第55話 ノックは三回
2、3日に一度、冒険者ギルドで少数の獲物を売る生活が20日近く過ぎた頃に、待望の知らせが届いた。
《マスター、ミーの3です。マスターの歩いた後をついてくる人族がいます》
《数は》
《七つです》
《ありがとう。未だ襲っちゃ駄目だよ》
さて、カリオンやウルフ達は餌を狩りに行っていて留守だ。
魔法使いが相手なので、フーちゃん達も俺から遠ざけているので戦力外。
ミーちゃん1、2号は木の上で待機させていたが、草叢に紛れて戦闘準備を命じる。
取り敢えずビーちゃん達を呼んで上空待機させた後、大木の陰に回りジャンプして木の上に上がると、枝に腰掛けて追跡者の確認だ。
ウルフやカリオンをテイムしているときにスキルを確認して、索敵上級下・気配察知上級下・隠形上級下となっていたので、枝に腰掛けてじっとしていれば木化けで見つからないと思う。
先頭の斥候らしき男が俺の気配が消えたので緊張している。
その後ろを歩く男達も合図を受けて弓を構えているが、弓持ちが四人に魔法使いらしき男が二人に斥候と、予定の相手と違う。
フードを深く被り襟元を上げて口を隠すと、フードの紐を絞り戦闘準備完了。
気配が消えた俺の居場所を探る様に、慎重に進む奴等の背後に飛び降りる。
〈ガサッ〉と着地音と同時に一斉に振り向き、矢を射ち込む男達。
ポスポスと矢が当たった音がするが、平気な顔で立っている俺を見て二の矢を手にした。
「知り合いではなさそうだが、俺に何の用だ」
「シンヤだな。噂通りの凄腕の様だな。お前はやりすぎたんだよ」
標的が俺なら遠慮する必要はないので、潜んでいるミーちゃん達に攻撃開始を命令する。
〈ウオー〉〈ギャァー〉〈痛たたた〉
足を抱えてそれぞれの感想を述べているが、聞いてやる義理はない。
木刀で各自の腕を叩き折り、戦闘力を削いでから尋問だ。
「俺がやりすぎたって、何をだ? 早く喋らないと痛い思いをするだけ損だぞ」
足と折れた腕の痛みに顔を顰めているが誰も何も言わない。
勿体ないが初級ポーションで足の血止めだけをすると、男達を一纏めにして各自の首をロープで結び数珠繋ぎにする。
「さてと、この先に拷問に都合の良い場所があるので招待するよ」
「けけ、警備兵に引き渡さないのかよ」
「語るに落ちるだな。警備兵に渡したら俺達は安全だと言っている様なものだぞ」
数珠繋ぎにしたロープの端を握り引き摺って歩くが、剛力でも7対1の綱引きでは分が悪い、
殺気を叩き付けて、震える男達の尻を蹴り上げて歩かせる。
ちょっとした窪地で周囲からは見えない場所に全員を座らせる。
「あまり話をしたい気分じゃないだろうが、誰の指示だ。言いたくなければ言わなくても良いが、その場合は素っ裸にしてゴブリンの餌になってもらう」
坦々と告げる俺の顔を見て本気だと悟った様で、顔色が真っ青になって震え始めた。
その中に二人ほど顔色も変えずに俺を睨んでいる者がいるので、その二人を数珠繋ぎから引き出して残りの者達の前に座らせる。
「お前達がどうなるのか、これから見せてやる」
そう言って二人の身ぐるみ剥いで素っ裸にすると、両足のアキレス腱を切り肘の腱も切って放置する。
悲鳴を上げ逃げだそうとするが両足はまともに動かず、縛られた腕も腱を切って痛みだけを与えている。
もう一人が目を背けているが、お前も同じ目に合わせてやから待ってろ。
「頼む、ポーションを使わせてくれ」
「あ~ん、喋る気が無い奴にポーションは必要ないだろう。てか、お前はポーションを持っているのか?」
「マジックポーチに入っている。頼む」
剥ぎ取った服の中からマジックポーチを取り出したが、俺じゃ取り出せないんだよね。
「ポーションを飲みたきゃ、使用者登録を外してもらわないとな」
笑いながらそう言うと、足の痛みで呻いていたのにフリーズしちゃったぞ。
疚しい事てんこ盛りって感じなので、集中的に甚振ってやるかな。
「その気になったら声を掛けてくれ」
フリーズしている男に言いおき、隣で震えている男に笑いかける。
「其奴にはじっくりと痛みを堪能してもらうが、待っているのも退屈だろう」
ブンブン首を振っているが、ショートソード片手に其奴の足を掴み高く持ち上げてやる。
軽くアキレス腱の所をチョンチョンとして「喋る?」と聞くが黙り込んでいるので、スッパリとアキレス腱を切ってやる。
〈ギャーアァァァ〉って煩い悲鳴を上げてのたうつが、男を持ち上げている俺は落としはしない。
じっくりと痛みを堪能させてから地面に叩きつけ、反対の足を掴んで持ち上げる。
必死に暴れるがオークの剛力に敵うはずもなく、アキレス腱にショートソードの刃を当ててそっと滑らせる。
「止めてくれ! 喋る。喋るから止めてくれ、お願いだ!」
