第163話 討伐行

 皆がゾロゾロとフラン達の所に集まると、フランの指し示す方向を見て溜め息を吐く。

 大きな蜥蜴ウィップドラゴンが三頭、何れも頭を撃ち抜かれて死んでいる。


 「流石はフランね、見事な腕だわ」

 「ね、ね、フラン、さっきの足場はどうやったの?」


 何時も勉強熱心なエイナが尋ねているが、ちょっと注意をしておく。


 「フラン、ウィップドラゴンは複数固まっている事もあるが、此奴の尻尾はさっきの高さなら楽に届いて叩き落とされるぞ。せめて周囲をシェルターで包んでからにしなよ」


 「忘れてた。凄い威圧と複数の反応につい」


 王国の魔法使い達にじっくりと見学させて、ドラゴンハウスで見た時との違いを実感させる。

 その間に、エイナがフランに足場作らせて真剣に見ているが、氷の柱だと足場が悪いので心配だ。


 ウィップドラゴンなら尻尾を丸めるとマジックバッグに収まるので、フランが預かるマジックバッグに入れさせる。


 「フラン、ドラゴンスレイヤーになった感想は?」と揶揄っておく。


 皆に感想を聞かれて真っ赤になるフラン、未だまだ修行が足りないね。

 次からは魔法部隊の者に討伐をやらせると決めて前進開始。

 だが思い通りに行かないのが世の常で、ロングドラゴンのお出ましだ。

 抜けた火魔法使いの、絶好の獲物なのに残念。

 コランに攻撃を任せる前に弱点を確認させ、魔法部隊の者から順に攻撃を許可する。

 口内攻撃が無理な位置なら、好きな場所を攻撃しろと煽っておく。


 アイスランスとストーンランスが乱れ飛ぶが、悉く跳ね返されるのを見て鱗の強度を思い出した様だ。

 ドラゴンハウスにも、防御力と弱点を記した看板が有るので知っているはずなのに、ドラゴンの威圧で忘れているのだろう。


 魔法使い達が諦めたので、エイナに全力のアイスランスの攻撃を頼む。

 頭部から1/3くらいの胴体しか攻撃出来ない場所なので躊躇っていたが、結界の中からアイスランスが胴体に吸い込まれていく・・・が、跳ね返された。

 ナーダも口を狙う位置には遠いので、ストーンランスがほんの少し突き立ってからポロリと落ちる。


 それを見たアリエラが手を振るのでOKサインを送ると、ロングドラゴンの下から光りが伸びて、胴体を一回りして輪になり小さくなっていく。

 片側八本の足の前なので胸部か首辺りなのだろうが、ギリギリと締め上げられた為にドラゴンが大暴れして、苦悶の咆哮に皆が耳を押さえる。

 慌てて地面から立ち上げた柱を使い、ドラゴンを押さえる様に曲げる。

 フランも手伝ってくれているのか、反対側からも土の柱が伸びてドラゴンを押さえつける。

 何とか転げ回るのを防ぎ、アリエラにもっと締め上げろと声援を送る。


 「こんなに暴れるなんて聞いてないわよ!」


 「ん、一気に締め上げなかったので、断末魔の一暴れなんじゃない」


 地面から伸びた二つの柱に押さえられて、アリエラの結界に締め上げられて漸く大人しくなり痙攣を始めた。


 (テイム・ロングドラゴン・249・223・194・168・・・)


 支配を使えば簡単なのだが、使役出来ると知られたら厄介なので黙ってドラゴンのご臨終を見守ろう。

 ドラゴンスレイヤーが増えて、彼等が後輩を指導すれば俺の目的は達成されるし目立たなくなる。

 みんな頑張れー♪ と心の中で声援を送っておく。


 (テイム・ロングドラゴン・41・33・24・・・)

