第12話
「高砂さん。……では、お願いしようかな」
「まっかせてください。甘羽さんと、一緒に食事を使用と思っていたんですが。こう、いまいち切り出し方が分からなくて。一緒に佐倉さんと食事を運ぶことを口実に何とかいい感じに持って行こうかなと」
「ああ、少し前になんだか喧嘩をしていたような様子だったので少しだけ気になっていたんです。仲直りは、出来そうですか?」
「……はい、して見せますよ。でないと、仕事だってままなりませんから」
目を伏せてから、そっと視線を季楽に向けてニコリと笑って強く告げる。その言葉に偽りなどは存在しておらず、瞳に先ほどまでの迷いは既になかった。うじうじと悩んでいても何一つ解決しないということは彼は昔から理解している。
季楽はそんな理玖の様子を見て、小さく微笑んで出来上がったお盆を指さして話し出す。
「こちらが高砂さんのです。そして、こっちが甘羽さんのです」
「分かりました。では、両方僕が持って行きますね。何か、カートとかあれば嬉しいんですが……」
「少し待ってくださいね」
季楽は短く告げてから、カートを探しに厨房から出て行く。
勿論、彼女がそこまでする義理は存在していない。だが、何となく。おせっかいをやきたいと思う何かが二人にはあるのだろう。まだ、どこか相棒としてはちぐはぐな二人を。
「あぁあ……。ああいったけど、何を話せばいいんだ? 宵宮さんは、ああいっていたけど。僕、大丈夫なのかなぁ……」
今さらになって緊張がこみあげてきたのか、壁に額をくっつけて深すぎるため息をついてしまう。いまさらここまで来て、引き返すことはしたくなかったのか気合を入れるように自身の頬を軽く叩いて気を引き締める。
行動といい、態度といい。今から夕食を食べに行く人のものではない。
「高砂さん、一応カートがあったので持って来たのですが……。どうされましたか?」
今にも壁に頭をぶつけようとしている理玖を不思議そうに首を傾げて告げる季楽。わずかに表情は引きつっており、止めようとしていた手は空ちゅうを彷徨っている。
「ありがとうございます! よし、男は度胸。行くぞ、僕」
季楽により運ばれてきたカートに、自身と馨の夕食を並べてゆっくりとこぼさないように運んでいく。季楽は少しだけ心配そうに理玖を見ていたが、大丈夫だろうと思ったのか小声で「がんばれ」と呟いてからそのまま他の仕事に取り掛かり始める。
何とか馨の部屋の前まで、やって来た理玖は再び顔を青くしながらうなだれてしまっている。ここまできて、直前になっては怖気づいてしまう。
流石に夕食が冷めるのは、季楽に申し訳ないと思ったのか襖越しで話しかけようとしたその刹那。
「高砂少年、早く入ってきたらどうですか。夕食が冷めてしまいます」
襖が開かれては、先ほどまでまとめられていた髪の毛を下ろして呆れた表情で居る馨の姿。先ほどまでの辛辣な言葉を理玖に告げたことなど、すっかり忘れてしまっているのではないかと思わせる程に平然としていた。
今まで、くよくよと悩んでいたのが莫迦らしくなってきてしまったのか理玖は緊張も解けて困ったように笑っては中に入って夕食を運んで机の上に置いていく。勿論、彼女の分と自分の分だ。
「何でそんなに緊張しているんですか」
「甘羽さん、数時間前の僕たちの会話忘れてませんか? 三歩歩いたら記憶が飛ぶんですか? 鶏ですか?」
「まさか。そんな鳥頭じゃあるまいし。それに、その言い方は鶏に些か失礼ではないでしょうか。私はそこまで気にすることでもないと思ったので。……あと、なんで私が高砂少年を気遣って態度を変えないといけないのですか。意味不明なのですが」
まるで暴君のようなことを平然と告げては、座椅子に座り綺麗に並べられた朝食を視界にいれては何処か嬉しそうに目を輝かせる。新幹線で移動中もそうであったが、馨は何かと食べることが好きなのだろう。本人曰くは、異能力の影響で空腹になりやすいと言っているが、理玖からしてみれば真意は不明だ。
