第2話
藍は我慢ができなくなったのか、机を控えめに叩いて額を机の上に乗せて笑っている。
彼女の言葉に反応したのは、羽風。羽風のいう通り、東京本部に所属している異能官は仮に殺されたとしても容疑者が多すぎて特定が大変なのは確実だ。なぜならば、この東京本部異能課に所属している異能官は全員何かしらの前科を抱えているもので集結されているのだから。一部、事件は起こしているが表沙汰になっていないものも存在するのだが。
理玖は、遠い目をしながら考える。
――そういえば、ここの異能官は全員事件を起こしてたな。
新聞に載るまでの事件を起こしたのは、馨と羽風とこの場に居ない現役高校生でありながらも異能官も兼任している
「宵宮さん、なんかすみません。甘羽さんを担いで来てくれたようで……」
「いや、気にしないでくれ。この調子だと、夜中までゲームをしてギリギリまで寝ていて起きて廊下を歩いていたけれども眠気に勝てずそのまま寝ていたというやつだろうな。確か、昨日帰り際にイベランというやつがどうとか、と言っていたから」
「甘羽さんって、結構ゲーマなところありますもんね。最近ソシャゲは金の暴力を使っていると言っていましたけど」
「私にはよくわからんが、まぁそれで経済が回るならいいんじゃないか? さて、今日は馨をおもちゃにして遊んでいた五島から案件を預かっている」
どうやら、馨の回収だけではなくしっかりと仕事の依頼も貰ってきていたらしい。
この異能課は他の課とは違い、常に何かしらの仕事があるわけではない。一部はあるのだが、それは到底戦うことができないものには任せることができないような案件が常に存在している。戦闘区域での仕事は、基本的に本部にいることはない高校生組が担当しているのだ。
故に、この本部にいるメンツはどこかからやってきた依頼を地味にこなしていることが多い。
「五島さん案件ってことは、怪異がらみ? でもうちに来たということは、結果怪異ではなくて異能力者だったってことよね。彼からの仕事はみんな順番だから、今回は馨と高砂くんね」
ようやく笑いのツボから解放された藍は、ふっと微笑んでいつもの仕事の時に見せる出来た美人のような表情で理玖へと仕事を何食わぬ顔で回す。彼女のいう通り、異能課と密接にある特務室からの仕事は面倒な場合が多いので基本的にみんなでローテーションを行い平等に仕事をこなすという決まりを作っている。余談であるが、元特務室メンバの夏鈴がいれば問答無用にこのルールがなきものにされて彼女に仕事が回る。
否、異能課のメンツが仕事を彼女の押し付けているのではなく。彰が夏鈴へ依頼書を渡してしまうのだ。故に、彼女がそのまま仕事の担当として完遂してしまうのである。
「馨、執務室に着いたぞ。ほら、起きるんだ」
「ん、もうちょっと、お父さん」
「誰がお父さんだ。ほら、仕事の時間だ。ちゃんと起きて仕事が完遂したら、馨の好きなプリンを買ってきてやろう。もしくは、前に言っていたデザートビッフェに一緒に行こう」
「よし、おはようございます、室長! で、今回の五島さんからの依頼書はどちらに?」
まるで、最初からその言葉を待っていたような素振りでパチリと目を開けては仕事に取り掛かる馨を見て頭を抱える理玖。他のメンツは、この光景を見慣れているのか特に何か頭を抱えるようなことはなく。楽しそうに「現金ねぇ」や「親子漫才」と言っているだけである。親子漫才、などと言われているが二人の間に親子関係は一切無くあるのは上司と部下という関係のみだ。
伊月は、馨に限らず異能官である羽風や夏鈴、莉音に対してまるで子供を相手にするような態度を取ることが多い。
何かしたらご褒美として、どこかにご飯を食べに行く、といったようなものだ。異能官だけではなく、監視官にも労いとして発動することもあるが彼らは基本的に断ることが多い。
「ああ、おはよう。依頼書はこちらだ。今回は最初は怪異と調査されていたから、詳しいことは五島お抱えの怪異専門民間探偵事務所で聞くと良い」
「み、民間探偵事務所!? あ、あの人見た目通りにアングラなとこあるんですか……?」
「五島さんに限らず、私達は結構アングラなとこありますよ。暗部、まではいきませんが」
渡された依頼書を読み終わったのか、理玖に手渡しながら何でもない声色で告げる馨。伊月は苦笑をしながら自席に戻って業務準備をしている。馨は未だに自身の席に座っている羽風の頬を軽く抓ってから鞄に仕事道具を詰め込んで外出準備をする。彼女たち異能官は、異能課がある地下フロアに自室があるので基本スマホ片手で他は手ぶらで執務室までやってくる。
暇なときは事実にある携帯ゲームを手にして、執務室にあるソファーに座ってしているくらいだ。きっと、この光景を見れば誰もが頭を抱えることだろう。
「あら、今から外出?」
「ええ。
「確かに。アポ取れば良いけど、門前払いされるからアポなしで行くべきだものね、あそこは」
藍はため息を付いて、苦笑を浮かべる。
彼女も、今から向う探偵事務所に行ったことがあるのだろう。馨の口から出てきた「ヒオリ」という人物が所長なのかとぼんやり思いながら、失礼がないようにしなければを気合を入れ直す理玖。基本的に、理玖自身が失礼を働くことは少ないのだがゼロでもない。一番の爆弾は馨であるが。
「あの、なにか手土産とか……」
「要りませんよ。ああ、高砂少年。あの探偵事務所には怪異が二つありますが、襲ってくることはないので気ままにしてくださいね。初怪異対面ですね!」
「……怪異?」
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