第161話 応援部隊
「ギルマス、サブマスから警戒警報です」
「あ~ん、警戒警報だと。ドラゴンでも出たのかよ」
負傷の為に下がってきた冒険者から、書状を受け取り読み始めたが顔色が段々悪くなっていく。
書状を届けた男が、ギルマスの顔を面白そうに見ている。
「何か面白い事でもあるのか?」
不機嫌なギルマスの声に、慌てて下がろうとしたが呼び止められて逃げられなくなってしまった。
「腕の怪我なら、歩くのに支障はなさそうだな」
「えっ、へえ、まあお陰様で・・・へへへへ」
「なら用事を頼めるな。ヒュルザスのギルドへ書状を届けてくれ」
ギルマスの言葉に腕を抱えて痛そうに顔を顰めて、とっとと逃げ出さなかった事を後悔したが、書状と共に金貨を投げられたので一瞬で回復した。
「ありがてぇ。急いで届けやす!」
執務室を飛び出して行く男を見送り、急いでクリュンザと王都のギルド本部宛に同様な書状を認めると、下位ランクだが乗馬の上手い者に託して護衛をつけて送り出した。
* * * * * * *
ギルマスに命じられた男がヒュルザスのギルドに駈け込み、タンザのギルマスからギルマスにだと書状を受付に投げると、返事も待たずに食堂へ駈け込む。
エールを一気飲みすると、近隣でしか仕事に出られない低ランクの者達に向かって講釈を垂れる。
「おうお前等、今のうちに少しでも稼いでおけよ。タンザではドラゴンが討伐されたので、大騒ぎになってるぜ」
「本当ですか!」
「ああ、俺は怪我をしてサブマスに報告していた時に、斥候で森の奥へ行っていた奴が帰ってきてよ」
「斥候って事は、ドラゴンを確認しているんですね」
「慌てるなよ」
話を聞きに群がって来た低ランクの者達を悠然と見回し、優越感に浸りながらおもむろに口を開く。
「斥候に出た奴は、前回の時も単独で斥候に出て大物を狩りまくった凄腕でよ。帰って来た奴がサブマスの前に出したのが、なんとドラゴンよ」
「見たのですか!」
「ああ、俺もその場に立ち会って、テラノドラゴンとご対面さ」
「テラノドラゴンですか」
「テラノドラゴンって大きいと聞きましたけど」
「デカかったぞ。しかもだ、ドラゴンをしれっと出した奴はそれ以上に俺達を驚かせたからな」
おもむろに周りを見回し、声を潜めて続きを語り出す。
「テラノドラゴンで驚いていちゃ冒険者は務まらねぇや。アーマードラゴンとロングドラゴンにウィップドラゴンも出しやがった。しかもだ、ウィップドラゴンは四頭も並べて見せたのさ」
固唾を呑んで聞き入る者達から響めきが上がると、満足気に頷いて最後の言葉を吐き出す。
「ドラゴンだけじゃないぞ、クリムゾンスネークをドンと置かれた時には小便をちびったぜ」
怪我をして討伐から外れたが、怪我の憂さ晴らしが出来たので上機嫌でエールのお代わりをもらう為に立ち上がる。
* * * * * * *
クリュンザに駈け込んだ急使は、ギルドに駈け込むとタンザのギルマスからクリュンザのギルマスに急報だと書状を投げ捨てると、即座にギルドから飛び出して行った。
受付の男がぶつくさ文句を言いながら書状を拾い上げると、ギルマスの執務室に向かった。
書状を開いたギルマスが、一大事だと慌て出すのに時間は掛からなかった。
即座にクリュンザの領主マルコム・ファラネス伯爵に書状の写しを作り送った。
防御線で指揮を執るサブマスにも、タンザでドラゴンが討伐されたので油断をするなと注意喚起をする。
必要な所へ注意喚起の書状を送り終わり、改めてタンザからの書状を読み直して唸り声を上げる。
テラノドラゴン、アーマードラゴン、ロングドラゴンが各一頭。
ウィップドラゴンが四頭とクリムゾンスネーク一匹。
此れだけのドラゴンが、タンザの西にあるディエルゴ村の奥で討伐されている。
一ヶ所から此程のドラゴンが討伐されたのなら、ヒュルザス、タンザ、クリュンザに溢れる野獣の後ろに、相当数のドラゴンが居る恐れがある。
救いはディエルゴ村から西へ四日の距離で討伐だとの事で、今日明日にドラゴンが現れる事はなさそうだということ。
野獣討伐に参加している魔法使いを含むパーティーの中から、腕の良いパーティーを厳選してドラゴン討伐部隊を編成する必要がある。
強制招集に応じたパーティーや個人名を控えた一覧表を取り出し、魔法名とどの程度の腕かと頭を悩ませる。
* * * * * * *
タンザの楯の隣りに陣取り、RとLを前進させて警戒させる。
野獣が近づいて来ると知らせてくれるので、その間はのんびり昼寝をして鋭気を養う。
交代の為に俺の持ち場を通る奴等が呆れた様に見ていくが、長丁場になるのに緊張なんてしていられない。
この強制招集が終わればドラゴン討伐に乗り出す筈で、俺も指名されるのは間違いない。