理玖としても、決まづい雰囲気で居られるようはマシだったこともあり「まぁ、良いか」と話を自己完結させては襖を閉めて自身も机の前に座って並べた料理を見る。
「では、いただきます」
「美味しそうですね。いただきます!」
表記欲手を合わせてから、箸を手に取り静かに食べ始める。
口を開けば嫌味に辛辣な言葉。冗談かも分からない冗談に、人を平気で顎で使ったと思えば気に食わないことがあれば無言の圧力で黙らせてくる。破天荒であり、それでいて暴君をおもわせるような馨からは考えられないほどに箸の持ち方は美しく、食べる所作も綺麗だ。
まるで、どこかの良家のお嬢様だったのではないかと思わせるほどに。
「ところで。高砂少年は、どうして私と夕食をとろうと思ったのですか」
「あ、いや。……甘羽さんの言っていたことは、本当ですし言い返す言葉もありません。明日からの任務も、そしてこれからの任務でも。相棒になる人のことを、知っておくことは必要だと考えたんです。なので、……こうやって」
どんどんと言葉が小さくなっていく。
言葉も途切れ途切れになっており、時折ボゾボゾと言っているようにも聞こえなくない。普段の彼女であれば「はっきりと言ってください」と何処か不機嫌であることを隠すこともせずに、理玖に告げていることだろう。
だが、今回は特に文句を言うこともせずに静かに食事をしている。まるで、彼の言葉を焦らすこともせずにゆっくりと気候としているような。
「なので、……甘羽さんのことを教えてください。どんな、些細な事でも良いんです。好きな食べ物とか
そういうのでも」
「……私のことを聞くのであれば自分のことも話すのが礼儀でしょうに。でもまぁ、及第点ということにしておきましょうかね」
ゆっくりと箸をおいては、何かを考える素振りを見せる。
ふと何かを思ったのか、馨はニコニコと微笑んで話し出す。その笑顔は、あまりにも綺麗に出来上がっているのでかえって不穏な何かがにじみ出てしまっている。完璧であればあるほどに、人はそれらを不気味に思えてしまうものなのだろう。
「君が初めてですよ」
「え、何がですか? あ、もしかして夕食を食べようと言ってくれたのが? 甘羽さん、確かに友達少なそうですし。むしろ居なさそうですしね」
「私に向かって平然と失礼極まりないことをいったり、私のことを教えてくれと言ってきた監視官がですよ。友達は、まぁ居ませんけど。同僚とは仲が良いくらいです。そもそも、私の幼いころは少し特殊だったので友達がいなくとも仕方ありません」
手を味噌汁が入っている器に伸ばしては、静かに飲み干す。
一口が大きいのか、余程空腹だったのか。まるで、掃除機がものを吸い込むような勢いで馨の目の前に並べられている料理がみるみるうちに消えていく。
言葉では、失礼だの言ってくる彼女の雰囲気は不機嫌なものではなくむしろ良好である。楽しそうに口角をあげてさえもいる。
「私のことですか。……何を話せばいいのか分からないので、質問をお願いします」
「なんともまぁ、……。まぁ、いっか。うーん、じゃあ、そうですね。ここは無難に、好きな食べ物とか?」
「好きな食べ物。……甘いもの。スイーツには目がありません。三か月に一回、伊月室長と共にホテルのスイーツビュッフェに足を運ぶほどには好きですよ。和菓子、洋菓子どっちも行ける口です」
味噌汁がなくなり、次はサラダに手を付けてはこちらも音もなく消えていく。
馨の好物を聞いて、理玖は小さく笑っていた。なんとなく、彼女は甘いものが好きそうだなというのは想像をしていたのだろう。新幹線に乗る前にも、コンビニで飲み物を買っていたが迷うことなくイチゴミルクやミックスジュースなどの甘いものをチョイスしていたのだ。
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