第140話 引き渡し

 アリエラには、性格が良く口の固い魔法使いになら知っている事を全て教えても良いと伝える。

 但し王家と貴族に属する者は論外で、これと見込んだ者に限定しろと念押しをしておく。

 一応知りたい事は判ったので、グレン達からデオルス伯爵の身分証を回収してお別れする事にする。


 「王都へ戻るのか?」


 「冒険者ギルドに持ち込めない以上、王家に渡して冒険者達に公開してもらうつもりなんだ。万が一ドラゴンが人里に押し寄せたときの為に、用心はしておかなくっちゃね」


 「本当にドラゴンなんてのが押し寄せて来るのか?」

 「どうしてお前にそれが判るんだ?」

 「シンヤって、アマデウス様の使徒か何かなの?」


 飲みかけていたお茶を危うく吹き出す所だった。


 「俺が雪を頂く山を見に行ったのは、アマデウスから聞かされた言葉を確認する為なのさ。奴は、山の向こうから溢れて来る通り道を修復し、大きな野獣を討伐しろって言いやがった。俺はテイマーだが魔法の知識が有り、魔法使いに色々と教えていたことを知っていたらしい。俺に通り道の修復や討伐を命じるのなら、必要な魔法を寄越せと言って魔法を貰ったんだ。雪を頂く山々は九つの国に囲まれているそうで、行ってみたけど広すぎる。俺一人でそんな事は出来ないので、王家に手伝わせるつもりだ」


 「もう、いいや。お前の話は大きすぎて頭がついていかねぇわ」

 「魔法を七つも授かっていること自体、俺達の頭では理解出来ないのに」

 「話がでかすぎる」

 「あんたが嘘を言っているとは言わないけど・・・」


 * * * * * * *


 今回は身分証を見せなくても正門を開けてくれ、玄関ホール迄案内してくれた。

 迎えてくれた執事も、心得顔でデオルス伯爵の執務室へ案内してくれる。


 「シンヤ殿、何か?」


 「いえ、王都へ戻ろうと思いまして、お預かりしていました身分証をお返しに参りました」


 そう告げて、傍らに控える執事に六枚の身分証を渡す。


 「彼等から身分証のお礼として、珍しい野獣を預かっているのですが受け取っていただけますか」


 「珍しい、ですか?」


 「ええ、森の奥の岩場に生息するレッドホーンゴートです。彼等が冒険者ギルドに持ち込んで、伯爵様の獲物だと告げると何かと煩いものですので、失礼ながら直接お渡し願えないかと預かりました」


 「それは有り難い。見せていただけますか」


 伯爵自らの案内で、騎士達の訓練場で引き渡すことになり空間収納持ちが呼ばれた。


 体長約4m、真紅の巻き角が見事なレッドホーンゴートに、見物の騎士達から歓声が上がる。


 「見事なトロフィーですね」


 「お肉も中々美味しいと聞いていますのでお楽しみいただけるかと思います」


 * * * * * * *


 伯爵位継承のことで礼を言われて歓待してくれようとしたが、急ぎの仕事があると断りタンザを後にした。

 タンザと王都間は、馬車で14日の距離だが楽々四日で帰り着き懐かしの我が家で寛ぎ、三日程のんびりしてから王城へ向かった。

 何時も通り南門でブライトン宰相への面会を求めて、案内係に先導されて宰相の執務室へ向かった。

 今回は宰相補佐官が現れ、客人と面談中だと言われて別室へ案内され用件を問われる。


 「以前尋ねた雪を頂く山々の事で、その地に住まう野獣の事だと伝えてくれ」


 俺の言葉に補佐官の目が光る。


 「出来れば余人を交えずに話したい」


 俺の言葉に重大事だと思ったようで、急いで部屋を出ていった。

 程なくしてブライトン宰相が現れたが、補佐官を含む護衛達全員を部屋の外に残して向かい合う。


 「余人を交えずとは、重大事かね」


 「まぁ、重大事になるかもです。それを防ぐ手立ての為に、条件付きで王家に献上したい物が有ります」


 「重大事になるかもだが、条件付きとは?」


 「献上する物はドラゴン五頭と野獣数頭で、此に関し俺の名を一切漏らさない事。献上品を全ての冒険者が見学できるように展示することと、補足としてドラゴンの討伐方法を記した文書を、展示品と冒険者ギルドに提示することです」


 「ドラゴン五頭・・・森の奥へ行って来たのかね?」


 「山の麓までね。で、途中で出会った奴の中から、危険そうなものを討伐してきたんですよ。此れについては俺が魔法を授かった事にも関する事で、何れ街に向かってくる恐れがあります」


