第155話 ドラゴン現る!

 ドラゴンハウスに展示されているドラゴンは何処で討伐されたのか、今までは討伐者不詳で見過ごされてきたが、自分もドラゴンを討伐出来るかもしれないと野望を抱く者が現れだした。

 そしてドラゴンハウスに乗り込み、展示されているドラゴンは何処で討伐されたのかと、警備兵から聞き出そうとする者が続出した。


 ドラゴンハウスの責任者から報告を受けた宰相補佐官は、預けている包みを開封して展示することを許した。

 許可なく開封厳禁と書かれた封を破り、包みを開けると出てきたのは六枚の木札であった。

 それぞれの木札には、ドラゴン名と討伐場所として〔フローランス領タンザの街より真西に約50日の奥地〕と記されていて、それぞれのドラゴンの急所と注意点等が細々と記されていた。


 ドラゴンの討伐場所が公開された為に、八回目の魔法大会は大盛り上がりとなったが、それを見ながら俺は少し憂鬱。

 何れドラゴン討伐場所が何処かと騒ぎ出す者が現れる。

 自分達もドラゴンを討伐出来るかもと思えば当然のことだが、優秀な魔法使いがタンザに殺到すれば、万が一アマデウスの言葉が現実になった時に、討伐に向かう魔法使いが足りなくなる恐れがある。


 だが、隠し通す訳にもいかないので、運を天に任すしかない。

 頼みは奥地までの距離と、少数で討伐出来たとしても、持ち帰るにはそれなりの財力か優秀な空間収納持ちが必要になることだ。


 * * * * * * * *


 八回目の魔法大会があった歳の暮れに、ドラゴンが街に近づいているとの一報が届いた。

 場所はウィランドール王国の北、隣国の街から離れた場所でドラゴンが目撃されたそうだ。


 ん、北と思い地図を取りだしたが、王都の北門を出るとブリュンゲ街道で、ブリュンゲ街道は名前のブリュンゲの町がどん詰まりになっている。

 おかしいと思いよくよく見れば、タンザの先ベルサム領ヒュルザスの街から東に向かう道、バジスカル街道を進めば隣国バジスカル王国につながるのだが、山脈を巻き込む様に北に向かわねばならない。


 国境を越えて三つ目の街、ムスラン西方の森でドラゴンが発見されたとの事。

 冒険者からの報告を受けたムスランの冒険者ギルドは、ドラゴンハウスを見学したことのある冒険者を確認に向かわせた。

 戻って来た冒険者はアーマードラゴンと報告したが、別のパーティーの魔法使いが、ウィップドラゴンと見事なタテガミを持つ巨大なタイガーも居ると報告したので大騒ぎになった。


 何時もの野獣が溢れて来るのとは様相が違うと判断したギルマスは、バジスカル王国内はもとより、隣国ウィランドール王国の冒険者ギルドにも応援要請を出した。

 〔ドラゴン現る! 我こそはと思わん魔法使いと仲間達は、バジスカル王国のムスランに集いて名を挙げよ!〕との檄文付きの応援要請で、魔法使い達を煽った。


 * * * * * * * *


 タンザの冒険者ギルドで強制招集を受けたタンザの楯リーダーのグレンは、檄文を読み呆れながらアリエラの顔を見る。


 「何とも元気なものだが、どうする?」


 「攻撃魔法使いと組んでも良いけど、一度はシンヤに教わった方法を試してみたいわね。アーマードラゴンはともかく、ウィップドラゴンが居るのなら大人数は不利よ」


 「だな、どのみちアリエラ頼みになるし、俺達は周辺警戒と護衛に徹するしかないからな」


 「ドラゴン・ドラゴンと言っているが、野獣も相当いるはずだから気は抜けないな」


 「そこは優秀な魔法使いも増えた事だし、シンヤの望んだ様に他の奴等に任せればいいさ」


 「シンヤは来るかしら」


 「広範囲に招集を掛けているらしいので、多分来るだろう」


 「あの子の話した通りのことが起き始めているのかもね」


 「余り大事にならない事を祈っておこう」


 * * * * * * * *


 「陛下、王都冒険者ギルドからの通報です! 隣国バジスカル王国にドラゴンが現れたそうです。場所は国境を越えて三つ目の街ムスランで、街の西方の森で冒険者が確認したそうです」


