第107話 見学会
「王家の一員なので冒険者になる訳にはいかないが、相応の武力は身に付けたい」
「情報源を自慢するのなら、魔法巧者を招いて教われば良いのでは?」
「貴方に関わった者達より優れた魔法使いもいるが、彼等は他人に教える気がないか教えるのが下手なのだ」
またあっさり下手と言うか。
「貴方が関わった魔法使いに教わりたいが、父上から固く禁じられている」
「理由は?」
「先日の騒ぎです」
王家もしっかり調べて、気を使っているって事か。
まぁ力のある者に目を光らせるのは、どんな世界でも同じ事か。
「王子様に魔法の手ほどきなど畏れ多い、魔法部隊の巧者から教わり教わった事を色々考えなさい。俺は頼まれ事を済ませたら帰らせてもらうよ」
待合室に向かうと、先程の男が執事らしき者とやって来るところだった。
「シンヤ殿失礼致しました。殿下の頼み故断る事が出来ずに黙っていました」
「ああ、そんな事はどうでも良いよ。お嬢様が猫を欲しいそうだが、それは本当の事なのかな」
「勿論です! テイマーとしての指南もお願い致します!」
「テイマーの方は、本人にやる気が無さそうなので断るよ。お嬢さんに猫の事を尋ねたいのだが会えるかな、無理なら好みを教えて貰えると有り難い」
執事の姿が消えて暫くすると、ミーナと似たような歳の少女を伴って帰ってきた。
「シンヤ殿、フェリエンス・ファランネル様です」
少し腰を落として一礼して、キラキラお目々で俺を見る。
「ブルーの様な賢い猫はいますか?」
「それは判らない。テイムして教えなければならないからね。このお屋敷の周りにも野良猫がいるけど、お気に入りはいるかな」
「時々窓の外にいる猫」
ちょっ、それじゃ判らないし目印はないのかよ。
取り敢えずお嬢様の案内で外に出る事になり、RとLを連れて内玄関へ向かったが二頭を見てフリーズしちゃった。
執事の男も腰が引けてしまっているが、お嬢様の楯となる覚悟のようだ。
噛みついたりしないんだけどなぁ~。
ミーちゃんは定位置の肩の上で寛いでいて、それを羨ましそうに見ている。
ミーナも時々ブルーを肩に乗せているので、羨ましいのだろう。
猫をよく見掛ける場所へ向かうお嬢様の後をついて行くと、日だまりで微睡む猫の集団。
執事に問えば飼っている訳ではないが、厩の鼠退治の為に時々餌をやっているそうだ。
手前から三番目の白い猫が欲しいと言うのだが、さて、どうするか。
お嬢様が指名した猫をミーちゃんに捕まえてもらえば良いのだが、目の前で追い回すのも憚られる。
微睡む猫達は動いていないので、お嬢様と執事に動かない様に言いつけてから静かに忍び寄る。
二人にはそう見えるだろうが、ブルーを捕まえたときに猫の支配を手に入れている。
《みんな、動くなよ》と支配を使って命令して静かに近寄り、白い猫を薬草袋に入れるとそーっと戻りながら《もう動いても良いよ》と言っておく。
薬草袋の中で暴れる猫に(テイム・テイム)と呟き支配下に置く。
〔キャット・12〕テイルキャットのブルーより一つ少ない数字で、猫どうし違いはなさそう。
「凄いです。私が近寄れば逃げてしまうのにどうやって?」
「ちょっと待って」二柱の神の力を使い、クリーンを薬草袋に向けて使う。
手加減なしのクリーンは良い働きをする。
《出してやるけど、暴れたり爪を立てるなよ》
《はい、マスター》
ワクテカ顔のお嬢様に、袋から取り出した猫を渡してやると嬉しそうに抱きしめる
「猫が苦しいので、力を入れちゃ駄目だよ」
さて名前を決めさせ、それから最低限の訓練だな。
白猫と言っていたが、クリーンで綺麗にすると白と言うより銀色に近い感じの毛色で、お嬢様はシルバーと命名。
テイムした時には袋の中に入っていてテイムの光りを見られてないので、名付けもシルバーの頭に手を乗せて《お前の名はシルバーだ》と告げると〔シルバー、身軽・狩り〕と頭に浮かんだが、これもブルーと同じ。
《判りました、マスター》
《お前を抱いている女の子の遊び相手になってもらうので、何時も一緒に居てやってくれ。そして出来るだけで良いので、守ってやって》
《お任せ下さい。マスター》
* * * * * * *
「見ましたか、殿下」
「遠くてよく判らないが、どうしたのだ?」
「猫の群れの中へ入り、一匹だけ連れ出しました」
「それがどうした。王宮でも、猫好きの侍女達は猫を捕まえて遊んでいるぞ」
「そうではありません。此の屋敷に居る猫は、餌を与えている者にしか触らせません。特定の者以外は近寄ることも出来ないのです。それなのに無造作に猫の群れの中へ入り、一匹だけを連れ出してフェリエンスに渡しました。流石は、フォレストウルフを従えるテイマーですね」
「ちょっと待て! ・・・それは猫をテイムしたと言う事か?」
