第23話
昨日の馨への電話をしたときのことを思い出して、情報を集めようとする理玖。彼が、彼女に電話を掛けた際にわずかであるが他人の声も聞こえていたのだろう。声は遠かったこともあるので彼自身少し自信がないのかもしれないが、それでもおそらく子供の声であると推測をしていた。
そこから、馨が散歩の際に誰かに会っていたのだろうということを直ぐに推測したのだろう。
――余程耳が良いのか、だろうか。正式な監視官に就任した際の、身体検査の結果が楽しみですね、これは。
「はい、子供に会っていましたよ」
「そうでしたか。何か、新たな情報はありましたか? 関係あるかは分かりませんけど……この際、その子供の情報でも大丈夫です」
情報には変わりないことは確かだ。
とりあえず、何か情報があったかを聞いてそれから方針を本格的に考えることにしたのだろう。馨は、少しだけ何かを考える素振りをみせてからゆっくりとお椀と箸を机の上に置いて話し出す。
「私は出会ったのは、御手洗朱鳥という少女と佐久真朱里という少女です。朱鳥さんは小学生くらいで、朱里さんは来年から高校生の中学三年生みたいでした」
「小学生と中学生かぁ……。うーん、さすがに子供に聞くのはちょっと。いやいや、でも犯罪に子供も何もないんだよなぁ。うーん、なんだか申し訳ないような気もするけど、仕方ないか。甘羽さん、本質を見抜けますよね? どんなことが分かりましたか?」
仕事と言えども、子供を巻き込むということはしたくないのかなんとも言えない酸っぱそうな表情をしてから理玖はため息をついて馨に聞く。
彼の言う通り、犯罪に子供も大人も関係ないのだ。
「朱鳥さんは、驚くほど真っ白。部類としては高砂少年に近いものを感じました。ですが、詳しいところまで分かりません。私が集中をしようとすればするほどに、何故か意識がそれるのです」
「意識がそれる……? 甘羽さんの集中力が低いわけじゃなくてですか?」
「失敬な。……空腹であれば、それは十二分に考えられる可能性の一つではあるのですが違います。私が集中すればするほどに意識がそれるということは、意識をそらさせられているということです。つまり、彼女は黒ということが分かります。朱里さんに関しては、まぁ。……私が異能官でなければ殺していたかも?」
ニコリと決して笑顔で言うようなことではないことを平然と告げる。
一々、それらに反応をしていれば進む話も進まなくなってしまうことを早々に理解してしまった理玖は、少しだけ考える素振りを見せる。真面目に仕事の話をして考えている理玖とは対照的に、本当に聞かれたことだけを告げていのんびりと満足そうに朝食をとっている馨の姿。
――甘羽さんが殺したくなるということは、彼女の意に反する考えだった? でも甘羽さんが気に食わない性格っていうのが分からないから置いておきたいけど。御手洗朱鳥さんを白であり黒と、言ったのは一体どういう意図があったのだろうか。
ぐるぐると脳内で静かに思考を巡らせては、普段使わない頭をフル活動させる。経験も知識も何もない理玖は、その答えにたどり着くにはどうしても時間がかかってしまう。最悪たどり着くことも出来ないだろう。あまり質問をして、答えを求めるのは良くないかもしれないが知識がないのでどうしようもないことも存在している。
そして、それを全く理解していない馨でもない。彼女は、ある程度理玖が様々な質問をしてくるであろうことは予測済みだ。思いつく限りのことを思考しながら、理玖は難しいことは考えるのと止めて単純に情報収集を目的とした質問を素直にすることにする。
「御手洗朱鳥さんについてですか。真っ白であり、真っ黒であるということどういうことですか? 純情だけど、思考が屑とかやばい方向に染まっているとか?」
「近からず遠からずですかね? こればかりは私に言語化する知識と語彙力が存在しないので高砂少年のかすかすの脳みそで頑張って思考していただくしか……」
「僕の語彙力が少ないのは良いんですけど、脳みそもスカスカって決めつけるのやめていただけません?」
ぴくぴくと眉を動かしては、口角をわずかに動かしている。
馨はそのようなことを気に留めていないのだろう。クスクスと楽しそうに微笑んでいる姿は、まるでいたずらが成功した子供の様にも見える。何処か無邪気なそれに、多くの文句を言うのも面倒になったのか理玖は自身の額に手を添えては深いため息一つつくだけで留める。
「さっきの、佐久真朱里さんの甘羽さんの感想から考えると、そうですね。加えて、御手洗朱鳥さんが白であり黒ということから推測するにその子は彼女を使って何かをしようとしているとか、ですかね」
「まぁ、正解です」
にっこりと微笑んで告げられた言葉を聞いて、理玖は馨は「人を使い自身の手を汚すことなく悪事を行うこと」が最も気に食わないことなのだろうと結論付ける。
理玖は自身の推測があながち間違いではないことを分かって、そっと思考を再び巡らせる。同時に、今回の窃盗犯についても考え始める。
――人の本質を嫌でもくみ取ることが出来る甘羽さんの意識をそらした、御手洗朱鳥。誰かを使って悪事をしようとする思考を持つ、佐久真朱里。このことから考えると、おそらく。
「話が少しそれてしまうかもしれないですが。同じ異能力者である甘羽さんから見て、そして経験上。今回の考えられる異能力と等級はいくつになりますか」
「そうですね。……考えられる異能力は二つ。認識をそらすことが出来る程度のものなのか、本当に文字通り透明人間になることが出来るのかで変わってくるでしょう。前者であれば、良くてA級で普通はB級。後者であれば、下手するとS級で、悪くてA級といったところですかね」
「ちなみに、敵がS級だった場合は何か特別な処置とかあるんですか? S級に分類されているということはそれなりに厄介ということですよね?」
考え続けて理玖もそろそろ頭が疲れてきたのか、まるで思考を休めるようにして箸を手にしては口に料理を運び始める。彼女が話しているその間を使って、少しでも自身の空腹を満たしていこうと考えを変えたのだろう。
馨は、少しだけ何かを考える素振りを見せてから眉をひそめて話し出す。
「高砂少年のために、少しだけ説明をしたほうがいいと判断しました。高砂少年は、どのような意味を持って等級分けされているのかが分かりますか?」
何処か莫迦にするような。
否、実際に多少は莫迦にしているのだろう。あまりにも無知な理玖は勿論であるが、今の彼というよりも今までの無関心を貫いて一つも知ることをせずに流されるままに生きてきた彼に対して。
馨は、得意げに笑ってはまるで教師の真似事をするようなポーズをしてから「こほん」と何処かわざとらし気に咳ばらいをしてから口を開いて楽しく話し出す。
「まず、異能力者には等級が存在しています。等級はSが最高でAからC。ちなみに、Dとかあるみたいですけどクソ雑魚すぎて考えなくていいくらいです」
「非異能力者の僕からしてみれば、異能力がある時点でクソ雑魚じゃないんですけど」
「そして分けられている基準ですが、明確なものは分かりません。ですが、複数の異能力を保持している場合は問答無用でS級に分類されます。一応、事前に知っていると思いますけど私は三つの異能力を保持しています。これはメチャレアです。ゲームで言うならば限定星五、大体排出率はピックアップをされていて一パーセントと言ったところです。いや、復刻なしイベント配布のほうがレアなのか……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます