第62話 王都ラングス

 ブルンから北へ四日のハインツの街、王都の隣の領地とあって人の出入りも多いが、此処でも一悶着。

 テイムされている獣は冒険者と同行できるはずなのに、街に入れて貰えない。

 ビーちゃんを呼んで脅してやろうかと思ったが、この先は王都ラングスなのでハインツはパスする事にした。


 ハインツの事もあるので、王都ラングスの出入り口では慎重に振る舞ったが、王都に野獣を入れる事は禁止されているので、駄目だと一喝されてしまった。

 仕方がないので引き返し、フーちゃん達は草原で待機していて貰う事にした。

 翌日再び王都の入り口でミーちゃんを抱えて尋ねて見る。


 「これも一応野獣ですけど、テイム済みで登録もしていますし、猫の仔なら良いでしょう」


 ギルドカードの下に銀貨を忍ばせてしおらしく尋ねてみた。

 成猫にはほど遠い仔猫サイズなので、銀貨を握りしめながら咳払いと共に通してもらえたが、街中に野良猫は山程居るから当然か。

 これならフーちゃんは金貨を握らせれば通してもらえたかと思ったが、小さくしても目立つので無理かな。


 モーラン商会はローレンス通りの22番地と聞いていたので、冒険者ギルドで場所を確かめる事にし、序でに野獣の在庫を処分する事にした。

 ミーちゃんを肩にギルドの中に入ると、此処でもジロジロと俺とミーちゃんを見比べて鼻で笑う奴が多数いる。

 買い取り係の前に列が出来ているので、数が多いので解体場へ行かせろと横から声を掛ける。


 「あ~ん、初めて見る顔だが、ホーンラビットやマウスじゃあるまいな」


 「ドッグ系とウルフ系にホーンボアとバッファローだけど、列に並んでカウンターに出そうか」


 「あー判った、行け!」


 買い取り係が横の通路を指差すので、礼を言って通る。

 王都の冒険者ギルドといえど、周辺に大物はいないのか解体場はザンドラより少し大きい程度で、暇そうな解体係が俺を見て寄ってくる。


 「何を持ってきた?」


 「ファングドックとブラックウルフが殆どですが、少し数が多いかな」


 「ほう、珍しいな。王都周辺で狩ったのか?」


 「いえ、ホルムから王都へ来る間の草原や森で狩った奴ですよ」


 「ならいいや。適当に並べてくれ」


 お言葉に甘えて、マジックバッグから取り出し並べていく。


 ファングドッグ、13頭

 ハウルドッグ、11頭

 ブラックウルフ、7頭

 ホーンボア、1頭

 バッファロー、2頭

 チキチキバード、2羽

 レッドチキン、2羽

 コケッコー、2羽

 スプリントバード、2羽


 「マジックバッグ持ちかよ、それにしてもいい腕だな。少し時間が掛かるから食堂で待っていてくれ」


 ギルドカードを預けて食堂へ行き、エールを片手に空きテーブルに座る。


 「おい、お前。獣臭いから他所へ行け!」


 お~お、随分直接的に言ってくれるじゃないの。

 振り向けば俺と似た様な歳の男が肩を怒らせて睨んでいて、同じテーブルの男女がにやにやと笑っている。

 さしずめ、下っ端に度胸試しの喧嘩をやらせているって雰囲気だ。


 「仔猫が臭いって? お前は薬草採取が専門なのか」


 〈ブハッ〉〈ゴフッ〉〈鼻からエール吹いたじゃねえか!〉


 「文句があるのなら、下っ端に言わせずに自分で言えよ屑!」


 「ほう、猫しか使役獣のいないテイマーが言うじゃねえか」


 「御託はいいんだよ。俺は静かにエールを飲みたいんだ、下を向いて黙ってろ」


 屑の群れに向けて殺気を叩き付け、男達から目を逸らさない。

 偉そうに返事をした奴が何とか立ち上がったが、身体が震えて腰砕け状態でそれ以上は動けない様だ。

 他の奴等はテーブルの下に潜り込んだり俯いたまま震えている。

 周辺のテーブルに座る奴らも、喧嘩が始まったと嬉しそうに見ていたが、黙り込んで俺から目を逸らしてしまった。


 「喧嘩を売るのなら、相手の力量くらい見極められる様になってからにしろ」


 殺気を消して背を向けると、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がり食堂から出て行った。

 ただし、俺の周囲にいた奴等も他のテーブルに移動してしまい、無人地帯になってしまった。


 ビーちゃん達を呼び出せるかと声を掛けたが返事は無し。

 王都は大きな街なので、出入り口から冒険者ギルドまで15分から20位歩いた場所に有る。

 何も無い街の中まで、ビーちゃん達が飛んで来る事はないか。

 ビーちゃんの支援が望めないのなら王の威圧で心を挫き、腹が立つ奴等は叩きのめす事にしよう。


 査定用紙を貰ったが、チラリと見て了承し礼を言っておく。


 「兄さん、チキチキバードやレッドチキン等が全て2羽だったが、もっと狩れないか」


 「王都のギルドが、どの程度の値段で引き取ってくれるのか出しただけですよ。チキチキバードやレッドチキンは俺の食い扶持だから、欲しければ此奴に頼みなよ」


 膝の上のミーちゃんを撫でながら返事をしておく。


