第2話 冒険者登録

 野営用結界の中に戻り、掌を見て(スキル)と念じてみる。


 〔北条真也、28才、テイマー、能力1、アマデウスの加護・ティナの加護、生活魔法・魔力9/10、索敵・初級、気配察知・初級、隠形・初級〕

 魔力が9/10って事は、さっき結界を張るのに一つ使ったって事か。


 (ティナ、索敵とか気配察知って何?)《野獣討伐の為に必要な基本スキルです。隠形は気配を消して、野獣から身を守るスキルです》

 (野営用結界魔法板の強度を上げられるの?)《無理です。現在の物は冒険者用の物で、大きさや強度を上げたければ新たに買って下さい》


 用無しなのに野獣討伐をしろってのか、神様ってより鬼畜だな。

 夢なら覚めて欲しいが、腹の虫が泣いて飯を要求するので現実だと思われる。

 袋から取り出したパン?は、ナイフの背で叩くとコンコンと音がする代物で、バゲットより遥かに固そう。

 干し肉はカチカチだし、袋の底に有った固形物は・・・(これって何? ・・・)

 だんまりとは、答える必要なしって事か。


 取り敢えず水が・・・生活魔法ってアニメやラノベでお馴染みの奴だよな。

 ちょっとワクテカ気味に〈フレイム〉と呟いてみると、身体の前に炎が浮かんだ。

 次ぎにウォーターだが、カップを用意して〈ウォーター〉うおーっととと、溢れかえってるぞ。

 ライトも使えるし、クリーンは・・・汚れた時でいいか。


 立っているのも疲れると思い座るが、座布団や椅子どころか寝具が無い事に気づいた。

 陽が高いのに大して暑くないって事は、夜は冷えるに違いないと思い周囲の草を刈り寝床作りと薪を集めなければならない。


 (ティア、周辺に危険な野獣って居るの?)・・・

 (ティア、聞こえてる? ・・・ティア)


 参ったねぇ、もう居なくなってしまった様だ。

 余計な者には、親切丁寧な対応は必要無いって事か。


 取り敢えず、今夜の柔らかな寝床の為にも草刈りをしなきゃならないが、周囲に獣が居るかいないかだけでも知りたい。

 固いパンをナイフで削り、水に浸して何とか食べて外に出てみる。

 索敵や気配察知ってどうやるだ?


