第21話 噂の二人

 夜はフランがストーンアロー作りをしている間、俺は草の束を丸めた物に短弓の練習用の矢を射ち込む。

 矢をつがえて打つだけなら良いのだが、二の矢三の矢を連続して打つとなると、これが結構難しくて苦労する。


 ビーちゃんが居るからといっても万能ではないし、ビーちゃんの援護の下で野獣と闘える様にしておかないと死ぬ羽目になりそうだ。

 それにフランから聞いた野獣討伐の手順は、先ず足止めしてから周囲を囲み後ろから攻撃するのが一番安全だそうだ。

 確かに勝手気儘に闘っては、攻撃どころか逃げ回る羽目になりそうだ。


 俺もビーちゃんに牽制してもらい、その間に後ろに回って足を攻撃する事を基本にしたい。

 フランは冒険者としての腕を上げたら、何れ村に帰って野獣討伐の一員に加わると話していたからな。


 村では討伐の荷物持ちなんかをしていたんだろうと聞いたら、小物の討伐ですと言われてしまった。

 大物狩りに出てこそ、一人前の村の男と認められるんだと胸を張る。

 大物がどの程度の野獣かは知らないが、野獣が多いのはアマデウスの言葉通りのようだ。


 まっ、俺はフランの魔法上達の手助けをする、見返りに此の世界の常識や冒険者としての彼此を手ほどきしてもらう。

 10日も練習すればストーンアローはアローの一言で作れる様になった。

 そこで攻撃よりも防御が先だった事を反省して、シェルター作りに戻る事にした。


 「今更シェルター作りですか?」


 「悪い。攻撃よりも防御が先だったのを忘れていたよ。自分や仲間の安全を確保してこその攻撃だろう。安全を確保せずに攻撃に専念すれば、自分は死ななくても仲間が死んでいくぞ」


 「確かにそうですね。俺も攻撃力が上がるのが嬉しくて忘れていました」


 「村では、何人くらいで狩りに出るんだ」


 「自分がついて行ってたパーティーは5、6人ですが、大物狩りは10人前後ですね」


 「じゃー緊急シェルターと野営用のドーム作りからだな」


 地面に直径2m程の丸を書き、ドングリの下を斬った様な絵を書いてみせる。


 「此れくらいの大きさなら11人が集合すれば収まるだろう。高さは3mもあれば大丈夫かな」


 「まぁ人族が多いし、狼人族や狐人族でも収まりますね」


 「狼人族や狐人族?」


 「そうでした。シンヤさんって常識が無かったんですよね」


 この野郎、それじゃまるっきりの馬鹿と言ってるのと同じだぞ。


 「森の中で少数の家族と育ったので知らないだけだよ。でも今までそんな人と会わなかったぞ」


 「村には少ないですが居ますよ。オヤジや村の人の話では、此の国は人族以外は住みにくい国だそうです。居ないことはないけど、大きな街では扱いが悪いので近寄らないらしいです」


 「でも居るんだろう」


 「そりゃー俺達人族よりも獣人族の方が身体も大きく力も強いので、野獣討伐に小さな町や村へ稼ぎに来ています。エルフ族は魔法巧者が多いそうですよ」


 獣人族にエルフか、ますますラノベの世界みたいだけど、魔法巧者や力の強い者が野獣を倒しても手が足りないって、どんな世界だよ。

 アマデウスのおっさんが人手不足解消の為に強制召喚をする位だから、危険な事に間違いないな。

 創造神の癖に、自分の作った世界を御し切れてないってポンコツ神決定だな。


 フランの話からすると、今まで出会した獣って小物って事だよな。

 尤も、フランが恐れるほどの獣には出会っていないので、此れからも出会わないことを祈ろう。


 「そうだ、薬師ギルドにはエルフ族も結構居るって聞いてますよ。薬草や調薬の知識が豊富ですからね」


 「次ぎに街へ行ったら怪我の回復ポーションを買いに行くかな、中級ポーションで矢傷も何とかなったけど、無ければ大変だったからな」


 「ですね。俺も中級と上級ポーションを何本か買っておきます」


 * * * * * * *


 緊急シェルター作りは3日もすれば何とか様になってきた。

 ストーンランス作りで魔法発現のコツを掴んだようで、強度も石の如く硬いのでフランも満足気だ。


 20日余りの訓練で、シェルターと野営用ドームにストーンアロー作りは問題なし。

 ストーンアローの射撃訓練を始める前に、食料買い出しの為に街へ戻る事にした。


 今回は薬草採取をしていないしホーンラビットも狩っていないので、市場へ直行して食料の買い出しの後は薬師ギルドへ向かう。

 タンブル通りの薬師ギルドの看板は、三角フラスコとポーションのビンが目印の、三階建ての小洒落た建物だ。


 ドアを開けて中に入ると、遠くで鐘の音が鳴り人の足音が近づいてくる。


 「いらっしゃい。薬草を持っていない所を見るとポーションかな」


 「はい、初級と中級のポーションが欲しいのですが、詳しく聞きたくて」


 カウンター前の椅子を勧められ、フランと並んで座る。

 背が高い美形だと思ったら、耳の上部が少し尖っている。


 「エルフが珍しいかね」


 「済みません。俺は森で育って人族しか見たことが無いのですよ。ところでさっき薬草って言いましたけど」


 「ああ、薬草の買い取りもしているよ。と言っても、冒険者が採取する物よりも、もっと貴重な物だけをだね。そのへんに生えている物は、低ランク冒険者の稼ぎだから薬師ギルドでは買わないよ」


