第162話 脱落
各魔法の上級者を選抜しているだけあり、見本を見て難なく同じ形状のドームを作る。
副隊長のムルダンが興味深そうに見ているが、エイナに全てのドームにアイスランスを撃ち込んでもらう。
土魔法と結界魔法のドーム10個のうち四個を撃ち抜き、残りは何とか耐えたが今にも崩れそうだ。
「コラン、少し高めに撃って押し潰してよ」
ニヤリと笑い、小さなファイヤーボールを連続して撃ち出す。
〈ドォーン、ドォーン、ドォーン〉と連続音が響き渡る。
全てのドームが壊れたので、もっと強固な物を作れと命じて、出来上がったドームをさらに強化させて再び攻撃してもらう。
今度はアイスランスとファイヤーボールの攻撃に耐えぬいた。
次にアリエラに氷のシールドを作ってもらい、ストーンランスを撃ち込んでもらう。
撃ち抜けたのは四人、次いで35m程離れた直径30cmの標的を撃ち抜けたのは二人。
土魔法使い二人と結界魔法使い三人が合格。
残りの者は、冒険者達の支援に回す様にとムルダンに伝える。
同じ様に氷結魔法使い火魔法使いに雷撃魔法使いの標的射撃だ。
火魔法使いは、一人を除いて爆発力命中率共に帯に短し襷に長しで一人だけ合格。
雷撃魔法使いは全員居残り。
氷結魔法使いも一人だけ合格で残りは冒険者の支援に回ってもらうと告げる。
見ていたムルダンががっかりしているが、魔法は当たらなければ意味がない。
対人戦なら十分な威力と命中率だが、ドラゴン相手では急所に当たっても威力がなければ役立たずだと伝える。
サブマスの所へ戻ると、剣と牙パーティーを呼びに行っていると教えてくれた。
待つ間に連れて行く魔法部隊の者達を護衛する、口が固くて信頼出来る冒険者パーティーを四組お願いする。
ムルダンと各パーティーのリーダーを呼び、俺の構想を伝える。
俺は単独行動。
火祭りの剣+結界魔法使い。
氷結の楯+土魔法使い。
タンザの楯。
フランとオシウスの牙。
剣と牙。
火魔法使い+結界魔法使い+冒険者。
氷結魔法使い+結界魔法使い+冒険者。
土魔法使い+冒険者。
土魔法使い+冒険者。
「氷結の楯は野営が心配なので、土魔法使いを一人連れて行った方が良いと思う。野営用のドームを追加で強化すれば安全だと思う・・・多分だけど。それ以外ならアリエラのドームで耐えられるだろう」
「それで良いと思うわ。道中土魔法使いさんには訓練をしてもらう事になるけど、誰が良い」
似た様な実力の二人を指差すと、一人が素速く志願したので決定。
「この組み合わせでバラバラに行動するって事か?」
「ドラゴンの生息域までは、各パーティーと王国の魔法使いで行動してもらい、その間に野獣討伐の練習もしてもらう事になる。ドラゴンの生息域に入ってからは、各パーティーの間に王国の魔法部隊の者達を挟んで行動する事になる」
「各パーティーは、横一列の状態で西に向かう事になるのか」
「余り間隔を開けられないだろうが、広く捜索する方法だとこうなる」
「確かにな、バラバラに探していては取りこぼしが多くなるからな」
「サブマス、此れからは王国の依頼で動く事になるので、今持っているドラゴンはタンザの名でオークションに出すが、それ以外は俺達と王国で貰うぞ。それと護衛に付く冒険者達には満足のいく報酬を約束するよ」
「仕方がないな。護衛のパーティーに、どの程度の報酬を約束してくれるんだ」
「最低でも各パーティーに金貨一袋は約束するよ」
「判った、そう伝えよう」
「ムルダンは、食料やマジックバッグを持って来ているのか」
「12/180のマジックバッグを十個預かって来ています。それぞれのマジックバッグに、10人で60日分の食料が入っていますので宜しくお願いします」
そう言ってマジックバッグ十個を差し出す。
王家の紋章入りマジックバッグは、未登録のうえ誰でも使える状態なので笑いそうになる。
まっ、ドラゴン数頭をオークションに掛ければ元が取れると思うが、ドラゴンのオークション価格がデフレを起こしそうな予感がする。
尤もマジックバッグに収まる小さい奴の話だが、俺がどの程度収納出来るのか試す事になりそうだ。
* * * * * * *
全ての準備が整ったので出発したが、総勢62名なので目立たぬ様に二グループずつに別れ、別々の場所から防御線を越えて西に向かう事にした。
防御線を越えて数十分も歩く間に合流して、俺達のパーティーの間に王国の魔法使いグループを挟み、斜線陣で森の奥へと向かう。
斜線陣と言っても隣のパーティーが見えていて、野獣を見つけると魔法使い達に討伐させる。
その間は斜めの前後に位置するパーティーがバックアップに付き、色々と攻撃のタイミングや位置取りなどを教える。
此処で誤算というか判っていた事だが、魔法使い達の疲労が酷い。
