の神様に願って硬くなれとでも呟けばどう」
ラノベの知識しか無いので架空の知人をでっち上げて話すけど、魔法を教えてと言ったのはそっちだからな。
俺の教えを聞く気がないのならそれまでよ。
暫く細い矢を睨んでいたが〈アーンス様の力を借りて硬くなれ・・・ハッ〉
ちょっ、アーンス様って誰よ。
まさか、土魔法の神様か? テイマー神がティナで、土魔法の神がアーンスなら、水魔法の神はウォータか?
そうだったら俺の世界を模倣していることになる、てか大量召喚すれば文化が伝播してもおかしくない。
アマデウスの性格なら、そんな事は気にもしないだろう。
〈キンキン〉と硬質な音が聞こえたのでフランを見ると、二本の矢を打ち合わせている。
俺の視線に気付くと、にっこり笑って「言われたように試したら、出来ました!」と嬉しそう。
「それなら、ストーンアローを作るときに、大きさとその硬さで作る練習だな」
「また難しくなってませんか」
「目指せ、無敵の土魔法使いなんだろう」
「上達したいとは思っていますが、そんな不遜な考えは持ってませんよ」
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