第22話 腕試し
食料とポーションを仕入れて野営地に向かうが、途中でクーちゃんのお仲間集めをすることにした。
「訓練の為に、当分薬草採取はしないんでしょう。何故クーちゃんのお仲間を?」
「聞いていただろう。ビーちゃんとクーちゃんの毒を集めて売ってみるんだよ。それに毒矢も試したいし。その為に空のポーション瓶も貰ってきたのだから」
「シンヤさんって、本当に色々と思いつくんですねぇ」
色々と試して、楽して稼ぐ方法を模索しているだけなんだけどな。
野獣の討伐なんて危険な事より、貴重な薬草や毒を集めれば他の冒険者と稼ぎが被らないので気が楽だし。
何時か日本へ帰れるかもしれないその時まで、此の世界の見物でもしようと腹を括ったからな。
クーちゃんに仲間が居そうな場所を尋ねて、草叢を短槍で叩きながら歩くが此れが大変な作業になった。
ビーちゃんなら仲間を呼ばせて叩き落とせば良かったが、ポイズンスパイダーは単独行動で草叢に潜む。
それに色が濃い茶色に赤い縦線一本で、目立たないときた。
たまに見つけるとポイズンスパイダーでも、赤線の無い痺れ毒の方で目的外。
《クーちゃん、お仲間を探す良い方法はないかなぁ》
《マスター、私達は群れないので、繁殖の時にしか出会いません。獲物が獲れそうな場所に巣を張るので、そのような場所を教えています》
そうだよなぁ~、蜘蛛の集団行動なんて聞いたことも見たこともないや。
ポイズンスパイダーの潜んでいそうな草叢を叩きながら、クーちゃんとお話ししていて思いついた。
潜んでいる場所がおおよそでも特定できるのなら、そこへ向かってテイムしてみればどうかと。
で、クーちゃんの示す場所を(テイム)・・・ 空振りで、草を掻き分けても何もいない。
5度目に(テイム)〔ポイズンスパイダー・4〕と頭に浮かび、潜んでいる種類と攻撃力か生命力の数字が判る。
頭に情報が浮かぶと同時に、ポイズンスパイダーの潜む場所もピンポイントで特定できた。
直撃は不味いし、手加減すればクーちゃんの時の様に飛びかかってこられても嫌なので、潜む場所の下を少し強めに叩く。
(テイム)〔ポイズンスパイダー・1・・・〕
ん、1・・・って何だと思いながらも(テイム・テイム)〔・・・・・・〕反応が無くなった。
もしやと思い草を掻き分けて探すと、ポイズンスパイダーは居たがピクリとも動かない。
(テイム)〔・・・・・・〕短槍で叩いたので衝撃が強すぎたのか、ご臨終のようだ。
反省してビーちゃんの時に様に、細枝を集めて箒まがいのもので叩くことにした。
細枝の束で叩くのも難しく、普通に叩いては影響なしで強めに叩けば逃げ出される。
逃げる相手は蜘蛛なので、強く叩けば潰れたり手足がもげてしまうのでクーちゃんに恨まれる。
結局夕暮れまでに4匹を確保したが、毒と痺れの蜘蛛を6匹虐殺してしまった。
テイムで確認しても、どちらもポイズンスパイダーとなるとは思わなかった。
今回はテイムしても〔ポイズンスパイダー・50-5、複眼、木登り〕となったが、最後の数字が出なかった。
1種類につき一回のみの数字と思われるが、カウント終了後に何が有るのかは不明のままだ。
一つ困ったのは、クーちゃん達の巣を、背負子に括り付けたバッグに入れると手狭になるし、土魔法で作った巣を五個も背負うのは重い。
単独行動のクーちゃん達に共同生活というか、一つの巣箱は嫌がられたので当分の間は五匹で諦めた。
それに土魔法で作った巣は草を入れていても不評なので、木製の巣を用意する必要ができた。
薬草採取は暫くお預けなので、ポーションのビンを置き無理の無い程度に毒を入れてとお願いしておく。
昼間は安全な草の密集地帯で遊ばせて、夜に毒を吐き出して貰いお礼に好物の串焼き肉を提供する。
* * * * * * *
フランの射撃訓練は順調だが、命中率が悪い。
今までは切羽詰まって射つ必要が無かったせいもあるが、魔法を放つ事に気が行きすぎて狙いが甘い。
シェルターやドームに、防御用のシールドは割合スムーズなのと対照的。
なので俺の短弓の練習方法を取り入れさせた。
5mの距離から短縮詠唱と同時に射つのだが、射つまでは的から目を離さない。
射った後は次発に備えて対象物から目を逸らさないを教える。
「それって同じじゃ無いですか」
「全然違うよ、射つ前は標的の心臓とか腹とか打ち込む場所を見るけど、射った後は標的の動きや周囲も観察して次の動きに備える。野獣が常に一匹だけとは限らないし、別方向から別の群れが現れるかもしれないだろう。だから獲物から目を離さないけど周辺も確認するんだ」
「確かにそうですね。村でも野獣討伐中に、別の奴に襲われて被害を出した事もあったと聞いています」
元々狩りや薬草採取について行っていたし、ストーンアローも射っていたので標的射撃もコツを掴んで日々上達した。