歩き慣れない森の中、冒険者でも恐怖を覚える巨大な野獣と対峙して討伐しなければならない。
対人戦闘とは違った恐怖に怯えながらも逃げ出せず、森の奥へ向かえばドラゴンと闘わねばならない。
歩みは遅くなる一方で、三日目に前進を諦めて大休止をする事にして、大きなドームを作り宴会をする事にした。
向かい合って二重の車座になると、ドラゴンの肉を提供して食い放題の焼き肉パーティーだ。
備蓄のエールの樽と酒をそこ此処に置き、勝手に飲めと言ってどんちゃん騒ぎを始めた。
* * * * * * *
ファングベア発見の合図で、各パーティー毎にドームや結界内に潜むと、攻撃担当の火魔法使いに激励の声が飛ぶ。
「城壁の狭間から狙っているのと同じだ! 気を静めて正確に狙え!」
「穴から腕を出すなよ。慎重に狙って撃てば、確実に倒せるんだからな」
「お前の方が強いのだから、気楽にやれ」
そうは言われても、結界を通して自分に向かって来る野獣の獰猛な姿に、震えが止まらない。
「いやー、中々の迫力だねぇー」
「頑丈な結界の中に居ると、安心感が違うなぁ」
「だな、帰ったら結界魔法使いを探すか」
「うむ、土魔法使いは競争が厳しくて、とてもじゃないが誘えないからな」 「おい手が震えて居るぞ! 撃つのを止めろ。此の儘では奴を怒らせるだけだ」
「ちょっと目を閉じて、深呼吸をしろ」
背後の冒険者に目を塞がれて撃つのを阻止された。
〈ドーン〉とファングベアが結界にぶち当たった音が聞こえて、身体がビクンと跳ねた。
「おーし、目を開けても良いぞ」
目を塞いでいた手が外れ恐々目を開けると、目の前に怒り狂うファングベアの姿。
思わず後退りするも後ろの男に阻止された。
「見ろよ、凄ぇ怒ってるぞ」
「そりゃー怒るさ」
「目の前にご馳走が居るのに食えねぇんだぞ。お前だって、目の前のエールが飲めなきゃ怒るだろう」
「違ぇねえや」
「あ~あ、シンヤが痺れを切らしたぞ」
小柄な少年にも見える男が、のんびりと結界から出て来る。
此の男と仲間の事は、国王陛下より見聞きした全ての事を口外禁止と、厳しく言われている、
こんな男が、王国に居たとは信じられない。
「おっ、肉弾戦の様だぞ」
「奴の方が、野獣より遥かに強いってのが不思議だぜ」
「テイマーって触れ込みなのに、あの魔法は何だよ」
「一人でドラゴンを討伐してくる筈だぜ」
「でもよ、一人でドラゴンと言うが、お前が奴と同じ魔法が使えたら、ドラゴンを討伐に一人で行くか?」
「おいおい、見くびるなよ。絶対に行かねぇよ!」
何でこんな時に馬鹿話が出来るんだ。
そして、その僅かな間にファングベアを短槍で殴り一突きで倒して、あっと思った時にはマジックバッグの中へと消えていた。
「おーし、結界を解除しても良いぞ」
ホッとした顔の結界魔法使いが、止めていた息を吐き結界を解除する。
「兄ちゃん、中々の結界だぞ自信を持て」
そうは言われても、王城の訓練ではこんな恐い思いはしなかったので、つくづく冒険者の神経を疑う結界魔法使いだった。
* * * * * * *
王家から派遣された魔法使い達は、勝手の違う野獣討伐行にも何とか耐えて成果を上げていた、
唯一人、火魔法使いは恐怖心を抑える事が出来ずに、護衛の冒険者達の指示に従っていたが攻撃だけが出来なかった。
付き添っている男達の意見に従い、氷結の楯と組んだ土魔法使いと入れ替えてみたが此れも駄目。
攻撃用の穴からでも突撃してくる野獣を見ると恐怖心が収まらず、震えて攻撃が当たらない。
太い柱を立てて目印とし、根元に地下室を作って拠点にする。
土魔法使いと結界魔法使いを入れ替えて、火魔法使いのグループを此処に残し、帰りに迎えに来ると告げる。
護衛の冒険者達に、報酬は他の冒険者パーティーと同じと約束する。
火魔法使いが半泣きで謝るので、碌な野獣討伐訓練をしていなかった王家の訓練方法に問題があるので、責める気はないと慰めておく。
アリエラやリンナとエイラ達は、若い頃から野獣討伐を始めて段々と慣れていったのだから、小さな事からコツコツとって言葉を思い出す。
帰ったらゴブリン討伐訓練からやる様に、魔法部隊のムルダンに命じておこう。
交代で野獣討伐をさせた結果が出て、心許ないがそれなりに成果が上がり始めた五日目の昼過ぎに、斜線陣の先頭を進むフラン達が警戒信号を出した。
全てのグループが立ち止まりフラン達を見つめる中、オシウスの牙をドームが包み、フラン一人がゆっくりと浮かび上がっていく。
散々立てた石柱を応用した柱の上で射撃位置に付くと、斜め下に向かってストーンランスを撃ち出した。
二度三度とストーンランスを撃ち込むと、周囲を観察し安全を確かめてから警戒解除の合図送ってくる。
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