第27話

 歩きながら、業務と全く関係のない話を楽しそうにする馨。

 理玖はふと、そういえばまだちゃんとした顔合わせをしていないなとぼんやり考える。顔を合わせていないのは、現在異能課に所属しているが任務のために出張中である高校生コンビの檜扇夏鈴と木暮悠里の二名だけなのだが。


「宵宮さんって、結構お茶目なんですね……」

「お茶目、というか。私たちの扱いが非常に上手いだけじゃないですかね。まぁ、ちょっとお茶目なところも垣間見えますけれども、それは伊月室長なのかと言われれば不明としか返せません」


 ――そもそも、あの人が裏でどんな手回しをしているのかも謎の一つだからなぁ。


 理玖に軽く設営をしながら、馨は伊月のことを考えるが考えたところで何一つとして不明だったために落胆するように肩を落として深いため息をついて首を軽く垂れていたのだった。


「そう言えば。異能絡みと発覚しても、刑事課は介入してくるんですか? そもそも、管轄が違くなるのに介入してくるなんてって普通に思ったんですが」

「刑事課は異能力の存在を理解しておきながら、それを認めていません。つまりですね、彼らにとっては説明がつかないものは存在していないということなんです。異能力などは存在しておらず、それらは巧妙に作り上げたトリックという感じですかね。莉音さんは、異能力者を駒と認識している集団だといっていますが。彼らが異能力をわかっていながら否定するならば、私たち異能官は犯罪者、もしくは犯罪者予備軍でしかない。そう考えると、邪険にする理由はわかりますよね」

「甘羽さんと、傷蔵さんは犯罪者。浅海さんは、予備軍?」

「予備軍には、夏鈴ちゃんも入りますよ。彼女は、未成年なので表立って言っていないですがね。さて、昨日やってきた場所に戻ってきたわけですが。何か変わりはありますか?」


 たわいない話をしていると、二人は昨日やってきていたホームレスたちが多くいる公園近くまでやってきていた。

 馨はあまり興味がないのか、気だるそうにあくびをしては首を鳴らしている。彼女が興味がない、ということはすでにこの場所は用済みということなのだろうか、と一抹の不安が過ぎるも自身は自身の気になるところを確認だけしておこうと結論づける理玖。彼女は珍しくは静かに、そんな理玖についていくだけだった。


「僕は間違い探しなどは苦手ですので、変わりがあるのかは、ちょっと……」

「奇遇ですね。私も間違い探しは大嫌いでして。でも、そうですね。なんだかちょっと、昨日と雰囲気が違くないですか?」


 ――人に聞いておいて、結局は話題を振ってくれるのか、この人は。


「雰囲気、ですか? 僕には、なんとも。あ、いや。あれ? 心なしか、ちょっと昨日よりも人が少なくないですか? いや、これこそ僕の気のせいなのかも」

「今日は昨日の将棋のおじいちゃん、いませんね」


 理玖の隣にいた馨は、持っていた鞄の中から双眼鏡のようなものを取り出して周囲を確認していた。まさか、双眼鏡を持ち歩いているとは思わなかったのか理玖は思わず二度見してしまっている。二度見されている当人は、さも当然ですと言わんばかりの態度であるが。


「確かに、……というか。昨日よりもどんよりとしていません? あ、まぁ。少し離れたところの廃墟から死体が見つかったとなればそうなるの、か?」

「そうかもしれませんし、そうではないのかもしれません。ですが、こういう雰囲気というものはカメラだけではどうしてもわからないものですからね。莉音さんに監視を強めてもらうように言いましょうか。見たところ、この周辺には何個か監視カメラがあるようですのでね」

「浅海さんの仕事が増えていくのが申し訳なさすぎる……」

「まぁまぁ。どうせやることもない時は、本当に暇すぎて困るくらいですので大丈夫ですよ。それにしても、……」


 馨は数回瞬きをしてから、周囲を観察するように見渡す。すでにその手に持っていた双眼鏡の姿はなく、不要と判断しては鞄の中にしまい込んだのだろう。肉眼でしか見えないもの、というものも確かに存在しているのだ。それも、異能力者であるならば尚更見えている世界が異なる場合がある。残念なことに、馨の目は人より奇怪で美しい宝石が混ざり合ったような瞳の色をしているだけで特殊能力があるわけではないのだが。


「甘羽さん? 今日はやけに、何かを感じ取るというか、なんというか……」

「少し、気になりませんか?」

「え、何がです? この少しだけ変わった空気が、とかですかね? まぁ、僕は正直感覚でしかわからないですしその感覚もあっているのか不明ですから何もいうことはできないかもしれないですけど。気にならない、というわけではないですし」

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