第136話 法螺話
ゴランが〔ブラック〕マリエンが〔ウル〕でエライザが〔ファング〕と名付けた使役獣を連れ昨日と同じ要領で訓練を始めたので、俺はのんびりお茶を楽しむ。
RとLに周辺警戒を頼んでいたのだが《しらない人族が近づいて来ます》とLから連絡が来たので上空へジャンプ。
降下しながら確認すると、ゴラン達に近づいている集団の一人が上を見ているじゃないの。
男五人に女一人のパーティーで俺の気配を察知したのならグレンに違いない。
グレンの側にジャンプすると、ビックリしている。
「お前、空を飛べたのか?」
「なんであんたがいきなり現れるのよ!」
「おお、あの大石はお前の野営用結界だろうと思ったが、人数が多いので警戒していたのに、何処に潜んで居たんだ?」
「それは後で話すよ。今テイマーを三人ほど泊まらせていて、彼等の使役獣の訓練をしている所なのさ」
「相変わらず面倒見がいいのね」
「グレンも相変わらず勘が鋭いね」
「お前は何時も俺の頭の上に現れるんだな。で、どうして空を飛べるんだ?」
「それは三人をタンザに返してから話すよ」
三人を呼んでタンザの楯と引き合わせた後、基本的な事は教えたので街に引き返すことにした。
街までほんの僅かな距離だし、三人のウルフを街へ入れるのに揉めては面倒なので手助けだ。
出入り口でブラックウルフ三頭はテイムしているが、此れから登録すると伝えて貴族用通路を通らせてもらう。
グレン達も序でに通らせて貰ったが、何か衛兵の愛想が良いので気味が悪い。
* * * * * * *
グレン達が獲物を売りに行っている間に、三頭の使役獣登録を済ませて俺達も解体場へ行き、ブラックウルフとホーンボアとエルクを並べる。
「なんだ、えらく少ないじゃないか」
「これは三人の獲物で預かっていただけさ。査定用紙は彼等に渡してくれ」
「シンヤさん、それは流石に・・・」
「これを売れば800,000ダーラ前後になる。それでランク1のマジックポーチを買え。一つ200,000ダーラだ、荷物を担いでいては稼げないだろう。それと索敵の腕を磨いて死なない様にしろ」
「有り難う御座います」
「色々とお教え下さり有り難う御座います」
「礼はいいよ。テイマーがいたら、知っている事を教えてやりな」
「ふぅ~ん。優しいわねぇ」
「何だよ、三年前の強制招集の時に、教えてやるつもりだったのをすっぽかししたからな。俺はちょっと特殊なテイマーだから、普通のテイマーの事を知りたかったし丁度良かったのさ」
皆が俺を見てにやにやと笑うので「折角美味い酒とお肉を食わせてやろうと思っていたけど、止めようかなぁ~」と言うと、食堂へ引っ張っていかれた。
「エールを飲んだら、さっきの所へ戻ろうよ。美味い酒と肉はそこでだな」
「美味い酒を持っているのは知っているが、美味い肉って何の肉だ?」
「アーマーバッファロー」
「マジかよ」
「あんた、アーマーバッファローを討伐したの?」
「コルサスの手前でね。王都で解体して貰った残りだけどたらふく食べても大丈夫だよ」
「よし、査定用紙を貰ったら、直ぐに行くぞ」
「美味いと噂に聞く肉だ、この機会を逃したら一生食えないだろうな」
「そんな大袈裟な、タンザの楯なら・・・無理かな」
「結界じゃアーマーバッファローは狩れねえよ」
「アリエラ姐さん、シールドを立てちゃくれねえか」
「今日こそはぶち抜いてやるからな」
「ひょろいアイスランスじゃ100年かかりそうだな」
「お前の屁の様な火魔法より威力は有るぞ」
「ドームも頼まぁ」
「雷撃は煩いから止めて欲しいんだけど」
「屁の破裂音より威力があるので仕方ないっしょ」
「アリエラ、モテモテだねぇ」
「おお、魔法の手引き書が出回ってからは特にな」
「女の魅力を振りまいているぞ」
「タンザの冒険者にモテモテよ」
査定用紙を貰ったら、亭主のドーランがいの一番に立ち上がり「行くぞ!」と気合いの入った声をあげる。
それを他の連中が見てにやにやしている。
* * * * * * *
少し草原の奥へ行き、土魔法でドームを作ると全員ビックリして固まっている。
「お前、魔法なんて授かってなかったよな」
「どうして魔法が使えるの?」
「さっきの、空を飛んでいたのは何だ!」
「慌てない慌てない、飲みながら話すよ」
エールの樽と秘蔵の酒を並べて、つまみにアーマーバッファローのステーキと串焼きにした物を並べる。
「お前はエールの樽まで持ち歩いているのか」
「しかも、ギルドで飲む奴より美味いじゃないか」
「このステーキがアーマーバッファローなの」
「こりゃー美味いなぁ。お大尽や貴族様が欲しがる訳だな」
暫くは静かに飲み食いしていたが、そこそこ腹もふくれたのか「で、好い加減に話せよ」と声がかかった。
「んーと、俺が攻撃魔法を三つと転移魔法に結界魔法が使えると言ったら信じるかい」
