第156話 領主の横暴

 国境の町カインと、バジスカル王国側の町ランサスは川幅は広いが浅い川を挟んで向かい合っている。

 ランサス、オーガス、ムスランと進み、ムスランの冒険者ギルドに顔を出すと、ムスランから西へ一日の所にスンザ村が在るので、そこへ行けと放り出された。


 「何時も思うけど、強制招集って扱いが悪いよな」


 「それは高ランクの荒くれ共が集まるので、優しくなんてしていられないのさ」

 「取り敢えず行こうか」

 「今度は魔法使いも多いだろうし、あんまり無茶なところへは行かされないだろうな」


 「そう願いたいよ」


 「グレン、大物は任せてくれ」

 「俺達も腕を上げたので、大物は貰ったぞ」

 「テイマーの兄ちゃんも、無理はしなくて良いからな」


 「へいへい、大物狩りは任せるけど油断するなよ」


 「もうテイマーがのさばる時代じゃない。俺達攻撃魔法使いの天下だ」

 「接近戦は強いかもしれないが、ドラゴンに接近戦は通用しないぞ」

 「王都で金貨を稼いだ腕を見せてやる!」

 「おお、ドラゴンスレイヤーの名乗りを上げてやるからな!」


 「グレン、彼奴ら大口を叩いているが、マジックバッグの大きいのを持っているの?」


 「最近のし上がって来たが、稼いだ分を貯めずに散財しているのでどうかな」

 「私達も漸くランク6-10のマジックバッグを買ったけど、金貨105枚もしたわ。獲物が入らなくなったらお願いね」


 * * * * * * *


 スンザ村に到着すると、村長の家が前線指揮所と聞いていたので顔を出して申告する。

 序でに、以前の強制招集ではタンザの楯と組んで野獣討伐をしていたとサブマスに告げて、一緒にやらせてくれとお願いする。


 「結界魔法使いとBランクのテイマーか、良いだろう。ドラゴンの居ないところに回してやるので、確り討伐しろよ。それと、領主の魔法部隊がドラゴン討伐の為に森に入っているので、万が一出会っても揉めるなよ」


 示された場所はスンザ村から西へ一日行き、南へ半日の場所って聞き皆ウンザリした顔になる。

 壁に貼られた簡易地図には赤い×印が無数に付けられていて、ドラゴン目撃地点には小旗まで立てられている。


 ドラゴンに押し出された野獣も多いのだろうが、×印の数から防衛線が広いのが気になる。

 俺達の持ち場はドラゴンの目撃地点より南で、その間には無数の×印が付いているので、討伐見物は出来そうにない。

 交代要員が来るか、マジックバッグが一杯になったら戻って来ても良いと言われて放り出される。


 俺達の後にも冒険者達が三々五々村長の家に向かっているので、ドラゴン出現の影響は凄まじいと実感する。

 まっ、ドラゴン討伐の栄誉は欲しい奴に譲って、俺達はのんびりやらせてもらおうと笑いながら指定の場所に向かった。


 * * * * * * *


 「シンヤ、任せたわよ!」


 「また俺なの、閉じ込めてきゅっと絞め殺しなよ」


 「私はしがない結界魔法使いよ。タンザで勇名を馳せた、シンヤの出番でしょう。此処なら誰も見ていないので、ストーンランスで倒しちゃいなさい」


 「あんまりホイホイ狩ると、又目立つからなぁ」


 「それなら、大物はお腹の中に入れちゃいなさい」

 「そうそう、討伐した野獣の申告を忘れても文句は言われないさ」

 「タンザに帰ってから少しずつ売れば良いぞ」


 「あんた達の討伐現場って、何時もこんなにのんびりしているのか?」

 「まるでゴブリン狩りでもしている様な気楽さだな」


 「まあ~、とんでもない奴が一人居るからな」

 「アリエラが腕を上げたので、俺達も危険が減って楽になったからな」

 「そぅそぅ、アリエラが野獣を抑えてくれるので、安心安全な討伐だぞ」

 「今は、魔法使いの時代だからな」


 * * * * * * *


 交代が来ないので、マジックバッグが一杯になった事にして一度村まで戻る事にした。

 村に戻ると多くの冒険者達が居たが、雰囲気が荒々しく殺気立っている。


 「幾ら強制招集の討伐現場だからって、ちょっと雰囲気が悪すぎない」

 「何があったのか聞いてくるので待っててくれ」


 グレンが訳を聞きに村長の家へ行ったが、難しい顔をして帰ったきた。


 「何があったの?」


 「ドラゴンが居る場所から離れた所を受け持っていた者達の所へ、領主の兵が来て追い出されたそうだ」


 「何でだ? 奴等に俺達を追い出す権利は無いはずだぞ」

 「大体てめぇの領地を守ってやっている、俺達を追い出すって何だよ!」


 「どうも、ドラゴン討伐を目論んだ領主が魔法部隊を率いて網を張っていたんだが、ド素人の悲しさで取り逃がしたそうだ。それでドラゴンが逃げた・・・奴等曰くだが、ドラゴンが逃げたと思われる場所の冒険者を追い出して、自分達の持ち場だと居座ったらしい。おまけに広場で獲物を出すと、珍しい奴は領主の手先の兵が買い叩くと皆がぶち切れている」


