第135話 ブラックウルフ

 「野獣をテイム出来る条件の話しだよ。テイムしたい野獣を屈服させる必要があるんだ。野獣があんたに勝てないと思ったときに初めてテイム出来るのさ。だからゴブリンは全員テイム出来る資格は有るが、ゴブリンの反抗心を叩き潰さないとテイム出来ないってのはそう言う事さ。この意味が判っていれば、フォレストウルフやキングタイガーだってテイム出来る」


 「屈服させるとか反抗心を叩き潰すって?」


 「俺の場合はぶん殴り、完璧に弱らせてからテイムを二回呟く。二人はテイムした時に何か見えただろう」


 「ああ、淡い光りの紐で繋がった様に見えたな。でも何もしなかったけど」


 「それは小さくて反抗できない状態だったのだろう」


 「たしかに、首根っこを掴んで、やるよと言って投げて寄越されたからな」

 「私の時もそうよ。きゅんきゅん鳴いていたわね。小さいうちになら簡単にテイム出来るって教えてくれたわ」


 「で、二人はテイムした後で名前を付けたかい」


 「野獣に名前を付けるなんてしないわ」

 「ああ、それに一頭だけだけだからウルフでいいだろう」

 「そうね、私もカリオンって呼んでいるわ」


 「テイマーはテイムした野獣に名前を付ける事によって、結びつきをより強くするんだ。試しに名前を付けてみなよ」


 「なまえって、何時も呼んでいるカリオンじゃ駄目なの?」


 「呼べば振り向くしついてくるが、それは習慣で名前として認識していないよ。お前は今日からカリオンだって言ってみな」


 俺の言葉に戸惑いながらも「お前は今日からカリオンよ」と口にした。


 「どんな感じだ?」


 「どんなって・・・テイムした時の様な感じがしましたけど?」


 「その状態がテイマーと使役獣が本当に繋がった状態なんだよ。その状態になってから訓練をすれば、いろいろと楽な筈だよ」


 「明日試してみます」


 「お前はウルフだぞ」


 ゴランが慌てて名前を付けて、何か真剣に考え込んでいる。


 「あんまりよく判らんけど、言われてみればそんな気がするな」


 「忘れちゃいけないのは、別な奴に替えるときだ。もっと強力な野獣が手に入って其奴をテイムしたいとき、二頭目はあんた達には多分無理だろう」


 「どうして、俺も加護を授かっているぞ」


 「それは後で試してくれ。でだ、次の奴が欲しいがテイム出来ないときは、今従えている奴を解放しなきゃならない」


 「解放・・・?」


 「そうだけど、聞いて無い?」


 「いえ、何も聞いていませんけど」


 「此れを口にするときには、解放する奴の手足を縛ってから〔テイム・解放〕って呟けばテイムが消えるんだ。以前俺に教えを求めた奴が、此れをしなくて解放した為に、テイムしていた野獣に襲われたからな。今従順に従っているからって、テイムを解放したらただの野獣だということを忘れるなよ。解放して縛ったまま放置する訳にはいかないので、確実に殺せ。忘れたら自分が死ぬことになるぞ」


 三人が生唾を飲み込み真剣に頷いている。


 「もう一つ、テイムした使役獣は大きさを変えられるので、やり方を教えるからやってみな」


 「大きさを変えられる?」

 「そんな馬鹿な」


 「ミーちゃん、元の大きさに戻れ」


 俺の肩に乗るミーちゃんが皆の前に飛び降りると、仔猫サイズからゆっくりと大きくなり、尻尾の先端まで1mちょいの見事なふわふわ尻尾の猫になる。

 猫にしては名前の由来の牙が目を引き、ただの猫と違い野獣だと判らせる。


 「うっそーぉぉ!」

 「まさか」

 「えぇぇぇー」


 「テイマーなら使役獣を小さく出来る。ウルフやカリオンはそのままだと邪魔だろう、小さくしておけば怖がられなくて便利だ」


 「俺の知るテイマーは誰も知らないと思いますけど」

 「私も初めて知りました」


 「まっ小さくすると、舐めて揶揄って来る奴がいるからな。その辺は要注意だ」


 「それでフォレストウルフは大きいままなのですね」


 「ああ、俺は小僧っ子に見られて時々揶揄われるんだ。此奴等がいると街道や草原で絡まれるのが減るからな」


 「ファングキャットは何故小さくしているんですか?」


 「仔猫なら何処へでも連れて行けるだろう。それに、ミーちゃんは人族相手なら相当強いぞ」


 牙と爪をよく見せてやると、納得して頷いている。


 * * * * * * * *


 のんびり朝食を済ませ、陽が高くなってから二人がどうやって使役獣を使っているのか、実地に見学することにしてゴブリンを探す。

 RとLに「ゴブリンを探せ」と口頭で命じて送り出す。


 「そんな簡単な命令で使役出来るんですか?」


 「言っただろう。俺の加護は特殊なんだって。俺が教えられるのは基本的なテイムと解放だな。それ以外は、知り合いのテイマーのやり方を少しだけ教えられる」


 歩くときに身体の右か左を歩かせる事から決めさせる。

 座れ、伏せ、立て、等基本的な事を口頭で命令しながらやらせてみる。


 「何か、今までと感覚が全然違いますね」

 「俺の命令をよく理解している感じです。俺が今までやってきた事って何だったんでしょうね」

 「そうそう、2、3度同じ事をさせたら覚えるなんて信じられません」


 「テイマーの事を教えてくれた人って、ひょっとして牛馬を扱っているテイマーじゃなかった?」


 「よく判りますね」


 「んー、野獣の扱いを知らず、テイムした後は適当に動かせればそれで良しって教え方だと思ったからさ。冒険者にテイマーが少ないってのも有るだろうけど、警戒や攻撃なんて必要無いしさ」


