第18話
「百瀬監視官がそういうならそうなんだろうね。わかったよ。この解析と突き合わせは明日の業務時間にしておこう。……この影の行き先は、方角的にここら辺になるみたいだ」
影が走っていった方向から、別のモニターに起動されていた地図からその影が向かったであろう場所を推測する莉音。
余談であるが、彼が取られているカメラは一つだけではない。複数のカメラからその影が向かった場所を推測しているのだ。残念ながら、その影はフードを目深にかぶっており顔を見ることは難しそうであるが。
「この方角は……」
「廃棄されているビルがあるね。ちなみに、自殺スポットとしてちょっとした名所さ」
「そんな名所は不要なんだがな。……だが、そういう名所があるもの事実ではあるのが悩ましい。じゃあ、明日は莉音はカメラから人物特定。馨と高砂くんは、この自殺が名所の廃ビルへと調査に向かうという形で行こうか。それにしても、それだけ有名だったら何か奇怪な話の一つもありそうだな」
「そういえば、この廃ビル。今日、花月さんから聞いたんですけどその廃ビルで自殺をした人は死体が出て来ないみたいですね。行方不明者とか失踪とかで届けがされているかも知れませんので、そちらの方面でも何か調べることができたらしたいところです。これは、百瀬少女に頼みましょう。彼女は仕事が早い上に正確ですから」
案件としては、馨と理玖が持っているものであるが当然のように周りを巻き込んで明日の予定を組み立てていく馨。
彼女は、自分ができることを行う。できないことは、誰かに割り当てるという方針で仕事をするタイプなのだろう。この場に理玖がいれば、申し訳なさそうにしながら各所に頭を下げることになっているだろうが対する馨はどこ吹く風のごとくに口笛を吹いては知らんふりをしていることだろう。
ふとそのような光景を考えてしまったのか、伊月は眉を下げて苦笑をしていた。
「高砂くんはまだ新人というか、社会人なりたてだからのもあるのだろうが……。これでは、どっちが監視官なのか分からなくなるな」
「なんと。……私は異能官ですよ、伊月室長。ちなみに、異能力がなければ監視官になっていたのかという問いに関してはいいえ、と答えておきましょう。異能力がなければ、……いや。考えるのはよしましょうか」
そっと目を伏せて、何かを考えるそぶりを見せるもすぐににこりと微笑んで話を切り上げる。
ジィとその様子を頬杖をつきながら眺めていた莉音は、目を細めてどこか楽しそうに微笑んでいる。この異能課に所属している異能官たちは、各々の目的がありそれを達成するために自由に動けるがゆえにここに所属している場合が多い。言って仕舞えば、スカウトされたのでなんとなく異能官をしています。という単純なものたちはここにはいないのだ。
異能官をしているその傍で、自分のやりたいことを思う存分にしている。
そんな優秀であるが、自由人。手綱を持つもの次第で、どのような脅威にもなりえるのが東京本部の異能官たちである。
「じゃあ、明日の方針はそれで。共同任務、楽しみにしているよ。まぁ、僕は百瀬監視官はやってもここで後方支援のような立場になるだろうけどね。ほら、以前の……京都組のような、ね?」
必要なことを行い、データを保存する。一連の作業が完了したのか、莉音は楽しそうな雰囲気を携えたままでパソコンの電源を切っては退勤を行う。そのまま片手をあげて、事務所に残っている馨と伊月よりも先に部屋から出て自室へと向かって歩きだしたのだった。
ばたり、と扉が閉まる音がしてから数秒。
「目星はついているんじゃないか?」
「おや、さすが伊月室長。見る目があるだけありますね。……目星はついていますが、身元は不明です。おそらく、昼間に高砂少年が話していた少女が一枚噛んでいます。あの少女、とても死臭を感じましたのでね。今月は、先生に言われたため薬を服用しているので声や感情はあまり感知できないんですよ。出来るんですけど、結構鈍くて正確性には欠けるでしょう」
馨の持つ異能力の一つに、意図せずとも周囲の思惑や思っていることがなんとなくわかるというものがある。彼女はこれを、人の本質がわかる程度の能力、と茶化すようにして話しているが当事者になると笑い事で済まないほどに嫌なものだろう。伊月は、「そうか」と自身の顎に手を添えて何か深く考えるような素振りを見せては肩をすくめて息をつく。
結局のところ、上としては事件が解決すればそれでいいという考えでありその過程ででた犠牲は考慮していない。
その犠牲者が、非異能力者であれば追悼することもあるのかもしれないが大体このようなことで犠牲になるのは駒として使われることが多い異能力者、そして異能官くらいである。多くの監視官は、自身の盾として異能官を使用する場合だって存在している。
「消える死体に、死臭を纏う少女。まるで、死神のようだな」
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