 グレンの説明を聞いているそばから、揃いの鎧を着た兵士達が俺達の方へやって来る。

 集まっている冒険者達を睨みながら「獲物を持っている者は広場に持って来い!」と怒鳴る。


 「おのれ等は何時から冒険者ギルドより偉くなったんだ!」

 「命懸けで狩った獲物を二束三文で買い叩きやがって、糞が!」

 「俺はこの招集から抜けるぞ!」

 「ギルドとの取り決めを無視するのか!」


 「喧しい! 此処はジェファーノ・コルテス子爵様の領地だ! 冒険者風情が、好き勝手を出来ると思っているのか! 獲物は狩り放題だが領地を治める子爵様に上納するのは当然だろう。冒険者ギルドとの取り決めは守り、銅貨一枚すら要求していない。領地の中で所有を許されない物を没取して何が悪い! 御領主様も鬼ではないので、手間賃を払ってやっているのだ」


 「グレン、俺が奴等の相手をするので、冒険者達を奴等から離してくれないか」


 「何をする気だ?」


 「忘れたの、俺には強力な護衛がいることを」


 「あんまり無茶はするなよ」


 「アリエラ、ミーちゃんを預かっていてよ。護衛にRとLを付けるからさ」


 「私達は刺されないわよね」


 「多分ね。だから俺が奴等を揶揄い始めたら、皆を俺から離れさせてよ」


 ミーちゃんをアリエラに預けて、RとLにアリエラの側を離れず守れと命じてから、ビーちゃん達に招集を掛けて上空待機を命じる。


 《マスターのお呼びだ!》

 《マスター、何ですかぁ》

 《人族が沢山いるので刺し放題だぁー》


 《チョッ、俺の前に居る奴等だけだよ! 刺すのは五回まで! 命令するまでは下に来たら駄目だよ》


 《はーい》

 《早しくしてね、マスター》

 《マスターのお役に立って見せます!》


 「おっさん、偉そうに言っているがまるっきり野盗の台詞と同じだぞ。街道を通る馬車を武力で止め、野盗じゃないので通行料を払ってくれれば良いと言っているのと、何処が違うんだ」


 「何だぁー、小僧が理屈を捏ねているが、御領主様に逆らう気か!」


 「逆らうも何も、理不尽な要求をすると後々困るのは御領主様だよ」


 「小賢しいガキだな。大人の世界を教えてやろうか」


 ニタニタ笑いながら指をポキポキ鳴らして近づいて来るおっさん。

 おっさん達の後ろでは、アリエラ達が上を指差して何が起きるのか教えていて、冒険者達を結界の中へと避難させている。

 それも口に人差し指を当てて静かにする様にと、ゼスチャーを交えて誘導している。

 グレンも仲間達と共に、アリエラが作る結界の中へ入る様に冒険者達を急がせている。


 「お前こそ、冒険者を舐めてないか。冒険者の世界は厳しいぞ」


 へらへら笑いで揶揄うと、額に青筋を浮かべて掴み掛かってきたが、俺の《殺れ!》の一言で、上空で乱舞していたビーちゃん達が突撃を始めた。


 《キャッホーイ♪》

 《マスターに手を出すな!》

 《きぃーひひひ》


 俺の前に居る奴と同じ服装の者だけだと頼んでいるのだが、何処まで見分けがつくのかな。

 遠くの者は刺しちゃ駄目ってお願いしているし、刺すのは五回までと制限したがどうなる事やら。


 俺の胸ぐらを掴みに来た男の手が〈パチン〉と音がして弾かれた。


 〈痛てっ〉〈何だ? 糞ッ・・・〉


 あっと言う間に蜂塗れになって倒れる男だが、それを誰も気にしていない。

 気にする余裕が無いと言った方が正しいか。


 〈ギャー〉

 〈蜂だ、逃げ・・・〉

 〈たっ、助けてくれー〉

 〈止めてくれー〉


 あっと言う間に周辺はキラービーが乱舞し、重低音に包まれて悲鳴すら聞こえない。

 長引くと犠牲者が増えるので早々に攻撃中止を命じる。


 《はい、刺すのを止めー》


 《マスター、毒は未だまだ有りますよー♪》

 《ちょっと刺したりないですぅ》

 《あっちにも似た様な人族が沢山いるよ》


 《そっちは駄目! みんな、少し離れてグルグル回っていてね》


 《はーい》

 《グールグール、まーわる♪》

 《マスター、次は、次は何れを刺すの?》


 〈凄えなぁ〉

 〈キラービーが襲って来るなんて冗談だと思ったけど〉

 〈マジもんだったぜ〉

 〈こんな大群初めて見たな〉

 〈彼奴ら、生きているかな?〉

 〈奴等の事なんてどうでも良いさ〉

 〈しかし、キラービーを使うテイマーなんて初めて見たぞ〉

 〈いやいや、蜂なんてテイム出来るもんか〉

 〈さっきの姐さんが、テイマー神の加護とか護衛とか言っていたな〉

 〈しかし、この結界は良いなぁ~〉


 「たっ、頼む・・・ポーション、を」


 「ん、お前に飲ませるポーションなんて持ってないぞ。と言うか、キラービーに刺されたのなら毒消しポーションを飲むんだな」


 「もう勘弁してくれ。毒消しポーションをくれ、頼む!」


 「そんなもの持っている筈がないだろう。確り刺されている様だが、その顔色だともうすぐ死ぬな」


 「嫌だ・・・死にたくない、助けてくれぇぇぇ」


 おいおい、でかいおっさんが泣き出したよ。


 「キラービーに確り刺されたんだから諦めろよ。家族に言い残すことはないか?」


 マジ泣きしているよ。

 倒れて呻く兵達だが、動かない奴が1/4程居るので運が悪かったな。

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