こちら、政府公認異能取締課です。

観音崎 優

FileⅠ

第1話

 その日は酷く静かに雪が降っていた。

 まるでそれは、地面にある何かを全て覆い隠すように降り続けているようだ。ゆっくりと握りしめた手からは、僅かな暖かさが伝わってくる。白い世界で、まるで自分たちだけがこの世界に居るのではないかと錯覚してしまうほどに静寂で、白銀に包まれた世界だった。幻想的で、美しく果敢なくて。とても寂しいものを感じてしまう。

 息を吐くたびに、白く濁っては何事もなかったかのように空気に溶けていく。

 最初から、何も、なかったかのように、消えていく。


「お姉ちゃん、雪って食べられるのかなぁ」

「まぁ、食べられると思うけど綺麗ではないと思うよ。真っ白で綺麗に見えるけど、雪って結構汚いみたいだからね」


 繋がれた手はそのままだ。

 幼い双子と思われる少女たちは地面にしゃがみこんでいる。

 黒髪の少女は鼻を赤くして雪が積もった地面を、楽しそうに鼻歌交じりに指でなぞりながら不格好でお世辞にも上手いとは言い難い何かのイラストを描いていく。

 桃色の髪の毛をした少女は、その隣にスあが見込んで静かに黒髪の少女を何処か愛おしそうに目を細めて見つめていた。


「何を描いているの?」

「ウサギさんだよ!」


 ウサギというのには、あまりにも不格好すぎるそれ。

 指でなぞって出来た窪みに、再び雪がしとしとと降り積もっていく。まるで、最初から何も描かれていなかったかのようにイラストを静かに消してしまう。それを見て、何処か残念そうに黒髪の少女は口をとがらせて不満そうに声を漏らす。


「ウサギさん、消えちゃったね。……お姉ちゃん」

「そうだね」

「雪は、全部を隠しちゃうね」

「そう、かもしれないね」


 ゆっくりと目を伏せては、空いた手で黒髪の少女の頭を撫でる桃色の少女。

 何処か猫のように気持ちいいのか桃色の少女の手にすり寄って笑っては、黒髪の少女はニコニコとしながら楽しそうに話し出す。


「世界が雪に埋もれたら、お姉ちゃんも私も。もっと幸せになれるのかなぁ……」


 無邪気に屈託のない笑顔で告げられたのは無垢な言葉。

 それに対して、何も言うことが出来なくなってしまったのか桃色の少女はゆっくりと視線をそらして目を背けてしまう。しかしそれも一瞬で、再び黒髪の少女を視界に入れてから雪に触れて冷たくなってしまった彼女の手を眺めてそっと温めるように緩く握りしめて言葉を紡ぎ出す。


「ねぇ、――。憶えておいて。雪の下に何か秘密を隠したところでね、雪はとけてしまう。隠したところで、それは隠したということでしかなくて、消えることはない。何も、解決したことにはならないんだよ」

「……えっと、なんだか。私には、ちょっと難しいかなぁ」

「まだ、分からないかもしれない。でもね、それでも憶えておいてほしいの。本当に消したいものがあったらね、隠すんじゃあなくて。文字通り、消せばいい。最初から、何もなかったように」


 しがらみも、力も、世界も、何もかも。


 ――そうすれば、私たちは自由になれるから。

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