「またまた、酔わせて騙そうたってそれはないわ」
空のグラスを皆の前に置き、掌を下に向けて氷を作る。
〈カラン〉と音がしてグラスの中に氷が落ちて回っている。
「嘘だろう」
「んな馬鹿な!」
「ほぇ~」
もう一つ〈カラン〉と氷がグラスに当たり音を立てる。
皆の目がグラスに落ちた氷を見ている。
そのグラスに秘蔵の酒を垂らし、冷えた酒で満たされたグラスをグレンに差し出す。
「飲んでみなよ。よく冷えて飲みやすいから」
グレンが恐る恐るグラスを受け取り、氷を指で確かめている。
「氷だ・・・冷たいので間違いない」
そう言ってグラスを睨んでいるので、グラスの上にテニスボール大 の火の玉を浮かべてやる。
〈ウオォォォ〉と吠えて、グラスを振り回して仰け反っている。
「あ~あ、折角の酒を振りまいているよ」
「馬鹿! 驚かせるなよ!」
「火魔法と氷結魔法に土魔法が使えるのは判っただろう」
「空に浮かんでいたのは?」
「あれは転移魔法で上に跳び上がり、一気に落ちない様に大きな結界で包んだものさ」
「やっぱりあれは結界魔法だったのか」
「見たのか?」
「ああ、シンヤを見つけた時に、シンヤの回りにアリエラの結界の様な薄い光りが見えたからな」
「これを知られたら大騒ぎになるぞ」
「何故私達に見せたの?」
「此処からが、もっととんでもない話しになるからだよ。この魔法を授けてくれたのが創造神アマデウスなんだ。正確にはアマデウスが、それぞれの魔法を司る神々に命じて俺に魔法を授けてくれたんだ」
「お前が強制招集に引っ掛かった時は、魔法が使えなかったよな」
「そう、魔法を授かってから一年も経っていないよ。俺はアマデウスとティナ・・・テイマー神の加護を授かっていて、気楽に生きていくつもりだったんだが、そうもいかなくなった。森の奥深く、雪を頂く山々があるって話しを知っているか」
「その話しは有名だぞ。但し、見た者は殆どいないって事もな」
「高ランクパーティー数組で、ドラゴン討伐の依頼を受けて森の奥へ行くそうだ」
「森の奥は大物がゴロゴロいるって話で、俺達が行ける場所じゃないからな」
「タンザの楯として、どの程度奥へ行ったことがあるの?」
「お前がアリエラの手ほどきをしてくれたので、15日くらい奥まで行ったな」
「かなりおっかない場所だぜ」
「俺は此れから森の奥、雪を頂く山の麓まで行くつもりだが、タンザの楯には伝説でも何でもいい、無理のない範囲で森の奥の事を調べて欲しいんだ」
「それって討伐じゃないわよね」
「突飛な話しだけど、アマデウスに頼まれた事が有るんだ」
この一言を口にしたときの六人の顔ったら、可哀想な子を見る様な目付きだった。
「まっ、そんな顔になるよな。でも強制招集の原因は、奥地から押し出された獣が原因だとは知っているだろう。その押し出す原因を潰す交換条件で、俺は魔法を授かったんだ。放っておいても良いんだが、そうすると街に相当な被害が出ると言われて仕方なしにだけど」
「お前が複数の魔法が使えるのは判ったが、その話は信じられないな。創造神アマデウス様に会ったなんて言ったら、教会が黙っちゃいないぞ」
「それぞれの魔法を司る神様の話しもな」
「でも、あんた達は俺の話を他で話さないだろう」
「ああ、別な意味で話さないな」
「教会に睨まれたくはないし、その前に頭がおかしくなったと思われるからな」
「それで元の話しに戻るんだが、噂話でも良いから森の奥の事を調べておいてくれないか。報酬は金貨300枚出そう」
今度こそ飲みかけの酒を吹き出したり噎せている。
「本気のようね」
「ああ、気になる事があるので、噂や過去の討伐記録等を調べたいが俺では無理だ」
* * * * * * *
半信半疑ながらも頼みを聞いてくれる事になり、タンザの楯六人を伴って商業ギルドへ出向いた。
商業ギルドで六人のギルド会員登録をして、それぞれの口座に金貨50枚を振り込み、その後領主の館へ向かった。
今回は正面突破だが荒っぽい事は控えて、衛兵に身分証を示して名乗り、執事を呼ばせる。
ちょっと愚図ったので、殺気と王の威圧を浴びせて「行け!」と命じて取り次がせた。
「そいつが効き目が有るのは判るけど、凄い言い様だな」
「下っ端に王妃様の身分証を見せても疑われる事が多いんだ。街の出入りを受け持つ奴等なら、貴族の紋章なんかを良く知っているが、そうでない奴等には上から目線で横柄に命令するのが手っ取り早いんだよ」
程なくして衛兵を従えた執事が足早にやって来て、俺の顔を見ると「門を開けよ!」と命じて一礼した。
ゴブリンによく似た名前の執事で、ゴブリン呼ばわりしていて名前を失念してしまったので「エルドラ・デオルス伯爵殿にお会いしたいので、取り次いでくれ」と告げる。
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