第24話

 分かりやすいのか、分かりにくいのか人によっては分かりづらいその説明でも理玖は問題なく通じたのだろう。言葉にしてはいないが、表情で「納得である」ということがうかがえる。


「まぁ、一部例外も存在していますがそれこそレア中のレアなので今は良いでしょう。A級を含めそれ以下のものは、異能力は一つしか保有していません。その中で、分類わけをするならば、そうですね。催眠や洗脳などの相手への高度な精神干渉が出来るものを中心にA級に匹敵するでしょう。今回の場合は、相手の認識能力に干渉しているので前者であればA級ということですね」

「つまり、一部例外のS級というのは。自身の身体の一部もしくはすべてを変えることが出来るってことですかね。透明人間だったらS級であるということは…、たとえば自分の身体の一部を水や炎のすることが出来るもS級になると?」

「ご明察。高砂少年、理解が早くて助かります」


 ゆっくりとみそ汁の入った器を持っては一気に飲み干す。

 静かに食べていることには変わりはないのだが、余程彼女は空腹状態だったのか豪快に食べていく。そのアンバランスさに表情を引きつらせながらも、理玖はおにぎりを片手に食べながら資料を引き続き見ている。


「甘羽さんって、本質が見えるんですよね。でしたら、誰が異能力を保持しているかも分かったりするんですか?」

「ええ、まぁ……ぼんやり程度ですけどね。異能力は人の中にある、いわば突然変異のようなものです。いや、違うか? ……異能力というものは、人間である限り皆等しく存在しているんですよ」

「え!?」


 思わぬ馨の発言に驚きが隠せないのか、持っていた箸を行儀悪くも音を出して落としてしまう理玖。そんな彼の反応も、ある程度予測済みだったのか少しだけ目を細めて笑っている馨。彼女は、空になった味噌汁の入っていた器を机の上に置いてから箸を箸置きに戻して人差し指を立てては話し出す。


「だから、何らかの奇跡でもあれば高砂少年も異能が後天的に発現するでしょう。非異能力者は、脳の一部の機能をロックされている状態だと思ってください。そのロックが何かの原因で外れることにより、異能力が発現する。発現したところで、まともに使えるのかはその人の身体と脳の問題ですので発現していても使えないというパターンも存在しています」


 人は皆、等しく異能力を使う権利を有しておりその能力を秘めている。

 しかし、後天的に異能力が発現したところで使用できるかは別問題なのだろう。ズルリ、とコケるような仕草をした後に理玖はコホン、とわざとらしく咳ばらいをして気を取り直すべく表情を戻しては口を開く。


「あの、思ったんですけど。異能力者でも、非異能力者を語って隠して生きている人もいるんですよね? その人が異能を保持しているか確認する方法は?」

「……今のところありませんね。全て自己申告制です。もしくは、……遥か昔に存在した魔女狩りの如くに通報していくスタイルもありますね。私は、上に三つ保持していると申告していますが、それが全て本当かは私だけが知るということです」

「なるほど。つまり、異能については全て自己申告ということなんですね。異能については、何となくわかりました。何かまた聞きたいことがあれば、本部に戻ってから自分なりに書物でも調べてみます」

「ええ、それが良いでしょうね」


 ここにきて初めて理玖が、自ら調べておくという行動をとったことに対して何処か満足気に微笑んでは馨は頷く。彼は自分というものを持っている馨のことを、彼なりに羨ましく思っており信じているのだろう。


 ――自分を持っていないから悪い、だなんて誰が言ったんだか。ないならば、ここから作ればいいだけの話だ。


「ちなみになのですが、昨日会った二人の少女は甘羽さんから見てどちらに該当したのですか? 話を聞く限り御手洗朱鳥さんは異能力者だと思っているのですが」

「ええ、その通り。異能力者よけのお守りとかを持っている、というイレギュラーがない限り彼女は異能力者と考えて問題ないでしょう。もう一人の朱里さんに関しては非異能力者で間違いないと思いますよ。朱鳥さんが洗脳されている、という素振りはなかったので。……で、どうされますか」


 今回の依頼は、「透明な窃盗犯」を捕まえることだ。

 つまり、馨の言葉が事実であるとするならば今回の犯人は小学生くらいの幼い少女である朱鳥が犯人ということになる。理玖は、眉をひそめては口元に手を添えて今後の方針を考える。自分で、犯罪に子供も大人も関係ないと言っておきながらやはり子供相手であればどこか慎重になりざるを得ないのだろう。

 彼は、異能力者であるから皆等しく犯罪をおかすという考えはない。今まで、その手の話題に無関心であったことも確かにあるのだろう。だが、人は何か動機があってこそ犯行に及ぶことが多い。殺したいから殺した、というのもある意味自身の快楽や欲を満たすという動機の元で成り立つ犯行でもあるのだ。


「本来であれば、……その犯人候補をさっさと確保して任務を終わらせましょうというべきなのでしょうが。うーん、僕的にも何か釈然としないというか」

「つまり?」

「……とりあえず、もっと調べてみましょう。確かに、御手洗朱鳥さんは異能力者で黒かもしれません。ですが、まだ表面上なことしか分かっていないような気がして本当のことが見えていないと思うんです。仕事としては、それで良いのですが……僕個人が、気になるので」


 事実だけではなく、真実までも気になると言い出す理玖。

 そんな彼の言葉を咎めることもなく。だからと言って、手を上げて肯定するわけでもない馨だったが、雰囲気からして反論がないことだけは分かる。反論があれば、彼女はたとえ監視官であれども上官であれども一言いう性格をしているのだ。

 理玖はそっと鞄からメモ帳を取り出して、何かを書き始める。


「では、今は御手洗さんが犯人であると仮定して動いていきましょう」

「はい。で、それでどうするんですか? もしも相手に感づかれて逃げられでもすれば高砂少年の責任ですけど」


 責任がどうとか、と最初のことに言っていた理玖を思い出したのだろう。

 何処かからかうように、試すようにして淡々とした口調と声色で告げる馨に何処かバツの悪そうな表情をしては自身の頬を軽く掻いては口を開いて話し出す。


「まぁ、そりゃそうなんですけど。……初日に甘羽さんに行った通りではあるし、いくら失うものが僕は他に比べてないと言えどもクビは避けたいですし。だけど、気になることがあれば気が済むまで調べたくなる性格なんですよ。後悔だけは、したくはないじゃないですか」


 苦笑をして、何処か遠くを見つめては何かを振り払うように首を左右に振ってから静かに何かが掛かれたメモ帳を横目に料理に手を付け始めていく。


「本来の仕事であれば、許されることはないでしょうけど。まぁ、これは高砂少年の実地試験も兼ねていると何度も言っていますからね。どうぞ、お好きにしてください。気が変わりました、多少のしりぬぐいくらいはしてあげますよ」

「……っ! はは、ありがとうございます。では、とりあえず情報収集として村のほうまで行ってみましょう。僕が表で聞き込みをしてきますので、甘羽さんは見つからないように村の周囲や構図などの確認をお願いします」

「なるほど、承知しました。では、そんなときのために高砂少年にはこれを差し上げましょうではないですか」

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