「そうだと思います。でなければ、あの様に大人しく抱かれているのはおかしいのです。フェリエンスの学友ミーナ嬢も、ブルーと名付けた猫をシンヤ殿からもらっていますが、極めて従順な猫です」
「その話に間違いはないな」
「ミーナ嬢が、シンヤ殿から猫をもらったと言うことですか」
「そうだ。シンヤはファングキャットとフォレストウルフ二頭を従えている。此れは王家でも把握しているし、母上も間近で見たそうだ。それが猫もテイムしているとなると、三種四頭・・・いやあそこに居る猫を含めれば、三種五頭をテイムしている事になる」
「待って下さい殿下! テイマーがそんなにテイム出来るなんて、初めて聞きましたよ。それに三種とは?」
「あの男の肩に乗っているのは、猫ではなくファングキャットと呼ばれる野獣だ。フォレストウルフに目が行くが、あれは猫ではない」
「あんな小さな猫が野獣ですか?」
「知らないのか、テイマーは支配した野獣の大きさを、ある程度変化させる事が出来るぞ。見た目は猫だからテイムされた野獣だと気付かないが、冒険者ギルドにも登録されている歴とした野獣だ」
「では大きくもなるのですか?」
「ファングキャットは獲物にならないので良く知られていないが、鼻先から尻尾の先迄だと1m少々の大きさらしい。尤も、身体より尾の方が少し長いそうだ」
「殿下はよく御存知で」
「王城には野獣の剥製が沢山有るからな。それよりも、あの猫がテイムされているのならある程度の訓練をする筈だ。妹君の猫から目を離さずよく観察していろ」
警戒心旺盛な猫の群れに踏み込み、テイムした様に見えなかったが妹は触れない筈の猫を抱いている。
遠目にしか見られなかったのがつくづく残念だ。
* * * * * * *
屋敷内に戻り、シルバーにもブルーに教えた事と同じ事を教えるのには時間が足りないので、最低限の事と爪を立てないことを言い聞かせる。
家具に爪を立てたりカーテン登りをされたら、テイマーの面目丸潰れだからな。
執事に明日もう一日、シルバーの躾をしたいと告げて主の許可をもらってくれと頼む。
無理ならモーラン商会に、シルバーを連れて来るように言えば良いだろう。
お嬢様お嬢様と呼ばれてご不満らしく、ミーナと同じ様に名前で呼んで下さいと言われてしまった。
帰りの馬車はふかふかクッションの豪華な馬車に替わっていたが、身分証を見せたのが効いたかな。
しかし、依頼をしてきた伯爵は俺の事を知っているはずなのに、配下の者は俺をただの冒険者だと思っていた。
ランスロットと一緒に、殿下と呼ばれる男が待っていたところをみると裏が有りそうだ。
殿下の話が本当なら色々と知られている気がするが、当然か。
* * * * * * *
翌日迎えの馬車に乗り伯爵邸に出向くと、今回は正門から入り内玄関から邸内に招き入れられた。
執事の出迎えを受けてサロンに招き入れられたが、ちょいとびっくり。
シルバーを抱いたフェリエンスはもとより、母親とミーナにランスロットと殿下とやらまで居る。
壁際には護衛の男が四人に腰巾着も控えている。
「シンヤ殿良く来て下さった。フェリエンスも余程嬉しいのか片時も離そうとしなくてな」
「アランド・ファランネル伯爵様で御座いますか?」
「如何にも。ところで、ランスロットにテイマーの手ほどきを頼みたいのだが」
昨日の事は無かったかのような言葉と、殿下とやらがソファーにふんぞり返っていてこの頼み。
鑑定使いから結果を聞いているはずなのだが、テイマーとしての能力を探っているのか、別の思惑があるのか・・・
「昨日御子息にもお願いされましたが、やる気のなさが言葉の端々に伺えます。教えても無駄なのでお断りさせていただきます」
伯爵の残念そうな顔とは別に、ソファーに座る男は素知らぬ風でランスロットを見ている。
「ところで、殿下と呼ばれる御方まで揃っておいでですが、何事でしょうか」
俺の嫌味に、殿下は腹を抱えて震えている。
部外者のお前は出て行けと遠回しに言っているのに、笑って誤魔化す気だな。
「テイマーが、テイムした獣を調教するところは見たことが無いので、見学できる良い機会なので後学の為に見させてもらうよ」
見たいのなら見せてやるさ、俺がテイムした獣と念話で話しているとは判るまい。
しっかり見て真似をするが良い、出来るのならな。
ミーナの前に座り「ブルー、お出で」と口に出しながら念話でも《ブルー、来い》と呼ぶ。
俺の前にブルーが座ると、「シルバーもお出で」と呼んで同じ様に念話でも呼ぶ。
フェリエンスの手を離れてやって来たシルバーを、ブルーの隣に座らせると訓練を始める。
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