File2

第1話

 かごめ、かごめ。

 カゴの中のとりは、いついつでやる。

 うしろの正面、だぁれ。


 

 雨が続いていた東京で、久しく晴天になったある日のこと。

 いつもと変わらず、借りているアパートから職場である異能課へと出勤してきた理玖は眠そうに目を細めてはあくびをして自席に設置されているパソコンの電源を起動し仕事の準備を始めていた。そんな理玖の後ろで、何を思ったのか異能官である女性、傷蔵羽風キズクラハカゼはニヤリと口角を上げて笑って気配を消して理玖の後ろに近付いている。

 彼は運が悪いことに羽風が見えることなく。

 余談であるが、この部屋には彼ら以外にも他の異能官や監視官も居るのだが誰一人として羽風の行おうとしているいたずらについて口を入れることはない。むしろ我関せずと自身に課せられている仕事を片付けている。これは別に、彼らが他人と関わるようなタイプではなく冷徹な人間であるから、というわけではない。単純に面倒だからである。


「わ!!」

「うわぁあああ!?」

「っあはは! え、そんなに、驚く? ふ、あはは。いやぁ、高砂は、いい反応をしてくれるね。異能課の中で、多分。高校生組と同じか、それ以上に、いい反応だよ」

「傷蔵さん!? ちょ、本気でびっくりしたんですからね!?」


 羽風は理玖の背後に回って、ポンと肩に手を置いて驚かすと彼女がしていた期待以上の反応を理玖がしたことにより羽風は楽しそうに表情を緩めている。基本的に、甘いものを食べている時や女性と話している時にしか表情を緩めることがない羽風が男である理玖に対して緩めた表情を見せていることに周囲は驚きを隠せないのだろう。理玖が驚いたことに対して何も言わず、羽風の反応を見て唖然としているものが数名。

 羽風はあまりにもいい反応をした理玖を揶揄うために、いまだに来ていない馨の席に腰をかけては話しかける。


「そんなに、驚いてくれるとは。もしかして、結構、ビビり? 馨くんから聞いた話だと、結構、度胸あるみたい、だけど」

「時と場合によりますよ……。今回は、言い訳をしていますけど。徹夜でホラーゲーム攻略をしてたので」

「あ、恐怖が今になって、やってきた感じ? というか、高砂ってゲーム、するんだ。ちょっと、意外」

「それなりにゲームはしますよ。コンシューマからソシャゲ。オフラインからオンラインまで」

「馨くんと、一緒だね。ちなみに、昨日してたっていう、ホラゲーは最近発売した、あれ?」


 二人の会話を聞いていた、羽風の担当監視官である内海朱夏は何度も瞬きをして目の前の光景を再確認している。羽風の異常なほどの男嫌いはこの課では有名な話である。否、課にとどまる事はなく世間でも有名な話といっても差し支えはないだろう。その世間様は、彼女の犯した罪を半分は肯定し半分は否定したのだが。


「そうですよ。結構話題になったんで、クリアまで持って行ったんですけど……」

「一日で? それは凄いね。だって、あれ……」

「目も当てられないくらいのクソゲーだったので、クリアしてから思わずコントローラを投げました」

「だよねぇ。馨くんも、いってた。クソにクソを重ねたクソゲーだって」


 楽しそうにケタケタと笑いながら話す羽風に、どこか親近感のようなものを覚えた理玖であったが面倒なことに巻き込まれたくないということ。馨とのコンビで学んだ、異能官の接し方を思い出して深くは聞くことはせずに同調をしている。事実、今回に関しては理玖も羽風と同意見であった、というのが一番なのだが。

 二人がそのようなゲームの話で花を咲かせていると、ガチャリと扉が開く音がして人が入ってくる。


「あ、ボス。おはようございます」

「ああ。おはよう、内海くん。……おや、これはまた珍しい光景だ。羽風、高砂くんはお気に召したかい?」

「室長、おはよ。うん、十分。高砂、ゲームするんだって。クソゲーでも、ちゃんとクリアするって、いいことだと思う。それに、こいつは馨くんの飼い主でしょ。なら、そこらへんの男と、違うし」

「それは良かった」


 扉を開けて入ってきたのは、伊月。理玖は、上司である彼が入ってきて一瞬ぴくりと背中を正すも誰も普通に接しているもので気が抜けてしまっているのか瞬きをして固まっている。一番、彼が固まってしまった理由は伊月が抱えている人物だ。


「あれ。馨くん、落ちてたの?」

「ああ、廊下で爆睡してたから拾ってきた。全く、どこでも寝れると豪語していたが、こうも本当に眠かったらどこでも眠るのはやめてほしいものだ。五島が腹を抱えて笑って馨の周りに白線を引いて写真を撮っていた」

「あの人、いい大人のくせにやることが子供すぎるわね」


 伊月の話を聞いて頭を抱えてため息をつきながら言葉を漏らすのは、これまた珍しくこの場にいた監視官の百瀬藍モモセラン。彼女は、彼の告げた現場が簡単に想像できてしまったのだろう。口では、呆れたようにいっているが肩が僅かに震えている。


「百瀬くん、肩が震えているのが隠せていないぞ」

「いや、だって。ふふ、あはは。だって、それって馨が死体役ってことでしょ? 馨が殺されるなんてこと、滅多なことがない限りないと思うけど殺されたら殺されたらで容疑者多すぎて。そう考えると面白すぎて」

「そもそも、ここに居る異能官は、みんな容疑者が、多すぎる……」

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