第70話 タンザの街

 解体場でホーンボア2頭、フレイムドッグ5頭、ハウルドッグ7頭を並べると、即座に査定用紙に書き込み手渡された。

 ホーンボア、120,000ダーラと150,000ダーラ。

 フレイムドッグ、19,000ダーラ×5=95,000ダーラ

 ホーンドッグ、22,000ダーラ×7=154,000ダーラ

 合計519,000ダーラだ。


 礼を言って査定用紙を貰い、精算カウンターに渡して金を受け取ると食堂に向かう。

 ギルドの建物自体もそうだが、解体場も食堂も王都より広く冒険者も多い。

 そして王都のギルドと違い目付きの鋭い奴が多くて、食堂に来る者をさり気なく品定めしている。


 若い者やランクが低そうな者は、食堂の片隅で静かに食事をしたり飲んでいるが、ど真ん中辺りで飲み食いしている者は半数が獣人族と思われる。

 此処は、ティナが言っていた野獣の増えすぎた場所の様な感じだ。

 だとしたら、ザルムの様な肝の据わった奴いるのも不思議じゃない。

 夕方には続々と冒険者達が帰ってきて食堂も混み始めたので、ザルムを待つのを止めて外に出る。


 フーちゃん達の隣りにブラックウルフが座り、その隣にはカリオンが居た。

 それぞれが素知らぬ風に寛いでいるので、テイムされた野獣同士は敵対しないものと思われる。


 朝夕三日程ギルドへ通ってザルムを待ったが会えず、受付でザルムの事を訊ねたが知らないと素っ気ない。

 確か伯爵家に奉公させられてから七年って言っていたので、受付が知らないのも無理はないか。

 目印代わりにフーちゃん達を連れてきているにと、フーちゃんを撫でながら考えていると声が掛かった。


 「あんた、伯爵様の所で会ったよな?」


 「あの時、執事のスタッドに連れて来られた人だよね?」


 「そうだ、ザルムから聞いたよ。あんたのお陰で、糞っ垂れな奴に仕えなくても良くなったし気楽な冒険者に戻れたよ。こんな所で何をしているんだ?」


 「そのザルムに会いに来たんだが、こんなに人がいると思わなくて。ザルムの家を知らないか?」


 「ああ、王都より北は獲物が多いので冒険者が集まるんだ。奴の家へ案内してやるよ。それにしても、フォレストウルフを従えているって聞いていたが本当なんだな」


 「助かるよ。あの時に家の場所もざっと聞いたんだが、色々あって忘れちゃって。ギルドで待てば良いかと思ったが、受付に聞いても知らないって言われたよ」


 「そりゃー、何年も冒険者をしていなかったので無理もないぜ。あんたのお陰で俺も金が貰えたので、今は身体を慣らしながらぼちぼち勘を取り戻しているところさ」


 キルザと名乗った男に案内されて訪れたザルムの家は、向かい合わせに建つ三階建ての二階で親を含めた家族と住んでいた。


 「待っていたぜ、良く来てくれた」


 「あれから何も言ってこない?」


 「ああ、騎士連中には嫌味をたっぷり言われたが、殺気を叩き付けたら黙ったよ。嫌々仕えさせられていたし、弱いくせに冒険者上がりと散々馬鹿にしてくれたからな。そのお礼が出来なかったのが心残りだけど」


