第37話 蜜に群がる
オーク四頭対冒険者七名だが、明らかに冒険者達が劣勢で長くは持ちそうにない。
《ミーちゃん、合図したら後ろから足だよ》
《はい。マスター》
オークの後ろに回り込み、ラノベの常識通り冒険者達に声を掛ける。
「手助けは必要かな?」
俺の声で振り向いたオークに斬りかかった男が「頼む!」と返事をしたので、《行け!》と攻撃命令。
俺はオークの心臓を狙って槍を構えると、ミーちゃんがオークの後ろに回り込みアキレス腱を爪で切り裂く。
〈ギャーァァァ〉アキレス腱断裂の痛さに悲鳴を上げたオークに向かって、一足跳びに踏み込み胸を貫くと跳び下がる。
その時には冒険者と争っていたオークの足を、ミーちゃんの爪が切り裂き体勢を崩している。
そこへ冒険者が踏み込み、短槍を突き入れる。
いくら優勢とは言え、背後から現れた俺と足を攻撃する小さなミーちゃんが加わったので形勢逆転。
残りの二頭も直ぐに討伐して終わった。
敵がいなくなり周囲の安全を確認すると、ミーちゃんが肩に飛び乗ってくる。
「助かったぜ、兄さん。俺達は〔血飛沫の剣〕リーダーのベルガだ」
「シンヤです。こいつは相棒のミーちゃんです」
ミーちゃんをポンポンして紹介すると、変な物を食べたような顔になる。
「あんた、ボンズの肩の骨が砕けてるので、手持ちのポーションじゃ治せないので街へ帰らないと」
ベルガに声を掛けて来たのは、ナイスバディーの女戦士の様な姿の冒険者。
俺の視線に気付いたのか「助かったわ、有り難うね。坊や」と礼を言ってくる。
「シンヤ、二頭はお前の取り分だ。俺達は仲間を街まで連れ帰るが、お前はどうする・・・というか、お前一人か?」
「こいつと二人です」
ミーちゃんを指差して答える。
「シンヤ・・・あんたテイマーよね」
「そうですが」
「シンヤってテイマーは、キラービーを従えているって噂を聞いたけど、そのシンヤなの」
「従えてはいませんが守って貰っています。今も上に数匹居ますよ」
上を指差すと二人揃って空を見る。
10数メートル上空を、キラービーが五匹ほど飛んでいる。
「へえ~、本当にキラービーを従えているんだ」
この小母ちゃんは人の話を聞いてないな。
「それより、此処から街までどれ位かかるんですか」
「ん、此処からだと明日の夕方には戻れるな」
「ポーションが必要なら、中級の下で良ければ融通しますよ。薬師ギルドの正規品です」
「金は払うので譲ってくれ。頼む」
マジックポーチから中級下のポーションを取り出して渡すと、直ぐに怪我人の所へ持って行き飲ませている。
骨が砕けていると言ったので、傷に掛ける必要が無いのかな。
これで又一つ、ポーションの使用方法が判った。
振り向くとベルガが革袋から銀貨を取り出して差し出す。
「いやー、お前さんが来てくれて大助かりだよ。オークを収めてくれ」
「じゃー遠慮なく」
最初に倒した奴と隣のをマジックバッグに放り込み、お別れすることに。
「あんたは一人なの?」
「そうですけど、身を守る護衛はいますから」
「オークを倒した手並みは見事だったよ。街で会ったら一杯奢らせてくれ」
軽く手を上げてお別れして、ハニービーの巣の方へと向かう。
* * * * * * *
「噂より可愛い子じゃない。でもあの細っこい身体で見事な動きだったわね」
「ああ、5、6mを一足で跳び込んで一突きだ。あのファングキャットも良い働きをするし、あの爪は恐ろしいな」
「ファングキャットが、あんなに強いなんて知らなかったわ。ギルドじゃ猫を抱えて巫山戯たガキだって笑い者にしていたけど」
「聞くと見るとじゃ大違いだな」
「見て、キラービーがあの子の上に降りてきたわ」
「ああ、噂どおりだな」
「ベルガ、見てみろよ。オークの脹ら脛をスッパリ切り裂いているぞ」
「オークが猫の爪にやられるとはなぁ」
「俺もファングキャットのお供が欲しいぜ」
「彼奴だろう、時々ギルドに来て大量に獲物を持ち込むって噂の奴」
「街から離れた草原を一人で彷徨くなんて、中々肝が据わっているな」
「それより、此れからどうする?」
「怪我は治ったが、街に戻って験直をして出直しだな」
「そう言って飲みたいだけでしょう」
* * * * * * *
ハニービーの巣から離れたところで野営して、陽が高くなってからハニービーを呼び寄せると、巣の近くに邪魔者がいないかを確かめる。
《巣を襲ったり壊すやつはいないよ》
《マスター、なになに?》
《女王蜂、巣の長に挨拶をしたいのだよ》
《ママに、マスターがママに?》
《ママに知らせてくる!》
《お出迎えだ! マスターがママに会いに来るぞ》
《皆を呼べ!》
まぁ~、キラービーの蜂柱も凄いが、ハニービーの蜂柱も凄いってか数が凄い。
