第164話 帰還報告

 「相変わらずホイホイ移動するなぁ」

 「本当よね。もう隠す気もないのかな」

 「王国の連中には口止めしている様だけど・・・」

 「護衛の奴等は口が固そうだし、喋った所で信用する奴なんていると思うか」

 「そうだな。俺達だって見せられるまで信用できなかったからな」


 * * * * * * *


 「おーい、シンヤだ、元気か?」


 「おっ、帰って来たのか」

 「待ってたぜ」

 「成果はどうだ?」


 「皆を呼んでくるので、暫く待っててくれ」


 何かあったとも言わないので、安心して皆の所へ戻る。


 「どうだった?」


 「ドームの外に野獣が倒れていたので、魔法使いが復活したのかも」


 皆と野獣の倒れている場所に行くと、居残り組も出てきて野獣の回収をしたが、半分以上食われた物が転がっている。

 どうしたのかと尋ねると、落ち込んでいる火魔法使いを慰めがてらに酒を呑んでいたそうだ。

 皆が好い加減酔っ払っている時に野獣の咆哮が聞こえたので、覗き穴から見ると、倒れている野獣が地面の匂いを嗅いでいたそうだ。

 昼間暇潰しに外へ出た時の匂いを嗅いでいるのだろうと思ったが、自分達に気付いていないのかウロウロしていた。


 冒険者の悪ふざけ、酔っ払ってふらふらの魔法使いに気晴らしの魔法を一発撃たせたと。

 曰く「後ろから、野獣の尻を蹴り上げる気で一発撃ち込んでやれ」と嗾けたのだそうだ。

 酔って目の据わった火魔法使いを後ろから支えて、当たるかどうかの賭けをしていたが〈糞っ垂れ! 死ね!〉と言って撃ったファイヤーボールの爆発で、横を向いたブラウンベアの腹を吹き飛ばしたんだと。


 ズタボロのブラウンベアは金にならないと放置していたら、次々と野獣が食いにやって来るので、お食事中を狙って魔法を撃たせていたそうだ。

 しかも、酒を一気飲みさせての命中率を賭けてのお遊びだったのだが、段々酔ってなくても野獣に向かって撃てるようになったと馬鹿笑いしている。


 それを聞いた俺は脱力したし討伐組は呆れかえっていたが、仲間の魔法使い達は喜んでいるので良しとする。


 * * * * * * *


 大人数なので、備蓄のエールは無くなり、酒も残り少ないがありったけを出して三日間の休息を取る。

 その間は野獣討伐を兼ねて、ブラウンベアを食いに来た野獣相手の射的大会を開催。

 小物はそのまま放置して餌とし、交代で討伐する。


 復活の試験は土のドーム内からの正面攻撃だが、姿を晒してストーンバレットで野獣を挑発すると直ぐに出入り口を閉じる。

 怒り狂った野獣が向かって来るのを、隣の狭間から火魔法使いが迎え撃つ。

 鼻面か口内を狙って撃たせたが、外れても顔に当たるし撃つのに躊躇いが無いので合格。

 南回りの討伐行に参加させる事にした。


 最敬礼をして俺に礼を言うので、礼なら護衛の冒険者達に言えと返答すると、悪ふざけだった奴等が恥ずかしそうにしていて笑える。


 * * * * * * *


 南回りに出発して二日目にテラノドラゴンと遭遇したので、土魔法のドームを補強してから、アイスバレットを使ってドラゴンを挑発する。

 怒り狂い向かって来るドラゴンに対し、外れても構わないと言って復活のファイヤーボールを撃たせた。

 大きく開けた口を狙ったが鼻に当たり、益々凶暴化するテラノドラゴン。

 それを見て一緒に居る冒険者達が馬鹿笑いしていて、ドラゴン討伐とは思えない雰囲気。


 「一杯飲ませてやりたいが、在庫切れで悪いな」


 「いえ大丈夫です。未だ少し緊張していますが、ドームの中からなら安心して攻撃出来るので仕留めて見せます」


 そう答えてドラゴンと向き合う男に、怯えの表情はなかった。

 首を振るドラゴンを慎重に狙い、正面を向いた時にファイヤーボール撃ち出し口の中へ放り込んだ。

 半開きの口の中へと消えたファイヤーボールが爆発すると、テラノドラゴンの口から炎が吹きだし頭が後ろに仰け反る。

 一瞬ふらついたと思ったら横倒しになり、足が痙攣していたがパタリと落ちて動かなくなった。


 (テイム・ ・・・)