「喋るのなら最初から喋れよ、面倒だろうが。で、マジックポーチの使用者登録も外すんだよな?」
「外します! 外すのでポーションを飲ませてくれ!」
素直になった奴のマジックポーチに、足の血をつけて男の口元に持っていく。
野営用ローブを広げ、その上にマジックポーチの中の物をぶち撒ける。
革袋にポーションの瓶が三本と着替えや食料、真っ当な冒険者の持ち物のようだが、歪な膨らみの薬草袋が一つ。
ポーションも冒険者ギルドで売っているゲロマズのポーション。
ポーションは初級の中と上に中級の下で、そこそこ稼いでいるようだ。
「さてと、ポーションを飲みたきゃ、何の為に俺の後をつけてきたのか訳を話せよ」
目の前でポーションの瓶を振ってやると「あんたを連れて来いと言われた」と言う。
「連れて来いって言われたにしては、俺の姿を見た瞬間に矢を射かけてきたよな」
「いっ、いや、野獣かと思ってつい・・・」
其奴の顔に往復ビンタの五連発、唇が切れて血を流しているが黙って足を持ち上げてスッパリアキレス腱を切り投げ捨てる。
「ウワーァァ、止めてくれ! 痛い、喋ったんだからポーションを・・・」
「俺は木の上からお前達を見ていたんだよ、俺の気配が消えたときに弓に矢をつがえたり剣を抜いたよな。聞かれた事に答える気がないのなら、楽に死ねると思うなよ」
最初に傷付けた男が足の痛みに呻いているのを蹴り飛ばし、残りの男達に向き直る。
皆怯えて目を逸らすが、一番怯えて歯の根も合わずカチカチ鳴らせている男の前にしゃがみ込む。
「どうする?」
「何でも喋ります。俺は弓の腕を買われて、そこのルクゼンさんに呼ばれたんです。あんたを生け捕るか倒せば金貨3枚と言われて」
「生け捕る? 俺の事に関して何か聞いているか?」
「あんたが猫を連れたテイマーだと聞いている。お願いだ、助けてくれ。もう彼奴の仕事はしないから」
何か話が可笑しい。
俺を狙うのなら、ビーちゃん達が護衛に付いていることを知っているはずなのに知らないとは。
それにもう奴の仕事はしないって事は、ルクゼンって奴は裏仕事の専門家かな。
痛みに耐えて呻いている男の前に立つと「ルクゼンね」簡単に殺す訳にはいかなくなった。
俺に名を呼ばれ、苦痛に耐えている表情が変わった。
もう一度アキレス腱を切った傷口を蹴り付けてやる。
「ウオォォ、止めろ。頼むポーションを飲ませてくれ」
「何度も言わせるな、誰の指示だ?」
「デイオスだ、あんたを生け捕って連れて行くか、駄目なら殺せと頼まれた。頼む、ポーションを」
「デイオスって誰だ?」
「リンガン伯爵の所の執事だ、彼奴に頼まれたんだ」
あのしみったれ伯爵の執事となると、冒険者ギルドでの恨みか面子を潰された伯爵の指示か。
屑のヒロクンじゃないけれど、命を狙われたからと尻尾を巻いて逃げ出すのは業腹だし、奴は現れそうにない。
しみったれと執事の野郎からかたづけたいが、相手は伯爵様で護衛が多数いる。
ビーちゃん達を使えば俺の仕業とバレパレなので駄目だ。
伯爵邸を襲うのなら夜の方が都合が良いので、足下で呻く奴等の首を掻き斬っていく。
何か呪詛の声が聞こえたが、痛くも痒くもないので気にしない。
ルクゼンと呼ばれた男は素っ裸だが、マジックバッグに放り込んでおく。
* * * * * * *
陽もとっぷりと暮れて人皆眠る丑三つ時、街の柵を跳び越えて侵入。
警備兵の巡回を躱して以前通った道を疾走する。
伯爵邸の柵も軽くジャンプして跳び越え、以前奥様とともに来た邸内を思い出しながら執務室の下辺りの茂みに伏せる。
殆ど灯りの消えた屋敷だが、執務室と思われる2階の一つに灯りが灯っている。
小さいミーちゃん1号に偵察を頼み、窓枠目掛けて放りあげる。
2号と3号には見回りが来たら知らせるように命じて周辺警戒を任せる。
《マスター、人族がたくさんいます》
《ミーちゃんの居る場所の近くに誰か居る?》
《居ません》
窓下に移動して軽くジャンプし、窓枠につかまり室内を観察。
ソファーにふんぞり返る伯爵と傍らに控える執事、向かいにはよく似た体型の男が二人。
親子だなぁ~と、思わず声が出そうになる程よく似ている。
此処で自分を呪う事になろうとは、此の部屋への侵入する方法が無い。
強引に中へ入れば護衛を含めた10人前後を相手にする事になるが、俺の痕跡は残したくない。
あれこれ考えたが妙案を思い浮かばないので、今夜は脅すだけにする。
下に降りるとルクゼンの死体を出し、〔頭の上に気を付けろ〕の一文を記した紙を死体の指に挟み、再び2階の窓枠に取り付く。
確実に聞こえるように、窓枠を強く三回ノックしてから飛び降りて屋敷の外へ向かって全力疾走だ。
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