 呆れた様にミーちゃんを見て、首を振りながら帰って行く。

 査定用紙には、チキチキバード、2羽、160,000ダーラ

 レッドチキン、2羽、80,000ダーラ

 スプリントバード、2羽、110,000ダーラ

 コケッコー、2羽、50,000ダーラ


 鳥さんだけで400,000ダーラ、野獣を合わせると1,730,000ダーラとはね。

 鳥さん達は他の街より40%から50%高で買い上げてくれているではないの。

 人が集まるところは金持ちも多く、好む食材に金は惜しまないって事だな。 気楽に無理せず稼ぐには良い場所かもしれない。


 精算カウンターで預け入れ分を確認したら4,000,000ダーラ少々有ったので、査定用紙分も含めて全て換金して貰った。

 懐の金を合わせると10,000,000ダーラ前後有るはずなので、当分働かなくても大丈夫だ。

 ミレーネ様に蜂蜜を売ったら、暫くは王都見物をしてから今後の事を考える事にする。


 ギルドでローレンス通りと聞いたら王都の中心部で高級住宅街と教えられた。

 薄汚れた奴が近寄ると、直ぐに警備兵が飛んで来るので気を付けろと言われてしまった。

 つまりまともな格好で行けって事なので、少しマシなホテルを紹介してもらい今夜はお泊まりする事にした。


 先ず吊るしの少し上等な服を買い、それから紹介して貰ったホテルに向かう。  ルリエント通りのランシットホテル、冒険者では泊まれそうもないのは確かだ。

 ミーちゃんを肩に乗せ、今買ってきたばかりに見える服を着た若造が来たので警戒気味に「お泊まりでしょうか」と問いかけて来た。


 「2,3日泊まりたいし、明日はローレンス通りのモーラン商会を尋ねたいので手配を頼めるかな」


 「馬車の手配でしたら、銀貨2枚で別料金になりますが」


 「判った、朝食後に出掛けたいので頼む」


 「一泊銀貨2枚で、お食事は食堂で別料金になります」


 銀貨8枚を払い、使用人が部屋へ案内してくれたがチップが必要らしく、冒険者の泊まる安宿とは大違い。

 ビジネスホテルよりは広いが、シングルベッド二つにテーブルと椅子のみの部屋で、王都価格って所かな。


 久方ぶりに冒険者の居ない場所で食事をし、酒を楽しんでベッドで眠る。

 ざわざわした人の気配が気になるが、気配察知が上達したせいだろう。


 朝食後のんびりお茶を楽しんでいると手配の馬車が到着したと教えられて、辻馬車のお世話になる。

 ローレンス通りの22番地に建つモーラン商会、確かに冒険者スタイルでウロウロしたら叩き出されそうな場所だわ。

 辻馬車に銀貨を支払い、いざモーラン商会へ。


 お屋敷正面か裏口か迷ったが、友人達に渡す物と聞いていたので正面から伺う事にした。

 正面玄関で待ち構える男に、ミレーネ様から預かったカードを示し「シンヤが来たと伝えてくれ」と頼む。

 カードを見せたときから訝しむ気配は消えて玄関ホールに招き入れられ「ミレーネ様にお伝えいたしますので少々お待ちを」と丁寧な対応、確かに乱暴には扱われないな。


 暫く待つと執事のセバンスがやって来て、奥様がお待ちですと言うではないか。


 「奥様って、ご結婚されたのですか」と思わず聞いてしまったよ。


 「いえいえ、ミレーネ様と呼ばれるのがお嫌いな様で、奥様と呼ぶ様に命じられています」


 女性を名前で呼ぶのは、何処の世界も面倒事が付き纏う様で、心中お察し申し上げます・・・だな。

 サロンに招き入れられたが、仏頂面の糞親父も居るではないか。

 まっ、当主だから居て当然だがすっかり忘れていた。


 「モーラン会長様、跪かなければなりませんかねぇ」


 「シンヤ、必要在りませんよ。貴方は私の対等な取引相手です。でも、その前にお詫びをしておくわ」


 「お詫び、ですか」


 「父が蜜の事を話してしまったのよ」


 「花蜜の事ですか?」


 「そう、それも王城でね」


 この糞親父は! 何とか殺気を叩き付けるのを我慢して睨み付けるに止めたが、しれっとしていやがる。


 「王妃様に招かれてのお茶会の席で、お茶と蜜の話が出た際に父が自慢げに話してしまったのよ。しかも、止める間もなく、手に入り次第献上いたします何てベラベラと」


 「奥様、少々旦那様とお話しをしたいので、席を外して頂けませんか」


 俺の本気を悟ったのか、傍らに座るミーナを促し「ご自由に」と、にっこり笑ってくれる。

 ミーナはミーちゃんに見入っていたので《ミーちゃん、ミーナと遊んであげてね》と送り出す。

 メイドにも下がって貰い、糞親父と護衛だけになったので殺気、王の威圧を浴びせる。


 〈ヒッ〉っと言ったきり蒼白になり震える糞親父と、壁際に控える護衛達を一睨み。


 「冒険者はあんたの使用人じゃないぞ。俺が花蜜を広めるつもりが無いことを知っていたはずだ。何でもお前の思い通りになると思っているのか! 答えろ!」

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