第4話
軽く内容を説明するが、彼女の口から出てくる言葉は依頼書に書かれていることと大方同じである。
依頼書に書かれていること以上の情報を得ることはできないとわかり、理玖は肩を落としてため息をついてしまう。基本的に、この手の仕事は情報収集から始まるのであるが異能力者が絡む時間になってしまうと何故か情報を集めるのが極端に難しくなってしまう場合が多い。普段、非異能力者は異能力者を見るとまるでストレス発散をするように彼らを扱うがいざという時には見えぬふりをする。
自分たちのストレス発散道具を政府に渡したくないのか、真意は不明であるが異能力者捜索ほど骨の折れる仕事はない。
それでも探し出し、必要があれば処分執行を行うのが彼らの仕事でもある。
「なんだか、僕。異能力者よりも非異能力者の方が悪魔に見えてきましたよ……」
「おや、それは面白い。私も常々そう思っているよ。まぁ、結局のところ人間性が大事だってことだ。怪異であろうが、異能力者であろうが、非異能力者であろうが結局死ねばタンパク質の塊ということなんだからね。ああ、怪異はそうとも限らないが。まぁ、あまり力になれなくて悪かったね。調査、頑張ってね」
幽世の憩いを出た二人は、依頼書を片手に次はどうするべきなのかを作戦を考えるべく一度異能課に戻るべきなのか考える。ふと、理玖は何かを思ったのは馨が手にしている依頼書を借りて再び文字を読み込んで落とし込んで行く。ここに書かれているのは、花織たちが行った調査の全てである。彼女たちは怪異と思って調査を行っていたのだから、通常の捜索とは一風変わった探し方をしている。
その探し方はさておき。
理玖は一点の文字に注目をして、先ほど質問をしなかったことを何故か馨に質問をする。
「気になっていたんですけど。この神隠しに遭遇した死体っていうのは、全て身元不明のものか天涯孤独で孤独死をしたであろう死体なんですよね。怪異にしろ、こんな規則性とか出たりするんですか?」
「なんで、それを私に聞くんですかね。……一応、怪異にも知恵があるものだってあります。高砂少年でも親しみがありそうな言い方をするならば妖怪、とかね。琥珀龍は怪異とされていますが、部類的には知能を持つ上位妖怪というやつです。知能があれば、ものを選ぶということをするでしょう」
「な、なるほど? ……でも、そういう人を選ぶってことは問題になりにくいとか気付かれにくいってことを理解しているってことですよね。異能力者であろうとも、そうでなかろうとも厄介そうな相手になりそうです」
「……さて、それはどうでしょうかね」
何処か言葉を濁しながらも、あくびをする馨。彼女は何か思いついたのか、残念なことに人の思考を汲み取ることが出来ない理玖には分からない。加えて、あまり自身の中で纏まっていなければ聞いても「今じゃない」と話さない馨である。
余程重要なことであれば、彼女も事前に言ってくれるだろうと自己完結させては再び依頼書を眺めながらため息を付く。
――死体だけを、持ち去る。火車でも猫又でもない。ならば、理由があるはずだ。性質ではなく、明確な持ち去らなければいけない理由が。
馨は、自身が記憶している限りそのような異能はデータベースに保管されていないとため息を付く。
「でも、困りましたね……。これじゃあ、何も進みませんよ?」
「ある程度絞り込むことは出来ますが、情報がないので原始的な張り込みが一番ですね。一度、異能課に戻って張り込み場所を決めましょう」
「そうですね。身元不明か孤独死なら、張り込みはホームレスの人たちがいる場所が良さげですが。そんな情報あるんですか?」
「まぁまぁ。五島さんもですが、私達は少々アングラな面も持ち合わせているので」
「うん。こんなものかな。はい、どうぞ? 死体持ち去りがあった付近に限定してホームレスが居る場所をマッピングした地図」
「流石、莉音さん。いやぁ、匿名性の高いコンテンツは使い勝手が良いですね。こういうお喋りが大好きな人はいつだって良き駒です」
「……えぇぇ」
異能課まで戻ってきた馨と理玖は、どうするべきか考えた結果死体が消えた場所を重点的に張り込むことになり張り込み場所の確認を確認するために調べていた。
理玖は、自身に与えられている監視官の権限を用いて可能な限り広範囲で調べていたがあまり上手く行かず頭を抱えてしまった。それを見ていた異能官の一人である浅海莉音は、暇だったということもあり二人に話しかけて今に至っている。
「一部政府機関や検閲機関は、ダークウェブにアクセスするのが安易とか噂で知っていましたが。まさか、異能課にも権限があったなんて驚きでした」
「おや、勘違いをしているね。高砂監視官、我々異能課にそんな権限はないよ?」
「え?」
「僕はこういうことに詳しいんだ。元々、こういう場所で蔓延る犯罪や犯罪者の心理を研究していたし。何より、これほどの匿名性で人はどこまで残虐になれるのかとか調べていたからね。これが中々に楽しくて。それに、こういう場所に潜り込む時には自衛だって必要になるから必然といろんな知識がついてしまったというわけさ。だけど、役に立てて何よりだよ」
莉音の言葉に軽く瞬きをしてから、口角をヒクヒクと動かして固まってしまう。
つまるところ、この異能課には深層まで探るほどの権限は存在していないがそれらの知識について詳しい莉音が独自に深層まで潜り込んで色々と情報を探ってくれるということなのだろう。余談であるが、深層まで探るための端末は別で存在しており誰でも操作することは可能であるが何があるのかわからないということもあり莉音以外好んで触ろうとすることはない。
仮にウイルスにかかってしまっても、どうにでもなるように莉音が対処しているらしいが詳しい内容までは彼以外は知る由もない。この異能課のボスでもある伊月でさえ莉音に好きにさせているのだから。
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