 「死んだな」


 「良かったなぁ、お前さんも此れでドラゴンスレイヤーだぞ」

 「魔法が射てなくなった奴がいたら、酔わせてしまえよ」

 「酔っ払いの魔法使いは無敵だからな」

 「そんな時は冒険者の護衛付き限定だぞ」


 嬉し涙を流す魔法使いに、声を掛ける気の良い奴等。


 * * * * * * *


 予定通り南から西へ向かい、北に向きを変えようとしている時に、タートルドラゴンと遭遇した。

 この頃になると皆はドラゴンになれていたが、タートルドラゴンは初めてなので誰が討伐するのかと顔を見合わせている。


 「デカいし、固そうだな」

 「やっぱり口を開けた時にしか攻撃が通用しないのか?」


 「フランとアリエラの出番だけど、此処はコランに手本を見せてもらおうか」


 「やっぱり口に一発ですか」


 「それが手っ取り早いけど、此奴は火も嫌いなんだよ。腹の下で一発爆発させてよ」


 「お任せをっ・・・と」


 〈ドォーン〉とファイヤーボールの轟音が響き、タートルドラゴンが一瞬浮かび上がった。


 〈オォー、凄え!〉

 〈でも縮こまっちゃったぜ〉

 〈益々攻撃不可能って感じだな〉


 「皆は離れて避難の用意をしていて。此奴は重いし頑丈だから、踏まれたりぶつかったら壊される恐れがあるので特に頑丈にな」


 コランに引っ込んだ頭の所へ大きな火の玉を浮かべる様に指示。

 熱さに耐えられなくなり首や足をを出すが、暴れ出す前に横顔にキツいファイヤーボール打ち込めと言っておく。


 ニヤリと笑ったコランが、大きな火の玉をタートルドラゴンの頭の所へ浮かべる。

 一つ目の火の玉が消え、二つ目の火の玉も消えようとした時に耐えきれずタートルドラゴンが首を伸ばした。

 待ち構えていたコランが顔の横にファイヤーボールを撃ち込むと、立ち上がり掛けたドラゴンがよろめいて座り込む。

 すかさず反対側の顔へファイヤーボールを撃ち込むと頭がだらりと落ちた。


 (テイム・タートルドラゴン・489)


 ふむー、目を回したってところかな。


 「死んではなさそうですね」


 「今なら口の中へファイヤーボールを放り込み放題だぞ。皆を呼んでくれ」


 集まって来た王国の魔法使い達に、攻撃をさせてみる。

 甲羅や足は全く攻撃を受け付けないが、首の付け根付近ならストーンランスが5、60cmほど突き立ったが其れ迄だ。

 次いでエイナにアイスランスを撃ち込んで貰うと、1.5m程突き立ち、タートルドラゴンがピクリとする。


 「フラン、顎の下から突き上げてみて」


 「ハイな」


 頭が揺れながらもふらりと立ち上がろうとするタートルドラゴンだが、地面からストーンランスが突き上がり、顎下から頭へと突き刺さる。


 (テイム・タートルドラゴン・468・413・375・311・・・)


 急激に数字が減っていくので脳に突き刺さったかな。

 足を踏ん張り、頭をストーンランスで持ち上げられた状態だが、力が感じられない。


 (テイム・タートルドラゴン・68・43・31・19・12)

 (テイム・ ・・・)


 討伐完了。

 魔法使い達も実際に討伐を見たので、今後の討伐や後輩の指導に活かせるだろう。


 南回りではドラゴン八頭と蛇一匹を討伐してデェルゴ村に向かい、防御線の手前で各パーティーは散り散りになる。

 それぞれが別々の場所から防御線を越えて村へと向かい、途中で再び合流して村長の家へ向かった。


 サブマスの所へ行くと魔法部隊の副隊長もいて、魔法使い達が全員揃っている事に安堵している。


 「長かったな。首尾はどうだ?」


 「魔法部隊の副隊長以外の者には聞かせられないな」


 護衛の冒険者達を外に待たせているが、それでも大人数だ。

 報告や配置を確認に来ていた者達を追い出してから報告する。


 「今回の討伐でドラゴンを25頭とスネークを四匹狩って来た」


 「索敵でドラゴン七頭と蛇一匹だったよな」


 「そうだ、其奴は約束通り王都のギルドへ、タンザの名で渡すよ」


 「それよりも街に向かってきているのか?」


 「そんな風には見えなかったな。俺達は防御線を越えて西へ三日行ったところを拠点に、西へ二日南へ三日、そして東へ二日と時計回りに回り拠点に戻った。北回りで討伐したのはドラゴン17頭とスネークは三匹。南も拠点から時計回りに進み、ドラゴン八頭とスネークを一匹討伐した。感覚としてデェルゴ村の北の方が多い様だが、南に居ない訳じゃない」


 「部隊の者達は如何でしょうか?」


 「立派なドラゴンスレイヤーだな。但し、ドラゴンの攻撃に耐えられる防御と、ベテランの冒険者パーティーに守られてとの条件付きだが」


 「有り難う御座います。国王陛下もお喜びでしょう」


 「だが、魔法使いの育成が甘いのは確かで、帰ったら宰相に改善を提案しておくよ」


 副隊長が深々と頭を下げる後ろで、サブマスが微妙な顔で俺を見ているが、何も聞くなよと目で制しておく。


 「野獣の討伐はどうなっている?」


 「大分落ち着いてきたが、大きい奴も多いのでもう暫くはこの状態が続くな」


 「それじゃ、魔法部隊の者は副隊長にお返しするので、冒険者ギルドと協力して討伐を続けてくれるかな」


 綺麗な敬礼で答えてくれたので、サブマスに俺は抜けると告げる。

 タンザの楯、火祭りの剣、氷結の楯、剣と牙、フランとオシウスの牙には、終わったら王都の家へ来てくれる様に頼む。

 此れだけの戦力を引き抜いたら、サブマスに恨まれるので仕方がない。

 俺一人なら、抜けても王国の魔法部隊がいるので問題あるまい。


 表で待たせていた冒険者達には、各パーティーに金貨一袋を約束したが、五人から七人組のパーティーだ。

 不満が出ない様に各人金貨を50枚ずつ渡す事にして、俺達の事に関して口止めもしておく。

 金貨の袋14個を目の前に震えているが「約束より随分多いが良いのか?」と聞いてくるので、俺達の事を黙っている口止め料込みだと言っておいた。


 「ペラペラ喋っても信じてはもらえない話だが、約束するぜ」

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