第50話 指名依頼
試練ね。虐めをいじりだと抜かす屑と同じ理屈だな。
花火を打ち込んで来た奴等を思い出して気分が悪い。
なら俺も、拷問に耐える試練を与えてみるか。
「そうか・・・試練ね、良い言葉だ。その試練をお前達にも与えてやるよ。使用者登録を外すまで試練は続くから、覚悟を決めろよ」
「おいおい、お前は盗賊か?」
「犯罪奴隷になりたいらしいな」
「此処で俺達を解放したら、今回の事は見逃して遣るぞ」
「いやいや、お前達が彼等にやった事を思い出せよ。犯罪奴隷はお前達なので、見逃して貰わなくて結構。親切な提案をしてくれた、お前からはじめるかな」
傷ついていない足を持って引き摺りだし、ブーツを脱がせてショートソードの峰で足の指を叩き潰す。
〈ウッ〉と呻いたが、この程度かと言った顔で睨み付けてくる。
なので反対側のブーツも脱がせて足の指を叩き潰す。
今度は歯を食いしばり睨むだけなので、折れてない腕の指を叩き潰してやる。
「手足の指を潰したら、手首足首を潰す。その次は足の骨を叩き折り、顎を砕いてから放置だな。後は野獣が片付けてくれるから心配するな」
そう告げて、折れた腕の指を叩き潰すと漸く俺の本気を悟った様だ。
顔色を変えて俺を見るが、黙って男の足を掴んで足首にショートソードを叩きつける。
「まっ・・・待ってくれ! 外す、外すから勘弁してくれ!」
「言った事に従うのなら、最初からそうしろよ」
「お前のマジックポーチは何れだ?」
溢れる血をマジックポーチに付けて男の口元に持って行き、使用者登録を外させる。
野営用のローブを広げると、マジックポーチを逆さにして中の物をぶちまけ、その上に空のマジックポーチを置いて次の奴に向かう。
ふてぶてしげに睨み〈ベッ〉と唾を吐き〈殺せ!〉と意気がっている。
「良い覚悟だ。ご希望通りにしてやるよ」
俺のやることを見ている二人に、薪を集めてくる様に頼みフーちゃんを二人の護衛に付けてやる。
三人目は俺と目が合うとキョロキョロしながら、マジックポーチは持ってないので許して下さいと泣きをいれた。
最後の一人は俺と目を合わせた瞬間に〈外しますので勘弁して下さい〉と素直な御方。
使用者登録を外したマジックポーチをひっくり返す。
此奴の荷物も衣類や冒険者の必需品などが多く、雑多な中に複数の剣やナイフが出て来る。
副業か遊びか知らないが、まともな冒険者でないのは明らかだし、試練なんて遊びは俺の趣味に合わない。
長い立木を切り倒し、殺せと喚いた男の手足を伸ばして括り付ける。
身動き出来ない様に、首、脇の下、腹、太股と縛り上げると、流石に不安になったのか男が喚きだしたので、即座に口にボロ切れを押し込む。
頼んでいた薪を集めてきたので、それを積み上げて火を付ける。
流石に此処まで来ると俺が何をする気なのか理解出来た様だ。
必死に身を捩り、ウーウー言っているが気にしない。
少ない薪だが、串焼き肉を作るくらいの炎になったので、男を括り付けた棒を持ち上げ足の方から火の方へ持って行く。
剛力を得てからは、大の男一人持ち上げるくらい軽いもので苦にならない。
ウーウー言いながら必死に首を振り、目で訴えかけてくる。
「煩いぞ。お望み通りゆっくり殺してやるよ。死なない程度の生焼けにして、野獣に食われるまで生きていられる様にしてやる」
俺の言葉に必死で首を横に振る。
「なんだ、死ぬのが恐くなったのか?」
ウンウンと頷く、男の口からボロ切れを取り出してやる。
「外します。だから火炙りだけは勘弁して下さい」
最初からそうすれば良いのに手間を掛けさせやがって。
ミーちゃんの爪痕の血が止まっていたので、蹴り付けて血を流させる。
口元に寄せられたマジックポーチを恨めしげな顔で見ながらボソボソと呟き使用者登録を外した。
この男の荷物も似た様な物で、どのみち生かしておくつもりは無いので男を蹴り飛ばしておく。
座り込んでいる二人を長時間歩かせるには無理がありそうなので、一晩この近くで野営になる。
俺のやることを恐ろしげに見ている二人に、奴等の革袋を集めさせる。
「此れって、盗賊行為になりませんか?」
「あんた達は襲われただけ、俺は盗賊行為を見逃せなくて助けただけで、死に行く奴等に金は必要無い。それとあんた達に与えた被害の弁償だな。金以外に手を出すなよ、下手な物を持っていると盗賊と間違われて取り調べになったら面倒だろう」
「おい、マジックポーチの使用者登録を外したんだ、助けてくれよ」
「頼みます! 二度とこんな事はしません」
「助けてくれるんじゃないのかよ!」
「ああ、俺は殺さないよ。お前達が彼等をゴブリンと闘わせて楽しんでいた様に、俺はお前達を野獣と闘わせてやるだけさ。素っ裸にして丸腰でな」
何やら呪詛の声が漏れてくるが、念仏程度にしか聞こえない。
