第141話 テラノドラゴン

 シンヤが王城から下がると、王都冒険者ギルドへ宰相補佐官が訪れてギルドマスターとの面談を求めた。


 王家の依頼だと張り切ったギルマスが宰相補佐官を迎え用件を聞くと、ドラゴンの解体依頼と聞きビックリ仰天。

 しかもドラゴン五頭とグリーンスネーク一頭と聞かされて、開いた口が塞がらない。


 「ちょっと待ってくれ補佐官殿、ドラゴン五頭と言われたのか?」


 「はい、何かご不審なことでも?」


 「ドラゴンが討伐されたなんて聞いていないぞ!」


 「それはそうでしょう。王家が特別優秀な者達を集めて、極秘で依頼していたものですから。此の度依頼が完了し、ドラゴンの引き渡しも無事に終わりました。それで冒険者ギルドに解体依頼に来たのですから」


 「討伐者達の事は明かせないと言う事ですかな」


 「討伐者達も秘密にする事を望んでいます。明かせば大騒ぎになるので当然です。解体依頼を受けて貰えますかな」


 「勿論やらせていただく! 解体係も一世一代の大仕事になるでしょうし、我がギルドもドラゴン解体の実績を誇れますので、是非!」


 「では最初に運び込む一頭は、テラノドラゴンという事になりますが」


 「えっ、五頭と言われましたよね」


 不思議そうに問いかけて来るギルドマスターを見て、補佐官がにっこりと笑う。


 「はい、ドラゴン五頭とグリーンスネーク一頭、それにメインタイガー、ビッグウルフ、ファングベアの三頭です」


 「それは又、大収穫ですな。だが纏めて持って来てくれれば空間収納持ちのギルド職員が預かりますよ」


 「その職員はどの程度の能力ですか?」


 「ランク12のマジックバッグと同程度の収納能力を持つ者ですが」


 「それでは預けられません。最大のドラゴンは34mほどの大きさです。一番小さく出来るウィップドラゴンなら預けられますがそれ以外は無理でしょう。野獣三頭とウィップドラゴンはマジックバッグで運びますが、他のドラゴンは王城から台車に乗せて運ぶ事になります」


 ギルマスは何を聞かされたのか理解出来ず、困った様に補佐官の顔を見る。


 「最初に運び込むテラノドラゴンの大きさは全長18mほど有りますし高さも台車に乗せれば5mを越えると思われます」


 「ちょっと待ってくれ! 入り口を広げなければ解体場に入らないぞ!」


 「では急いで改修をお願いします。因みにタートルドラゴンは甲羅の長さ8.5m横幅4.5m、体高4.5mです。最大の物は34mですので、そのおつもりで改修をお願いします」


 口をぱくぱくさせているギルドマスターを見て、にっこり笑う宰相補佐官。

 ドラゴンを見なければ具体的な解体依頼が出来ないと宰相に告げ、宰相執務室でお茶を飲んでいたシンヤに頼み込んで見せて貰った。

 取り出されたドラゴンを見て度肝を抜かれたが、解体依頼の為に立ち会った近衛兵に頼み各種ドラゴンの大きさを測ったのだ。

 あれ程驚かされたのだ、一人くらいは驚かせても文句は言われないだろうと憂さ晴らしをする。


 王城から帰って二週間後、王家はドラゴン討伐を発表し、冒険者ギルドに解体を依頼したと王都中に触れを出した。


 ドラゴン討伐の触れは王都を一瞬で駆け巡り、我が国に誕生したドラゴンスレイヤーを褒め称えたが、誰がドラゴンを討伐したのかの何の発表もない。

 話しに聞くドラゴン討伐は、高ランク冒険者パーティーが数組で行うもので、誰も名乗り出る者がいないので本当なのかと騒ぎになった。

 しかしドラゴン討伐を発表した三日後、10日後にテラノドラゴンを王城より冒険者ギルドに運び込むと通達が出され、王城から冒険者ギルドへ通じる道の通行規制が発せられた。


 ドラゴン搬入の前日には、王城でテラノドラゴン披露目の夜会が行われ各国の公使達と参集した貴族や豪商達がその巨体と獰猛な迫力に肝を冷やしていた。


 そのなかにあって一人、モーラン伯爵は苦笑混じりにテラノドラゴンを見ていた。

 テラノドラゴン披露目の前日、シンヤを伴って王城へ出向き、テントで隠された台車の上にテラノドラゴンが置かれるのを見ていたのだ。

 シンヤと立ち会った宰相の顔を見て呆れていたが、何も言わなかった。

 但し、伯爵として与えられた控えの間に戻ると、噂のテラノドラゴン討伐について尋ねた。


 「貴方、魔法は授かっていないわよね」


 「授かっていなかった。と言った方が正しいですね」


 「随分意味深な言葉ね」


 「国王や宰相には教えましたが、七つの魔法と九人の神々の加護を授かっています。暫くお付き合い頂くので先に伝えておきますが、献上した物はドラゴン五頭と蛇一匹に野獣が三頭です。ウィップドラゴン1頭と野獣は空間収納持ちが受け取りましたが、大物は俺が預かっていて順次解体に出されます」


