第3話
「やぁやぁ、馨くん! 久々ではないかな?」
「ヒオリちゃんは変わらずで何より。琥珀龍と、蛇は居ないんですか?」
「琥珀は水槽で寝てるよ。アーヤは、買い出し中」
外出手続きを終えて異能課から出て理玖と馨がやってきたのは、依頼書の中に書いていた怪異として調べられていた時の調査を担当していた民間の怪異専門探偵事務所「幽世の憩い」の事務所。中に入ると、所長席と思わせる場所には中学生か高校生くらいの少女が座って飲み物を飲みながら書類を見ていたのだ。
理玖は、思わず首を傾げていたが入ってきた馨に気づいたのか彼女に「ヒオリ」と呼ばれた少女は楽しそうに立ち上がって近くにきてはソファーに座るように案内をしていた。
「ところで、馨くんの隣にいる明らかに新人そうな人は? おそらく、初めて会うよね」
「ええ、初めてですね。彼は、高砂理玖監視官です。私の担当ですね。……ヒオリちゃんには、この依頼書の件で少し話を聞きたかったのと合法的にサボれるので休憩しにここにやってきました」
「あっはは。堂々とそれをいうのは馨くんというか、東京本部の異能課だけだよ。あの、真面目が服をきて歩いていると言われている百瀬監視官でさえも同じことを言うのだからね」
「え、あの真面目が服を着て歩いている百瀬さんでさえ!?」
まだ数日しか話したことはないが、それでも理玖から見て百瀬藍という女性は真面目が服を着て出歩いていると評するほどに真面目な性格をしているのだ。冗談をいうこともあるらしいが、明らかにできる女性という見目と態度をしているので余計に彼女がサボる、ということが想像できないのだろう。
最も、少女……改め、
「そうだ。紹介がまだだった。初めまして、高砂監視官。私は、小樋井花織。花を織ると書いてヒオリと読む。実際に読むことはできないから、ほぼ当て字ということになるのだけれども」
「小樋井さん、ですね。それにしても……」
「あ、高砂少年が何を思っているのかわかったので先に言っておきますね。彼女、こう見えても平安時代出身の人間なので。うぅん、もう軽く千年以上は生きているので。ああ、でも不老不死というわけではないんですよね?」
「私は契約でこの姿を維持しているだけだからなぁ。一応、契約が履行されるまで不老不死のようなものさ。……さて、私の話はさておき本題へ戻ろう。今回、五島さんに依頼された内容は消えた死体の捜索。最初は、死体が神隠しにあったという方面で調べていたわけなんだが」
花織がいうには、彼女の元へは元々消えた死体の調査ということで仕事が来ていたとのことだった。
曰く、死体がまるで最初からなかったかのように神隠しに遭ってしまうのだそうだ。故に、怪異がらみとして特務室で調査を行いその詳しい調査を花織たちに任されたというのが今回の流れである。彼女が調べた結果、それらは怪異が原因というわけではなかったというのが結論である。怪異が原因ではないならば、次に考えられるのは異能絡みの事件ということになる。
「いやいや。でも一般人でも死体を持ち去る人がいるかもしれないじゃないですか」
「確かにそうかもしれませんが。……琥珀龍ですね」
「異能と怪異は非なるものであるが、その性質は限りなく近い。怪異ではないが怪異の匂いがする、ということは。それ即ち異能が絡んでいるということになり得るということだ」
「え、と、トカゲがしゃべったぁあ!?」
「失礼な。……まぁ、いいだろう。別にそれで何かをするようなほど俺は器量の悪い男ではないからな」
馨が「琥珀龍」と呟いた後に聞こえたのは成人男性と思われるちょうど良い低さの声。
しかし、この部屋には男性と言える男性は理玖くらいしかいない。理玖は周囲を見渡すと、大きな水槽に入っていたトカゲのような存在が顔を出しては口をぱくぱくとしあまつさえ声を発して話していたのだ。この場所に来ることは勿論、今までの人生で怪異や異能と密接に触れることはなかった理玖からしてみれば声を出して驚いてしまっても仕方がないことだろう。
彼の反応があまりにも面白かったのか、花織は肩を振るわせて笑っており馨は欠伸をして眠そうにしていた。
「え、えぇ!? あ、甘羽さん、どういうことですか!?」
「なんで私に説明を求めるんですか。まぁ、別にいいですが。彼は、ヒオリちゃんに呪いをかけた契約主である水龍。いや、今は水龍なんてかっこいい肩書をもらっていますが元々は螭龍。わかりやすく言えば、まぁ水の蛇みたいなものです。厳密には違いますけど」
ふん、とどこか威張るように鼻を鳴らしてから「琥珀龍」はそのまま再び水槽の中へと戻っていきとぐろを巻いて眠ってしまっている。理玖は数回瞬きをしてから、息を整えるように深呼吸をゆっくりとする。
「まぁ、気にしないで。あれも怪異のようなものだから。……そういうわけで、今回のこれは異能絡みである可能性が高いってことで馨くんたちに渡したというわけ」
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