ミーちゃんは蜂が嫌いなので、小さくして俺の懐へ避難させる。
まるで巨大な饅頭笠が俺とともに移動しているようで、羽音で何も聞こえない。
一匹のハニービーが俺の前に浮かび《ママのところへお連れします》と伝えて来た。
俺の周囲に広がり筒状になった中に巨大な巣が見えて、巣穴から一際大きな蜂が出てきた。
《ようこそ、マスター。ティナ様の加護を受けし方》
《やあママ、お願いが有って来たんだ》
《マスターの望みのままに》
《ママ達の困らない程度に、蜜を分けて欲しいんだ》
《どうぞ、マスターの望むだけお持ち下さい。今は花の季節で蜜は幾らでも集められます》
ママが何か合図をすると、多くの蜂が巣の壁を齧り始めて穴を開けてくれた。
《マスター、この中に蜜倉が有ります》
《たくさん集めているよ♪》
《気に入ってくれるかな~》
綺麗な楕円形に齧り取った壁を取ると、ぎっしりと蜜の詰まった巣が見える。
こんなにあっさり許されると気が引けてくる。
寸胴を一つ取り出し、ママに此れくらい貰っても大丈夫かと尋ねる。
《何の問題も有りません。たくさん持って行かれると宜しいです》と鷹揚な返事が帰って来た。
礼を言ってナイフを取り出して、厚い巣を切り取り寸胴に詰めていく。
直径40cm縦50cm程の寸胴に入れてお礼を言うと《もっとお持ち下さい》と勧めてくれるので、もう一つだけ寸胴に貰う。
此れだけ有れば一年以上楽に持つだろう。
取り外した巣の壁を元に戻すと、それを合図に無数の蜂が集まって来て齧った後を塞いでいく。
《マスター、蜜は要らないの》
《たくさん集めるよ》
《ママ、蜜を集めに行っていい?》
《マスター、蜜を入れる物は?》
《張り切って集めるよ》
《皆、密を集めてマスターのところへ》
《行くよー》
何かお返しがしたいが蜜蜂は蜜と花粉しか食べないはずで、ちょっと心苦しいが大合唱に押されて壺とビーカーの大きいのを並べる。
飛び立つものや周辺情報を伝えるもの、壺とビーカーの縁に止まり蜜を落とすものとてんやわんやの騒ぎになってしまった。
飛び交うハニービーの中に居ては、俺はただの役立たずの邪魔者なので、巣から少し離れた所へ壺と瓶を置いて離れる。
春霞のようにハニービーが飛び交い、周辺は羽音でワーンとしか聞こえない。
羽音は煩いが、慣れると眠気を誘うのでウトウトとしてしまう。
《毛玉だ!》
《毛玉が来たぞー》
《皆を集めろ!》
《巣に近づけるなー》
《マスター、逃げて!》
《大きな毛玉だよ!》
《巣が壊れちゃう》
羽音が変わり耳元でブンブン飛ぶので煩くて目が覚めた。
《マスター、マスター起きて下さい。何かやって来ます》
《マスター、毛玉が来るよ》
《逃げて、マスター》
ん~、毛玉ってあれか?
ハニー達の示す方向から俺の方へ突っ込んで来るが、背後にはママの巣が有る。
昨日冒険者と遣り合っていた奴に似ている気がするが、熊なら蜂蜜大好きだよな。
というか、昨日も思ったが冒険者の腰より少し高い程度の、と言ってもツキノワグマよりでかいのは確実だ。
ほっぺをパンパン叩き、気合いを入れると同時にハニー達には毛玉に近づくなと命じる。
ミーちゃんを懐から出して(元に戻れ!)と命じる。
《マスター、あれは無理です》
《あいつの前に出て、鼻を引っ掻いてやりなよ。時々目に猫パンチも宜しく》
ミーちゃんの俊敏さが有れば、ちっちゃい熊なんて遊び相手だよ。
ミーちゃんが正面から揶揄い、俺が後ろから襲って撃退だな。
突っ込んで来る熊五郎に向かい全身の毛を逆立てて唸るミーちゃん、それを見て速度の落ちる熊五郎。
その隙に熊五郎の右に跳び、三角跳びの要領で後方に回る。
《行けっ!》
一瞬の間を置いてミーちゃんが熊五郎を飛び越えて俺の前に現れると、〈グワー〉と咆哮を上げて立ち上がる熊五郎。
背後から後ろ足を狙って跳び、ブスッと突き刺して刃を滑らせる。
〈グギャー〉
悲鳴とともにぺたりと座り込み、地面をバンバン叩いて怒り狂う熊五郎。
隙あり!
背中を見せて怒り狂う熊五郎を目掛けて再びジャンプして、短槍の峰を後頭部に叩き付ける。
〈ゴン〉と音がして熊五郎の動きが止まる。
オークの剛力で叩いたらそうなるわな。
(テイム)〔リングベア・13・・・12・・・11・・・〕
ん、これって・・・あれだよな。
(テイム・テイム)〔・・・・・・〕
(テイム・テイム)〔・・・・・・〕
(テイム・テイム)〔リングベア、2-1〕
おいおい、マジでテイム出来ちゃったよ。
《起きろ! 熊五郎》〔リングベア、嗅覚・穴掘り〕
《はい。マスター》
あれっ、名前を付けちゃった様なので、熊五郎に待てと指示してスキル確認だ。
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