第13話
「高砂少年は、料理が出来る人ですか?」
「え、まぁ。人並みには出来ると思いますよ。実家では、いっつも料理を作っていましたし居酒屋でもバイトしていましたからね。なんなら、カクテルも作れますよ」
「なんと、それは良い。実は、異能課には簡易キッチンや休憩スペースがあるのですが。これからはデリバリーを頼む必要はありませんね。お酒も飲みたくなれば、君を頼ればいい。これは朗報だ」
異能課の部屋には、生活に不自由がないように作られている。
異能官は特殊なため、基本的に監視官の同行なしでは外に出ることは許されていないのだ。故に、所属異能官は全員異能課が設けられている地下スペースで過ごして暮らしている。彼らにプライベートなど、あってないようなものだ。
そのために、異能課の仕事部屋には簡易キッチンなども備え付けられており仕事をするための部屋というよりも生活をするための部屋と言っても差支えがないほどの品ぞろえなのだ。
「そういえば、気になっていたんですけど」
「答えられることでしたら、なんなりとどうぞ」
「……その首の奴ってなんですか? ネックレス? それにしては、なんだか首輪みたいだなって思えるし。それだけに足らず、その手首のものも。まるで、手錠みたいな」
馨はその言葉を聞いて、ピタリと止まる。まるでそれは、ロボットが突然動きを停止したようなものに酷く似ている。
理玖の言う通り、馨の首にはまるで首輪のようなものが。左手首には手錠のような飾りが存在している。この部屋に来るまでは、何かと上着を着こんでいたということもあり気づくことはなかったのだろう。彼女は意図してか不明だが、袖の長いものを着用していたために手錠のようなものも見えることがなかったのだ。
「アクセサリーです。……と言っても、納得はしなさそうですね」
「まぁ。甘羽さんって、そういう趣味はなさそうな気がするので」
ふぅ、と一息ついてから持っていたお椀や橋を机の上に置いて少しだけ面倒くさそうに話し出す。雰囲気は少しだけ重たい。これからされる話は、軽いものではないのだろうなということを少し鈍いところがある理玖でも直ぐに察してしまうほど。
「これは、異能力の出力を制限する装置のようなものです。言ってしまえば、見た目の通りの枷というわけです」
「枷……。なんだか、まるで」
「奴隷のようだ、ですかね。それとも、犬みたいだ……? まぁ、どっちにせよその通りとしか言えませんね。高砂少年の勇気に少しだけご褒美として話をしましょうか。高砂少年は、異能力者の地位についてご存じで?」
カリカリ、と煩わしそうに。
忌まわしそうに自身の首につけられている首輪を触りながら話を続ける馨。理玖は、目の前の光景に唖然としており話どころか食事どころでもなくなっている。そんなかの様子を気遣うこともなく馨は話を続ける。
無言を「知らない」と受け取ったのだろう。
そもそも、自分に直接的に被害が来なければ関心さえも向けなかった男なのだ。本質を理解している馨は、質問するだけ時間の無駄だったなと内心で思う。
「異能力者に人権は存在していません。言ってしまえば、家畜以下の存在。ただの、タンパク質の塊。……奴隷とほど変わりはないでしょう。いや、もしかすると奴隷よりも質が悪いかもしれませんね」
「そんな……。動物を傷つけると人間は罰せられるのに、非異能力者が故意的に、何もしていない通りすがりの異能力者を刺したところで罪に問われないということなんですか?」
「そうですね。そこで異能力者は抵抗をしようものなら即アウト。異能力者の刑務所でもある、異能力者収容所へと送り込まれます。全く、理不尽にもほどがありますよね」
膝に置かれた手を握りしめては、視線を机へと落とす。
馨はあくまでも事実を述べているだけに過ぎないが、理玖からしてみれば衝撃的な内容だったのだろう。今まで、異能力者は自分に関係ないと調べることさえもしなかったからこそ、驚きが人より大きくなっているのもあるのかもしれない。
馨は頬杖をつきながら、そんな理玖の様子をぼんやりと眺める。
「ですが、特例的に異能官には最低限の名ばかりの人権が与えられます」
「名ばかりって……」
「まず、異能官に対して故意的に通り魔をした場合は、非異能力者が器物損壊で逮捕されます」
「器物本懐? なんでですか? 普通、人を刺したということを考えれば殺人未遂とかでは?」
「だから名ばかりの人権だって言ったじゃないですか。異能官は、国が保有している武器。つまり、物と同意です。実際、他の国では異能力者は歩く武器と例えることも多いほどですからね」
事実、彼女の言う通り。他国では異能力者を武器として考え、兵士として投入するところも多く存在している。ある意味、日本でも同じような扱いをしていると言わざるを得ないが表向きには警官という立場にあるため兵士という考えではない。
だが、実際に異能官はその能力を活用して戦闘地域へ任務へ行くことだって多々ある。
「どうかしましたか、高砂少年」
「あ、いえ。……その、見た目はこんなにも僕たち非異能力者と同じなのに。異能力があるだけで、ここまで扱いが変わるんだなって思って」
「まぁ、あれですよ」
「はい?」
「本能的なところだと思いますよ。集団で一つでもはぐれがあれば、それを排除しようとしてしまうものです。私が言えた義理ではないと思いますが、いじめがなくならないのと同じじゃないですかね」
特にそれ以上のことを言うこともなく、馨は静かにお茶を入れて飲んでいる。いつの間にか、彼女の目の前にあった料理は空になっている。話しながらも、全てを食べ終わっていたのだろう。
「あの! その首輪も手錠も、外せるんですか?」
「鍵がありますので、外すことは出来ますよ。まぁ、高砂少年が気にすることでもないでしょうし、今はご自分のことを考えるべきでは」
「あ、……そうですね。僕なり、今出来ることをして甘羽さんに認めてもらえる様に、頑張ります。まだ、何も分からないし自分が何をしたいのかもありませんけど」
少しだけ泣きそうな表情で告げてから、理玖も食事が終わったのか手を合わせる。
ゆっくりと食器を重ねては、片づけていく。ふと馨は、何かを思ったのかニヤリとまるで悪人のような表情で心底愉快そうに笑っては言葉を紡ぎ話し出す。
「高砂少年」
理玖は空になった全ての食器をお盆に乗せては、廊下に待機させていたカートに乗せ終わったのか呼ばれた方向を向いて首を傾げて不思議そうにしている。
「もし私のことを知りたいのであれば、ネットで調べてみるのもいいかもしれませんよ。面白い記事が出てきますので。まぁ、デマもあると思いますが八割がたは事実ですからね。その手の資料を詳しく見たいのであれば異能課に戻ってから室長から監視官権限を持つカードを手にしてから、資料保管庫にあるパソコンからデータベースにアクセスして閲覧してみてください」
「はぁ……わかりました。あ、明日の方針は明日の朝に打ち合わせをしましょう! 今日は、移動などもありお互い疲れていると思いますし」
「承知しました。……事実を知っても、高砂少年がまだ私についてくるつもりなのか今から楽しみですね」
少しだけ寂しそうな表情を一瞬したと思えば、すぐにいたずらが成功した子供の様な表情で笑っては理玖が廊下に出ていることを確認してから襖を閉める。今日は、これ以上の話をするつもりもないということなのだろう。
まるで捨てセリフのようにして言われた言葉に首を傾げる理玖。
「まぁ、ダメ元でもネットで調べてみようかなって思っていたし、いっか」
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