 「国王陛下に報告してくる!」


 宰相は叫ぶように言うと、部屋を飛び出して行ってしまった。

 長らく待たされて放置プレイかよと毒づいていると、多数の人の気配が近づいて来て扉が開く。


 「国王陛下です」


 侍従の声が室内に響くが、偉そうに言わなくても俺一人だよと心の中で嘯く。

 だらけていた椅子から立ち上がったが、跪く事はせずに待つ。

 国王も宰相一人を供に、近衛騎士達を部屋の外に待たせて部屋に入ってきた。


 「ドラゴンが街を襲うとは本当か!」


 おいおい、話しが大きくなっているじゃないか。

 だから余人を交えずって言ったのに、宰相が話しを大きくしてどうするんだよ。

 此れで護衛や侍従が居れば、三日もせずにゴジラが王都を襲うって噂が王国中を駆け巡ることになるぞ。


 「何れそうなるかもって話しですよ。その時の為にドラゴンを献上して、冒険者達に倒す方法を知らしめて欲しいんです」


 「見せてくれないか」


 「それは俺の条件を受け入れるって事で宜しいですね」


 「勿論だ!」


 国王の確約なので近衛騎士の中でも口の硬い者を選抜してもらい、騎士団の屋内訓練場で引き渡すことになった。

 国王と宰相に近衛騎士10名が見守る前へ、空間収納からドラゴンを取りだして並べて行く。


 ロングドラゴン

 アーマードラゴン

 ウィップドラゴン

 テラノドラゴン

 タートルドラゴン

 グリーンスネーク

 メインタイガー

 ビッグウルフ

 ファングベア


 最初こそ悲鳴と響めきが起きたが、直ぐに静かになり並べ終わっても誰も何も言わない。


 国王と宰相を見れば、蒼白な顔でロングドラゴンの前で佇んでいるので、グラスに氷を入れ、コウエン子爵からの贈り物〔眠れる樽の祝福〕をなみなみと注いで持たせてやる。

 無意識に受け取ったのだろうグラスをそのまま口に運び、一息に飲んで噎せている。


 酒の効き目で顔色が戻り、恐々とドラゴンの検分を始めたが完全に腰が引けていて、横から見ていて笑いそうになる。


 「此れ等を全て献上すると言うのか?」


 「ええ、剥製にして誰でも見学できる場所で公開して下さい。討伐方法を記した文書を添えてですが」


 「討伐方法?」


 「そうです。普通に魔法で攻撃しても通用しませんよ。ドラゴンを討伐するには、腕の良い魔法使いが弱点を攻撃してこそ討伐が可能なのです。このロングドラゴンは生半な攻撃では殺せません。私の火魔法で吹き飛ばしても少し弱っただけでした」


 余り強力な爆発は爆風を受けて自分が負傷する恐れがある。

 かと言ってストーンランスやアイスランスでは弾かれてしまうだろう。


 「ロングドラゴンの弱点は口です。口からアイスランスを撃ち込み討伐しましたし、タートルドラゴンやグリーンスネークは首を絞めて殺しました。メインタイガーやビッグウルフとファングベア程度なら、魔法巧者でも倒せるでしょう」


 「そんなに大変な事なのか?」


 ん ?


 「もしかして、此の国にドラゴンを討伐した経験者はいないんですか?」


 「いや、王城に二頭ほどドラゴンの剥製は飾られているが、もっと小さい物だ。数百年前に討伐された物が献上されて、討伐方法等は伝えられていないと思うぞ」


 「そこの二種類だが」


 ブライトン宰相が指差したのは、アーマードラゴンとテラノドラゴンだ。


 「この様な大きなドラゴンは聞いたこともないな」


 各ドラゴンの弱点を記した用紙を渡して、王家から冒険者ギルドにドラゴンの解体と剥製製作を依頼してくれる様に頼む。


 「此れを一度に持ち込む訳にはまいりませんな」


 「うむ、空間収納持ちに預けて、一頭ずつ依頼しろ」


 近衛騎士の一人が空間収納持ちを呼びに走ったが、呼ばれてやって来た男はドラゴンを見て腰を抜かしてしまった。

 そのうえ、こんな大きな物は無理で御座いますと、ロングドラゴン、アーマードラゴン、テラノドラゴン、タートルドラゴン、グリーンスネークを指差して断られてしまって。

 何せ尻尾の先迄だと、ウィップドラゴンを別にして15、6mは楽に越える。

 ウィップドラゴンは尻尾を丸めると10m程なので、マジックバッグにも収まる大きさで野獣と共に空間収納持ちが引き取った。


 「シンヤ殿、すまないが解体まで預かっていてもらえないか」


 「それは構いませんが、俺が冒険者ギルドに持って行くのは勘弁してもらいます」


 「何か不都合でもあるのか?」


 不都合だらけだよ!


 「お忘れですか、私は魔法が七つに魔力が710ですよ。ドラゴンを持ち込めば必ずSランクにされます。ギルドカードが新しくなるので、それを知られる事になるのです。面倒事は御免です!」


 「陛下、シンヤ殿が冒険者ギルドに持ち込めば大騒ぎになるのは当然です。シンヤ殿にドラゴンを預かって貰い、一頭ずつ王城からギルドに運ぶべきです。そうすればシンヤ殿の願い通り目立たず、尚且つ王城からドラゴンを運び出せば我が国の武威も上がり王都の民も誇りに思うでしょう」


 ブライトン宰相の奴、ちゃっかり他国に宣伝するつもりだがまぁいいや。


 「宰相閣下、彼の口止めは大丈夫でしょうね。万が一にでも漏れたら・・・」


 「判っている。漏らしたら犯罪奴隷にして、一生扱き使ってやるので安心しなさい」


 今度は空間収納持ちの顔色が変わったぞ。

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