第4話
「また三人でヤンチャをするのね」
「俺らのやろうとしていることを、やんちゃの一言で終わらす花月ちゃんが一番の大物じゃねぇか? まぁ、まぁ。こんな弟がいればそうなるもんなのか……?」
五島はうんうん、と唸りながら呟いている。もちろん、その言葉がカウンターにいる花月にも聞こえていたがにこり、と微笑むだけで言葉で返答することはなかった。この店は、伊月が率いている異能課の御用達ということもあるが。それ以外にも、さまざまな要人が使うことも多い隠れた名店なのだ。ランチ営業も時々しているが、基本的には夜のみの営業である。加えて、使っているものは産地直送のものを好んでおり一般的にあるメニューひょうにはあまり値段は書かれていない。
その時点で、価格はお察しなのだ。
「姉さん、最近面白い話はあったか?」
「異能絡みででしょう? そうねぇ、最近はめっきりないわ。ああ、でも最近ちょっときな臭い話を聞いたわ。なんでも、深層ネットワークで異能力者狩りをしている人がいるのだとか」
にこりと嫋やかに微笑みながら、言っていることは全く穏やかではない。だが、なんでもないような穏やかな表情と声色で告げられるものだから、本当に穏やかなことなのではないだろうかと錯覚をしてしまいそうになる。伊月は、「ふむ」と呟いて自身の顎に手を添えては考える素振りをしている。
現在、自身が所属する異能課では深層ネットワークことダークウェブに潜り込んで情報収集を行なっている莉音が時折愚痴を言うようにして現状を自身に報告をしてきていたことを思いだす。しかし、その報告の中には「異能力者狩り」についての話はなかった。あの莉音が隠していればそれまでであるが、それについて彼が隠すメリットが存在していない。ならば、まだ莉音が見つけていないか、投稿する前の話かのどちらかに限られる。
「異能力者狩り、ねぇ。全く、物騒な世の中になっちまったもんだ」
「花月さん。もしかしてだけど、その話をしてきた人って……ちょっと強面でいかにもそっち系で生きていますって感じの人たちじゃあないかい。私も、噂程度だけど異能力者狩りについては聞いたことがあるからね。もしかすると、どこかの組のものがしているのかも……」
花月の情報に反応したのは、紀伊だった。
彼は何か思い当たる節でもあったのだろう。そして、彼がそれなりに聞いたことがあると言うことはこの案件は異能課だけではとどまらず暴力団なども絡んでくるということになる。言って仕舞えば、課が跨ぐことにより面倒くさくなることが確定してしまったと言うことである。伊月は、脳内で考えていたプランの一つをすぐさま棄却して新たなプランを考え始める。
きっと常人であれば、今頃目をぐるぐるとさせては頭から熱を出して倒れている頃合いだろう。それほどまでに、伊月は脳内でさまざまなプランを瞬時に作り上げていた。
「おいおい、そっちが絡んだら確実に面倒案件じゃねぇか。だけど、姫んところのおっさんはそっちにはノータッチじゃなかったか? なんで、そんな話が噂程度でも入っているんだ」
「うちは確かに良くも悪くも古いからね。基本的には合法的なことしかしていないさ。だけど、異能力に関しては合法も違法も存在していないのが現実だ。言って仕舞えば、グレーなところ。異能力に関してもうちは関わっているからこそ、そういう関連の情報も入ってくるってわけさ。で、異能力関連であれば父さんの可愛がっている子が私のところまで連絡を入れてくれるというシステムなんだ」
「お前も大概じゃねぇか……。でもまぁ、そりゃあ姫を異能課から引き摺り落とすなんてこと出来ねぇわな。なんたって、確かな情報源を持っていることだし。だけど、あまりにも正確な情報が早くに集まると上が黙っちゃいねぇぞ? その結果、いっちゃん達異能課は地下送りになっちまってるからな」
紀伊の情報源について、ケタケタと楽しそうに笑いながら一切咎めることをしない五島。彼らは結局のところ、いい意味でも悪い意味でも同じ穴の狢、と言うことなのだろう。匙加減と使い方次第では、悪も正義も全てはすり替わってしまう。正義と思っているものは、誰かの悪であり。そして、それらを使いこなした勝者こそが正義に成り替わる。
理想と現実はなかなか一致することがないことと同じようなものなのだろう。
三人は、警察内部の一部からは悪として噂され指をさされているような立場、振る舞い方を行なっているが。そのほかの一部のもの達からは正義である、と称賛されることだって確かにある。それが、現実なのだ。
「そうねぇ。確かにいつもうちを贔屓にしてくれる、ちょっと怖い顔をした男前達だったわね。ああ、安心して頂戴。私は別に彼らに弱みを握られているわけでもないの。本当によくしてくれているだけだからね。伊月ともオトモダチだから」
「……はい、黒。いっちゃん、マジで黒」
「黒のお前達にだけは言われたくない言葉だな、それは」
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