第77話 召集解除

 「シンヤ、言われた通りに出来る様になったわ」


 「んじゃ、それだけの魔力でシェルターを作ってみて」


 「シェルター」〈ハッ〉


 掛け声と共に淡く光るシェルターが出来上がる。

 早さと大きさ硬さは、シェルター作りに慣れてきたのか随分良くなった。


 「やだ、出来ちゃったわ。これが魔力を減らしても魔法が発現するって事ね」


 嬉しそうに何度もシェルターを作るので止めさせて、腕の印を短くして再度魔力を減らす練習をさせる。

 少しずつ印を縮めて、魔法が発動しない場所まで確認してその日は終わり。

 翌日、魔力が満タンから連続してシェルターを作らせて、魔力切れ寸前で中止。

 結果としてシールドを14、15回作れると言っていたのが、シェルターで推定20回作れるようになった。

 枯れ木の小枝を切り、消し炭の印と同じ長さに切ってアリエラに渡す。


 「此れは?」


 「今現在の魔力の使用量だよ」


 手の中の小枝をマジマジと見つめ〈此れが今の魔力量なの〉と呟いている。


 「フランも一定量までは少なく出来たが、それ以後進展しなかったよ。村で柵作りの為に。延々と石柱を作り続けて魔力を絞る練習を続けたんだ。その結果として1.8倍近く魔法が使える様になったが、魔力が増えたのじゃ無いらしい。フランの魔力が76で、石柱作りの初めの頃は推定で27本程度だったが、魔力を絞る練習の結果50本程度作れるらしい」


 「それじゃぁ~、14、15回だから27回位は魔法が使えるって事なの」


 「個人差があるだろうから、それは判らないとしか言えない。14、15回が20回になったんだ、続ける価値はあると思うよ」


 「これは良いですね。俺も魔力を流しながら絞るより、この方法に替えようかな。一回の使用量が判っていれば少なくするのもやり易いから」


 「フランも最初の頃に魔力を絞って魔法が発動しなかったけど、今じゃそれよりも魔力を絞っても魔法が使えるだろう。慣れたら同じ魔法でも魔力を少なく出来るのだから、もっと減らせると思うね」


