第51話 噂話

 ヒロクンとエリーだと、あの時のチンピラ六人の内の二人が、ひろ君とエリと呼び合っていたはずだ。

 尚更指名依頼を受ける訳にはいかない、奴等なら十分な礼をする必要があるし、準備も必要だ。

 それにしてもザンドラって街は、俺に厄介事を押しつける街だな。

 素通りするつもりだったのに、人助けをしたばかりに関わる羽目になってしまった。


 「知り合いかと思ったが違う名前だ。取り敢えず指名依頼ならお断りだね」


 それだけ言ってギルマスの執務室を出て、受付でギルドカードを受け取り支払いカウンターで残高確認をして貰う。

 お姉さん、三度も見返しているが間違いないよ。

 手渡された用紙には、10,165,000ダーラの文字。

 懐には9,000,000ダーラ程有るので、魔法が付与された服が買える。

 10,000,000ダーラを商業ギルドに移せるのかを確認して、商業ギルドのカードを示して移動させる。

 手数料100,000ダーラ、金貨1枚をぼったくりやがった。


 * * * * * * *


 毎回ギルドカードを出すまで胡散臭い目で見られるので、この際街着も少しマシな物にするかな、等と考えながら預け入れ係の前に立つ。

 マジックポーチから金貨50枚を出して預け、残高確認を頼む。


 残高22,500,000ダーラを確認して、魔法付与が出来る服を作りたいと告げる。

 それはそれは素敵な笑顔で、係の者をお呼びしますと言って商談室へ案内してくれた。

 残高確認をしたばかりで取りっぱぐれのない客だ、笑顔にもなろうってものだろう。


 やって来た係員は冒険者の俺を見て驚いていたが、そこは商売人である、一瞬で笑顔になると俺の要望を聞き、一巻きの布を取り出して説明してくれた。

 曰く奥地で採取される機織り蜘蛛の糸で織られた生地で、付与される魔法が良く馴染むそうだ。

 ただ特殊な蜘蛛で、採取や生地にするのに多大な手間が掛かる為に、お高う御座いますと言われた。

 付与出来る魔法は、魔法防御・防刃・耐衝撃と体温調節機能と聞き、服を作ることにする。


 仕立屋が呼ばれて採寸すると、俺の要望を聞き隠しポケットの位置やフードを折り込んだ襟の形を図にして示す。

 色も草原や森の中で目立たないモスグリーンに決めた。

 服とは別に手袋を二つ注文して、此れにも魔法の付与をお願いする。

 冒険者用服上下に手袋込みで15,500,000ダーラ、此れに魔法付与の代金が2,000,000ダーラで合計17,500,000ダーラ

 ブーツを買って魔法を付与して貰らえば、貯金がほぼ無くなる事になる。


 仮縫いには何方へと聞かれて大弱り。

 以前宿泊したオランダル通りのホラードホテルを指定する。

 俺は殆ど街にいないが、服を引き取るまでホテルに泊まることにした。

 仮縫いが2週間後と聞き、ブーツを誂える店を尋ねて商業ギルドを後にする。

 スリンガル通りのベルオネ皮革店、鞄や鞍等の皮革製品が並びブーツもいくつか展示されている。


 「いらっしゃいま・・・」


 この後の台詞は判っているので、黙って紹介状を差し出す。

 商業ギルドのマークである金貨の袋が描かれた紹介状を見た瞬間に、俺が鴨と悟ったのか笑顔が溢れる。

 まぁ鴨でも葱でも良いが、ブーツだけはしっかりしたものを作って貰えれば文句は無い。


 魔法付与の出来る物が欲しいと伝えて採寸し、ブーツ代と魔法の付与代金1,600,000ダーラを支払い、引き渡しは10日後と言われて店を後にする。

 残るは短槍だ、以前作ってもらった鍛冶屋に行き新たな短槍を注文する。

 槍先は身幅7cm程度で、厚さ1.5cm長さ1m、柄の長さ1.8mで全てを魔鋼鉄でと指示する。


 「兄さん相当重くなるが扱えるのか?」


 そりゃー俺の体格を見れば、そう言いたくなるのも理解出来る。


 「何か振り回す物は有るかな」


 指差した先には長さ1.5m太さ5,6cmの鉄の棒が数本立てかけられていた。

 両手に一本ずつ持ち軽く振り回して、周囲の物に当たらない事を確認して本気で振り回してみた。

 ヒュンヒュン鳴る鉄棒を見て満足げな親方、扱えるのを理解した様なので振るのを止める。


 「扱えるのは判ったが、こんな物で何を狩るつもりだ?」


 「以前オークキングを短槍でぶん殴ったけれど、少しよろめいただけだったので重さも必要かなって。野獣討伐は本職じゃないけど、出会った時に立ちむかえる武器は必要だろうと思ってね。以前友達がストーンランスでブラウンベアを倒したが、重さがなければ貫けないと判っていたし」


 「確かにな、魔法使いでなけりゃ、威力の有る武器は必須だ。尤も此の国じゃ、威力の有る武器を買いに来るのは獣人族くらいだからな。あんたは龍人族の血でも入っているのか?」


