第5話 フラン

 身動きしないカリオンを結界の中へ引きずり込み、両足を縛り尻尾を腹に抱かせて頭も前足に挟む。

 丸まったカリオンは何処から見ても1m未満、試しにマジックポーチに入れてみるとすんなり消えた。


 《マスター! マスター! お肉が消えました!》


 蜘蛛ちゃんの悲痛な声に笑いそうになったが、俺の串焼き肉を分けてあげるけど食べられるのだろうか。


 カリオンが消えた場所でウロウロする蜘蛛ちゃんに、マジックポーチから取り出した串焼き肉を一つ外して差し出してやる。


 《蜘蛛ちゃん、このお肉は食べられるかな》


 地面に手をおいて呼ぶと、お肉と聞いて慌ててやって来る。

 掌にのせられた肉の前で止まり首を捻り、前足でチョンチョンして考え込んでいる。


 《マスター、これはお肉じゃあまりせん。お肉はこんなにベトベトもしていませんよ》


 《そのタレ、ベトベトはタレと言って美味しいんだけど、食べられないのなら流してあげるよ)


 掌の肉をウォーターで洗いタレを取り除いてお肉を差し出す。


 《今度は食べられると思うけど駄目なら何か獲ってあげるよ》


 再びお肉をチョンチョンし、首を傾げている。


 《お肉?》


 《ああ、お肉だよ。さっきのを食べられる様にしたものだ》


 そう言うと、ゆっくり近づいてお肉にかじりついた。


 《・・・マスター、美味しいです! 初めて食べるお肉です!》


 嬉しそうに言うと夢中で食べ始めたので、掌の上の蜘蛛を驚かさない様にじっとしている。

 体長10cm前後の蜘蛛を見て嫌悪感が湧かないのも、ティナの加護のお陰かなと思う。


 俺と蜘蛛ちゃんは同じ1でも俺は神様の加護がある、それも二つも有るのでテイム出来ると思ったんだが間違いなかった。

 ひょっとしたら相手が2でもテイム出来るかも知れないが、そのうち試してみよう。


 蜘蛛ちゃんと呼ぶのも面倒だし縮めてクーちゃんで、50匹もテイム出来るのならクー1号だな。

 食べ終わって顔の辺りをふきふきしているので、クリーンで綺麗にしてやる。


 《マスター、有り難う御座います。次ぎもこのお肉が良いです♪》


 こいつ意外と食い意地が張ってるが、野生の生き物が調理肉を常食にして健康に害はないのかな。


 《蜘蛛ちゃん、今日から君はクー1号な、略して1号だな》


 《はい! クー1号ですね♪》〔クー1号・50-1・複眼、木登り〕


 んー、又々頭の中に何か出たぞ。

 と思ったら消えてしまったので、クーを見て(テイム)〔クー1号・・・〕ん、ん、ん?

 おいおい一瞬で消えたら困るんだけど、どうすればと思っていて自分のスキルを確認すれば判るだろうと、掌を見て(スキル)


 〔シンヤ、18才。テイマー・能力1、アマデウスの加護・ティナの加護、生活魔法・魔力8/10、索敵初級、気配察知初級、隠形初級〕

 〔ポイズンスパイダー、50-1、複眼、木登り、30〕


 名前が北条真也28才からシンヤ18才に変わっていて、野営用結界魔法板を二度使ったから魔力が二つ減っている。

 問題はテイムしたクーちゃんの複眼と木登りって、蜘蛛なら複眼だし木登りも上手いし壁だって登れる。


 それにクーちゃんは毒蜘蛛だから毒も持っているのに、複眼と木登りだけが表示されている。

 それと最後の30だが、テイム出来ている日数か寿命かそれとも別な意味が有るのか?

