第30話 お漏らし君

 崩れ落ちるブラウンベアを見て、やれやれと冷や汗を拭った。


 「フラン、もう良いぞ。ストーンランスを6本も受けては、流石のブラウンベアもたまらんだろう」

 「いやー、死ぬかと思ったぜ」

 「まさか、あんな所に潜んでいたとはなぁ」

 「シンヤは、良く気がついたな」


 「済みません。ビックリして動けませんでした」


 「経験不足だから仕方がないよ」


 「それはシンヤさんも同じだけど、よく跳び込んで行けましたね」


 「ああ、俺達も構えるだけで攻撃をする余裕がなかったからな」

 「シンヤが跳び込んだのを見て、初めてこの野郎って闘志が湧いたからな」


 「キラービーは教えてくれなかったのか?」


 「だから、ビーちゃん達は俺が襲われないと動かないし、教えるって何ですか」


 もう少し早く警報を出したかったが、ビーちゃんは使役できない設定だからなぁ。

 短槍を抜きに近寄ると違和感が(テイム)〔ブラウンベア・6〕糞ッ。


 「誰も近寄るな! フラン! 止めを刺せ!」


 「はっ、はい」〈・・・ハッ〉


 7本目のストーンランスが胸に吸い込まれると、ビクンと跳ね上がると死の痙攣が始まり〔ブラウンベア・0〕になった。

 死を確認するまでは油断大敵、俺も甘いね。


 短槍を抜き取ると、50cmの槍先だけが突き立っている。

 全体重を乗せた突撃だった筈だが、上手く行かないものだ。

 7本のストーンランスを抜き取り、ブラウンベアをマジックバッグに入れて漸く一息つく。


 やはり野獣討伐は嫌いだが、もう暫くは辛抱が必要かな。

 考えが当たっていれば後数頭をテイムして必要な能力を手に入れたら楽が出来る筈だ。


 帰るぞの声に立ち上がると、レブンが座り込んだまま俯いている。

 何とレブンちゃん、股間と地面に染みが出来ているじゃないの。


 「レブン、顔を上げろ。初めて大物の奇襲を受けた奴は、大抵腰を抜かしているもんだ。恥だと思うのなら、次からは腹を据えて参加しろ」


 嫌がらせをしていたフランが立ち向かい、見事討伐したのだから恥ずかしいだろうが、あの性格が治るかな。


 《スーちゃん、有り難うね》


 《マスター、何でも言って下さい!》


 頼もしいお言葉、頼りにしてまっせ。

 村に帰ったらスーちゃんの生態と能力を検証して、ジャンプを極めねば。


 * * * * * * *


 村に帰り着き、村長達立ち会いの下て獲物を並べると大騒ぎになった。


 最初フランのストーンランスを見た時に、威力には感心していたが若いし初陣となる。

 ドラド達は中堅だが、ブラウンベアの様な大物狩りはしていない。

 一緒に付いてきた男は無能なテイマーなので、保険としてレブンを付けてブラウンベア捜索を許した。


 討伐では無く捜索の筈が、半月以上経って漸く帰って来たと思ったら、ブラウンベアを討伐したと報告してきた。

 まさかと思ったが、広場に並べられた獲物の数々に村の者は大騒ぎだ。


 ブラウンベア

 ブラックベア

 ホーンボア

 ビッグホーン

 エルク、三頭


 此れをフラン一人が仕留めて、ドラド以下オシウスの牙達はバックアップに回り、殆ど見物していたと聞いた。

 その夜は村を挙げての大宴会を許した。


 ご機嫌な村長や家族に囲まれてフランは嬉しそうだし、俺も此の世界に来て初めての酒を口にして、ちょっと酔ってしまった。

 スーちゃんは俺の隣でおこぼれを貰いご機嫌だったが、テイムされたスライムが珍しいのか子供達に大人気。

 攻撃しちゃ駄目と言い聞かせているので、子供達に撫でられ蹴られて玩具にされている。


 * * * * * * *


 スーちゃんをテイムしてから9日、確認したスキルの数字は35から26に減っている。

 この数字が消滅すれば、取り込んだ能力は俺の能力になる筈で楽しみ。

 この村に居る間に、考えていたことを試す良いチャンスだ。


 予定は未定で有って決定では無い。

 心地よい目覚めは、獲物をザンドラへ売りに行くぞの一言で破られた。

 獲物の殆どを俺のマジックバッグに収めているし、残りはフランのマジックバッグの中で拒否権はない。


 ドラド達とフランの兄グランと俺にお漏らしレブン、11月に入り寒くなってきたので冬対策も必要だし素直に従うことにした。

 スーちゃんはフランに作ってもらった可愛いシェルターの中でお留守番。

 子供達の玩具にされないように出入り口を20cm程にしたが、軟体とジャンプの特性持ちなのでするりと入ってしまった。


 * * * * * * *


 買い取りのおっちゃんに挨拶をすると、後ろの人数を見て数が多いのかと聞いてくる。

 黙って頷くと、奥へ行けと言って新たな奴の対応に戻る。

 解体場に先客がいたので黙って待っていると「何を持ってきた」と解体主任に聞かれた。


 「ブラウンベアにブラックベア他五頭、全て大物だから広い場所を頼む」とドラドが伝えてくれた。


 ドラドの声を聞いて先客が振り返り、値踏みする様に俺達を見てくる。

 解体主任の指示に従って並べていくが、先客や後から来たパーティーの奴等も煩い。


 ブラウンベア

 ブラックベア