 * * * * * * *


 一度交代でタンザに帰ったが、フランのストーンランスで射ち抜かれた獲物の数々に、解体場に居た冒険者達が驚いていた。

 タンザの楯とオシウスの牙が受け持つ場所からの獲物は、大物揃いだし殆どが傷一つか二つで仕留めているので、ギルドでも一目置かれる存在になっていた。


 俺は初回に大物を出しているので、それなりに名が売れた様だがタンザの楯の一員みたいな顔で押し通す。

 ギルドに提出する獲物が大物揃いだと、稼ぎが良いのでやっかみも出て来るのだろう。

 揉め事を避ける様に、獲物を提出してものんびりさせてもらえずに、食料とエールの樽を仕入れては街から放り出される事になる。


 なので、デエルゴ村へ行く途中で勝手に休日を増やして、鋭気を養ってから持ち場に戻る。

 交代のパーティーがぶつくさ言うが、文句はギルマスに言ってくれと軽く流して終わり。

 時々現れる野獣討伐をフランと交代でしながら、アリエラのシェルター作りとドーム作りを見守る。

 一週間もするとシールドやシェルターとドームも何とか様になったので、実戦練習を始める。


 「グレイウルフの群れですね。アリエラさんにやってもらいますか?」


 「練習には丁度良いんじゃない。タンザの楯との連携もあるし」


 「あんた達って、呑気ねぇ~」


 「シンヤさんの教えを受けるとこうなるって見本ですよ」


 「ん、俺はそんな事を助言した覚えはないぞ」


 「危ない事はしないと言いながら、練習だと言って実戦に巻き込んだり腕試しをしていたじゃないですか。お陰で、攻撃より防御を重視する魔法使いになりました」


 「それで怪我も無く稼いでいるんだろう」


 「はい。感謝しています。冒険者だからって、命を賭けたくありませんからね」


 「本当にグレイウルフの大群だぞ。アリエラ、呑気な話に付き合ってないで頼むぞ!」


 「任せて」・・・〈シェルター!〉


 アリエラを取り囲んだグレン達の周囲に淡い光りの壁が立ち上がると、アリエラが一つ一つ小窓を作っていく。

 全員マジックポーチから弓を取り出して構える。


 グレイウルフの群れは一塊に立つアリエラ達に向かって疾走してくるが、グレンの合図と共に一斉に矢が放たれる。

 三斉射で群れが散り散りに逃げ散って闘いは終わり。


 「なんてあっけないんだ」

 「今までの闘いは何だったんだって言いたいな」

 「フラン達が羨ましいと思ったが・・・気楽すぎるぜ」


 「そんな事より止めを刺して回収だ」


 「急いでよ。悲鳴を聞いて向きを変えた奴が此方に来ているから」


 「また、気楽な事を言ってるよ」

 「アリエラの結界が有れば、気楽にもなるさ」

 「そうそう。命の危険なしに討伐なんて思いもしなかったけどな。シンヤだって、安全な所から討伐出来るんだから気楽になるさ」

 「呑気な事を言ってるが、奴も命を賭けて闘っているんだからな」


 「ブラウンベアだわ!」

 「此れ、大丈夫かな」


 「アリエラ、シェルターを少し大きくして、ドラド達も中に入れてよ」


 「ん、フランのシェルターは?」


 「思いついた方法を試そうと思ってね。二人一緒に試してみてよ」


 グレン達に手招きされて、ドラド達もアリエラの結界の中に入ってきた


 「シンヤさん、何をする気なんですか?」


 「彼奴を呼び寄せるから待ってな」


 シェルターの外に出るとブラウンベアの方へ走り、フーちゃん達と協力してブラウンベアを挑発する。

 フーちゃん達に噛みつかれ、訓練用の棒で鼻面を叩かれて怒ったブラウンベアが、怒りの声を上げて追ってくる。

 アリエラの結界に、フーちゃん達共々駆け込む。


 「此れって、大丈夫なんだろうな」と心配そうな声が聞こえてくる。


 「大丈夫だと思うよ」魔鋼鉄の短槍を、全力で叩き付けたが耐えたので壊れることはないだろう。


 「しかし、ブランウベアを揶揄いに行くか!」

 「ギルマス辺りが見たら、シンヤはAランクに格上げだな」


 「この間ギルマス権限でCになったばかりですよ。20才でAランクなんて嫌ですよ」


 〈ドーン〉とブラウンベアがシェルターにぶち当たって轟音を立てる。


 「奴の正面と左右にシールドを立てて、早く!」


 「えっ・・・えっ、え」


 二度三度シェルターに体当たりして、俺達に飛びかかれずに地面を叩いて怒るブラウンベア。


 「フラン、彼奴の前後左右をシールドで囲んでしまえよ」


 「何で?」


 「いいから、早く!」


 「シールド」〈ハッ〉・・・「シールド」〈ハッ〉・・・「シールド」〈ハッ〉・・・「シールド」〈ハッ〉


 「おいおい、生け捕りにする気かよ」

 「あっ、隙間から逃げられるぞ!」


 「四枚じゃ少なかったかな。フラン、隙間を塞いで逃がすなよ」


 「判りました」

 「シールド」〈ハッ〉・・・「シールド」〈ハッ〉・・・・・・

 「あっ、今度は上から出ようとしているぞ」


 熊公の慌て振りに、見ている皆が笑い出した。


 「ブラウンベアを、生け捕りにしてどうするんですか?」


 「生け捕りじゃなくて、大物討伐の時の練習さ。フランも討伐の必要があるときに使える手だ。シェルターに籠もっていては、肝心なやつが向かって来るとは限らないだろう。シールドで囲めば、お好みの野獣を討伐出来るからな」


 「それじゃ、シールドの高さを上げなきゃいけませんね」


 シールドを乗り越えて逃げだそうとしているブランウベアに、ストーンランスを射ち込みながらフランが答える。


 「人でも野獣でも、楽に捕獲討伐できる優れ物だろう」


 「相変わらず、色々と考える人ですね」


 シールドの代わりにぐるりと包み込む方法もあるのだが、そこまで教える必要もないだろう。


 * * * * * * *


 二日後、ビッグホーンをアリエラのシールドで足止めして、隙間から強弓で射殺す。


 「シェルターの中からだと逃げられるが、此れだと確実に殺れるな」

 「ああ、その分周囲からの攻撃に注意が必要だが、楽な討伐だ」


 グレンやブライト達が、シールドの檻の中で倒れているホーンボアを見ながら呑気に話している。

 気づいて無い様だが、この場所に現れる大物が少なくなっていると思う。

 時々現れるベア類やタイガー類を狩りながら交代を待っていると、やって来たのは一組のパーティーだけで、強制招集は解除になったと教えてくれた。

 但し、獲物は普段より多いので、討伐数の多い場所を公開して稼げと触れが出たと笑っていた。


 この場所の大物が減ったとは言え、草食系やオーク等もちょくちょく現れるので稼げると教えてやる。

 翌日には二組のパーティーが、その翌日にも二組のパーティーが現れたので俺達は引き上げる事にした。


 * * * * * * *


 ごった返すギルドで、サブマスを捕まえて強制招集解除の確認をする。


 「おう、ご苦労だった。タンザの楯とオシウスの牙にシンヤは、ギルマスの所へ行ってくれ」


 二階の会議室に行けと言われて全員で会議室に入る。


 「ギルマス、何か用ですか」


 グレンが代表して訪ねると、ニヤリと笑って「お前達全員、ギルドカードを出せ」と一言。

 いや~な予感がするが、ギルマスにギルドカードを出せと言われては拒否できない。

 皆のカードを集める、グレンの顔が綻んでいるのでランクアップだろう。


 「ギルマス、ランクアップなら俺は斥候に行く前にCランクになってますよ」


 「判っている。だが、今回の功績を無視する訳にはいかん。全員ランクアップだ」


 皆は喜んでいるが、何が悲しくて20才でBランクのゴールドにならなけりゃならんのだ。

 知らない街に行けば、絶対に胡散臭い目で見られるのは間違いない。


 「ギルマス、Cランクのシルバーのままじゃ駄目なの」


 「駄目だ! お前が望めばAランクに上げてやるぞ」


 「真っ平御免です!」


 傍らに控える係員にカードを渡し「受付で新しいカードを貰え」と言われて会議室を放り出された。

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