第9話
「そうですね。合法か非合法なのかは私も聞いたことありませんね。気になるなら、莉音さんに聞いてみればいいですよ」
「そしてサラッと読み取らないでくださいよ。いや、甘羽さんの異能をすっかり忘れていた僕にも非はあると思いますけどね。……人の思考がわかる程度って、もはや思考っていうよりも脳内で考えたこと全て筒抜けじゃないですか」
「そうでもないですよ、多分。まぁ、それは置いておきましょう。勝手に耳に入ってくるものですし、いやでもまぁ。今は垂れ流している方が一方的に悪いとは言いませんけど」
肩をすくめてわざとらしくため息をついて告げられた言葉は、どこか丸くなっている。
以前の彼女は、垂れ流している方が悪いと当然のように告げていたことを知っている理玖からしてみれば些細すぎることでも成長に感じるのだろう。わずかに感動したように、ぱちぱちと数回目叩きをして口元に手を添えている。
「なんだかんだ言って、ご飯を食べていませんね。外食にしますか? それとも、何か買って執務室で食べます?」
「僕としてはどっちでも……。あ、自腹ですよね?」
「え、領収書切って経費にしますけど?」
「甘羽さんのような人がいるからこそ、税金泥棒って言われる人がいるんじゃないかって思えますよ。というか、それって完璧に私的な経費使用ではないですか!?」
「失礼な。これはある意味、移動などなので経費になるんですよ。……というのは、冗談ですけど。私たちの外での活動の際の食事は全て伊月室長が持っているんですよ。なので、領収書を切るというよりも伊月室長にツケるのが正しいです。まぁ、ちゃんと領収書をもらって室長のカードでお支払いをして後で照合するみたいですけどね」
馨はそれだけを伝えて、スマホを取り出して店の検索をし始める。
理玖が外食にすると言っていないのにも関わらず、彼女の中では外食にするということが確定しているらしい。これ以上、彼女に何を言っても意味がなく下手に否定をすれば機嫌が悪くなると察してしまった理玖はそっと周囲を見渡す。店選びは彼女は任せてしまったのだろう。
先ほどまでいた場所から少し歩いたと言えども、まだ目視できる範囲にホームレスたちが見える。
そっと視線をそちらに向けていると、ふと一人の少女が老人と話している姿が見える。
――あれは、さっきの女の子? まだ帰っていなかったのか。
「高砂少年、気分はなんですか? 寿司? 中華? 定食?」
「その三つから選べと……? じゃあ定食で」
「わかりました。実は、美味しそうな割烹料理の店があって」
「待て待て! 定食が一番高かった!? というか、マナーとか僕あまり知らないのですが!」
「大丈夫です。いつも行っている場所なので、問題ありません。じゃあ、女将さんに連絡しておきますね」
一番安いであろうと考えた定食が、まさかの割烹料理店での食事であると知った理玖は頭を抱えてしまう。外での調査時の食実は、伊月の懐から出ているということを聞いた手前なるべく安いものを選ぼうと考えたのが裏目に出たのか。そもそも、馨の性格を考慮するならば安い店へ行くとも考えにくいのだがそこまで考えが回らなかった理玖の負けだろう。
隣で、まるで友人に連絡をするような気軽さで連絡をしている馨を横目に何度目かもわからないため息をついてからそっと視線を上げた。
お腹すいた、お腹が空いた、でも、我慢、我慢。
だって、殺人は悪いこと。でも、でも、死にたくないなぁ。
「……っ!?」
「はい、では今から行きますね。……高砂少年? どうしましたか?」
「あ、えっと、いえ、なんでも、ないです」
「……なら、別にいいんですけど。さて、タクシーを拾って店に行きましょう。室長には、いつもの店で遅めの昼食を食べてから戻ると連絡済みです」
ふと、何かの映像が脳裏によぎっては思わず口元を押さえて固まる理玖。まるで、何かの映画のワンシーンを見ていたのではないかと思わせるその現象に首を傾げることもせずに飲み込む。隣にいる心配するふりをしている馨を見るも、彼女は何も見えていなかったのか不思議そうにしている。
映像が見えてから考えた理玖の、誰かから干渉を受けたという考えは保留にして呼吸を整える。
馨も大概事後報告をすることが多いが、理玖も彼女のことをとやかく言えないほどにいうことをしない場合も多い。気のせいだろう、疲れていたのだろうと完結させて言わない場合が多いだけの話でありあえて言わなかった馨とは違うのだが。側から見れば、同じように見えることだろう。
「前にも思ったんですけど、メッセージで終わらせる報告……」
「報連相は大事ですから」
「甘羽さんにだけは言われたくない言葉ですからね、それ。百瀬さんに言われるならまだしも」
事前に報告されたことがない理玖としては、馨が報連相が大事と真面目そうに伝えたところで何も響くことがないのだろう。彼女は特に気にすることもなく、道端に出ては止まっていたタクシーを捕まえて行き先を伝えていた。すぐにナビを起動させては、そのまま運転手は準備をしている。馨もいつの間にか乗り込んでおり理玖は急いで後部座席に乗り込む。
「昼間から、小料理屋とか洒落ているねぇ」
「その店は、知り合いの家族が経営しているんですよ。なので、よく行くんです」
「え、宵宮さんのご家族が経営しているんですか!?」
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