第84話 王都冒険者ギルド
王都貴族街の奥深くに建つグランデス侯爵邸に、領地からの通常連絡を装った早馬が駆け込んだ。
王都屋敷の執事が連絡を受けたが、嫡男ウエルバ・グランデスから当主グランデス侯爵様への重大報告だと告げられて、執務室へ急ぐ。
「ランガス、何を慌てている」
「領地ダルセンよりの至急報で御座います」
封を切り書状を差し出しながら、執事が伝える。
受け取った書状を読みながらグランデス侯爵の顔色が変わる。
読み終わった書状を執事に読めと渡し、書状の内容を考える。
最初に5人、その後108人が死んでいては、何れ王城まで噂が届く。
「これは・・・如何致しましょうか?」
「どうにもならん。問題の男の遺骸は冒険者のマジックバッグの中だ。騒ぎ立てればウエルバが渡した書面と、平手打ちの痕と蜂に刺された証拠の男が出されるだけだ。それよりも誰がその男に命じたのかだ、この醜聞がグランデス家の威信を落とすだけなのを判らない馬鹿がいる」
「ですが、問題の男が死亡していては・・・」
「判っている。ヘイルウッド家とシンディーラには、あの男に手を出すなとキツく言っておくし、ウエルバには何もなかった様に過ごせと言いつける。それと、あの男の住まいは判るか?」
「連れているフォレストウルフがホテルに泊まる事を拒否されたので、何処かに家を借りた様でご座います」
「住まいが判ったら詫びに行け。今回の事に関し当家は一切関係ないが、配下の無礼を詫び、周囲の者達に如何なる関与も禁じたと伝えろ。何れ王家からも何か言ってくるだろうが、腕自慢の騎士が引き起こした騒ぎだと皆に言い聞かせておけ」
* * * * * * *
ダルセンから次の街はドリンバン、此処は公爵の領地と聞いたがフーちゃん達を連れていても何も言われずに無事通過。
三日後には久し振りに王都に足を踏み入れた。
「やっと王都か。しっかり稼いだし、シンヤの家に泊まって王都でお買い物だな」
「ザンドラじゃ手に入らない物を買って帰れば、女房達も喜ぶってものだ」
「稼ぎ頭のシンヤの家は何処だ?」
「急かせるねぇ、王都は逃げないよ」
市場に寄ってから、久々に懐かしの我が家に到着。
ミーちゃんが猫用通路から中に入り、閂を外すのを見て皆に呆れられた。
此の世界の鍵なんて全然信用してないので、ミーちゃんに閂をロックしてもらう方が安全なんだよ。
居間と寝室に簡単な料理が出来る設備を見て感心していたが、お家賃一月金貨六枚と聞いて渋い顔で首を振っていた。
フーちゃん達を連れてのホテル住まいが出来ない以上、やむを得ないんだよ。
お家賃は商業ギルドからの引き落としだし、此処だと自由に出来るからな。
買い物前に冒険者ギルドに預けてある獲物代、俺は強制招集の最初から全て預けているし、フランやオシウスの牙の預け入れも相当な額になる筈だ。
フランは商業ギルドに口座があるので、冒険者ギルドから振り込めると聞いてそうしますと言ったが、金貨100枚に付き金貨一枚1%の手数料と知り、酸っぱい物を含んだ様な顔になった。
* * * * * * *
全員で王都冒険者ギルドへお出掛け、見知らぬ顔ぶれに値踏みの視線が飛んで来るが、フラン達はタンザで散々見られて慣れたのか素知らぬ顔。
精算カウンターに直行して残高確認をお願いするが、ゴールドカードに驚いている。
俺って未だ二十歳なんだよな。
タンザに行ってなかったらDランクのままなので、つくづく失敗したと思ったが、ザンドラにまで強制招集を掛けていたのだから同じ事か。
タンザの牙達といっしょにやれて良かったのかも。
ジロジロとカードと俺を見比べるが、冒険者ギルド発行のカードを偽造してまで、のこのこ残高確認にくるかよ。
不承不承と言った感じで残高を調べて再び驚いている。
「お前、此れは間違いないだろうな!」
「お前こそ冒険者ギルドの職員か? ギルドカードは本物だし、Bランクにしたのはタンザのギルマスだ。タンザで何が起きていたのか知っているよな」
低音の魅力を発揮して言ったが、効き目がないので眼光を遣おうかな。
「荒稼ぎして全額ギルドに預けているんだよ。さっさと残高を教えろ!」
「おいおい、一月近く前に強制招集は解除され、王都からも稼ぎに行った奴等が金を引き出しに来ただろうが」
「王都には強制招集された奴はいなかったのか?」
「俺達の稼ぎを支払わないつもりかよぅ」
ドラド達が凄みだしたので、慌てて俺の残高を用紙に記入して差し出す。
72,059,000ダーラ、以前から獲物の代金をギルドに預けていたので、タンザの分が幾らか判らないが、1/3は天引きされているので益々判らない。
横から覗き込んだフランが「シンヤさん、そんなに稼いだんですか?」と声を上げるので、皆に覗き込まれて大騒ぎ。
金額こそ口にしなかったが、俺は強制招集以前からタンザにいたからだと告げる。
俺の稼ぎを知ったドラド達が競ってギルドカードを差し出して残高確認を要求する。
残高を記入した用紙を受け取ったドラドが、あからさまにガッカリした顔になる。
俺もお返しに覗き込んだが29,748,000ダーラ、参加が遅かったからこんなもんだろう。
死傷者の保証分1/3を引かれているとドラドに告げると、少し計算してから納得していた。
ドラドの用紙を覗き込んだ皆がそれを聞き納得して、精算係に一括支払いを要求して一騒動。
一人当たり29,748,000ダーラで、フランを含めて六人、178,488,000ダーラ。
王都のギルドと謂えども、彼にそれだけの金を動かす権限は無い。
俺の72,059,000ダーラを加えたら、250,547,000ダーラだ、騒ぎを聞きつけサブマスが奥から出て来た。
係員がサブマスに事の経緯を説明しているが、サブマスも渋い顔になる。
「あー、小分けにして引き出す事は出来ないか」
「サブマス、俺は一度商業ギルドへ送金したのだが、1%の手数料を取られたぞ。此れを送金したら、いったい幾らの手数料を取るつもりだ」
俺の残高確認用紙を突きつける。72,059,000ダーラ、並みの冒険者が何れだけ掛かって稼ぐ額だと思っている。現金引き出しを拒否する規定でもあるのか?
