第31話
「これが露見してしまえば、確実に刑事課と縄張り争いをすることになります。今の段階では、あちらは特に何も情報を持っていない。ただ、私たちが動いているから異能力者関係なのだろう、程度にしか思っていないでしょう」
「……何で嬉しそうなんですか、甘羽さん」
「個人的には刑事課との縄張り争いを公式で出来るなら良いなって思っただけです。ですが、この相手を捕えるとなると……確実に監視官からの命令がなければ私たちは動くことが難しいでしょうね」
異能官と言えども、非異能力者を傷つけることは出来ない。たとえ、その人物が凶悪な犯罪者であったとしても。自身の業務を妨害してくる者たちであったとしても、だ。監視官のゴーサインがなければ、異能力者が手を出すことは出来ない。
そのような決まりになっている、と言えば聞こえはいいかもしれない。所詮、異能官であったとしても彼らは異能力者というくくりから出ることは出来ないということなのだろう。
「あ、あの村での出来事みたいな感じですね? でもそれだったら業務妨害でしょっ引いてしまえば良いのでは?」
「高砂監視官、まるで馨くんのようなことを平然と言うようになったね。ペットは飼い主に似る、とはよく聞く話であるけれども。その逆も結構あるのかもしれないね?」
「莉音さんの冗談はさておき。私たちが今からすることは決まっています。まずは、問題の日葵さんに関しては接触を待ちましょう。私たちから接触を高頻度でするとかえって教えてしまうことになります。日葵さんはさておき、この排除者をどうにかするべきでしょう。殺してしまっても構わないのですが……」
そのようなことをすれば、確実面倒なことになるのは目に見えて分かり切っている。理玖は口角をわずかに動かしては、片目をとじてはうなだれてしまう。単純であるが、結局のところ手を出してしまったほうが早いのも事実。馨と同じことを言うことはしないが、思考は大体同じようなものだ。
不穏分子は芽吹く前に摘み取ってしまったほうが幾分と早いし安全なのだ。
仮にその摘み取ったものが不穏分子ではなかったとしても、死人に口なしとはよく言ったものだろう。そこまで考えて、理玖はピタリと思考を止めてしまう。
――駄目だ。僕は止める側、なんだから。
「僕としては殺してしまってもいいかもしれないけれども。捕まえてその思考を分析したいところだね。出来るならば脳みそにチップを埋め込んで思考をこちらから監視して野放しにして観察したいところ、だけどね?」
「私より酷いことを言っている人が近くに居ると、自分がどれほど世間一般的に酷なことを言っていても可愛く思えてしまうのは素晴らしいですよね。……高砂少年? どうかしましたか?」
「あ、いや。何でもないんですけど、少しだけ皆分かれて各自で情報を集めるとかどうでしょうか、と思って。百瀬さんと浅海さんは引き続き監視カメラの確認と、ダークウェブの監視。甘羽さんは……いや、甘羽さんも浅海さんと同じくでお願いします。ちょっと僕は気になるところがあって」
理玖はそっと手を上げて、先ほどから酷な提案を笑顔でしている二人に向かって臆することなく告げている。本来であれば、このような話を当たり前のような口調でされると誰でも表情を歪めてしまうものだろうが、どうやら理玖はそうでもないらしい。
余談であるが、他の異能課メンバは最早これらの会話は日常茶飯事と化しているために聞いたところで何も思うことはない。
「つまり、高砂少年は気になることがあるから単独行動をしたい、と?」
「まぁ、そうですね。……甘羽さんが居ても良いのですが、ちょっと」
「高砂監視官、それはいないほうがありがたいと言っているようなものだからはっきりと言ったほうがいいよ。彼女は、そういうことを言って気を悪くするようなタイプじゃあないからね」
「別にそういうのを気にしたわけではないですけど……、分かりました。何か情報があったりしたら、甘羽さんにメール入れますね」
理玖は少しの苦笑を浮かべながらそっと、自身のスマホを取り出して指をさしてメールをするということをジェスチャー付きで話す。その様子を見ていた莉音は、ふと何かを思ったのかそっとパソコンへと視線を戻してから何かのメッセージアプリを起動させている。
彼が何をしたいのかを瞬時に理解した馨は、ポンッと自身の手を叩いて何かに納得するような表情を見せている。
「メールは面倒だからね。そういえば、僕たち異能課グループでチャットがあるんだ。このメッセージアプリは持っているかい?」
聞かれたメッセージアプリを確認するために理玖はそっと莉音の隣に移動して、モニターに表示されているメッセージアプリのアイコンを確認する。幸いにもそのアプリは理玖のスマホにも入っていたのか、軽く頷いてそっとスマホの画面を表示させた。
「これ、ですよね?」
「ああ、それだよ。じゃあ、高砂監視官のアカウントを教えてくれるかい? こっちで、グループに追加してしまうから」
「え、普通に自前スマホで業務の話をしても良いんですか!?」
「いや、普通にダメですよ。だから、この後セキュリティをそっと強化させるんです。このグループだけ中を見るためには虹彩認証を通すようにするんです。でもまぁ、スマホだったら指紋認証ですかね? あ、高砂少年のスマホは指紋認証する術がないので虹彩認証になりますね」
手に持っていたスマホを確認した馨は、軽くグループに追加をした後の話をさらっと行う。流石に、業務に関する話を外部に漏らせるわけにはいかない。これはいたって当たり前の話なのであるが、それに対しての対策も当たり前に存在している。
本当は、それ専用のスマホを携帯しておくのが一番なのであるが異能課にそのようなものは当然与えられていない。故に、連絡は全て自前のスマホで行う必要がある。そこで莉音の才能が輝くのだろう。
「このアプリにそんなものはなかったと思うんですが……」
「僕が追加機能として付属させたんだ。別に皆を疑っているわけではないけれども、万が一が発生しないとも言い切れないだろう? 流石に個人の持ち物だから勝手にデータを消すわけにはいかない。ならば、それらに関するものをこうやって外から管理してしまえば良い、という結論になったのさ」
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