金以外の物を空のマジックポーチに放り込ませ、お別れにアキレス腱をチョンとしてから放置する。
一時間程ザンドラに向けて歩き、野営地に良さそうな所で結界を展開して四人を中で休ませる。
「あの~、リーダー達を何とかしないと」
「陽が暮れる前に現場に戻れると思うか、戻っても生きていると思うか?」
「それは・・・」
「冒険者稼業を始めたのなら、それなりの覚悟は有るはずだ。お前達を襲った奴等は獣の餌食になって死ぬ。仇は取ったんだからそれで諦めろ」
彼等に空になったマジックポーチ三個を与え、使用者登録の方法を教える。
此処まで来る途中、マジックポーチの中に入れた奴等の物を全て投げ捨てた。
使用者登録を外せない物も遠慮無く捨てたので、金とマジックポーチ三個が彼等の手に残った。
沈み込む彼等に食事をさせて眠らせる。
俺はフーちゃん達をベッド脇に侍らせ、ミーちゃんを抱えて眠りに就くが、こんな時には酒が欲しいぜ。
* * * * * * *
ザンドラに向けて歩くが、出会った野獣を片っ端から倒してマジックバッグに放り込む。
支配が通用しない奴は普通に闘って倒せば良いが、支配で動きを止めて倒すところを見られたくない。
仕方がないので彼等の前では俊敏と剛力をフルに使って闘うが、短槍が軽すぎて遣りづらい。
昼過ぎには街に着いたので、フーちゃん達を置いて街に入るが彼等の事は口止めをしておく。
冒険者ギルドに到着すると、彼等を連れて解体場に直行する。
「また珍しいメンバーだな」
「まあね。何処へ置けばいい」
指定された場所に獲物を並べていく。
フレイムドッグ 8頭
ハウルドッグ 7頭
カリオン 4頭
ホーンボア 2頭
エルク 1頭
「今日の獲物は全て彼等の物なので宜しく」
街に入る前に口止め料だと言い含めているので、そう告げて彼等とはお別れだ。
「シンヤさん、本当に有り難う御座います」
最敬礼で言われ、背中がムズムズする。
「ああ、死にたくなければ油断をせずにもっと腕を磨いておけよ」
そう言って解体場から出ると、飲みたいエールを我慢してギルドを後に・・・
視界の片隅に嫌な顔が見える。
「ちょっと待て、シンヤだったな」と声が掛かる。
「何でしょうか、ギルマス」
「ギルドカードを出せ!」
「又ですかってか、大した獲物は持ち込んでいませんよ」
渋々ギルドカードを渡しながら嫌みったらしく言うが、カードをひったくられてしまった。
それを「Dランクだ」といいながら受付に渡している。
「お前は今日からシルバークラスだが、ちょっと話があるので俺の部屋まで来てくれ」
あ~あ、シルバーカードか、だから昇級は嫌だったんだ。
これでいきなり指名依頼なんて言われても、絶対に断るからな。
ギルマスについて執務室に入ると「良く奴の居所が判ったな」と言われた。
「別に奴を探していた訳じゃないですよ。たまたま知り合いに頼まれて、出向いた先に奴が居ただけです」
「だが奴はAランクのゴールドだ、良く捕らえられたな」
「運が良かっただけですよ」
「奴の賞金は、お前の口座に振り込まれているから確認しておけ。それとシルバーになれば指名依頼が出るのだが」
「お断り! 今も運だけで生きている様なものですから、切った張ったは願い下げですよ」
「話だけは聞け。野獣討伐よりは楽な仕事だぞ。それにお前も知っている場所だ」
「知っている場所?」
「エルザート領ホルムのギルドに流れて来た奴でな、魔法巧者二人を含むパーティーだ。奴等が領主と揉めている様なんだが、尻尾が掴めない」
「尚更俺には関係ないでしょう。万が一関係があっても、あのしみったれ伯爵相手に跪くのは嫌です」
「しみったれ?」
「それこそ奴に関係することですが、奴がその椅子に座っているときに会いに来させられましたよ、囮としてね。その時の伯爵の依頼が金貨10枚です。当時二人だったので、金貨5枚で命を賭ける仕事をやれと偉そうに言われました。上手く行けば、自分は王様の覚え目出度い仕事の依頼がですよ」
「だが受けたんだろう」
「ホルムのギルドからも金貨10枚と言われましたし、それ以上に奴に恨みが有りましたからね。あの伯爵と揉めているのなら、放っておけば良いじゃないですか」
「ギルドとしては、領主と揉めるのは困るんだ。特にあのヒロクンとエリー呼ばれる二人に手を焼いているそうなんだ」
「俺はお断りです。指名依頼を断っても問題ないはずで・・・・・・なんて言いました?」
「領主と揉めるのは困るんだ、お前のキラービーを使えば」
「いや、その後ですよ。名前はなんて言いました!」
「ヒロクンとエリーって魔法使い二人の事か?」
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