 ホーンボア

 ビッグホーン

 エルク、三頭


 〈凄い獲物だぞ〉

 〈何処のパーティーだ〉

 〈この周辺の獲物じゃないな〉

 〈こんな近くに大物はいないさ〉

 〈マジックバッグ持ちかよ〉

 〈それもガキ二人だぞ〉

 〈殆ど一撃か二撃で倒してるぞ〉

 〈凄腕だな〉

 〈流石にブラウンベアには手子摺ったようだな〉


 ドラドのギルドカードを預けて食堂へ行き、エールを注文して査定の終わりを待つ。


 〈おい、大物が持ち込まれたぞ〉

 〈ブラウンベアにブラックベアだぞ〉

 〈ホーンボアも馬鹿でかい奴で、ビビるぜ〉


 フランが気恥ずかしそうに俯いているのを、ドラド達がニヤニヤ笑いで見ていると、見た事のあるおっさん登場。


 「シンヤとフランだったな。この間の事で話が有るので、俺の部屋まで来てくれ」


 新人の所へギルマスが来て話しかけるものだから、注目の的だ。

 ドラド達やレブンも何事かといった顔になり、フランの兄貴は顔色を変えて何をやったとフランを問い詰めるので、慌てて止める。

 此処で話せる事ではないので渋々立ち上がる。


 「お兄さん心配ないから待っててよ。フラン行こうぜ」


 「仕方がないですね」


 ギルマスの後に続くが、大注目の中ヒソヒソ話が聞こえてくるので俺も赤面しそうだ。


 「来て貰ったのは他でもない、例の奴等の事で入金を知らせてきたので確認しておけ。それとオーウェンは姿を消して消息無しだ」


 「入金は判りましたが、何故元ギルマスの事を?」


 「持ち込んだ獲物を見たぞ。フランと言ったな、新人にしては良い腕だな。ギルドカードを出せ」


 フランが慌ててギルドカードを渡すと「お前は今日からEランクだ。後で受付で新しいカードを受け取れ」と言って笑う。


 「元ギルマスの事は言えないのですか」


 「奴の手配は国内外に回っているが情報が無い。と言う事は、森に潜んでいるとみて間違いないだろう」


 「つまり気を付けろって事ですか」


 「奴は元Aランクの凄腕冒険者だ、森伝いに移動していると思われるが、もしも出会う事が有ったら宜しく頼む」


 「確か、劫火のオーウェンでしたよね。そんな凄腕を宜しく出来るとでも」


 「良い腕の土魔法使いに加護持ちのテイマー、お前にはキラービーの護衛が付いているのだろう。それにな、奴は金貨100枚の賞金付きだ」


 「へえ~、初めて聞きました」


 「お前達、提示版を見てないのか?」


 「何かと忙しかったものですから」


 「依頼掲示板の隣りに張り出されているので見ておけ」


 それだけ言って手を振るので部屋を出た。


 「振り込みが有ったと言ってくるのなら相当期待出来ますね」


 「いやいや、ギルマスの分が無いのでそこそこだろうさ。あれは俺達に賞金稼ぎをしろって唆してるんだろう」


 「それは嫌ですね」


 「俺もそんな面倒な事はしたくないね」


 「何の話だったんだ?」


 食堂に戻ると早速質問が飛んでくる。


 「フランの昇級の話ですよ。後は例の事で少し」


 それで察したドラドが話を変えてくれた。


 「査定が終わっているぞ」


 差し出された用紙には

 ブラウンベア、460,000ダーラ

 ブラックベア、370,000ダーラ

 ホーンボア、160,000ダーラ

 ビッグホーン、220,000ダーラ

 エルク、140,000ダーラ×3=420,000ダーラ

 計 1,630,000ダーラ


 「全部良いお値段ですね」


 「全て大物ばかりで傷が少ないと言って、査定係も張り込んでくれたぞ。それでだ、俺達の狩りには村が費用の全てを持ってくれている。その為に稼ぎの20%を村に収めているのだが、今回は調査の名目だったのでお前に話をしてなかった」


 「それは別に良いですよ。俺はおまけみたいなものですから」


 「すまんな、8人で割ると一人頭183,000ダーラだ」


 「待ってください、ドラドさん。シンヤはついてきただけでしょう、何故こんな奴にも分け前を渡すんですか? 可笑しいでしょう。奴も自分でおまけみたいなものだって言ってるので、渡す必要はないです!」


 「レブン、それならあんたもついて来ただけだろう。あんたの言い草なら、受け取る権利は無いぞ」


 「何を! 少し魔法が使えるようになったからと、態度がでかいぞ!」


 「ドラドさん、レブンがああ言ってますので俺のは宜しいですよ」


 「シンヤ!」


 「フラン、落ち着けよ。確かに俺はついて行っただけだよ。それはお前もな」


 ニヤリと笑って、レブンを指差してやる。


 「何だと!」


 「ドラドさん、村長はブラウンベアの調査だと言いいましたよね」


 「ああ、そう言って、魔法使いがフラン一人では心許ないと言ってレブンを加えた」


 「つまり、調査のおまけね」


 ドラドさんが、ニヤリと笑って口を開く。


 「レブンの不服はよく判るが、その言葉通りにいくとレブンも受け取る資格は無いな」


 「何でだよ!」レブンが血相を変えて立ち上がった。

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