 「シンヤの話が現実になったが、魔法使い達も育っているので間に合った様だな」


 「無事に討伐出来れば良いのですが・・・」


 「無傷では済まないだろうが冒険者達の腕も相当なものだ、それ程心配することもなかろう」


 「ですが彼の国は優秀な魔法使いを抱き込むことに熱心で、ドラゴン討伐に魔法部隊を使うでしょうか」


 「他国のことだ、冒険者ギルドに任せるしかあるまい」


 * * * * * * * *


 「シンヤ、ギルマスが強制招集だと言って迎えに来ているぞ」


 「ん、強制招集ならマークス達もだろう」


 「残念ながら、何処かと契約して勤めている場合は除外だ」


 「そんな抜け道が有るんだ」


 「名義だけだと、応じなければ冒険者資格剥奪だけどな。客間で待っているぞ」


 ギルマスが来るって事は強制招集かな。

 面倒だけど逃げ出す訳にもいかない、取り敢えず話を聞きに客間に向かった。


 「お待たせー」


 「お前、Aランクとはいえ、よくこんな家に住めるな」


 「貰い物の家だからね」


 「貰い物で執事やメイドまで居るのか?」


 「で、何の用かな。俺の懐事情を探りに来た訳じゃないよね」


 「強制招集に決まっている。隣国でドラゴンが発見されて、大規模招集が掛かっている」


 「ドラゴン? 俺ってテイマーだけど」


 「判っている! お前にドラゴンを討伐しろなんて言ってない。押し出された野獣の討伐に行け!」


 「討伐に行けと行っても、何処へ行けば良いの?」


 「あーもう。バジスカル王国のムスランだ! 王都の北門からブリュンゲ街道を進みヒュルザスの街でバジスカル街道を行けば国境だ。国境を越えて三つ目の大きな街がムスランだ。急げよ!」


 言いたいことを言って、さっさと帰ってしまったギルマス。


 「なに、あれって」


 「高ランク冒険者は少ないし、お前は滅多にギルドに顔を出さない。チンピラを寄越しても呼び出せないだろうと思って、直接伝えに来たに違いない」


 「隣国まで行けってのに、旅費も出さないのか」


 「冒険者ギルドに行けば馬車が用意されているはずだぞ。と、言うか、お前は旅費なんて要らないだろう」


 「いやいや、他の冒険者の皆さんの為にだな」


 「はいはい、で、馬車の用意は要るか?」


 「歩いた方が早いので要らない」


 * * * * * * * *


 王都を旅立って四日目の昼前にタンザに到着し、冒険者ギルドに顔を出し強制招集の者達が何時出発したのかを尋ねた。

 氷結の楯の一行は八日前にタンザを出発し、今頃はヒュルザスの街からバジスカル街道を進んでいるはずだと教えられた。


 直ぐにタンザを出発し、翌日の夕方にはヒュルザスの街に着いたので、街の外で野営し、夜明けと同時にバジスカル街道を駆けだした。

 陽が高くなり始めると街道に人の姿がチラホラと見え始めたので、街道脇の草原を次の街クルーズを目指して駆ける。


 ヒュルザスとクルーズの間は馬車で三日の距離なので、夕方には余裕でクルーズを抜けて先を急ぐ。

 タンザに到着した時点で八日遅れで、後を追って二日の十日遅れなので、次の街シャリフまでには追いつけるはず。

 夜明けと共にシャリフを目指して駆け、街の手前の草原に腰を下ろして街道を眺めながらお茶を楽しむ。


 ミーちゃんは街道脇の草叢に座り込み、通行人を眺めている。

 待つのに疲れ、Lを枕にうとうととしていると《マスター、知っている匂いです》とミーちゃんが知らせてきた。


 見れば馬車の列を取り囲む様に冒険者の群れが街に向かっている。


 * * * * * * * *


 「おい、フォレストウルフだぞ!」

 「こんな街道に出て来るとは大胆な群れだな」

 「この人数を相手に襲って来るか?」


 「待ってまって、ミーちゃんが居るからシンヤが居るはずよ!」


 「あーん、シンヤって例の奴か?」


 「待ってたよ、アリエラ」


 「あんたも強制招集に引っ掛かったの?」


 「ギルマスが俺の家にまで来たよ。王都にまで招集が掛かり、ドラゴンと聞いたので走って来たのさ」


 「あなた・・・ご飯食べているの? ちっとも大きくなってないわよ」

 「ああ、久しく見なかったのに全然変わってないぞ」

 「お前、幾つになったんだ?」


 「先月31になったよ。知り合いのエルフが言うには加護と魔力が多いと長生きだってさ」


 「という事は、当分洟垂れ小僧って事だな」


 「グレンは随分老けたねぇ。そろそろ引退を考えても良いんじゃない」


 「ばっか野郎、此れからドラゴン相手に一暴れしに行くんだぞ」


 「でもドラゴンが出たらアリエラに任せるんだろう」


 「当然だ! 俺はアリエラが首を絞めて身動き出来なくなった奴を、ちょいと撫でて討伐者を名乗るつもりだ」

 「酷いリーダーだねぇ」

 「私も最近酷使されているわ」


 「ようシンヤ、久し振りだな」


 「ザルムも招集に引っ掛かったの」


 「此れでもBランクだからな。タンザの時は引退扱いで隅の方だったが、今回はキルザ共々呼び出されたよ」


 「それじゃー、二人とも俺と一緒にやろうよ。俺はタンザの楯にくっついて行くので、楽だよ」


 「お前の活躍は良く聞いたからな。宜しくな」


 「ちょっとぉー、私一人にやらせるつもりなの」


 「ん、練習はしているのだろう」


 「当然よ。あんたも隠さずに大暴れしなさい!」


 「俺は、腕を上げた魔法使い達の活躍を眺めに来たんだけどなぁ。ところで何で馬車に乗らないの?」


 「馬鹿野郎、荷馬車に毛が生えた様な馬車だぞ、一日乗っていたら尻が腫れあがるわい」


 シャリフの街を素通りして草原で野営をするのだが、アリエラがタンザから来た者達の為に、結界のドームを作っている。


 「重宝されているね」


 「その代わり、攻撃は任せると念押しをしているわ」

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