 「なら安心だな。それにしても良い家だね」


 「以前の蓄えと、伯爵様の慰労金で買ったのさ。で、タンザに来たのはそれだけじゃないだろう」


 「森を案内してくれって言ったじゃない。そろそろ茸が採れると思って来たんだから」


 「茸・・・かよ」


 「そう、美味しい茸は金になるよ」


 歓迎してくれた彼の家族達も、俺が茸採取に来たと聞いて脱力気味のご様子。

 一緒に話を聞いていたキルザは、何とも言えない顔で首を横に振っている。


 提供された夕食に、秘蔵のゴールドマッシュの粉をふりかけて軽く混ぜる。

 俺がにやにや笑いながらふりかける容器を差し出して勧めるので、ザルムが不審気ながらも真似て料理に振り掛けて混ぜ、一口食べて驚いている。


 「おい! 此れって・・・何だ?」


 力が抜けるねぇ~。

 キルザも真似てゴールドマッシュを料理にふりかけて食べると、目を剥いて驚いている。


 「何だ、こりゃ~。めちゃくちゃ美味くなってるぞ! 奥さん達もふりかけてみなよ、味が抜群に良くなるぞ!」


 俺が欲しい茸を乾燥させた物が此れだと教えると、又々ビックリしている。


 * * * * * * *


 翌日三人で冒険者ギルドへ行き、薬草採取専門の知り合いに茸が採れる場所を尋ねた。

 ザルムもキルザも野獣の討伐専門で、木の実や茸等がどの辺に有るのか全然知らなかった。

 ザルムが尋ねた男は、自分の稼ぎを掠め取られるのを嫌がって口が重い。

 俺が籠を見せてこれ以上は取らないと約束して、銀貨を五枚ばかり握らせて場所を教えて貰った。


 尤も見せた籠の口は60cm程で深さは80cm程度の物二つ、雑多な茸を集めても銀貨五枚にはほど遠いので教えてもらえた。

 ちょっと心が痛むが、彼が集める茸とは別物だから気楽に採取させて貰おう。


 場所を教えてもらえたので、そのまま三人で街を出て目的の所へ向かう。

 旅の途中でも感じた事だが、タンザに近づく程に森が街道に近くなり獣の数が増えてくる。

 まぁ、森が近いと言っても街道から草原を抜けて森までは3、4時間は歩くのだが、ザンドラ辺りでも本格的な森に入るには一日以上掛かる。

 ザンドラ周辺で森と言っていた場所は、この辺りでは少し木の生えている林扱いだ。


 その点王都の北は森が街に近い感じがするし、獣の数も多いって事なんだろう。

 獣が多ければ危険な野獣も多くなり、集まる冒険者の腕も良いって事か。


 森の側に野営用結界を出して三人で野営だが、食事は俺がたっぷり保存しているので提供する。

 ゴールドマッシュを振り掛けた食事に食後の酒を楽しみながらの談笑。


 「俺の知らない冒険者生活だな」

 「こんなに美味い飯を食っていたら、冒険者なんてやってられなくなるぞ」

 「ゴールドマッシュなんて初めて聞いたからな」

 「多分、この場所を教えてくれた奴も知らないだろうな」

 「シンヤは良く知っていたな」


 「以前一緒にやっていた奴に教えて貰ったんだ。高価だけど、完全に乾燥させた重さと同じg数・・・枚数の銀貨を貰えるよ」


 「乾燥させた茸と同じ重さのg数か・・・それって1本や2本を乾燥させても銀貨数枚にしかならないって事だろう」


 「よくお判りで、彼等だと十本も集められないだろうし、乾燥させる手間を考えたら探さないと思うよ」


 「俺達に教えても良いのか」


 「問題ないね、探せば数本程度なら見つけられると思う。俺だってミーちゃんとフーちゃんがいなけりゃ数本しか見つけられないだろうし」


 * * * * * * *


 《ミーちゃん、この匂いを覚えている?》


 《はい、マスター。木に生えている物ですね。木の匂いも覚えています》


 《それじゃ、木を見つけたら教えてね》


 フーちゃん達には、マジックポーチから保存していた木の葉を取りだして匂いを嗅がせ、同じ匂いを探させる。

 葉っぱだけじゃ無理かなと思ったけれど、嗅覚の違いを見せつけられることになる。

 地面に近いミーちゃんより、フーちゃんの方が早く木を見つけて教えてくれた。


 木の幹を見上げて茸を探すが、下から見えない場所はミーちゃんのお仕事。

 一本目は空振り、五本目の木に生えているのを発見したが六本の内二本しか採取出来なかった。

 成長途中で小さすぎるものは、日を改めて採取する事にする。

 二日程は4,5本の木に一つゴールドマッシュが生えていたが、三日目に当たりの場所に来た様で、二本に一本は多数の茸が生えていた。


 俺の後をついて来て周辺警戒をしている二人は、ミーちゃんとフーちゃんを使っての茸採取に呆れている。

 曰く、ミーちゃんはともかく、フーちゃん二頭を使って茸採取は効率が悪すぎる。

 フォレストウルフが二頭もいれば、小型の野獣なら狩り放題で毎日金貨を稼げるのにと悔しそう。


 まっ、価値観の相違は如何ともしがたく、金貨よりは美味しいご飯だ。

 それに金なら稼がなくても十分有るし、花蜜献上前に渡した蜂蜜の代金だけで4,800,000ダーラ貰っているからな。

 中瓶二本で4,800,000ダーラだが、花蜜献上前にはその10倍量を渡した。

 毎年蜂蜜を中瓶10本と8L入り容器一つ渡せば左団扇で生活出来るし、花蜜三本で金貨300枚だ。


 馬鹿な金勘定より、採取した茸を紐で括り風通しの良い場所に吊して、乾燥させるのに忙しい。

 時折近づいて来る野獣はフーちゃんとミーちゃんが先に見つけて教えてくれるのでザルム達に方向を教える。


 ちょっと手子摺りそうなハイオークの群れや、タイガー類等は俺も討伐を手伝う。

 フーちゃんとミーちゃんの支援の巧妙さに驚いていて、普通のテイマーはどんな闘い方をしているのか興味が湧く。

 氷結の楯がファンナを使っての闘いは、俺が教えたので参考にならない。


 「しかし、シンヤも相当な腕だと判ってはいたが、ブラックベアに正面から突っ込むか」

 「良く魔鋼鉄製の短槍を振り回せるな。龍人族の血でも入っているのか?」


 此処でも龍人族か、相当力が強い種族の様だな。


 「俺はオークキングまでしか討伐経験がなかったけど、友達とブラウンベアの討伐に参加したときから、オークキングより動きが遅いと思っていたからな」


 「確かに人形の野獣は戦い辛いよな。その点四つ足は動きが制限されるからな」


 「そう、立ち上がったときなんかは特にね」


 「それでも正面から跳び込むのは御免だぞ」

 「短槍の穂が長いのはその為か」


 「そうさ、友達は土魔法使いで、ストーンランスを数発射ち込んで倒したんだ。その時に、重くて長い武器でないと心臓まで届かないと思ったので、此れを作って貰ったんだが初めて使ったよ」


 「ああ、見事な一撃だったぞ」

 「胸に深々と刺さっては、流石のブラックベアも反撃できなかったからな」

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