第120話 緊急警報
うわーぁぁ、あの顔は冒険者ギルドで売っているゲロマズポーションだ。
もう一人も同じ様に足を噛まれているが、大量に血を流しているので動脈をやられている様だ。
「良い腕だな、助かったぜ」
「ポーションで治りそうか?」
「まぁ~ギルドで買ったポーションだから、血止めくらいにはなる」
初級中と中級中のポーションを取り出して渡す。
「正規品だ、振り掛けて飲めば一発で治るぞ」
「気持ちは有り難いが、こんな高い物は使えねえよ」
「金はいらない。中級品でも怪我は治るが流れた血は戻らないので、獲物を片づけて安全な場所で4,5日は野営だな」
話をしている間に、魔法使いが座り込んでぐったりしている。
「ポーション代、本当に良いのか?」
「ああ、構わない気にしないでくれ」
「遅れたが、火炎のリーダーをしているギランだ。済まないが魔法使いの体力が戻るまで付き合っちゃくれないか」
七人の内三人が動けないんじゃ見捨てる訳にもいかない。
此れも助けた縁だと思って付き合う事にするが、条件付きだ。
「それは構わないが、俺と出会ったことは喋らないでくれよ」
「ん、賞金首じゃないよな?」
「そうじゃない、三月もすれば喋られても構わないが、俺がヴェルナス街道にいるのを暫くは知られたくないのさ」
「助けて貰ったんだ、喋らねえよ。賞金首のお訪ね者なら、ブラックウルフの群れに飛び込んでまで俺達を助けないだろうからな。獲物をしまってくれ」
自分の倒したブラックウルフをマジックバッグに放り込み、遠くへ行けそうにない二人の為に、平らな所で野営用結界を展開する。
「おいおい、此れって野営用結界ってやつだよな?」
「ああ、ベッドはないけどあんた達全員が寝られるので中へ入ってくれ」
二人ずつ腕を掴んで中へ入れると、お茶を入れてやる。
「なんと、あんたって本当に冒険者か?」
疑わしそうに聞いてくるので、ギルドカードをチラリと見せてやる。
「駄目だ、ついていけんわ」
「リーダー、どうかしたのか」
「ゴールドカードを持っているんだ、強いはずだぜ」
「まさか?」
「ゴールドカードって、AかBランクって事だよな」
「ちょっと仲間を呼ぶけど、さっきの話を忘れるなよ」
「仲間がいるのか?」
問いかけには答えず外に出て、草叢に隠した背負子を担ぎRとLを連れて戻る。
「テイマーだったのかよ」
「あれだけ強いテイマーって、初めてみたな」
「ドッグ系には見えないけれど、二頭もテイムしているって凄いなぁ」
「所で此処から一番近い大きな街って何処になるの?」
「あん、知らねえの?」
「街道沿いの草原を歩いていたからな。サハンの街を過ぎて二日目だけど、ヴェルナス街道を通るのは初めてなのさ」
「サハンから二日で、此処まで来たのか」
「とんでもない足をしているな。獣人族の血でも入っているのか?」
「良く言われるが、俺もよく判らないってところだな」
「此処からだとサハンまで三日、コルサスの街までなら二日だな」
「俺達はコルサスの冒険者ギルドを拠点にしているんだ」
「小さい町のギルドだと、買い取りが渋くてなぁ」
コルサスってホリエンズ領か、未だまだ先は長いけど急ぐ旅でもないので寄り道も良しとするか。
「少し早いけど飯にしよう。怪我したあんたはたっぷり食えよ」
もそもそと食事の支度をしようとするので、レッドチキンを二羽ほど提供して解体して貰い、ちょっとした焼き肉パーティーになり保存食も提供する。
「つくづくあんたって規格外だな。ところで名前も言わないつもりなのか」
「そうだな、王都の方から来たのでラングスとでも呼んでくれ」
「はいはい、あんたと話していると力が抜けっちまうぜ」
「さっき火魔法を射っている音で気付いたんだが、詠唱が長くないか。魔力はどれ位有るんだ」
「ハンザだ。魔力は88だけど、詠唱が長いって何だ?」
「俺の知っている魔法使いは、詠唱なんてしてないぞ。ファイヤーボールが面倒だと言って、ファイヤーとか、ハッって掛け声だけで連射しているな。土魔法使いも、ランスとかアローだけだ」
「そんな馬鹿な」
「信じなくても良いよ。そいつ等は魔力操作が上達すれば、連射も威力も上がると言っていたからな。ハンザは魔力をどうやって流している、魔力溜りからか、それとも腕に溜めてからなのか?」
「あんた・・・ラングスって魔法が使えるのか」
「俺はただのテイマーだ。魔法使いの知り合いが何人かいるので、色々と話しを聞いて知っているのさ」
「例えば?」
「魔法が使えるのだから魔力溜りは判るよな、魔法を使うときには必要な魔力を魔力溜りから腕に集めるそうだ。だから魔法を授かって最初に教えられた事は、魔力溜りを探す事だって。それが判り魔力が動かせる様になったら魔力を腕に集めることだって言っていたな」