 また龍人族か、黙って肩を竦めて否定も肯定もしないでおく。

 前金で1,800,000ダーラを支払い15日後に受け取りと決まったが、預けた金があっと言う間に無くなってしまった。

 注文品を受け取るまでに一稼ぎして、懐を暖めておく必要が有りそうだ。

 必要な注文が終わったので、当座の資金を稼ぐ為に街を出る。


 * * * * * * *


 狙う獲物はチキチキバードとレッドチキン、後は出会す奴を片っ端から狩って行く。

 バード系はビーちゃん達に探して貰い、ミーちゃんが狩る。

 ヘッジホッグもビーちゃんが居場所を教えてくれるし、序でに一刺しするので至近距離から小弓で仕留める。

 小物や草食系まで支配すると、他の冒険者が稼げなくなると不味いので自粛しているが、それでも狩りすぎかなと反省。


 ホラードホテルに部屋をキープして2日に一度は街に戻り、獲物を二度売りそれぞれ80万ダーラと90万ダーラ少々を受け取り手持ちも安心。

 10日後にベルオネ皮革店に行ってブーツを受け取る。

 注文生産でお高いだけあって、履き心地は最高♪

 魔法が付与されているで切れたり衝撃は受けないが、重い物を落とされると潰れるから気をつける様に言われた。


 確かに、魔法防御・防刃・耐衝撃と体温調節機能付きとはいえ、安全靴じゃないし衝撃は吸収しても重さには耐えられないか。

 当然注文した服も同じなので、その辺りは注意しておく必要が有りそうだ。

 全ての品を受け取り、一度ホルムの街へ偵察に出向くことにした。


 * * * * * * *


 タンザス街道をホルム目指して進むが、その大半を街道沿いの草原や森を歩く。

 お陰でマジックバッグに獲物が相当貯まっていたので、ホルムに到着して直ぐに情報収集がてら冒険者ギルドに向かった。


 ギルドに入ると先ずは情報収集をと食堂へ行き、エールを持って酔っ払っている奴の隣に座る。

 猫を連れた見慣れぬ顔でソロとなれば、興味を持った酔っ払いは必ず声を掛けてくる。


 「よう兄さん、見慣れねえ顔だがホルムは初めてかい」


 「まぁ、初めてに近いかな」


 「初めてに近いって、何でぇ~。猫なんて連れているがテイマーか?」


 「そうだよ。可愛いミーちゃんは使役獣の登録をしているよ」


 「ミっ、ミーちゃん」


 ツボったらしく、笑いの発作に襲われた酔っぱらいは目立つのか、離れた席の男達がエールを持ってやって来る。


 「シンヤだったな。ホルムに用か?」


 「ええ、ちょっと面白い話を聞いたので見物ですよ。あの時はお世話になりました」


 「いやいや、本命には逃げられたからな」

 「そうさ、折角手下共を捕まえてくれたのになぁ」

 「旅をして、少しばかり痛めつけただけだが稼ぎにはなったぜ」


 「逃げたギルマスは捕まえましたよ」


 「本当か!」

 「何処でだ?」

 「賞金首を捕まえたのかよ! 何時だ?」


 「一月少々前です。ザンドラから南へ二日のカンタスって町でね、訪問先で偶然出会って一騒動ですよ」


 「それじゃー、キラービーでか」


 「ええ、それよりも、しみったれ伯爵と冒険者が揉めているって聞いて、面白そうだから見に来たんですよ」


 「しみったれ伯爵か、上手いこと言うじゃないか」


 「あの時だって、命を賭ける仕事に二人で金貨10枚ですよ。きっぱり断ったら、ギルドも同じだけ出すって言ったので渋々受けたんです。お陰で矢を射ち込まれて、不味いポーションを飲む羽目になりましたよ。あのしみったれが手を焼いているって聞いて、大笑いしました」


 「あの話か、何かすっ飛んだ奴等らしいぞ。何度か此処へも獲物を売りに来たらしいがよ」


 「どんな奴等なんです? あのしみったれが手を焼くなら腕利きでしょうね」


 「魔法使いが二人に腰巾着が五人だそうだ」

 「凄腕の魔法使いらしいぞ」

 「持ち込んでくる獲物は、土魔法か氷結魔法で倒したらしく穴が開いているそうだ」

 「噂では女は治癒魔法が使えるらしいのだが、それを伯爵様が呼びつけたのが揉め始めた原因らしい」


 「へぇ~、治癒魔法が使えるのに冒険者をしているんですか」


 「それがよう、酒場の女より派手に足を見せて、人を小馬鹿にしてケラケラ笑っていると専らの噂だな」

 「足を見た奴等は鼻の下を伸ばしているとさ」

 「常に男と一緒で、此の男が腕利きの魔法使いらしいぞ」

 「だけど、俺達の常識が通用しないって話だな」

 「それそれ、転移魔法が使えるらしく、伯爵様もそのせいでどうにもならないらしい」


 「まぁ、威張り腐った騎士や伯爵をコテンパンにする分には面白い見世物だな」

 「違いない」


 「で、シンヤはこの街で稼ぐのか?」


 「モーラン商会の奥様に呼ばれて、王都に行く途中なんだけど急ぐ旅じゃないので」


 「モーラン商会の奥様か、良い金蔓を掴んだな」

 「金持ちの奥様の後ろ盾とは羨ましいぜ」

 「冒険者なら、分限者の後ろ盾は欲しいからなぁ」


 「その為に、何度殺されかけた事やら。初めてモーラン商会へ行った時も、殴られ怒鳴られた挙げ句に犯罪奴隷にされそうになりましたよ」


 銀貨を数枚テーブルに置いて、自由に飲んでくれと言って馬鹿話の輪から外れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る