 「つまり、今回の様な事が後四回あるって事ね。出会った時から、貴方には驚かされてばかりだわ」


 「そうですか? 余り驚いている様には見えませんよ」


 「此れほどの事を成せば、貴族に取り立てられても不思議じゃないけれど、その気は無さそうね」


 「遅くなりましたが、伯爵様になられたそうでお目出度う御座います」


 「貴方と知り合ったばかりに、災難続きだわ」


 * * * * * * * *


 ドラゴンを運び出す為に多数の犯罪奴隷に台車を引かせ、その前後を多数の王国騎士団の騎士や兵が護衛につき、開け放たれた城門を出ると冒険者ギルドへ向けて進み始めた。


 王城の正門前から冒険者ギルドに続く道の左右には貴族や豪商の馬車がズラリと並び、その先には多数の領民や冒険者達がドラゴンを一目見ようとひしめき合っていた。


 〈来たぞ!〉

 〈でかいなぁー〉

 〈あの凶悪な顔を見ろよ!〉

 〈よく、こんなのを討伐してくるよなぁ〉

 〈ドラゴンスレイヤーは居ないのか?〉

 〈ドラゴンが引き出されると聞いたので、ドラゴンスレイヤーの顔を拝めると楽しみにしていたのに〉

 〈凄腕揃いのパーティーなんだろうな〉

 〈ゴールドランクのパーティーが討伐したと聞いたぞ〉

 〈俺は高ランクパーティー三組合同だと聞いたな〉

 〈じっくり見たいんだから、押すなよ!〉

 〈おい、ドラゴン討伐って聞いたけど傷が見当たらないな〉

 〈何処を見ているんだ、腹にでかい傷が有るだろうが〉


 宮廷画家や街の絵師達が其処此処に陣取り、ドラゴンの絵姿から運ばれる様子や見物人の表情など、あらゆる事が記録として残される

 ドラゴンを乗せた台車が進む沿道は人だかりで、整理の警備兵も汗だくで怒鳴り散らしている。


 * * * * * * * *


 無事に冒険者ギルドの解体場へ運び込まれたドラゴンを、宰相補佐官が初回立会人として引き渡し書類にギルドマスターがサインする。

 ドラゴン解体と内臓や肉など全て王家が引き取ると告げたときの、ギルドマスターの顔を思い出す。

 ギルドマスターはドラゴン解体の名誉こそ与えられるが、解体費用と剥製製作の費用を貰っても割に合わないとごねた。


 結局1頭毎に1/3の肉をオークションに出す事で合意した。 

 まぁギルマスも大人だ、肉はオークションに出され20%はオークションの手数料、5%はギルマスの懐に入る事になるので大満足。

 解体手数料と剥製製作代金を引いた残りが王家に支払われる。


 ドラゴンが冒険者ギルドに運び込まれて扉が閉まると、人々の関心はオークションに移るが、解体場内には各ギルドから集められたベテランの解体職員が待機していて、ドラゴンを取り囲んで解体の手順を熱く討議する。


 各国の派遣公使や商人達は落札して母国に送れば、どれ程の利益になるかを胸算用し、王国の貴族や豪商達もオークション参加の為に王都ラングスに参集した。


 * * * * * * * *


 一週間後、王家差し回しの役人と鑑定使いに空間収納持ちが冒険者ギルドを訪れ、台上に並べられた肉塊から2/3を受け取り帰っていく。

 その日、モーラン伯爵はシンヤと共に王城に出向き、与えられたモーラン伯爵の控えの間でブライトン宰相からシンヤに、ドラゴンの肉塊二つを引き渡された。

 勿論モーラン伯爵にも、シンヤの1/4では有るがドラゴンの肉が王家より下賜された。


 「極秘事項なので、一番人目につかない控えの間での引き渡しで済まないね」


 「お気遣い有り難う御座います。公開の準備状況は如何ですか」


 「ウルファング王国の商人から没収した、市場に近い商館の一つを改装しているよ。冒険者達は、登録カードを示せば無料でドラゴンハウスに入れる様になる。その他の者は銅貨一枚で入館できる。王都の名所になるんじゃないかな」


 ドラゴンハウスとは、王家も抜け目ないな。


 モーラン伯爵、ミレーネ様のお供のていで王城から下がるとお屋敷へ帰り、俺のお肉で早速味見となる。

 強い野獣はお肉が美味いとの評判通りで、さっくり柔らか肉は臭みもなく美味い! の一言。

 ミレーネ様と顔を見合わせてにんまりとするが、此れを友人達に分け与えることが出来ないと嘆く。


 代わりに糞親爺以下馬丁や婢に至るまで、夕食にドラゴンステーキを楽しむことになったが、美味しいお肉を俺から貰ったと告げているので皆からお礼を言われる。

 唯一人、鑑定使いのバルザクの顔が引き攣っていたので「アーマーバッファローの肉は美味いだろう」と釘を刺しておいた。

 前回アーマーバッファローの肉を俺が提供しているので、今回も似た様なお肉と思っている様で何より。


 ドラゴンは後四頭にグリーンスネークが待っているので、暫くは美味しいお肉に事欠かない。

 サロンでまったりとお茶を楽しんでいると、ミレーネ様が爆弾発言。

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