 野営用結界の中から周囲を探り、結界を出ても慎重に行動する。

 野犬の2,3頭なら槍でも・・・無理だろうから、君子危うきに近寄らずの精神でないと、死にそうな予感がする。


 結界の近場の草だけを槍先で刈り、一抱え程になると結界の中に放り込んでいく。

 周囲を警戒しながら、立ったまま槍先で草を刈るのって難しいので大汗を掻いたが、何とか横になっても痛くならない程度に出来た。

 細いが枯れ枝も数本集められたので満足し、結界の中に引き籠もる。


 落ち着いて見れば、野営用結界って3,4人用のテントみたいな雰囲気だな。

 小枝を積み上げて火を付け、シェラカップ紛いのカップに水をためてお湯を沸かす。

 何時までも此処に居る訳にもいかないが、いきなり草原を歩くのも危険極まりない。

 取り敢えず食料がもつ間は、此処で何が出来るのかじっくり考えてから行動する事に決めた。


 固いパンが8個に干し肉が16個と固形物も16個、舐めてみると塩味がするのでスープの素と思いお湯に入れてみた。

 ついでに干し肉を使って混ぜ、カチカチの肉を少しでも柔らかくなる様工夫する。


 * * * * * * * *


 これからの事を考えているうちに寝てしまった様で、寒くて目が覚めた。

 見慣れた月の三倍くらいの大きさのオレンジ色の月が、煌々と周囲を照らしている。

 ガサゴソ音が聞こえるが、獣が結界の中に居る俺に気付かない事を祈りながら槍を手元に引き寄せる。


 姿を現したのは猪・・・に角が生えている。

 対象物を見て(テイム)〔ホーンボア、19〕・・・角猪か、見た目通りの名だな。

 19がテイム出来る数字と思われるが、能力1の俺には到底無理。

 と言うより、槍一本で闘っても蹴散らされてしまうだろう。

 テイム出来るのは瀕死の状態で、命が尽きる寸前でないと無理そう。


 俺の居る結界の中は見えていない筈だが、灯りを灯したらどうかと思いライトを灯してみたが無反応。

 しかし中が明るくなると外が見づらいので消し、どんな獣が現れるのか観察する事にした。


 次ぎに現れたのはウサギだけど大きいし角が有る(テイム)〔ホーンラビット、6〕

 柴犬くらいの大きさのうさちゃんだが、でっぷり太って凶悪気な目付きに鋭い角が生えている。

 数値が6って事はうさちゃんもテイム不可能、固い干し肉より美味そうだけど勝てる気がしない。


 草叢が揺れているので目をこらすがよく見えない。

 暫く見つめていると、視界の片隅に何か動く物がいる。

 鼠だ! 見た目は普通・・・のドブネズミだが倍くらいの大きさでしきりに匂いを嗅いで結界に近寄ってくる。

 (テイム)〔マウス、4〕うん、確かに鼠だが数字が4か。


 叩きのめしたらテイム出来そうだが、鼠を使役してもなぁ~。

 ネズ公を見ていて閃き、結界の側で鼻をヒクヒクさせている奴の正面にしゃがむ。

 大きく息を吸って〈ワッ〉と脅して見たが何の反応もなし。

 中の光りも音も外部に漏れない、中々優秀な結界の様で一安心。

 でもオークやバッファロー程度? の攻撃に耐えられるだからあまり安心も出来ないかな。


 揺れていた草叢から出てきたのはスライムで(テイム)〔スライム、5〕

 テイムの練習用には丁度良さそうだが、鼠より数字が大きいってなんだよ。


 一晩中観察していて、ホーンボア、ホーンラビット、マウス、スライム、フレイムドッグ、ゴブリン、グレイウルフ、ビッグキャットを観察できた。


 ホーンラビットは、テイム出来る数字が5から9と個体により変わったが、スライムやゴブリンでも同様なので今後の参考になった。

 スライムで3から9迄で大きい奴ほど数字が大きかった。

 ゴブリンは7頭の群れで数字は7から15だが、6の個体は明らかに未成熟で子供のようだ。

 マウスは4から8、フレイムドッグは18から23、グレイウルフは29から38とフレイムドッグの上位種に相応しい数字だ。

 特に38と読めた個体は一際大きく群れのボスに間違いないだろう。

 ビッグキャットは漆黒でトラを巨大にした感じだが、47の数値を見て寒気がした。


 夜が明けるのを待ってこそこそと焚き付けの薪を集め、後は結界に籠もって眠り夜に獣の観察だ。

 結界の中とは言え、三日も獣が近づいて来るのを待つのを続けると、何となく気配と言うか居る方向が判るから不思議。

 これも神様の加護のお陰かなと思うが、加護より元の世界に戻してほしいんだが、あれっきり呼びかけても音沙汰なし。


 マウスの様な小さな獣でも居るのが気配で感じられるので、四日目には隠形を試すべく結界の外で待つ事にした。

 と言っても結界の壁際に立ち、即座に結界内に飛び込める体勢である。

 間に合わなくても倒れたら結界内に入れるので死ぬ事はないと思う、多分だけど。


 大物は相手にしたくないので、マウスとスライムにホーンラビットが相手だ。

 短槍を杖代わりに持ち、(俺は立木、俺は立木)念仏代わりに唱えながら身動ぎもせずに待つ。

 キャンプでは近くの山や川へ遊びに行くと、出会う小動物や犬猫鳥等を驚かさない様に、木化けの真似事をしていたのが思い出される。


 しかし、猫の仔一匹どころか鼠一匹近寄ってこない。

 一晩時々休憩をしながら立ち続けたが駄目。

 立っている場所は風下なので匂いではない筈だし、固いパンを齧りながら今夜も続けるかどうしようかと考えていて閃いた。

 餌だ! 周辺の草を刈ったしマウスの餌もない、スライムが何を食べるのか知らないが取り敢えずカチカチのパンを置いてみる事にした。

 パンの欠片を置き、一晩立ち尽くしたが全然近寄ってこず気配を感じただけの空振り。


 七日間続けたが、索敵が30m程度と気配察知が20m前後と少し上達しただけ。

 固いパンが残り3個に干し肉が5個、食料切れになる前に人の住む所に行かねば飢え死にだ。


 * * * * * * * *


 槍と剣を交差した上に二重丸の楯を描いた冒険者ギルドの看板。

 街の入り口で聞いたとおりだ。


 無愛想な警備兵が、仕事を探しに来たのなら冒険者ギルドに登録しろと教えてくれた。

 街に入る入場料銅貨2枚を受け取った時に、指をちょいちょいとされて追加料金を要求されたけどな。

 情報には対価が必要なのはどの世界も同じかと可笑しかった。


 情報料の銅貨1枚で、ギルドカードを持っていれば入場料が無料と聞いたのは収穫。

 西部劇で見掛ける様なスイングドアを押し開けて中に入ると、正面の受付カウンターのおっさんと目が合う。

 ラノベじゃ可愛いお姉さんの筈なんだが、現実は厳しい。


 「冒険者の登録をお願いします」


 「こに必要事項を書いてくれ。それと、登録料銅貨2枚な」


 差し出された用紙を見て首を捻るが一応読める、と言うか意味が判る。

 書けるのかなと思ったが日本語で考え書いてもても、ギリシャ語かロシア語みたいな文字をすらすらと書けた。


 名前はシンヤ、年齢28才で、授かった魔法とスキル欄・・・ここは恥ずかしいので無しだな。

 出生地は・・・森の中で良いや。


 銅貨2枚を添えて用紙を差し出すと水晶球を出して手を乗せろと言われた。

 これってラノベやアニメでお馴染みのやつだよな。

 ワクテカで手を乗せると、おっさんが(ん?)と言って用紙と水晶球を見比べている。


 「何が28だ、18だろうが。読み書きが出来ないのか・・・んーとテイマーで能力1か、ちょっと恥ずかしくて書けないよな。でも何で能力1で加護が付いているんだ! お前は何処から来たんだ?」


 「森の家から来たんだけど、東に向かって歩けば街道に出るって聞いてたから・・・」


 「犯罪歴が無いので良いか。登録地のザンドラにしておくぞ」

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