 (テイム・ロングドラゴン・14・9・6・4・3・2・1・・・)ご臨終・・・南無。


 「アリエラ、もう大丈夫だよ! ドラゴン討伐お目出度う」


 そう伝えると、結界の中で力んでいたアリエラがヘナヘナと崩れ落ちた。


 * * * * * * *


 それ以後ドラゴンを発見する毎に、十分な攻撃位置につけるまで刺激しない様に移動するか、気付かれれた時には氷柱や土柱で移動の邪魔をしてからドームに籠もる事にした。

 十分な位置取りが出来てからドラゴンの攻撃に移るので、魔法使い達もドラゴン討伐に成功して自信を付けていった。


 二匹目のロングドラゴンはコランに任せて、残りの者は見物に回るなか、見事一発で口内に撃ち込み即死させたが、爆発力が大きすぎて頭が一瞬膨らみぺしゃんこになった。


 「あ~あ、勿体ない」

 「コランちゃん、張り切りすぎよ」

 「早すぎる子は嫌われるわよ」


 等と女性陣に揶揄われて真っ赤になり、それを見た男どもが爆笑している。


 「アーマーバッファローより遥かに強いので、魔力を上げすぎました」


 ロングドラゴンを空間収納に仕舞い、前進を開始して半日マスター、長い奴の匂いがしますとRが知らせてきた。


 《長い奴ってお肉が美味しい奴の事?》


 《マスターはそう言っていました。こっちの方から匂ってきます》


 《Rが鼻先で風上を示した》


 肩に乗るミーちゃんの毛が逆立っているので、スネークに間違いないのだろうが、ミーちゃんも毛が逆立つほど恐いのなら教えて欲しいね。

 軽いファイヤーボールを三連続で打ち上げ、危険・注意して集合の合図を送る。

 緊張した顔で集まって来る皆を結界の中に迎えてスネークがいると教えると、又々アリエラが顔を顰める。


 「なに、アリエラって蛇も嫌いなの」


 「あんたが教えてくれるのは大きい奴でしょう。そこいらにいる奴なら恐くないわよ」

 「それでファンナが毛を逆立てて唸っているのね」

 「蛇もって事は他にも嫌いな奴がいるのか?」


 「芋虫の大きい奴がね。テラノドラゴンと大差ない大きさだけど、ブヨブヨだよ」


 「そんな奴なら俺も嫌だな」

 「何も感じないけど何処にいるんだ?」


 「風上だよ。距離は判らないけどはっきり匂うんだ」


 「そうか?」


 皆鼻をクンクンしているが、俺もRに教えられなければ僅かな生臭さなど気にしなかっただろう。

 二度も蛇を討伐しているので匂いは覚えている。


 「言われてみれば、何となく生臭いというか・・・」


 「フラン、判るの」


 「子供の頃には蛇で遊んでいましたから」

 「で、その蛇って大きいのか」


 「ああ、風に乗って匂うので大きいと思うね」


 「パス! シンヤ任せたわよ」


 「アリエラ、土魔法使いか結界魔法使いが適任なんだよ。他の魔法使いだと口を狙わなきゃならないので、討伐が大変なんだよ」


 「かあちゃん頑張れ!」

 「アリエラ、シンヤがああ言っているんだ、首根っこをキュッと締め上げろよ」


 「良い事を教えようか、アリエラ」


 「なによ」


 「この間のお肉、アリエラが一番美味しいと言って食べていたのがスネークの肉だよ。見事に討伐出来たら一塊進呈するよ」


 「やるわ! 場所は何処なの」


 「アリエラは、怖さより食い気が先かよ」


 グレンの声に爆笑が起こる。

 皆の緊張がほぐれたところで静かに風上に向かって歩くが、先頭を歩く俺の後ろに各パーティーの斥候役が続く。


 「確かに生臭い匂いだな」

 「ああ、確かに生臭いな」

 「こんなに匂うなんて、どんな奴だろう」


 後ろでボソボソと感想を述べ合っているが7、80m先だぞ。

 風下から接近するので匂いが身体に染みつきそうだが50mを切った所で蛇の存在に気付く者が現れだした。

 優秀な斥候でも俺の半分近い距離にならないと察知出来ない様だ。


 アリエラとフランを連れて静かに接近したが、途中で気付かれたので即座に土魔法のドームに籠もる。

 覗き穴から見ると、姿が消えた俺達の所へ近づいて来る。


 「うわー・・・結界の中からは見たくないわねぇ」

 「こうも大きいと、背中がゾワゾワするなぁ」


 「感想は良いので、頭の後ろを一気に締め上げるんだよ」


 「判ってるわ。今度はヘマをしない、ワッ、と」


 グリーンスネークの頭の後ろに淡い光の輪が現れると一気に小さくなる。

 頭の後ろが2/3程に絞られると、のたうち周囲の物を巻き込んで大暴れ。


 「流石に大きいと暴れ方も凄まじいですね」

 「蛇は此れだから嫌なのよ」


 二人が感想を述べ合っているのを放置して、後ろで待機している全員を連れて来ると、結界のドームの中から暴れっぷりを見せておく。


 「此れで死んでいるのか?」

 「確かに蛇は直ぐには大人しくならないけど」

 「鶏だって、頭を切り落としても走ったりするからな」

 「それにしても凄まじい暴れっぷりだな」

 「グリーンスネークの立て札に、死後も暴れると書いてあったけど・・・」

 「それにしても、結界魔法であんな事が出来るなんてな」

 「ロングドラゴンの時も驚いたけど、凄い使い手だよな」


 * * * * * * *


 残る火魔法使い達と別れて西へ二日、北へ三日進んでから東へ二日と時計回りに周り、南へ進む事四日目、目印の柱が見えた。

 一回りする間に、ドラゴン四種17頭に蛇二種三匹を討伐して、魔法使い達もドラゴン討伐に自信を持った様だ。


 「シンヤ、あれってお前が立てた柱だよな」

 「右回りで一回りしていると思ったが」

 「あんたの方向感覚も相当なものね」

 「どうせ南も一回りするんだろう、彼処で2、3日休憩しようぜ」


 王国の魔法使い達も腕は上げたが、流石に疲労の色が濃いので鋭気を養う事にして、柱に向かう。


 最初に異変に気付いたのはRとLで、遠くから魔法の音が聞こえると教えてくれた。

 だが、その音は二度ほど聞こえただけで、それ以後聞こえない様だった。


 西側が頭の斜線陣で進む先頭は、剣と牙のホーキン達だがいきなり停止の合図を送ってきた。

 何事かと思い、ホーキン達の所へ向かう為に、三度のジャンプ。


 「どうした、ホーキン?」


 「一回だけだけど、ファイヤーボールの爆発音が聞こえたんだ」

 「確かに爆発音だったぜ」

 「皆が聞いたから間違いない!」

 「どうする?」


 「判った。暫く待っていてくれ」


 柱まで3、400mだろう、物陰に隠れる様にジャンプして近づくと、柱の近くに野獣が転がっている。

 爆発音は此れかと納得し、別れた時よりも大きくなっているドームの側へジャンプし、覗き穴から声を掛けた。

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