第13話 モーラン商会

 なんと、真剣に考えていたのは詠唱だったのか。

 魔力を込めた矢を膝に当てて力一杯引っ張りへし折ったが、今度はパキーンといい音で折れた。

 音からして相当硬くなっているようだし、フランも満足気だ。


 「もう一度だ。今度は二度硬くなれと願って魔力を込めてみなよ」


 言われた通りにやって成果が出たので、今度は素直に頷いて矢を作りすぐに魔力を込める詠唱を始めた。

 二度同じ詠唱を繰り返した後、再び膝に当て力を込めたが折れない。

 多少しなるが、フランの渾身の力でも折れなかった。


 「こんな事が出来るなんて・・・初めて知りました」


 「聞き忘れていたけど、フランの魔力ってどれ位有るの?」


 「授けの時に魔力76と言われました。冒険者カードにもそう書かれていますよ」


 「それで、後どれ位魔法が使えるの」


 俺に問われて指折り数え始め「普段は15,6回で魔力切れ寸前になりますので、後7,8回ですかね」と答える。

 それなら大きめのシェルターを造らせて強化することも出来そうだと思ったので、地面をならした場所に2.5m×3m程のシェルターを造らせる。


 出来上がった物を強化しようとするのを止め、高さ1m幅50cm程の扉を造らせて少し細工をさせる。

 扉の反対側はナイフで切れ目を入れ、如何にも出入り口の様に見える様に細工をして裏側から補強させる。


 「硬くしなくてもいいのですか?」


 「それは後でね。二人を呼んでこよう」


 * * * * * * *


 「この中で貴方達を待てと言うのですか?」


 「足の悪い婆さんと子供を連れて、これ以上森を歩くのは無理だよ。寝床と食料の用意をしておくから、俺達がホルムの街から迎えを呼んで来るまで待っててもらうしかない」


 「必ず帰って来てくれるのですね!」


 「俺達は冒険者だ、助けた報酬は欲しいからな」


 「それは旦那様に申し上げて、貴方達の満足のいく様に取り計らいましょう」


 フランにシェルターと扉を三度強化して貰い、寝床作りと食糧確保に2日掛かった。

 もっとも食糧確保はビーちゃん達に頼み、ホーンラビット4匹とレッドチキンと呼ばれる大きな鶏を確保した。

 解体はフランにお任せだが、村で狩りに同行していたと言うだけあり中々上手いものだ。


 出発の日、お嬢ちゃんのマジックバッグに肉を入れて、止まり木に生肉の細切りをぶら下げるようにたのむ。

 不思議そうな顔をするので、煙抜きの穴とは別の穴からビーちゃん達を呼び、彼等のお食事だと言っておく。


 そりゃーお目々まん丸にして驚いていたが、俺達が帰るまで此処を守ってくれるので、蜂が入って来たら細切り肉をぶら下げるようにと念を押しておく。 もう一つクーちゃんの居場所は地下に作り、そこへも親指ほどの肉をぶら下げるように頼む。

 婆さん達の護衛に31番から50番迄のビーちゃん達を残して、俺達は30匹のビーちゃん達と行く事になる。


 扉を閉め中から閂を掛けてもらうと、フランに外から見ても扉が在ると判らない様に土魔法で軽く覆って貰う。

 モーラン商会の住所を記した紙とハンナ婆さんの身分証を俺が、フランはミーナの玩具と住所を記した紙を確認し出発する。

 これが無ければモーラン商会に到着しても信じて貰えないだろうから、二人が別々の物を持って行く事になった。

 万が一どちらかが倒れても一人が到着すれば良いと、ハンナ婆さんに冷たく言われて少し微妙な気分になったけど。


 ビーちゃん達の護衛が付くとはいえ、森を歩き方角を定めるのはフランにお任せ。

 俺では方向すら判らなくなるので、全面的に従うだけだ。

 あの時フランが声を掛けてくれて、その後で助けたのが大いに役立っている。


 薬草の知識や、ゴブリンから魔石を抜き取る方法とか獲物の解体など教わる事が多い。

 お陰でゴブリンの魔石が13個確保できたのが大きいし、何れオークの魔石も手に入れたいが、フランの魔法が上達してからの事だな。

 ビーちゃん達には、毛むくじゃらの獣を倒すのは難しいって言われてしまった。


 但し追い払う術として、剥き出しの鼻や目と耳を狙って刺すように教えたので、追い払うのには十分役だってくれている。

 五日目にそろそろエムデンの街が見える筈だとフランが言いだしたので、街道が見える場所まで東へ移動する。


 街道に出てみると南北何方にも街が見えなかったが、すれ違った農家の馬車にエムデンの方向を訪ねると、黙って南を指差された。

 どうも通り過ぎていたようなので、礼を言って再び森に向かう。

 今度は街道から余り離れずに北に向かうが、人里近くは獣以外の物に出会し面倒だ。


 「何処から来た?」「二人ともマジックポーチ持ちか」「こんな所でなにをしているんだ」と詮索されて煩い。


 中には腹に一物背に背負子って奴が後をついてきたりするので、ビーちゃんにお願いして2、3度刺してもらう。


 「キラービーって、つくづく便利ですよね。シンヤさんが、ビーちゃんのお仲間を集めた意味が良く判ります」


 念には念を入れ、ホルムの街が見える所まで街道脇の草原を歩いたので6日掛かってしまった。

 お陰でスキルを確認すると〔シンヤ、人族・18才。テイマー・能力1、アマデウスの加護・ティナの加護、生活魔法・魔力10/10、索敵初級上、気配察知初級上、隠形初級上・木登り・毒無効・キラービーの支配〕