 ティナの野郎、俺がテイマーの能力が使えないと思い、碌に説明もしやがらなかったからな。


 考えても判らない物は判らないので、今夜の寝床作りに励む事にしたが少し思いついてクーちゃんに頼み事をする。

 クーちゃんが飛び出して来た植物と同じ物を探して貰い、俺はその間せっせと草刈りだ。


 時々マスター、此処にあります!と声が掛かるが、声はすれども姿は見えずの言葉通りの状態にずっこける。

 一々俺の所に戻ってきて案内してもらうのも面倒なので、丈の高い草に登り揺らして貰う事にした。

 クーちゃんから声が掛かり揺れる草を探してそこへ行くと、草の中程にクーちゃんがいて必死に草を揺らしている。


 * * * * * * * *


 たっぷり草刈りが出来たので、陽の落ちる前に柔らかな寝床の上でのんびりしている。

 クーちゃんのお陰で痛み止めの薬草が18本も集まったし、ご褒美のお肉にかじりついてご機嫌なクーちゃん。

 マジックポーチのカリオンは邪魔なので、明日は冒険者ギルドに売りに行こうと考えていると、何やらガサゴソと近づいて来る。


 索敵も気配察知も必要無いほど音高く駆けよって来ると、荒い息をつきながら何事か呟くと地面が立ち上がる。

 ほう~、此れが土魔法か等と見学していたが、何で俺の野営用結界にひっつけて作るのさ。

 土魔法のシェルターができあがり、座り込んだ男がライトを灯す。

 灯りに浮かんだ顔を見て驚いた、冒険者登録を一緒に受けた奴じゃないの。


 俺が見ていると知らないのか水を飲んで一息つくと、覗き穴を開けて周囲を見ている。

 何に追われたのか知らないがと思っていたら、次のお客さんだ。

 現れたのはむさ苦しい男が6人、土魔法のシェルターを見て笑っていたが、一人が俺の結界を見て驚いている。


 〈おらっ、出て来い!〉

 〈待てまて、こりゃー野営用の結界じゃねえか〉


 其れを聞いて残りの5人が顔を見合わせ、シェルターを蹴るのを止める。


 〈ちと不味いかもな〉

 〈この大きさだと精々2,3人だ。纏めて面倒みてやろうぜ〉


 あっちゃー、面倒事の予感しかしないぞ。

 結界に気付いた男が、ナイフの背で結界を叩き「済まねえ、オークに追われているんだ、助けてくれ!」と、仲間を見ながら声を張り上げる。

 意図を察した残りの男達もナイフを抜き、結界をゴンゴン叩いては「助けてくれー」とか「死にたくないぃぃ」と悲壮感溢れる声で言いながら顔が笑っている。


 丸見え丸聞こえなのに、野営用の結界は知っているが機能は知らない様だ。

 見過ごす訳にはいかないどころか、巻き込まれたのは間違いない。

 クーちゃんに隠れて貰い、俺に危険が及べば助けてねとお願いしてから、隣のシェルターの男にご挨拶。

 いきなり中に入ると男の腕を掴み、有無を言わさず結界内に引きずり込んだ。


 「うわーあぁぁぁ。ななな」


 「煩いから静かにしろ! 俺だよシンヤだよ」


 「えっ・・・えっえっえぇ~ぇぇ!」


 煩いので頭を一発叩いて黙らせる。


 「確かフランとか言ったよな、表で騒ぐこいつ等は何だ?」


 俺が指差す先を見てびっくり仰天。

 表に居る6人を見て、あわあわしているのでもう一度頭をぴしゃりと叩く。


 「奴等から俺達は見えていないので心配するな」


 「俺は石の側に土魔法で小屋を作ったのに、何で?」


 「その石は俺の野営用結界だったのさ。それより追われている様だが訳を話せよ」


 表ではナイフで叩いても返事をしないものだから。石を投げたり剣を抜いて叩き付け始めた。

 ティナの言葉を信じるなら、この程度の攻撃には耐えられるだろう、と思う。


 「これ、大丈夫なんですか?」


 「オークやバッファローの攻撃に耐えられると聞いているので気にするな。それより訳を話せよ、言わないのなら放り出すぞ」


 「あっ、えっと・・・仲間になれって、俺が土魔法が使えるのなら攻撃を任せるし、野営も楽だからって。その代わり冒険者の事は一から教えてやると言われたので、村で薬草採取等していたので知っていると断ったんです。そしたら無理矢理荷物を取り上げられたので、隙を見て逃げ出したんです」


 つまり野盗と変わらないのなら、反撃しても罪に問われないって聞いたな。

 と言っても、俺に反撃手段は無いのでどうするかだ。


 「フラン、荷物は取られたんだよな?」


 「はい、そこのひげ面の持っているバッグは俺の物です」


 「俺がこいつ等を、傷付けたり殺したとしたら不味いかな」


 「人の荷物を無理矢理盗ったので、反撃は問題ないと思います」


 日本の様に話せば判るが通用しない世界ってのは、冒険者講習でよく判っていたが早くもその洗礼を受けるとは、ここは腹を括る時だろう。

 結界にへばりつきナイフの背でゴンゴン叩いている奴を狙い、心臓の所に槍先を持って行くと一気に突き、すぐに引き抜く。

 〈ウゲッ〉と言ったきりナイフを落とし結界に凭れたまま崩れ落ちる。

 初めての殺人だが、ゴブリンやカリオンと同様に恐怖も嫌悪感も無し。


 〈おい! サボらず叩いて起こせよ!〉


 崩れ落ちた奴の肩を掴み揺する男の腹を狙って突いたが、少し離れていたので短槍の先だけが腹に突き立った。

 浅手だと思い、一度引き抜いた短槍を再び突き刺して引き抜く。

 〈ウッ〉と言って腹を押さえた男が、二度目の突きで槍先を見て目を見開いている。

 引き抜いた槍が消えた結界を、信じられ無いといった表情で見ていたが白目を剥いて倒れ込んだ。


 〈おい! どうした?〉

 〈血が流れているぞ!〉

 〈何時の間にやられたんだ?〉

 〈中の奴は手練れか?〉

 〈おい、少し離れて俺達が逃げた様に見せかけようぜ〉

 〈この二人はどうする?〉

 〈この傷で助かると思うか。置いておけば俺達が逃げたと思うだろう〉

 〈のこのこ出てきたところを押さえて、しっかり焼きを入れてやるさ〉


 丸聞こえなのに呑気な物だ。


 「シンヤさん、これって本当に俺達が見えてないのですか」


 フランが囁く様に聞いてくる。


 「ああ、中からは見えるし声も聞こえるが、外からは中の事は一切判らないぞ。ライトを灯そうが大声で喚こうが、聞こえないし見えないな」


 無事な四人が集まり、少し離れた所で野営をして俺達を待とうと相談している。

 相談が纏まった様なので離れていくのかと思ったら、倒れた二人の荷物を剥ぎ取りポケットの中を探り出した。


 「うわー・・・仲間からも毟り取るって」


 最初の奴は結界にもたれかかっているので、それを引き起こそうと側に来た奴は俯き加減の姿勢だ。

 結界内から見ると上半身がら空きの状態なので、渾身の力で胸を一突きしてから引き抜く。

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