第27話
馨と同様に、実力行使もやむを得ないと考えていることなど知る由もない。
理玖は自身の顎に手を添えながらも、考えながら村へと向かって行く。最近、盗難被害がなどと言えばすぐに季楽が言ったと思われるだろう。もっと穏便に。かつ、季楽にあまり被害が行かないようにするにはどのような言い方があるのかを模索する。
口を開けば息をするように嘘か本当かも分からないことを平然と言うことをする馨とは違い、理玖は良くも悪くも素直で誠実な部類に入ってしまうのだ。
――最近、盗難被害が多くなっており。こちらにも被害が来ていないか調査に来た、とでも言っておこう。身分は……。
「素直に監視官というべきなのか、いややとわれの調査員? うーん、……犯罪心理学者とか。いやいや、専門的なことを聞かれたら太刀打ちが出来ないからダメだ」
首を傾げながらも、考え続ける。
最初は勿論、監視官として行こうと考えていた理玖であるが異能力者がいると分かっている手前、監視官として行くと目的の人物でもある御手洗朱鳥が隠されるなどの可能性が出てきてしまう。故に、今回は身分を偽っていくべきであると結論づけたのだろう。
勿論、これらは馨の助言ではなく彼自身が考えて導き出した結果だ。
「雑誌記者……いや、でもなんだか俗っぽい。無難に、仕事の調査を行っているとかにしておこう。探偵をしているとでも適当に言っておけばいいか。何か言われたら、守秘義務があり話せませんを貫こう」
何もいい案が浮かばなかったこともあり、最終的に探偵稼業に従事しており最近都内や一部の村で多発している窃盗について調査をしているという体で行くことにしたのだろう。何か言われれば、その場のアドリブを求められることも多いかもしれないが大抵は「守秘義務なので」で乗り越えることも可能であるのも事実。
少し歩いて、村がある集落までやってくる。今は昼前ということもあり、適度に活気のいい声が聞こえている。外から見る限りでは、何処からどう見て普通の集落だ。だが、このような辺鄙なところにある集落というものはあまりいいイメージが理玖の中ではない。
「甘羽さんじゃあないけど、変な宗教を崇拝していたりとか。生贄を探しているとか、……いやいや。流石にゲームのし過ぎですよね、それは!」
刹那、ガサガサと何かが揺れる音と気のせいかは不明であるが甲高い女性の悲鳴のようなものが聞こえて一斉にカラスが飛び去っていく。
「……冗談、ですよね?」
これには理玖も顔をゆがめるしかできないのか、口角をぴくぴくとさせて固まらせてしまっていた。
一方、理玖より早めに外に出て村の誓いなどを調べている最中の馨は欠伸をしながら眠そうな目をして特殊な眼鏡をつけてはドローンの操作をしていた。
「結構、思ったより狭い集落なんですね。昨日は夜だったので、結構見づらかったのかも。……あ、あの井戸の下とか地下室になっていないかな」
一人であることを良いことに、どうでも良さそうなことを一人でごちりながらも的確に気になるところをドローンで確認していく。このドローンは特殊なつくりをしていることもある、基本的に異能力を保持していない者の目で見ることが出来ない。何でも、異能力者しか視認が出来ないような作りをしているらしい。その証拠に、このドローンは異能官のみにしか支給がされて居ない。
監視官に支給をしても、まともな操作をすることが出来ないからだ。特殊なゴーグルをつけることが出来ればその場限りではないが。
「映像は全て、端末に録画されるのでとりあえず全体図と気になるところはとことん撮影するとしましょうかね。やっぱ、井戸は気になるから中は確認しておこう。あれ、これって耐水でしたっけ」
あらゆる場面において使用が出来るように、ドローンには耐水だけではなく衝撃や豪華の中でも小和枝ることがないように設計されている。流石に雷に対する体制は存在していないので、悪天候の中雷に打たれるようなことがあれば修理行きである。
「それにしても、すぐに朱鳥さんを回収しようとしないあたり。何を思っているのか。いやいや、私も高砂少年に賛成ですが。犯罪者予備軍であるという明確な証拠があれば、この村を潰すことも簡単なんですけどねぇ。……あ」
馨は鼻歌を歌いながら操作をしていたが、思わずカラスの群れにドローンをぶつけてしまう。勿論、このドローンは人の目は勿論であるが異能力を保持していなければ動物でも視認することが出来ない。カラスは、いきなり目に見えないところから何かがぶつかったことにより驚いたのか、一斉にその場から飛び立ってしまう。
刹那、思い切り衝突してしまったカラスの一羽が見事に墜落して運悪く舌に居た女性に向かってぶつかるのが見える。女性は思わず、甲高い悲鳴を上げてしまっている始末だ。
「これ、入り口で見たらすっごくホラゲーじみているような気がする」
内心で、少しだけ。ほんの少しだけ理玖に悪いことをしてしまったかな、と思いながらも「まぁ、いっか」とすぐに反省していた心をゴミ箱へ投棄してしまう。彼女にとって、そのようなものは些細なものでしかないのだ。
「ここに来るときに、さんざんホラゲーじみた話を一方的にしていたので真に受けたのでは? ……それもそれで面白そうだからいいか」
立っていた馨は、芝生の上に胡坐をかいてはのんびりを眼鏡に映った映像を確認しながらドローンを巧みに操作していく。ドローンを先ほど目を付けた井戸へと向かって飛ばしては、井戸の中を確認する。
井戸の中は、馨の期待とは反して普通に水か溜まっているだけの変哲もない至って普通の井戸だった。
「面白くないなぁ。……あ、高砂少年はちゃんと聞き込み出来てるかな」
あまりにも偵察が面白くなく飽きてきたのか、非異能力者からドローンが見えないことを良いことに理玖の様子を確認しようとし始める。
馨の眼鏡に映し出された理玖は、自身の胸に手を当てて深呼吸をしながら気合を入れるように軽く自身の頬を叩いてからチャイムを鳴らしていた。
「……すみません。僕は、政府の調査でこちらにしている調査員です。少しお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」
理玖の言葉を聞いて、目を軽く見開いて拭きだしては腹を抱えて笑ってしまっている馨。彼女も、理玖が莫迦正直に監視官を名乗って情報を聞き込むとは思ってはいなかったのだろうが、まさか政府の調査員として名乗るとは思いもしなかったのだろう。
ある意味彼の名乗りは、良い選択と言えるだろう。
馨に様子を見られていることなどつゆ知らず、理玖はチャイムから少しだけ離れて言葉を紡いでいく。近くで居れば、それだけ威圧感を与えてしまうだろうという彼なりの配慮でもあった。
――うーん、今の時間はいないのかなぁ。いや、でも僕が入り口付近に居た時は、時に人の出入りはなかったから居るはずなんだけど。これは、居留守をつかわれているな?
チャイムの他にも、何度も扉をノックすることも行っているが中々人が出てくる気配はない。流石にしつこく行っていて、通報でもされたら面倒なことになるという結論に至って理玖は、次の家へと向かって行く。最初は外に出ている人がいれば、突撃するように話を聞こうとしていたが、タイミングも雲からも見放されてしまったのか見事に人が外に出ていない。
理玖が入り口付近に居たときは、外にも人はいたような気がするのにな、と思いながらないも今は歩くしかない。
「このまま人がいなくて、聞き込みもままならなかったらどうしよう!?」
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