 昼食後使役獣を思った方向へ前進させる事や獲物を襲わせる練習に切り替える。

 Rとグレイウルフ、Lをカリオンに付き添わせ、索敵と獲物を発見したときの動きと、静かに引き返す時と襲うときの合図等を教える。

 練習相手はゴブリンで、居場所はビーちゃんに教えて貰っているので極めて効率がよい。

 ただ、ゴブリンを討伐している時に、主人である自分を守る事などを教えられないので、攻撃と防御は自分達で考えてくれと言うに留める。


 夕食後、それぞれの使役獣を小さくしたり元に戻す練習をさせたが、野獣の気配に気づき一人で野営用結界を出る。

 陽が落ちると野獣は街の近くにも出没するので油断ならないが、今回は好都合だ。

 久し振りに隠形を使い、索敵に引っ掛かった野獣に近づいていく。


 索敵に引っ掛かったのはブラックウルフの群れだが、10数頭と数が少ない。

 支配を使って静かにさせ、若い個体を三頭縛り上げ薬草袋で頭を包んで転がしておき、残りを刺し殺してマジックバッグに放り込む。

 三頭を野営用結界の所まで運んで転がすと三人を呼び出す。


 「ブラックウルフを生け捕ってきたのですか」

 「流石はシンヤさんですねぇ」

 「どうするんですか?」


 「ん、使役獣が欲しいだろうと思ってね。エライザはテイムの経験がないのだから、一度経験しておくのも悪くないだろう」


 「でも、私は能力19ですよ。ブラックウルフなんてテイム出来るんですか」


 「普通なら出来ないだろうな。でもこの状態なら出来るのさ。弱らせて、エライザに勝てないと思わせなければならないけどな」


 「私じゃ無理ですよ」


 「あのなぁ~、エライザより弱い野獣なんて先ずいないぞ。他のテイマーが使役獣を手に入れるには、多分罠で捕まえていると思うな。それを押さえつけて殴ったりして弱らせ、テイムしていると思う。足を縛り頭に薬草袋を被せて暴れられない様にしているんだ、これ以上の条件なんて先ずないぞ。痛めつけるのが難しいのなら、ロープで首を絞めろ。ゴラン、手伝ってやれよ」


 「ロープで首を絞めたら死ぬぞ」


 「馬鹿な事を言うな、絞め殺したらテイム出来ないだろうが。ゆっくり首を締めれば息が出来なくて弱るから、死ぬ前にテイムすれば良いんだよ」


 ロープを持ってないので俺の装備を貸してやる。

 (テイム・37)

 (テイム・40)

 (テイム・35)


 ゴランが40と出たウルフの首にロープを巻き、じんわりと締めていくと足を縛られていても暴れ出し弾き飛ばされる。

 訓練用の棒を取りだして、足の間に通してグルグル巻きにして再度挑戦だ。

 ロープが首に食い込み、暴れていたが力が抜けていくのが判るので(テイム・22、20、17、14)


 「エライザ、テイムしろ!」


 「えっ、えっえっ」


 「テイムを二回言え!」


 「てっ、テイム・・・テイム」


 「ゴラン、ロープを緩めろ!」


 (テイム・6、5,4、3)


 「エライザ、もう一度だ、早く!」


 「て、テイム・テイム」


 間一髪、淡い光りの紐が繋がったのが見えた時は、死ぬ寸前だった。


 「エライザ、名前を付けろ」


 「えっ、なっ、名前・・・ですか」


 面倒だねぇ~。


 「マリエン、考えてやれよ」


 エライザはマリエンに任せて、ゴランにどうすると聞けば欲しいと言う。

 試しに二頭目をテイムさせたが無理だったので、グレイウルフを解放させる。

 ウルフの両足を縛ってから首にナイフを突き立てて殺したので、教えた事をきっちり覚えている様だ。

 ゴランも二度目で要領が判っているので首を絞め、動きが鈍ったところでテイムを呟き無事にテイム完了。

 名前はブラックと何の捻りもない名付けをする。

 マリエンは少し考えたが、カリオンを手放す事を決心して解放の準備を始めた。


 ブラックウルフ三頭のテイムが無事終わり、名付けも済んでやれやれである。

 三頭に俺特性のクリーンを掛けて匂いを消しておく。

 野営用結界の中へ入れてお座りや待ての訓練をさせるが、すっかり疲れてしまい一人自棄酒を飲む羽目になった。

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