第6話
「それにしても、地下闘技場か。使いようによっては、処分場にもちょうどいいだろうな。先日、馨が壊してくれた非異能力者の処分をどうしようかと考えているところなんだが。二人からして、何か良い意見はあるか?」
地下闘技場がある場所に向かっている最中、伊月はさも何事もないような声色で普通に雑談をするノリで二人に相談をするように話しかけた。五島はその件のことを、同じ地下フロアにいることもあり多少は知っていたのだろう。特に驚く素振りを見せることはなかったが、何も知らない紀伊は目を丸くして数回瞬きをして驚いている。
そのまま、表情を引き攣らせては伊月に恐る恐ると言った具合で話しかけた。
「ま、まさかお前たち……」
「姫若が何を考えているのかは知らんが、立派な犯罪者だ。ただ、あの基本的人に無関心で温厚な高砂くんを怒らせたくらいで」
「高砂? ああ、凛たちに聞いた子か。今の、甘羽異能官の相棒の新人くんだっけ。凛も、伊月と同じことを言っていたな。だけど、そういうタイプこそ怒らせたら怖いものだ。でも何があったんだい。君たちのことだから、問題がない件なんだろうということだけはわかるんだが」
紀伊は腕を組みながら、軽くうんうんと唸ってしまっている。付き合いも長いし、それなりにお互いのグレーなところも見知った中であるが故に、それなりの信用や信頼も存在している。だからこそ、ギリギリな範囲では色々とやれども違法なグレーな範囲の処理は部下に任せることはしないことを理解しているのだろう。
彼らは、汚い仕事は自らで行なっていくタイプであり人に知られることも部下に押し付けるようなこともしない。
何か言われた際には、自身だけが消えてしまうことになったとしても。自身の意思を色こく引き継いでいる部下が数名いるだけで、問題がないと考えているのだ。
「そういえば、結局その件はどうなったんだ。莉音の坊主がいうには、結局そいつもダークウェブ上での犯罪に加担したってことなんだろ?」
「ああ、だが引っ張れるだけの証拠がない。そして、異能力者を追い詰めて故意的にビルから落ちるように仕向けたがこれは無罪確定だろう。彼に課せられたのは、ホームレスの老人殺害の容疑だ。そして、これも確固たる証拠がない。あるのは、その彼に唆されたと証言した女性の発言と馨が見つけてきた血のついた地面の部分だけ」
「あー、狂犬が見つけちまったか。ならそいつは、仮に裁判かけられても無罪確定だわな。証拠不十分、だ」
異能力者が絡んだ場合の裁判は、茶番にも程があるほどにひどいものだ。
何せ、裁かれる人物として立つものは無罪が確定している。本来であれば、異能力者であろうとも人を殺しているのであればそれ相当の報いを受けるべきである。だが、残念なことに異能力者は何人殺してもその人物は殺人者になることはなければ、殺人罪で捕まえることもできない。
だからこそ、異能力者が絡んだ場合の裁判ほど茶番なものは存在しない。
「なるほど。……まぁ、そういう連中を捕まえて処分するもの私たちの仕事の一つ、だろう。大体、裏で一つくらい焼却場を持っているものだと思っていたのだけれども。伊月は持っていないのかい」
「残念ながらね。毎回、ナキに渡して存分に解体させていたくらいさ。人体の解明、ってことでね。彼に解体されたら本当に綺麗にばらされるし、一部は標本として蝶のところへ輸送される。そこらへんは問題ないけれども、お前たちと違ってそういうのは持っていないからな。今回はどうしたものか、と思った次第さ」
まぁ、どうせ。誰も行方不明になったその男を探そうとすることはないだろうが。
そう告げた伊月の表情は楽しそうに歪んでいる。口角も僅かに上がっており、楽しくて仕方がないとうことが表情ひとつからわかってしまう。世間から異常だと、変わり者であると後ろ指を指されるような人物たちをまとめ上げているものもしっかりと狂っていかれているということなのだろう。
そもそもな話、正常な気持ちや正論だけでは異能課で生きていくことはできない。
「ああ、君から聞く蝶と蛾のコンビか。全く、君は組織を飼い慣らすことは下手くそだが、人の心を掴むことは長けている。人たらし、というのは伊月のためにある言葉だよ」
人の心を掴み、自身の管理下においている伊月とは異なり紀伊と五島は人ではなく組織を握っていることが多い。それは、彼らの性格の違いというものなのだろう。結局行なっていることは同じなので、側から見ればどっちもどっちなのだ。
少しだけ入り組んだ場所までやってきた三人だったが、周囲を見渡して五島が先導するように歩き出す。今回の闘技場の場所を、紀伊と伊月は知らないために必然的に五島についていくことになるのだ。加えて彼は招待状を持っている。彼が先導するのは、ある意味当たり前の対応なのだろう。
「それにしても、よくもまぁ連中に見つからずに作れるな」
「同感だ。地方に比べると東京は、かなり厳しいだろうに。ああ、だが。東京にはかつて怪異たちが住み着いていた地下帝国があるというのも噂にあるから隠れ蓑にしやすいのかもしれないな」
伊月は苦笑をしながら、招待状を持って誰かと話している五島を視界に入れて話す。
彼のいうことはあくまでも噂の一つに過ぎない。その昔、この東京には怪異たちがねぐらとしていた地下帝国、通称地帝というものが存在していたらしい。らしい、というものは正式な文章が存在しているわけでもなく証拠として残っていない方こそ噂にとどまっているのだ。五島曰くは、その関係者とも繋がりがあるらしく地下帝国は本当に存在しているということらしいが怪異たちが存命していようとも異能力を専門としている伊月と紀伊からしてみればどうでもいい話だ。
つまり、二人はあくまでも自身の興味本位でそれらの話を聞いている、ということである。
「おい、二人とも。中に入って良いらしいから、いくぞ」
「はいはい」
「腕がなるね。いや、私が使うのは拳銃だから指がなる、というのが正しいのかな」
「でも意外だったな。姫若が拳銃だというのは。お前は、回し蹴りが得意じゃなかったか? 彰が拳で話し合うのが大好きなのは知っているが」
全くもって、警察関係者が話すような内容ではないがこの場所において彼らの身分はないに等しい。
案内人に通されてやってきたのは、絵に描いたような地下闘技場そのもの。伊月は、思わず感嘆の声をあげて感心している。紀伊はあまりにこのような場所は好かないのか、少しだけ表情を歪めていやそうな雰囲気を出しているが喧嘩をすること自体は嫌いではないのだろう。彼らについてきているということは、そういうことである。
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