「俺が教わった事とは大分違うな」
「そりゃーそうだろう。それぞれ師匠が違えば教え方も違って当然さ」
「それで、腕に魔力を集めてどうするんだ?」
「えぇ~と・・・腕に集めた魔力が魔法一回分だと言っていた。その集めた一回分を放出する訓練を毎日続けるんだって。そうすると自分が魔法を使える回数が判る様になるって言ってたな。魔力切れになったら倒れるんだろう」
「ああ、その前に身体が怠くなり力も入らなく為るから判るけど」
「逃げる力も残ってないんだろう」
「良く知っているな」
「だから、そんな事も含めて色々と聞いているんだよ」
「魔法が使える回数が判れば1/4~1/5の魔力を残すんだって。ハンザは何回くらい魔法が使えるんだ?」
「俺は24,5回から27,8回位だな、その日の調子によって違うからな。その魔法使い達はどれ位の回数いけるんだ?」
「土魔法使いは魔力が75,6だったかな。出会った頃は20より少なかった筈だが、この間会った時には50回以上使えると聞いたな」
「それって倍以上になって・・・」
「静かに!」
ハンザの言葉を遮り索敵に集中すると、知らない気配だが危険な匂いがプンプンする。
《RとL、こっちの方を偵察してきてくれ、何か危険な感じがするので手出しは駄目だよ》
《判りました、マスター》
《行ってきます》
俺の指差す方を見て、腰を上げ野営用結界を出て行く。
「どうかしたのか?」
「何か大物の気配がする」
俺の指差した方を全員が立ち上がって見ているが、丈の高い草も結構生えていて視界が悪い。
《マスター、大きくて固いやつです》
《逃げて良いですか》
珍しいなと思いながらも《ああ、見つからない様に戻っておいで》と許可する。
「おっ、帰って来たぞ」
「流石はワンコだ、足が速いね」
「ちょっと待て! あれって」
「あれじゃねえのか、警報が出ていた奴って」
「嘘だろう! 何でこんな所に居るんだよ!」
「何の話しだ?」
「ああ、ラングスは知らないか。コルサスでアーマーバッファローを見たとの報告があって、緊急警報が出ていたんだ」
「だから俺達はコルサスの街を離れて狩りをしていたんだけど」
「ブラックウルフにはやられるし、こんな奴と出会うとはついてないな」
「此れって耐えられるんだろうな」
「ラングス、此れは大丈夫なのか?」
「んー、ブラウンベア程度には耐えられた筈だけど・・・アーマーバッファローってそんなに強いのか?」
「荷馬車や軍馬を跳ね飛ばす、気に入らなきゃ岩にも突撃するって強面だな」
「槍や剣では傷も付けられないし、威力の無い魔法なら皮が固くて跳ね返すので、見掛けたら逃げろって言われているぞ」
「ゴールデンベアも奴には逆らわないって話しだ」
「突進力がもの凄いって言われいるからな」
「なんて迷惑な奴なんだ。でも警報だけなら、討伐は出来るんだろう」
「勿論さ、討伐依頼が出ているが、Bランク以上のパーティー指定だ」
「ラングスがゴールドランクでも、一人じゃ受けられないな」
「と言うか、こっちに向かってきてないか?」
《マスター、戻りました》
《何か怒ってましたよ》
「凄腕の攻撃魔法使いがいればなぁ~」
「彼奴は肉が美味いので、貴族や豪商達が争って買うそうだぜ」
「俺はオークションだと聞いたぞ」
「ハンザ、腕を磨けよ」
「ギルドの警報を見なかったのか、火魔法の攻撃は弾かれるだけだし、興奮させるので禁止だったぞ」
「なにか嫌な予感がするな」
「おいおい、嫌なことを言うなよ」
「だって見ろよ。明らかに興奮しているし、あの目はこの野営用結界を見ているじゃないか。さっき岩にも突撃って言わなかったか?」
「止めてくれよ。口に出したらそうなるって、婆ちゃんが良く言ってたからよう」
「そう言えば、此れって外からは大石に見えていたよな」
「黙れ! 余計な事は言わずに静かにしていようぜ」
鼻息荒く周辺を嗅ぎ回り、立木に当たり散らしている。
「あっ・・・仲間も集まってきてるぞ」
「これって、外からは見えないって言ったよな」
「しっ、静かにしろ!」
「中で騒いでも外には漏れない優れ物だから、静かにしなくても大丈夫だよ」
「ちょっ、背中を擦りつけてるよ」
指差す方を見れば、大きな奴が背中をグリグリしているじゃないの。
って、ちょっと待て! 野営用結界が動いた気がするぞ。
〈ドーン〉と音がしてそちらを見ると、仔牛と言うには大きすぎる奴が頭突きをしている。
「ラングス、何か動いた様だぞ!」
「岩に突撃するって本当だったんだ!」
「逃げた方が良いんじゃないか?」
「何処へ逃げるんだよ?」
「この周辺じゃ、此の中以上に安全な場所なんてないぞ!」
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