 「毒矢に使う毒は?」


 「キラービーとポイズンスパイダーの毒なら、薬にもなるので買い上げるね」


 「矢に塗る毒も売っているんですか」


 「勿論、だけど高いよ」


 肩を竦めて話を元に戻す。


 「この間肩に矢が当たり、中級ポーションを飲んだのですが良く効くポーションは有りますか」


 「ポーションはね、初級・中級・上級ポーションに分類されるけど、初級の上中下、中級の上中下と各三段階に分けられるんだよ。その傷を見せて貰えるかな」


 片肌脱いで傷を見せると、怪我をしてからどれ位立って居るのかを問われた。

 三週間以上経っていると答えると、初級ポーションの中を中級と偽った物だったんだろうと笑われた。

 ゲロマズで飲めば舌がざらざらになって気持ち悪かったと言えば、冒険者ギルドで買ったんだろうと指摘される。

 冒険者ギルドで売っている物は、薬師見習いや腕の悪い薬師の小遣い稼ぎの低品質だと教えてくれた。


 「多少高くても、薬師ギルドや腕が良いと言われる薬師から買えば、それ程酷い味でもないし効き目も良い」と言ってポーションのビンを並べる。


 初級ポーションの下、12,000ダーラ

 初級ポーションり中、20,000ダーラ

 初級ポーションの上、28,000ダーラ


 中級ポーションの下、60,000ダーラ

 中級ポーションの中、120,000ダーラ

 中級ポーションの上、180,000ダーラ


 上級ポーションの下、500,000ダーラ

 上級ポーションの中、1,200,000ダーラ

 上級ポーションの上、2,000,000ダーラ


 ビンに貼付されているお値段を見て頬が引き攣るが、効き目が有るのなら買っておくべきだろう。

 因みに俺の飲んだゲロマズ中級ポーションは、薬師ギルドでは初級の中程度の効力だと言われた。

 俺が薬師ギルドの中級ポーションの中を傷に振りかけ、残りを飲んでいればもっと素速く綺麗に治ったはずだと言われた。


 「俺は初級は各二本、中級は各一本に上級の下を1本買うよ。それだけ買っても980,000ダーラだからな」


 「また思いっきりますねぇ」


 「フランも、一発矢を受けたら考えが変わるよ。ゲロマズでも、よくぞあの時ポーションを手に入れていたものだとね。ポーションなしで矢を抜いても直ぐには死なないだろうけど、街には帰れないので痛みに耐えてサブマス達を待つことになっただろう。それに奴等からの貢ぎ物だ、遠慮無く使わせてもらうさ」


 金貨5枚と銀貨を48枚カウンターへ置くと、説明をしてくれた店員が頷く。


 初級ポーションは蓋に点が有り、点一つが初級の下で点が増える毎に中、上となると教えてくれた。

 中級ポーションは細い横線の数で、上級ポーションは太い横線で見分けるそうだ。

 つまりポーションの蓋を見れば、ポーションの種類が判るんだと。


 そう言っておくの奥からポーションのビンを持ってきて並べ始めた。

 頭に?マークが浮かんでいたのが判ったのか「それは見本で、中はただの水だよ」と教えてくれた。


 見も知らぬ冒険者の前に、高価なポーションを並べる訳はないって事か。

 蓋を確認しながらマジックポーチに入れていると「俺も同じだけ買います」とフランが言うので、店員がビックリ。


 そう言ったフランが、マジックポーチから革袋を取り出して金貨をカウンターに並べると、一つ頷いてフランの前にもポーションを持って来て並べる。


 「毒消しのポーションは有りますか?」


 「勿論有るけど、1本80,000ダーラだよ」


 「それも2本下さい」


 「思い切ったね」


 「今使わなくても、村に帰ったときに役に立つでしょう」


 「ポーションは2年程度で効果が薄れるから気を付けて」


 「3-60のマジックポーチですから、当分大丈夫でしょう」


 それを聞いて頷いていたが「もしかして、君達が噂の二人組かな」と聞いてきた。


 「噂の二人組?」


 「一人は加護持ちのテイマーで、キラービーを従えていると専らの噂だよ」


 「またですか。蜂なんてテイムできると思いますか? 確かに加護は授かっていますけど、能力は1ですよ。キラービーはテイマー神のティナ様が俺の能力が低いので守ってくれているんでしょう。数百匹の蜂に、俺が命令出来る訳ないじゃ無いですか」

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