30m~35mで8,9割の命中率になり、実戦訓練を始めたのが草原に来て2週間を過ぎた頃。
ゴブリン討伐と魔石狩りだが、もう一つの目的も有る。
《マスーター、見つけたよー》
《案内してくれるかな》
《はーい。39号が教えるよー》
「見つけた様だから行こうか」
「これじゃ、索敵の練習になりませんね」
「それは夜にドームの中でやれば良いよ。今は目的が違うからな」
「本当に出来るんですか?」
「出来ると思うよ。クーちゃんとビーちゃんは共に虫だけど、テイマーなら動物をテイム出来るはずだよ」
「クーちゃんとビーちゃんで二種類、次で三種類ですよ。もし出来たら俺の知っているテイマーとは全然違いますからね」
「それを言ったら、虫のテイムも常識外だろう」
「そうですけどねぇ。虫が命令に従うなんてだれが信じます」
「フラン、命令じゃないよ、あくまでもお願いね!」
「はいはい、お願いでした。とっとと、向こうも気付いた様ですよ」
「じゃー、シールドと足止め宜しく」
〈シールド・・・ハッ〉〈シールド・・・ハッ〉
俺の前に幅1.5m高さ2mの土の壁が、ほぼ一瞬で立ち上がると同時にフランの前にもシールドが出来る。
その陰で短弓に矢をつがえて、引き絞って素速く放ち次の矢を矢筒から引き抜く。
フランの潜むシールドからは〈アロー・・・ハッ〉〈アロー・・・ハッ〉〈アロー・・・ハッ〉
やっぱり短縮詠唱だと俺が二の矢を放つより早い。
俺が二匹でフランが五匹、腹に矢やストーンアローを受けて藻掻くゴブリンの首筋に槍を突き入れる。
「一番大きいのを残しておきますね」
「いやいや、テイムしたからって使役する訳じゃないよ、お試しだけだよ」
(テイム)〔ゴブリン・5〕腹にストーンランス一本じゃ未だ未だ元気なので、短槍でお腹をプスリとして(テイム)〔ゴブリン・3〕
暫く放置してぐったりしてきたので(テイム)〔ゴブリン・2〕
(テイム・テイム)〔・・・・・・〕
もう少し待って(テイム)〔ゴブリン・1〕になったので再び(テイム・テイム)〔ゴブリン、6-1〕
やはり1にならないとテイム出来ない様だが、此れで三種族目をテイム出来たので命名する。
《聞こえるな》
《ハイ、マスター》
《お前の名前はゴブ1号な》
《有り難う御座います。マスター》
掌を見て(スキル)〔シンヤ、人族・18才。テイマー・能力1、アマデウスの加護・ティナの加護、生活魔法・魔力10/10、索敵中級下、気配察知中級下、隠形中級下・木登り・毒無効・キラービーの支配〕
〔ポイズンスパイダー、50-5、複眼、木登り〕
〔キラービー、50-50、複眼、毒無効〕
〔ゴブリン、6-1、悪食、繁殖力、40〕
索敵、気配察知、隠形が全て中級の下に変わっているが、他は変化なし。
ゴブリンは6-1で悪食と繁殖力ってこんなの要らないし、最後の数字が40となっている。
ゴブリンを従える気はないので(テイム・解放)・・・テイムから解放すると同時に短槍を胸に突き入れる。
「テイム出来たのですか?」
「ああ、出来たよ。お仲間に加えたいのならテイムしようか」
「勘弁して下さい。ゴブリンの匂いは、熊男の足と同じくらい強烈ですから」
「大丈夫、テイムを解除して殺したので。次はスライムかホーンラビットで試したいな」
「スライムなら、ゴブリンを放置しておけば集まって来ますよ。と言うか、獣の食い残しなどを食べる森の掃除屋ですからね。今夜にも野獣が此れを食い荒らし、残りをスライムがかたづけますから。魔法が上達すると、ゴブリンに手子摺っていたのが嘘みたいですね」
「まぁね。でもゴブリン程度なら、ビーちゃんの助けなしでかたづけられる様になりたいな」
魔石を抜き取ったらクーちゃん達を回収して、ゴブリンの死骸の近くに野営用結界を展開して夜を待つことにした。
しかし、ゴブリンの能力ってのが悪食と繁殖力だったとはね。
俺は精力絶倫で常に発情しているのは嫌だし、美食家じゃないしゲテモノ食いの趣味はないので要らない能力だわ。
* * * * * * *
夜になり何やら獣の呻き声や争う声が聞こえて来るが、外は真っ暗闇でオレンジ色の大きな月が・・・見えない。
異様な月だけど無いと何にも見えないので困るし、特に今日はお外が見たい気分なのに。
ゴブリンを放置した所から少し離れているので、さっぱり様子が判らない。
「何か判る?」
「ドッグ系だとは思いますけど、こう暗くっちゃどうしようもありませんよ」
「ところでスライムって強いの?」
「強いのって言われても良く判りません。スライムは金にならないし、森の掃除屋なので誰も手を出しません。巣立ち前の子供が、薬草採取の時に見つけるとちょっかい掛けて遊ぶんですが、吹っ飛ばされていますので体当たりには気を付けた方が良いかも」
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