討伐した野獣を処分する為に村長の家へ顔を出すと、フランとオシウスの牙が来ているとサブマスが教えてくれた。
それとは別に配置図を指さしながら、氷結の楯と火祭りの剣のリーダーも俺を探していると教えてくれた。
指さした場所は俺の配置からそう遠くない場所だったので、獲物を放り出した後で氷結の楯の持ち場へ向かった。
「シンヤ、久し振りと言いたいが・・・」
「それ以上は言わないで良いよ」
「全然変わってないわね」
「ミーちゃんも変わりないようね」
「タンザって何時もこうなのか?」
「ん~、前はもう少しマシだったけど、今回は広範囲に溢れている様だな」
「奥にはドラゴンが居るそうね」
「それそれ、王家も魔法部隊をタンザに送るって噂になっていたぞ」
「俺達が王都を抜ける時に、そんな噂が出回っていたな」
「で、調子はどう」
「ふふーん。確り練習をしているので、問題なく狩れているわよ」
「おお、ブラウンベアを一撃で倒せる腕になったな。後はドラゴンに出会わなければ問題ないだろう」
「それじゃー此れを見本に、アイスランスを作る練習もしておいてね」
そう言ってストーンランスを地面から突き上げて見せる、
約20cmの太さで長さ約8mのストーンランスに驚いているので、もう一つ、10cmの太さに4mの長さのストーンランスを見本に置いておく。
「氷の堅さじゃなく、石の硬さを一瞬で作れれば、ドラゴン討伐も夢じゃないよ。以前にも似たような物を作っただろう。硬さは攻防共に有効なのをを忘れないで」
「あんたには何時も教えられてばかりね。暇な時に練習しておくわ」
オルクやリンナとも情報交換をしてから、火祭りの剣の所向かう。
此方は〈ドォーン〉と大きな音を立てているので、討伐現場は直ぐに判った。 爆発音と舞い上がる獲物と土煙、コランは相当腕を上げている様だ。
「フェルザン、調子はよさそうだね」
声を掛けたら、振り向いた全員がマジマジと俺を見ている。
「シンヤさん・・・ですよね」
「あっ、それ以上言わないで。エルフから魔力や加護の強い者は長命だと言われたよ。コランも腕を上げたね」
「はい、シンヤさんの教えを守って命中率重視、獲物は吹き飛ばすか口内に打ち込んで倒しています」
「何回くらい使える?」
「約50回ですね。この配置だと数発撃って次の獲物が現れる迄に回復している感じです」
「爆発力の調整は」
「お任せ下さい。三日程前にアーマーバッファローを吹き飛ばしてから口に一発です」
「俺達は何もやる事がなかったぜ」
「群れの獲物を吹き飛ばして、逃げ遅れた奴の止めを刺すのが俺達の仕事になってしまったよ」
俺の配置場所を教えて持ち場に戻り討伐を続けていたが、八日めにタンザの楯共々サブマスに呼び戻された。
サブマスの居る村長の家へ行くと、フランとオシウスの牙も居るではないか。
ちょっと嫌な予感がするなと思いながらも、アリエラとフランが情報交換をしていると、氷結の楯と火祭りの剣のメンバーも現れて予感的中。
「揃った様だな、集まってもらったのは他でもない。お前達に王家からドラゴン討伐の依頼が来ている」
やはりそうかと思ったが、ドラゴン討伐が出来るだけの知識を教えているので問題はない。
問題はサブマスの陣取る部屋の壁際に立つ男達だ。
サブマスがドラゴン討伐を告げると同時に、一人の男が俺の前に立ち綺麗な敬礼をする。
「ウィランドール王国魔法部隊副隊長、ムルダンであります。国王陛下より、シンヤ殿の指揮下に入る様にと命じられて参りました」
サブマスがビックリした顔でガン見してくるし。皆は身分証の事を知っているので面白そうに俺を見ている。
こうも堂々とバラされると誤魔化しようがないので、腹を括る。
「俺の指揮下に付くのなら、魔法部隊を連れてきているのだな」
「はっ、火魔法九名、土魔法七名、雷撃魔法四名、氷結魔法五名に結界魔法使いを三名、各部隊の上位者です。彼等とは別に、治癒魔法使い八名とルシアン嬢が別棟で治療にあたっています」
やれやれだが、使える者は親でも使えとの教えもあるので、扱き使う前に実力確認だ。
「サブマス、魔法部隊の実力を確認して連れて行く者と残す者に振り分ける。残す者は魔法使いの居ないパーティーに組み込んでもらえるかな。それと、ホーキンって奴がリーダーの、剣と牙ってパーティーが居たら呼んでおいてよ」
「おっ、おう判った」
何か言いたそうだが、サブマスの好奇心を満たしてやる必要はないので無視する。
魔法部隊の者達を連れて村から少し離れた場所に移動して、土魔法使いと結界魔法使いにドームの見本を見せて作らせる。
通常の半球状ではなく、バレーボールの上1/3を置いた様な薄い皿形のドームだ。
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