第139話 光の輪
治癒の光りが消えたとき、誰も何も言わずにドーランの足を睨んでいた。
「・・・マジかよ~」
「傷が消えているわ」
「凄い光りだったな。教会の治癒魔法使いは、アリエラの結界くらいの光りだったぞ」
「シンヤ、ちょっと此れを治せるか?」
ブライトがいきなりシャツを脱ぎ捨てると、肩から胸に掛けて三本の爪痕が見えた。
(元通り綺麗に治れ・・・ヒール!)
胸に掌を向けてヒールと心の中で呟くと、掌からブライトの胸に向かって治癒の光りが流れこみ、またも光りが溢れ出る。
身体に流れ込んだ光りが溢れ出るって事は、魔力が多すぎたかな。
「ん・・・おい! 小さな傷痕も全部消えているぞ!」
ブライトが叫ぶと腕の隅々まで確認し、ついでズボンを脱ぎ始めた。
「お前は何をしている!」
〈スパーン〉と音が出る張り手を頭にたたき込まれたブライトだが、それも気にせず足を確認している。
「シンヤ、お前凄いよな。小さな傷痕一つ残らず消えているぞ」
「それ本当なの?」
「ああ、覚えているだけでも10個以上の傷痕があったのに、傷痕が何処にも無い」
「シンヤ! 私の傷も治して!」
そう叫んでアリエラが上着を脱ぎ腕まくりをすると、二の腕に獣の噛み痕が残り皮膚が盛り上がっていた。
アリエラの傷も全て消えると、残りの三人も古傷を治してくれと治療大会になってしまった。
興奮が収まって改めて獲物を披露することになった。
ファングベア ゴールデンベアより一回り大きく、大きな牙が特徴的な茶色い熊。
アーマードラゴン、全身鱗に覆われていて、頭頂部から背中にかけて鋭い棘を背負った蜥蜴。
ウィップドラゴン、体長の2倍近い尻尾で見た目は蜥蜴だが表皮は固い。
テラノドラゴン、恐竜テラノサウルスに似た二足歩行、頭上から尻尾にかけて鋭い角が生えている、
タートルドラゴン、巨大なリクガメで体長7~m8、体高4~5m
ロングドラゴン、太った蛇の様で鱗の全てに三角の突起があり短い足が八本。
メインタイガー、魚の背びれの様なタテガミが見事な虎、身体も巨大でゴールデンタイガーの三割増し位の大きさ。
ビッグウルフ、馬並みの大きさの狼でグレイウルフを大きくした感じ。
グリーンスネーク、太った緑色の蛇で体長は30m程度で胴体も太い。
レッドホーンゴート、真紅に近い巻き角が見事な大山羊。
俺が並べる物を黙って見ているが、皆顔色が悪い。
「此れが要注意なドラゴンと野獣だけど・・・皆どうしたの?」
「こっ・・・此れを、一人で狩ってきたのか?」
「そりゃー一人で奥へ行ったからね。ミーちゃん達ではドラゴン討伐は無理だよ」
「こんな巨大な奴と向かい合いたくないな」
「俺達の武器じゃ役立たずだから、アリエラの結界に籠もって震えている事になるな」
「アリエラのドームやシェルターを、後で試させてね」
「どういう事なの」
「その一番大きい棘だらけの奴はロングドラゴンって名前らしいんだけど、俺のドームに体当たりをされて心配になったよ。強度を上げて事なきを得たけど、ちょっと心配でね。それと思いついた事があるんだ」
「しかし、見ればみるほど化け物揃いだな」
「この蛇を見てみろよ。こんな奴と森で出会ったらと思うと、ぞっとするぜ」
「俺達じゃ丸呑みされて一巻の終わりだな」
「この蛇とタートルって奴の、首の締め痕はどうして出来たの」
「それは後で説明するよ」
納得するまで見物させてから空間収納に戻した。
「出した時もビックリしたけど、空間収納って不思議ねぇ」
「七つの魔法を使うとは、貴族や王国が知ったら大騒ぎじゃ済まないぞ」
「それは大丈夫だよ。王家には俺が教えたからね」
「お前は馬鹿か! そんな事をすれば王家は黙っちゃいないぞ!」
「それは大丈夫だよ。王家は俺に手を出せない、俺を攻撃したらキラービーに襲われると知っているからね。俺が九人の神様の加護を貰っているが、加護の数と合わないだろう」
「どうしてなの?」
「テイマー神の加護と、テイマースキルに加護が付いているんだよ。だから俺は他のテイマーとは全然違うんだ」
さっき見せたドラゴンを支配していて、俺が自由に扱えると知ったら何と言われることやら。
ドームの中で頼んでいた情報収集の結果を尋ねたが、ドラゴン討伐とかの噂を聞いたものはいるが、ドラゴンを討伐した者の名やドラゴンを見た者はいないらしい。
ドラゴン討伐は王家や貴族豪商達が直接依頼するもので、野獣が溢れて来る時にもドラゴンは聞いたこともないと。
でも障壁から溢れた大物がドラゴンの生息域に行けば、ドラゴンは人里向かって来る恐れがあるって事になる。
やはり見本は必要だし、アリエラにドラゴン討伐の方法を伝授しておいた方が良さそうだ。
「アリエラのドームを見せて貰おうか」
「試すつもりなの?」
「当然さ、強度が並みじゃいざって時に役に立たないからな」