 〔ポイズンスパイダー、5-1、複眼、木登り、9〕

 〔キラービー、50-13、複眼、毒無効、10〕


 索敵、気配察知、隠形が初級上になっている。

 初級の上って何だよ、一緒にいないクーちゃんの数字も減り続けて9になり、ビーちゃんが10になった。


 途中ビーちゃん軍団以外のキラービーと出会ったので、試しに呼んでみると素直に寄って来るので、ホーンラビットを狩ってとお願いしてみた。

 驚いた事にビーちゃん達以外の仲間を呼び、ホーンラビットを狩って差し出してくれた。


 お礼に解体した肉を細切れにして提供したが、解体はフランにお願いする。

 見知らぬキラービー数十匹がホーンラビットの周辺を乱舞する中で、フランが恐々解体するのは見物だったが。俺の友達だから襲わないでねとお願いすることは忘れなかった。


 一連の出来事でお願いか命令かは知らないが、俺の意思は通じるがテイムしていないので、ビーちゃん達との様な会話は出来ないが、簡単な会話は可能と判った。


 * * * * * * *


 無事にホルムの街へ入ると市場へ直行し、久し振りのまともな食事の後にラフォール通りは何処かと尋ねて、モーラン商会へ向かった。


 ラフォール通りは高級住宅や大店が並ぶ通りで、ハンナ婆さんが『王家にも様々な細工物や美術品を納める、モーラン商会をご存じないのですか?』と偉そうに言っていた訳だ。

 お目当てのモーラン商会は「王家御用達、美術工芸品」と書かれた看板の大店で、正面玄関には警備の者まで立っている。

 薄汚れた冒険者二人、この通りに入った時から周囲の目が痛い。

 建物の裏に回ると裏門が在るではないか。


 「小僧達、此処はお前達の来る所ではない! 失せろ!」


 やれやれ、用件を伝えるのに手間取りそうだ。


 「すいませんね。ミーナお嬢様の乳母、ハンナさんの言伝を持って来たのですが、ご主人・・・」


 「今、何と言った! 貴様何故それを! そこを動くな! 逃げるな!」


 「だから、ハンナさんの言伝を旦那さんに・・・」


 警備の者の叫び声に、邸内から武装した男達が飛び出して来る。


 「貴様、おとなしくしろ! 逃げると斬り殺すぞ!」


 《マスター、刺しますか?》


 《ダメ! さっきも言ったけど、呼ばない限り降りて来ちゃダメだよ。判った!》


 《はーい》


 「こらっ、聞いているのか! お嬢様をどうした!」


 「あの~、俺が盗賊なら、こんな所へのこのこ来ると思いますか」


 「なら、お前達は何者だ!」


 「だーかーらっ、ミーナお嬢様の乳母ハンナさんから、モーラン商会の旦那さんに言伝を預かってきたんですよ。騒ぐより、此れを旦那さんに渡して下さい」


 そう言ってハンナ婆さんの身分証を差し出す。

 それを見てやっと興奮が収まったのか、身分証を確認すると慌てて邸内に駆け込んでいく。

 その際も「その二人を逃がすなよ!」と叫ぶのを忘れない。


 態々主人に会いに来ているのに、逃げる訳が無かろう。

 仕事に忠実なのか、間抜けなのか判別に苦しむ奴だ。


 邸内に駆け込んでいった男が、再び駆け戻って来ると「その二人を連れて来い!」と怒鳴る。


 俺達を取り囲んだ男達に引き摺られる様に邸内に入り、待合室の様な所へ押し込まれると、フロックコートの様な服を着た男の前に立たされる。


 「これを何処で手に入れた?」


 「本人から預かって来たんだよ。少しは話を聞く気になったのかな」


 「口の利き方に気を付けろ! 事と次第に寄っては五体満足でこの屋敷を出られないし、終生犯罪奴隷になると覚悟しろ!」


 「お嬢ちゃんと、ハンナ婆さんを助けた結果が犯罪奴隷か? ミーナお嬢ちゃんの、身代金を要求する書状が届いただろう。そいつは支払わなくて良いぞ」


 「お嬢様を助けた? ・・・どういう事だ! 話せ!」


 「結果として、お嬢ちゃんとハンナ婆さんを助けて、賊の塒から逃げ出したんだよ」


 「助けて逃げ出した? なら二人は何処に居る!」


 「ザンドラとエムデンの間の、森の中に隠れて居る。迎えを待っているので、ご主人様に合わせてよ」


 「嘘ではあるまいな! 法螺話なら・・・」


 「しつこいね。お嬢ちゃんを助けたくないのか? 俺達がここへ来るのに11日掛かったんだ、早く向かえに行かないと食料が無くなるぞ」


 「待っていろ。旦那様にお報せしてくる」

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