第11話

「本当に、弟は人を見る目があるのね」

「いや、本当にそうですよね。東京異能課は、伊月室長の集めた選りすぐりですから。高砂少年もその一人というわけです。あ、ちなみに正式に私の担当監視官なんですよ」

「まぁ。あの臨時でやってきた監視官を悉く辞職に追い込んだ馨くんの相棒? これから大変なことも多いでしょうけど、困ったことがあったらすぐに弟に相談するのよ、理玖くん」


 嫋やかに笑いながら、ゆったりとした声色で紡がれるその言葉にどこかうっとりとしてしまいそうになりながらも「はい」と苦笑まじりで告げる理玖。彼には、今はこれが精一杯だったのだがそのような事実を彼女たちは知る由もない。

 ふと、その中で何気なく告げられた「スカウト制」という言葉に少しの引っ掛かりを覚えたのか首を傾げながら言葉を紡ぎ出す。


「そういえば、異能課は基本的にスカウト制なんですか?」

「いや、そんなわけないじゃないですか。異能課も一応職種的には公務員ですし。ちなみに、異能官は少しだけ特殊で。警察機関に所属はしていますが、肩書としては国家公務員になります。どうしてそういう区別がされているのかは知りません」

「ということは、正式な試験とかがあるってことなんですね。……というか、集まるんですか? 異能力者って、基本的にバレたら終わりみたいな風潮があるのに。自首しているようなもんじゃないですか、それって」


 異能力者は基本的に、その素性を隠して世間に紛れて生きているのが常である。

 そのような中、異能官試験に応募をするということは自らが異能力者であると告白していることと同意である。加えて、応募をしたところで必ず異能官に就任できるかも不明である。異能力者の数と比較しても、異能官は一つの県に片手で数えるほどしか存在していないのも事実。あまりにも多く抱えて仕舞えば、戦力としては使えるが管理が難しいということで基本的に多くても五人程度しか所属していない。

 つまるところ、競争率はとても高く受からないのが当たり前という世界なのだ。


「応募も勿論多少はあるようですよ。でも基本はスカウトや紹介で入ることが多いですけど、適正試験はあるようですね。試験なしの完全スカウト制は東京本部だけですね。あ、一応言っておきますが前科があれば異能官にはなれませんよ」

「東京本部が異常なだけなのよねぇ。でも、弟も面白いことを思いついたわよね。まさか、元犯罪者たちで異能課をまとめ上げるだなんて。はい、これは突き出しになります」

「花月さん、夏鈴ちゃんは犯罪者ではないですし莉音さんも証拠不十分で立件さえされていませんよ。容疑者だろう、という話はありましたが彼の関わった人は全て自殺で片付けられています」

「そうだったわ。飲み物は冷たい方がいい? それとも温かいもの?」

「二つとも冷たいのでお願いします」


 黙々と出されたものを食べ終えたのか、理玖はそっと箸を置いて先ほど馨が言った言葉について聞こうとするも果たして本人がいないのに本人たちの話を聞くべきなのかと考えて開きかけた口を閉じてしまう。馨からしてみれば、異能課にいる異能官はそのような細いことはあまり気にしないタイプなので問題ないと思っているのだがまだ入って日が浅い理玖にそのような事情がわかるわけもなく。

 考えあぐねた結果、聞かないということになったのだろう。

 言いたそうな表情をしながらも、必死に言葉を飲み込んだ。そのような表情をしている。理玖の表情が面白かったのか、くすくすと笑いながら花月は料理を作り続けている。


「あ、そういえば。花月さん、ここら辺で身元不明の死体が消えたとか。一部欠損した死体が見つかったとか話あります?」

「……っごふ! ちょ、甘羽さん!? 女将さんが関係者だからって食事中にするような話じゃあないですよね!?」

「気にしないで頂戴。弟も食事中にそのようなことを聞いてくる時あるから」

「あ、あの何をとっても完璧そうで紳士の塊としか思えない宵宮さんが!?」


 食事中であるのにも関わらず、今回探っている事件について遠慮もなく馨に対して非難の声を上げる理玖。彼としては、食事中にするような話ではないと判断しての非難であったが、話を聞かされることになる花月はこのようなことには慣れてしまっているのか特に表情を変えることもなく理玖の言葉に問題ないことを告げている。

 本来であれば、現在進行中で調査をしている件を警察関係者以外にいうことは御法度であるのだが異能課は普通の警察機関ではないこととこの場所が貸切状態であるための行為である。馨とて、そこのわきまえはしている。


「そういえば、少し離れたところに自殺スポットの廃ビルがあるのだけどね。これは噂程度なんだけど、その廃ビルで死んだ人は死体が見つからないっていうのは聞いたことがあるわ。関係してそう?」

「なるほど、自殺スポット。だけど、自殺者の大抵は身元不明になることは……いや、死体が出てこないならば失踪として届けられているはず。高砂少年、事務所に戻ったらここ一年の失踪届を確認してください。場所は、花月さんが言っていた廃ビル周辺。広げたとしても、東京都内近辺までで」

「わかりました。……本当にご飯食べながらする話じゃあないんだよなぁ」


 次々に出されていく料理を食べながら、楽しそうに談笑をする馨を横目に息をつく。

 料理も美味しく、量も十分だ。様々な種類のものが並べられて、遅めの昼食であるが奮発して高級料亭にでもきたのかと思わせるような雰囲気。まるで、当たり前のような。どこにでもある雰囲気に、隣に座って食事をしている異能官は世間を騒がせた元犯罪者であるということを忘れてしまいそうになる程だ。

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