「面白そうだな」
「師匠対弟子の対決か」
「シンヤがこういうのなら、アリエラの結界を破る方法を知っていると見た方が良さそうだ」
「ギルドじゃ無敵なのにか?」
「シンヤは色々と知っているし、工夫するから油断は出来ないぞ」
「そう言えば、さっきドラゴンの首のことを尋ねたら後で教えるって言っていたな」
30m程離れた所に結界のドームを作ってもらい。アイスバレットから試していく。
〈ドーン〉と、いい音を立ててバレットが砕け散る。
続いて、テニスボール大のファイヤーボールを撃ち込むと〈ドォーン〉と、爆発音が腹に響きドームが消滅した。
「何だ、今のファイヤーボールは」
「凄え威力だぞ」
「アリエラのドームが一発で消滅したぞ」
「ちっこい火の玉があんな爆発をするのか?」
「アリエラ、もう一度作って魔力を追加してね」
悔しそうなアリエラがドームを作ると追加の魔力を込める。
再度ファイヤーボールを撃ち込むと〈ドォーン〉と爆発音が響き渡ったがドームは淡い光りに包まれて立っていた。
「どぅ、耐えたわよ」
「土魔法が残っているよ」
そう告げて、ファイヤーボールと同じ指四本分の魔力を使ったストーンランスを撃ち出す。
但し、速度はリニアモーターカー並みの時速500kmをイメージして。
〈パシン〉と軽い音を立ててドームが消滅した。
「おいおい、えらく簡単に射ち抜いたな」
「やっぱり師匠の方が一枚上手か」
「でも十分強度は上がっているよ。此れならドラゴンの突撃にも耐えられると思うな」
「でも、ストーンランスであっさりと射ち抜いたわ」
そりゃそうだ、速度もだが魔鋼鉄製の短槍をイメージして撃ち出したのだから。
「シンヤのストーンランスは凄いけど、あの速さは何なのよ!」
おっ、そこに気がつくとは流石だね。
「ねぇ、もう一度見せてくれない」
消滅したドームの先へジャンプし、土魔法で3m×5mの標的を作りアリエラの所へジャンプで戻る。
「へぇ~、転移魔法も使い熟しているのね」
「転移魔法って壁抜け魔法って言われるが、お前のは全然違うな」
「初めて見たけど不思議だな」
アリエラを少し前に行かせてから、ファイヤーボールを推定500kmの速度で撃ち出す。
三発で終了して、新たな結界魔法の使い方を伝授する。
「結界魔法でドラゴンを討伐するって、そんな事が出来るの?」
遠くの的を消滅させると、20m地点に少し縦長なシェルターを作る。
「見ていてよ」
シェルターの側に土魔法で柱を立て、伸びた先端を曲げてシェルターに巻き付ける。
「何だ・・・今のは?」
「馬鹿な!」
「えっ、ええーぇぇぇ」
「土魔法で蛇とドラゴンを倒した方法だよ。此れを結界魔法でもやれるはずだ」
「そんな事が出来る訳がないわ!」
「何故? シールドとシェルターにドーム、それぞれ違う物を作っているだろう」
「でも、出来上がった物を曲げるなんて無理よ!」
「アリエラって思ったよりも頭が固いね。出来上がった物を動かしていること、忘れたの」
「そんな事を何時したのよ」
「シェルターとドームの出入り口を、開け閉めしているじゃない」
アリエラが〈エッ〉と言ったきり、言葉が出て来ない。
「確かにな、出入り口がなければ困るけど、毎回アリエラが作ってくれているな」
「流石は、魔法の師匠だな」
「俺の作る物を真似て作って見なよ」
そう言って太さ20cm高さ5m程の光りの柱を立ててみせる。
アリエラが真似るが何時もと勝手が違うので手子摺っている。
「最初は地面から上へ伸ばす様にしなよ。慣れたらシールドやシェルターの様に一気に作れるから」
そう言って光りの柱に輪投げの様に光の輪を作って飛ばす。
「ちょっと待って! 何よそれっ!」
「何って、輪っかだよ。此れが出来る様になれば、ドラゴン討伐迄あと一歩だな」
「本当か?」
「ああ、スネークドラゴンとタートルドラゴンは此れが出来るから討伐出来たんだし、他のドラゴンやベア類でも同じ様に倒せるぞ」
「かあちゃん頑張れ! 無敵の結界魔法使いになれるぞ」
「おいおい、俺達の出番が無くなるじゃねえか」
「いやー、楽が出来るなぁ」
「魔法使い一人が強くても、仲間がサポートしてくれなきゃ長生きは出来ないだろうな」
「違いない。でも、アリエラの魔法が上達することは大歓迎だぜ」
標的の左右から光りの柱を立て、先端を曲げて押さえ込む方法や輪っかにして締め上げる練習に三日掛かった。
光の輪を飛ばしてもダメージを与えられないが、40m程度の距離なら任意の場所に光の輪を作ることが出来る様になり、締め上げる事も習得した。
俺が任意の場所に魔法を飛ばしたり発現させられるのが65m前後、使用魔法の魔力の2/3とは興味深い。
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