突きつけられた残高を記入した用紙を見て「何でこんな額になるんだ?」と呟く。
「タンザでの強制招集を知らない訳じゃ無いよな。俺は初っぱなから最後まで居たし、それ以前のも含めて全てギルドに預けていたからな。他の皆も途中からとは言え参加し、一番獲物の多い場所に配置されて闘って来たんだ」
そう言うと、ドラド達も後ろで賛同の声を上げる。
「ちょっとギルドカードを見せろ」
差し出された手にギルドカードを乗せると「お前がシンヤか」とぼそりと呟き、ドラド達のカードも要求する。
フランのカードを見て一つ頷き、パーティー名を確認。
「フランとオシウスの牙か、中々の使い手だと噂になっているぞ」
〈フランとオシウスの牙だってよ(笑)〉
〈なんだ、そりゃー〉
〈知らねえのかよ、タンザから帰ってきたシルバー以上のパーティーが噂していたぞ〉
〈おお、シンヤって馬鹿強のテイマーと同格で、大物狩りを競っていると聞いたな〉
〈今回の強制招集は、何十年振りかの規模だって言ってたぞ〉
〈俺はGランクで良かったよ〉
〈安心しろ、お前はEランクで人生を終えるから〉
サブマスまで出てきて揉めていたので、野次馬が後ろで騒ぎ出した。
ギルマスと相談してくるので会議室で待てと言われて二階へと上がる。
ギルマスに今お前達に支払うとギルドの金庫が空になるので、ドラドさんやフランには一人748,000ダーラを現金で支払う。
残金29,000,000ダーラは証書で渡すので、商業ギルドに提出して受け取ってくれと頼まれた。
フランがすかさず「手数料は?」と聞き、手数料なしの言質を取る。
俺は22,059,000ダーラを現金で、50,000,000ダーラを証書と言われて???
「お前達がタンザで荒稼ぎしたのは有名だ。一人くらい金貨の袋で受け取り、見ている奴等も頑張れば稼げる様になると示してくれ」と言われてしまった。
早い話、王都で燻っている奴等の、尻を叩く道具にされているだけらしい。
「それなら強制招集が解除になり危険な大物が少なくなった今、タンザは稼げる場所として人が集まっていますよ。俺が金貨の袋を受け取って出て行った後で、涎を垂らしている奴等に言えば良いじゃないですか」
「勿論そうさせて貰うさ」
流石は冒険者ギルドのギルマス、抜け目がないねぇ。
俺達が降りて行き、ドラドさんから現金と証書を受け取る。
最後に俺が金貨の袋二つの中を確認して証書を受け取ってマジックポーチへ放り込み、端数の金貨20枚と銀貨や銅貨を受け取る。
カウンター周辺に屯していた冒険者達から溜め息が漏れ、胡散臭い視線が絡みついてくる。
「よう兄さん。それだけ稼いだのなら、エールの一杯も奢っちゃくれねえか」
声の方を見ると、くたびれた格好の万年Fランクらしい男が舌舐めずりをしている。
「こんな所でエールを集るより、タンザへ行け。未だ大物も居るが、狩りやすい草食獣も沢山押し出されて来てタンザは大賑わいだぞ」
ギルマスの煽りより、俺の言葉の方が効き目が有るだろうから、大盤振る舞いをしておいてやるよ。
「食堂に金貨十枚を預けるから、好きなだけ飲み食いしろ。鋭気を養ったら性根を入れて稼げ!」
〈うおーぉぉぉ、太っ腹だね〉
〈すまねぇ兄さん。ごちになるぜ!〉
〈親父! 飯と酒だ!〉
〈押すなよ馬鹿! エールを寄越せ!〉
食堂の親父に金貨10枚と端数の銀貨と銅貨を渡し、無くなるまで飲み食いさせてやれと言っておく。
冒険者達の目が食堂の酒に向いている間に、ギルドを出て商業ギルドに向かった。
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