第15話
莉音に注意をしている伊月でさえも、何げに注文をしている始末に理玖は目を細めてしまう。
別に料理をすることが嫌というわけでもないのだろう。そのまま深くため息をついては、脳内で注文のあった洋食のことを考えては何度目かもわからないため息をついては肩をすくめる。
「味の保証はしませんからね……」
「楽しみだね。何か僕に手伝えることがあれば言ってくれて構わないよ」
「ああ、私も手伝おう。そこの二人は座って待っているように。二人が料理を始めたら面倒なことになりかねないからな……」
伊月の言葉に首を傾げながらも、理玖は帰るために持っていた鞄を机の上に置いては簡易キッチンへと向かって歩き出す。簡易キッチンといえども、しっかりとした作りになっておりさすがに書類なども多くある部屋で火は危ないと判断されたのか電気で加熱するタイプの立派な三口のキッチンが広がっている。
――簡易キッチン、とは一体なんだんだろう。うちのキッチンより豪華だぞ、これは。
彼らが口を揃えて「簡易キッチン」と言っているのだから、理玖がどのように思うともこれは簡易キッチンでしかない。立派すぎる簡易キッチンを確認している途中でいつの間にか両隣に来ていた伊月と莉音はそそくさと棚を開けては材料、鍋、フライパンの確認をしていた。
「高砂シェフ、何を作るのか聞いてもいいかい?」
「浅海さん、楽しんでますね……? そうですね。洋食にしようと思っています。とりあえずはオムライスにして、付け合わせのようにミニグラタンを作ろうかと。傷蔵さんが甘いものがお好きのようなので、彼女のためにもデザートもつけて用意をするつもりです」
そっと理玖は冷蔵庫を開けて脳内で何を作るかを組み立てては、決まったのか質問をしてきた莉音に向かって答える。
莉音と伊月は返事をして、そのまま理玖の料理のサポートをするために動き出したのだった。
一方その頃、手伝いをするなと言われてしまった馨と羽風はソファーではなく馨の仕事机に集まって何か作業をしていた、余談であるが、彼女はまだ業務パソコンに電源を落としていないためまだ業務中ということになっている。
「何を、調べてるの」
「持ち去られた死体の中で身元がわかったもの、そして返却された一部分が存在していない死体を少々」
「よく食事前にそんなの、見れるよね。まぁ、私も、見ることはできる、けど」
「羽風。別に私と話す時は言葉を噛み砕いて発する前に考えなくてもいいですよ。というか、そもそも異能課に所属しているメンバーにそんな過度な気遣いは不要でしょう。羽風も疲れてしまいますよ」
「……じゃあ、思ったことを咀嚼して考える前に出すことにする。死体を見て、何か変わったことはあるの? 私はどれも同じような死体にしか見えないけれども」
馨のパソコンに映し出されているのは、発見された状態の死体の写真。
もちろん加工も何もされていないので、証拠写真と撮られたものそのままだ。彼女達は食事前であるのにも関わらず、これらを直視している。すでに慣れているからのことだろうが、馨に至っては異能課にスカウトされた異能力者収容所に入るまでは各地で死体を多く生み出していたのだ。このような画像はもちろん、自身がそれらを生み出すことに何も思うことはない。
そっと画像を見ながら、自身の顎に手を添えて考える。
「確かに同じような死体だと私も思っています。ですが、何故一部分が消えても返却される死体とそうではない死体があるのかとか気になりません?」
「返却されなかった死体は返却できる部位がなかった。返却された死体は、その部位だけが欲しかった」
「羽風は、今回の事件をどう見ますか」
彼女の言葉に対して、肯定も否定もすることはなく変わらぬ声色と表情で視線をパソコンから外すことなく隣に座っている羽風に質問をする。明らかに、これらの話は同じ異能官である羽風ではなく理玖とするべき話だろうがあくまでも馨は、自分自身で気になることを気になるから消化しようとしているだけであり、決して解決をするために調べているわけではない。
結果的に、彼女の調べたことが今後の調査で有益な情報になろうとも彼女はあくまでも自分自身の気になることを調べただけにすぎないのだ。故に、事後報告が多くなるのだが。
「エセ水龍が、怪異ではないと言ったならばこれは異能力者の仕業なのはほぼ確定。そして、死体の状態から見るとその異能力者は死体もしくは人間の一部分がどうしても必要だった」
「私も同じです。……では、何故欲しかったのか。これは、高砂少年と雑談をした結果生きるためにそうせざるを得なかったのではないかと一つ推測を立てています」
「異能力は決して、いいことばかりではない。それを体現しているってこと? 確かに、何かを得るには何かを差し出す必要がある。私の異能の一つだってそうだし、馨くんの異能の一つだって見方を変えればデメリットになり得る」
羽風は自身の白目と黒目が反転している普段は髪の毛により隠れている右目に手を添える。
彼女の瞳は、元々白黒逆の瞳だったわけではない。元々は、どこにでもいるような人と同じく白と黒は逆ではなかった。彼女が所持している異能の一つ、少し先の未来を見ることができる程度の能力により少しずつ右目の視力が弱くなっていき最終的にはこのように色まで変わっている。うっすらと見えるようだが、今の羽風の右目はほぼ視力は伴っていない。
少し先の未来を見るかわりに、現在を見る目が失われていく。
まさしくそれは、等価交換の一つだ。最も、彼女たちは、自ら承諾して等価交換を行なっているわけではないのだが。
「その推測を軸にして展開するとすると。……今回の犯人は、自分が生きるためにはどうしても死体を盗む必要があった。まるで、御伽噺に出てくるグールのようだね」
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